第158話 学園祭初日①

「お、おい、あれ」


「うそっ!?波瑠ちゃんだっ!!」


俺はいま、香織と共に学校中を練り歩いていた。


「ほらほら、波瑠ちゃん、声出していかないと客寄せにならないよー?」


「くそぉ、なんで俺がこんなことを」


「まぁまぁ、とりあえず校門の方に行こう?まだ、開門したばっかりで、お客さんはみんな外にいるから」


「これで、外に行くのか!?」


「大丈夫、大丈夫♪」


俺は、香織に背中を押され、半ば強引に外へと連れ出される。すれ違う生徒達の反応は様々だが、クラスメイトと同じで男子と女子の反応はほぼ同じだった。


そんな中、俺が一番会いたくない人物に出会ってしまった。


「やぁ、また会ったねっ!」


げっ!!


西園寺!?


他の生徒とは違い、颯爽と話しかけてくる西園寺に、俺は咄嗟に香織の後ろに隠れる。


そんな俺を見て、香織は周りに聞こえないくらいの声量で話しかけてくる。


『ハルくん、その姿で西園寺先輩に会ったことあるの?』


『あ、あぁ、前に一度だけ。お前に写真のデータ持ってきた日があっただろ?あの時だよ』


『あぁ、あの時かぁ。それは災難だったねぇ』


自分達だけで、楽しそうに会話をする俺達に、西園寺は若干機嫌を悪くしたのか、ムスッとした表情を浮かべ、再度話しかけてくる。


「んんっ!それで、波瑠さんでしたよね?よかったら、学校の中を案内しますよ?」


「い、いえ、結構ですっ!!」


「そう遠慮なさらずに」


や、やべぇ。今すぐにでも、顔面に一発入れてやりてぇ。話しかけられるたびに鳥肌が立ってしょうがない。


「い、いえ、副会長は何かと忙しいでしょうし、今日は香織さんと回りますので、それじゃっ!!」


「あ、待って!」


俺は、西園寺の静止を聞くことなく、香織の手を引いて走り出した。このまま正面玄関に出ると目立つため、一度中庭の方から出て校門を目指すことにした。


「ハァ、ハァ、ここまでくれば、大丈夫だろ」


「急に、ハァ、ハァ、走らないでよ」


俺達は、中庭にあるベンチに腰掛けると、乱れた息を整える。普段であれば、中庭は誰も寄り付かない、静かな場所なのだが、今日は例外だった。


「なんか、人が多いね。てか、みんなカップル?」


「そうみたいだな。どうせ、学園祭を一緒に回るんだろ」


俺達の予想通り、皆手を繋いで校舎の中に入っていく。これから学園祭デートか。羨ましい。


俺だって、こんな格好じゃなきゃ、もっと楽しめたんだけどなぁ。


息を整えた俺達は、立ち上がると校門を目指し、再び歩き出した。もちろん看板をしっかりと持ち上げ、宣伝は忘れない。


「2-A組で、コスプレ喫茶をやっています。ぜひ、遊びに来て下さいねー」


俺は、羞恥心に耐えながら、すれ違う人達に笑顔を振り撒いた。


すれ違う人々は様々で、うちの生徒の保護者、兄弟、他校の生徒、うちの学校の関係者などなど。


そんな中、他校の生徒だろうか、セーラー服の似合う女子高生数人に話しかけられる。


「波瑠さんですよねっ!?」


「はい、初めまして」


「波瑠さんもコスプレ喫茶にいるんですか!?」


「はい、私もこの後向かう予定です。ぜひ立ち寄って下さいね」


ニコッ


「「「「はぅっ!!」」」」


俺は、裾を軽く摘み笑顔を作る。


「「「「ぜ、絶対行きますっ!!」」」」


「あ、あはは、ありがとう。待ってるね」


やっと解放された俺は、とりあえずやるべきことはやったので、香織と共にクラスへと戻ることにした。


ーーーーーーーーーー


「おい、さっきの見たか!?」


「本当に波瑠ちゃん居たぞ!?」


「俺達も、行ってみようぜ!」


俺とすれ違った男性陣は波瑠を目当てに、コスプレ喫茶へと向かい、長蛇の列を成した。


「凄い綺麗だったね!!」


「うん、波瑠さんもHARU様もどっちもアリ!!」


「私達も早く行こっ!」


女性陣は、波瑠もいいが、HARU様とお近づきになれるならと、こちらもまた長蛇の列を形成した。


ーーーーーーーーーー


一方、晴翔と香織を送り出したクラスでは。


「さて、晴翔のことは忘れて仕事に取り掛かろうか?」


俊介は、晴翔を一瞬でも可愛いと思ったことに、戸惑いつつも気を取り直し、みんなに声をかける。


しかし、あまりの衝撃に戻って来れない男子が続出した。


「あぁ、波瑠ちゃん」


「齋藤がHARUで、波瑠が齋藤で・・・」


「夢じゃないよな、男だったのかぁぁぁぁ」


さっきまでは、男でも関係ないと心を奮い立たせた男子達だが、時間の経過と共にそんな心はポッキリと折れてしまった。


「ちょっと男子、勝手に傷ついてないで仕事してよねー」


「そろそろ来ると思うから、準備しよう?」


女子達は、波瑠の集客効果を正しく認識していたが、男子達はただ可愛い男の娘確か認識しておらず、この後の状況を理解出来ていなかった。


「な、なんか、外が騒がしくねぇか?」


「ま、まさか、もう人が来たのか?」


「そんなはずねぇだろ?普通は外の出し物から楽しんで来るだろ?・・・なぁ、そうだよな?」


だんだんと不安になってきた男子達は、教室のドアを少し開け廊下を見る。


「げっ!?」


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」


そこには、年齢性別問わず、老若男女が長蛇の列を形成していた。


「ほら、言わんこっちゃない」


「ほらほら、まずは入り口開けて、お客様の案内からよー」


「男子達も接客やんなさいよ?その為の衣装なんだからね(笑)」


男子達は、自分達の服装を思い出し絶望の表情を見せるが、抵抗するにはもう時すでに遅し。男子達は腹を括って接客を行い、学校中の笑いを独り占めにした。


ーーーーーーーーーー


「そろそろ戻ろうか、ハルくん」


「そうだな、もういいだろ。俺頑張った」


「うんうん、ハルくんは頑張ったね。えらいえらい」


そう言って、俺の頭を撫でる香織。満足そうな表情に、俺も自然と笑みが溢れた。


「香織」


「ん?なに?」


ちょいちょい、と香織を手招きすると、素直に俺の方へ一歩近づく香織。


ちゅっ


「ひゃあっ!?」


俺は、近づいて来た香織の頬にキスをする。学校ではあまりやらないが、学園祭の雰囲気がそうさせるのか、少し大胆になっているようだ。


香織も、突然のことに驚き、固まっている。


「ほら、行くぞ?そろそろ手伝いに行かないとな」


「・・・ず、するいよ、ハルくんは」


ぷくぅっと頬を膨らませ、ぶつぶつと文句を言いつつも大人しく俺の腕に抱きつき隣を歩く香織。


このまま学園祭を回れたらわかったのだが、その願いは儚く散った。


「おい、齋ーーじゃなくて、波瑠ちゃんと西城さんも手伝ってくれっ!」


「お前が集めた客なんだからなっ!?」


全く似合わないコスプレをしている男子達が突然教室から飛び出してきたが、それに対してリアクションをする暇もなく、男子達もまた衣装のことなど気に留める余裕はなかった。


「ハ、ハルくん!とりあえず行こっ!」


「お、おう!」


俺と香織は急いで教室に入ると、中は人で溢れかえっていた。クラスメイト達も、忙しなく動き回っていた。そんな中、俺達に気づいたクラスメイトが急いで駆け寄ってくる。


「齋藤くん、良いところに!」


「西城さんも早く!」


「こっち来て!」


俺達は、されるがままに連れていかれると、教室の端っこのスペースに案内される。


「座って」


「えっ?」


俺は用意されたソファに座ると、香織にはメニュー表のような物が手渡される。


手渡された物を見て、香織は何かに気付いたのか、気まずそうな顔を見せる。


「ハルくん、ごめんね。言うの忘れてた」


「えっ、どう言うこと??」

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