第159話 学園祭初日②

「ハルくん、ごめんね。言うの忘れてた」


「えっ、どう言うこと??」


やっばーい!!


ハルくんに言うの忘れてたよー!!


私が手渡された表は、ハルくん、いや波瑠ちゃんと写真が撮れたりする別メニュー表。


せっかく、安藤さんにも許可もらって準備は万全だったのに。当の本人に伝えるの忘れるなんて。


チラッ


私は、ハルくんの様子をそっと見るが、バッチリと目が合ってしまった。


やっぱり、怒ってるよねぇ?


「は、波瑠ちゃん?」


「なぁに?」


「笑顔が怖いよぉ、波瑠ちゃん。機嫌直して?ね?」


「・・・はぁ、とりあえず、何すればいいの?」


まだ怒ってるみたいだけど、ハルくんは渋々やってくれそう。よかったぁ。


「えっとね、このスペースは波瑠ちゃんと交流出来る特別スペースでね」


私はハイっとメニュー表を手渡す。


「・・・これは誰が考えたの?」


「えっと、楓ちゃんが」


「楓か。とりあえず、今日はツーショットだけでお願いね?わかった?」


「は、はい」


とっても素敵な笑顔でこちらを見る波瑠ちゃん。有無を言わせぬ迫力がある。とりあえず、今回はこっちに非があるから、言う通りにするしかないよねー。


ーーーーーーーーーー


全く、楓も香織もこんなことを考えていたとは。相談くらいしてくれよ。


まぁ、恵美さんには一応確認したみたいだけど。


タイミングを見計らったかのように、俺のスマホには恵美さんからメッセージが届いていた。


『波瑠ちゃん、今日は大変かもしれないけど、愛想よくするのよ?お願いね?』


はぁ、ファンとの交流だと思って我慢するしかないな。とりあえず、ツーショットだけ撮ってこの行列をなんとかしよう。


「香織、みんな待ってるから始めよう」


「そ、そうだね。ハル、じゃなくて波瑠ちゃん、よろしくね」


香織は気を取り直して、並んでいたお客さんを順番に案内する。


「波瑠さん、大ファンですっ!握手して下さい!」


「ありがとうございます」


「波瑠ちゃん、可愛いです!素敵です!」


「はは、あ、ありがとうございます」


一言二言、会話をしながら最後に写真を撮る。この一連の流れをひたすらに繰り返す。


この列に並んでいるのは、ほとんどが女性で、たまに男性がいた。そして、俺が会いたくないあの人も。


「やぁ、波瑠さん。君に会えるって聞いて、やってきたよ」


「げっ、西園寺」


「ん?」


「あ、いえ、また会いましたね」


やべ、つい心の声が。それにしても、こいつ生徒会副会長なんだろう?暇なのかよ。こんなところに並びやがって。


「西園寺さんは、生徒会副会長でしたよね?」


「覚えててくれたのかい!?そうさ、この学校の生徒会副会長さ!」


「だったら、澪さんを手伝ってあげた方がいいんじゃないですか?」


こんな奴でも、少しくらいは澪の手伝いが出来るだろう。一応は副会長なんだし。


「いや、それが、不知火さんに断られてしまってね。なんでも、ここを手伝うよりも、僕が学校中を練り歩いた方が宣伝になると」


「そ、そうなんですね」


なるほど、澪に追い出されたのか。まぁ、澪は西園寺のことをかなり毛嫌いしてたからな。仕方ない。


「それで、写真を撮ってもらえるのかな?」


「え、えぇ、一枚だけですが。それと、絶対に身体に触れないでくださいね?いいですね?」


「あぁ、もちろんさ」


西園寺は、すっと俺の隣に座る。今までの男性に比べると、若干距離が近いような気がするが、確かに身体には触れていない。


肩が当たるかどうかギリギリの距離である。


西園寺からスマホを受け取った香織は、今までのお客さんの時とは違い、笑顔が消えていた。


「はい、撮りますよー。はい、チーズ」


カシャ


今までは、何枚か撮ってあげたり、写真の確認をしてあげていたが、今回はそんなことはせずさっさとスマホを返す。


「あぁ、ありがとう。あれ?君は西城さんじゃないか。相変わらず可愛いね」


今頃気づいたのか、コイツ。


「キモ(ありがとうございます)」


香織、心の声と逆になってるぞ。


「あはは、君は相変わらずだね。さて、波瑠さん、楽し時間をありがとう」


西園寺は徐に、俺の手を取ると手の甲に軽く唇を当てた。


「ひぃっっっっ!?」


「なっ!?」


突然のことに驚き声をあげる俺と、凄い形相で西園寺を睨む香織。しかし、そんなことは全く気にしていないのか、何事もなかったようにこの場を後にした。


「波瑠ちゃん、手!」


「えっ?」


「いいから手、出して!」


何を言われているのかわかっていなかったが、俺は言われるがまま香織に手をあずけると、凄い勢いで手の甲を拭きはじめた。


「あぁ、ハルくんの綺麗な手が汚されたぁ」


「そ、そんなに拭かなくても」


「ダメだよ!あと、一応消毒ね」


「そこまでやるか」


散々俺の手を磨いた香織は、やっと満足したのか、再び写真撮影の列に戻った。


その後、2時間以上続いた行列も、残り少なくなってきた頃、この行列の元凶がやってきた。


「晴翔、お疲れ様」


「楓ぇ、しばらく恨むぞぉ」


「そんな可愛い顔で睨まれてもこっちが困る」


全然反省の色を見せない楓。むしろ、楓を喜ばせただけなのでは?


「晴翔、香織、そろそろ休憩にしよう。2人はお昼ご飯ついでに少し回ってきていい」


「いいの!?」


楓の提案に香織は、すぐさま食いついた。


「うん、晴翔と香織には頑張ってもらったから。そのかわり午後もよろしく」


「ちゃっかりしてんな」


「まぁ、時間もらえるんだからいいじゃん!行こう、ハルくん!」


「はいはい」


俺と香織は教室を出ると、お昼ご飯を求めて出店を彷徨った。


ーーーーーーーーーー


「大塚さん、焼きそば2つお願い!」


「はーい」


今、俺達が並んでいるのは綾乃のクラスがやっている出店だ。いくつかやっているようだが、1番人気は綾乃の焼きそばらしい。


「それにしても、凄い行列だな」


「そうだね、うちのクラス程じゃ無いけど、出店だけならダントツだね」


俺達が列に並んでいると、周りの声が聞こえてくる。


「大塚さんの焼きそば食べたかったんだよねぇ」


「夏休みにSNSでトレンド入りしてたもんね!」


「私は海の家に行ったから食べたよ。本当に美味しいんだから!」


海の家の時、大盛況だったからな。食べられなかった人は、今日こそはと群がっているようだ。


行列に並ぶこと20分。やっと俺達の順番になった。


「いらっしゃいませー、あっ波瑠ちゃんだ!」


「こんにちわ、焼きそば2つ下さい」


「はい、600円になります」


俺は600円ちょうどを店員さんに渡す。


「はい、ちょうどですねー。じゃあ焼きそば3つです!」


「えっ?頼んだのは2つなんですけど」


「あぁ、それはサービスです。うちの綾乃をお願いします。多分裏で休憩に入ると思うんで、連れてって下さい」


「なるほど。でも良いんですか?綾乃連れてっちゃうと焼きそばが」


「あぁ、大丈夫ですよ。もう、かなりの量作り置きしてあるんで。温め直して出しますんで。あの子全然休まないんで連れてって下さい」


「そういうことならわかりました。ありがとうございます」


初めて見る子だけど、すごく良い子だな、この子。何かお礼をしたいんだけど。俺は、困って香織を見ると、何かを察したのか、頷いて店番の子に封筒を渡す。


「これは?」


「あぁ、これは」


疑問に思った彼女の耳元で、香織が何かをつぶやいた。流石に小さすぎて聞こえなかったが、相当喜んでいるので良いとしよう。


俺達は、もらった焼きそばを持ってテントの裏に回る。


すると、ベンチに座ってスマホをいじっている綾乃を見つけた。


「綾乃ちゃんお疲れ様ー。一緒に学園祭回ろう?」


「あれ、香織お疲れ様。ということは、隣の美少女は晴翔か。なんだか、彼氏が自分より可愛いって複雑だなぁ」


「だよねー」


「そんなことないだろ?2人とも十分可愛いさ」


俺の彼女達は、みんな美少女と言って差し支えない。だが、何故かみんな自己評価が低いような気がする。まぁ、今回のミスコンで十分にわかるだろう。自分達がどれだけ人気があるのか。


「私、可愛い?」


「あぁ、すっごく可愛い」


「えへへ」


綾乃は満足そうに笑みを浮かべると、ベンチから立ち上がり、香織とは反対の腕に抱きついた。


「それじゃあ、とりあえず焼きそば食うか」


「「賛成ー」」


俺は、両手に花状態で移動する。確か裏庭にベンチがあったのでそこまで移動しよう。なるべく目立たないように、テントの裏を進んで裏庭を目指す。


そういえば、香織が渡してた封筒ってなんだったんだろうか?後で聞いてみるか。

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