第160話 学園祭初日③

「あれ?ハル先輩はどこですか!?」


「晴翔の女だ」


「桃華ちゃんだー」


せっかく、時間ができて会いに来たのにハル先輩が居ないなんて。しかも、なんなのこの人達は??


「晴翔なら香織とデートに行った。戻って来るのは14時過ぎ」


「桃華ちゃんはデートしないのー?」


「今、香織先輩と一緒なんですか!?」


同じクラスだから当然一緒だと思ってたけど、2人っきりにするのは危ない気がするわ。なんだか、最近の2人はいい雰囲気だし、絶対何かあったに違いないんだから。問いたださないと!!


「あ、桃華ちゃんだ!」


「桃華ちゃん、何か食べて行く??」


ハル先輩が居ないだけでなく、変なコスプレした男子が話しかけて来た。今日は本当についてないなぁ。


「い、いえ、ハル先輩の所に行かないといけないので」


「くそっ、また齋藤か!」


「わかっちゃいたけど、こうも美少女ばかり」


「全然羨ましくなんかないぞ!!」


くそー!と泣き喚く先輩達を見て、本当に彼氏がハル先輩で良かったと思った。


「晴翔はご飯食べるって言ってた」


「たぶん、焼きそばかなー?」


「なんでわかるんですか?」


「「イケメンのことならなんでもわかる」」


あ、この人たち、ヤバい人だ。これ以上関わっちゃダメな人達だ。私は、そそくさと先輩のクラスを後にした。


焼きそばってことは、綾乃先輩か!

待ってて下さいね、ハル先輩。今、愛しの桃華が行きますからねー!!


急いで向かう桃華だが、彼女が晴翔に合流するのは、もう少しあとのお話。


ーーーーーーーーーー


「会長、今のところ問題なく進んでいるようです」


「報告ありがとうございます。引き続き、報告、連絡は密に取っていきましょう」


「「「「はいっ!」」」」


うん、今日も皆さん張り切っていますね。生徒会の皆さんも本当なら学園祭を見て回りたいでしょうに。


ガラガラガラ


「やぁ、みんなおはよう。一応、副会長として手伝いにきたよ」


はぁ、呼んでもいないのに、来なくてもいい人が来ましたね。晴翔様なら大歓迎なのですが、あぁ今頃何をしているのでしょう。


「おはようございます、西園寺さん。最近は、よく顔を出しますね。何か心変わりでも?」


「あはは、単純に忙しそうだから手伝いに来ているだけさ。邪魔だったかな?」


「いえ、そんなことありませんよ?でも、ここでやることはありませんので、生徒会のワッペンをつけて学校中を練り歩いて下さい」


私が、西園寺さんにワッペンを渡すと、こちらの意図など知らず、喜んで受け取ります。こういう時、単純な方は助かりますね。


「こうでいいのかな?」


「そうですね、その状態で警邏をよろしくお願いします。普通に学園祭を回っていただければ大丈夫です。貴方は目立ちますからね・・・無駄に」


「まぁ、僕はみんなの注目の的だからね。よし、じゃあ警邏は僕に任せたまえ」


ご機嫌のまま、生徒会室を出て行った西園寺。それを、安堵の表情で見送った生徒会役員達。


「会長!よく堪えてくれましたねっ!」


「あの人のことは忘れて仕事にしましょう!」


「ありがとう、倉木さん、和田さん。優秀な後輩がいてよかったわ。そうね、じゃあ私達も警邏に行きましょうか」


「「「「はいっ!」」」」


生徒会の子達はみんないい子ですね。これなら安心して後任に任せられますね。


「二人一組で必ず行動して下さい。判断が難しい時にはすぐ連絡をすること。それと、仕事をした上で、少しくらいなら学園祭を楽しんでも構いません」


「いいんですか!?」


「来年の参考にもなりますからね。しっかりと学園祭を見てきて下さい」


「「「「ありがとうございます!」」」」


皆さん出て行ったところで、私もそろそろ行きましょうか。今日は晴翔様と回れそうにありませんからね。明日以降の楽しみに取っておきましょう。


ーーーーーーーーーー


「ん〜、うるさくて眠れない」


私は学園祭に興味がないから、執筆のために屋上を貸切にした。鍵も私が持ってるから、入ってくる人も居ない。


だというのに。


「なんでこんなにうるさいの」


学園祭ってそんなに楽しいのかしら。生徒が作った食べ物食べて、色んな出し物を回るだけでしょ?


・・・。


そういえば、晴翔にお願いした『ペルソナ』でも、学園祭のシーンがあったような。自分で書いていて、実際にはよくわからないなんて、なんか癪に触るわね。


どうしよう。


今、すごく学園祭に飛び込みたい気分なんだけど。でも、一緒にまわる人なんて居ないし。


そうだわ、晴翔が居るじゃない。別に晴翔に会いたい訳じゃないけど、晴翔も私に会えなくて寂しいだろうから仕方なく探すのよ?勘違いしないで欲しいわね。


私は、誰も居ない屋上で、学園祭を回る理由を必死に考えては、言い訳を繰り返していた。


「よし、晴翔のクラスに行こう」


私は、意を決して屋上を出る。階段を降りた先ではリア充達が闊歩している。


晴翔は確か、2年A組。そういえば、晴翔のクラスはどこの教室を使ってるのかしら。そのまま教室なのかしら。


とりあえず、行けばわかるわね。


「ねぇねぇ、猫さんがいるよ!」


「本当ね、猫さんのコスプレかしらね?可愛いわね」


私はコスプレをしている訳ではないが、すれ違う人達に、生暖かい目で見られる。うぅ、晴翔ぉ、どこぉ?


私は、なるべく壁際を歩きながら、学校中を歩き回る。しかし、私が2年A組にたどり着くことはなかった。


「なんで私は校舎から出てるのかしら」


晴翔を探していたはずなのに、私は気付けば裏庭に出ていた。もしかして、私って方向音痴?


くらっ


「あ、やばい、眠くなってきた」


今日はまだ、あんまり眠れてなかったから。ちょうどいいわ。あそこのベンチで少し仮眠しましょう。


私はベンチに辿り着くと、パーカーのファスナーをフードの上まで全て閉めた。これで、顔は見えないし、誰も気にしないでしょう。


私は、横になると気絶するように意識を手放した。


一見迷子になったように思えたが、この行動により、無事晴翔に遭遇することになる。


ーーーーーーーーーー


「ハルくん、あそこのベンチいいかな?」


「あそこなら3人座れるね」


「そうだな、そうするか」


俺達は、無事に裏庭に辿り着くと、いくつかあるベンチに腰掛ける。


そして、俺は気になるもの、いや、人を発見する。


この猫さんパーカーと、お腹の上に置かれたノート。こんな奇天烈な人は、あの人しかいない。


「ねぇ、ハルくん。この猫さんってさ」


「そうだな、姫流先輩しかいないな」


「これの人、先輩なの?」


綾乃は、面識がないんだっけか。俺は、起こすかどうか悩んだが、きっとノートを書くためにそのうち起きると踏んで、そっとしておくことにした。


「それじゃあ、気を取り直して」


「「「いただきまーす」」」


俺達は、出店でもらった焼きそばを食べ始める。サービスでもらったお茶は一本なので、それは回し飲みすることにした。


それにしても


「本当に美味いな、綾乃の焼きそば」


「うん、すっごく美味しい!齋藤家の食卓は綾乃ちゃんと澪先輩に任せれば安泰だね」


「料理は大好きだからね。お安い御用だよ」


綾乃は胸を張り、自慢げに言う。


そんな、ほのぼのとした空気を壊したのは、すぐ隣のベンチに寝ていた猫さんだった。


いい夢が見れたのか、突然勢いよく起き上がる姫流先輩。


「ぬわっ!?前が見えないだとっ!?」


咄嗟にノートとペンを構えるが、フードが閉まっていることを忘れていたようだ。


「どこだここは!?」


しばらくの間、あたふたともがく先輩を眺めていたが、流石に放っておかなくなり、助けてあげることにした。


パーカーのファスナーを慎重に下ろしていくと、クリクリとした大きな瞳がふたつ現れた。


「えっ、は、波瑠ちゃん!?というか、晴翔か!会いたかったぞぉ!!」


視界が開けると、一瞬俺に飛びつこうとするが、ふと思い出したように、ノートにメモを取り始める。


メモを取り終えたのか、姫流先輩は俺の周りをぴょんぴょん跳ねながら、一周する。


「なんで、こんなところに?というか、なんで波瑠ちゃんなのだ??」


なんだ、この小動物は。可愛いじゃねぇか。


「せ、先輩、とりあえず、後輩が見てますから、落ち着いてください」


「へっ?」


先輩は、飛び跳ねるのをやめると、やっと周りがちゃんと見えたようで、香織と綾乃と目があった。


先輩は、一度咳払いをするとキリッとした表情で二人に言い放つ。


「どうした、後輩。なにかあったのか?」


「えっと、先輩がいま」


「私がなんだ。私は別に、晴翔に会えて喜んでいた訳でないぞ!?」


「喜んでたんだ」


「喜んでたんだね」


どうやら墓穴を掘ったらしい。


「ち、違うぞ!?お、おい、晴翔、お前の彼女は先輩に対する態度がなってないぞ!?」


「まぁ、姫流先輩は普通の先輩とは違いますし。いいんじゃないですか?さっきみたいな先輩の方が可愛いですよ?」


「なっ!?・・・ま、まぁ、お前がそういうなら、別に」


再びファスナーを上まで上げて完全体になる先輩。その後、すぐにファスナーを下ろして、俺達に合流した先輩は、お腹が空いていたのか、俺の焼きそばを残らず平らげた。

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