第156話 学園祭前日
珊瑚さんとのコラボ配信の後、特に動画サイトの方は触れることなく、ただ時間だけが過ぎていった。
そんな中、学園祭の準備も着々と進み、学校中の雰囲気がいつもと異なり、浮き足立っていた。
「皆さん、今日まで学園祭の準備お疲れ様でした。こうして、今年も学園祭を行う事ができて嬉しく思います」
今、舞台上で挨拶をしているのは、生徒会長の澪だ。
現在、学校集会の真っ只中で、これは学園祭に向けての恒例行事である。約二ヶ月の準備期間も、あっという間に過ぎ去り、ついに明日学園祭当日を迎えることとなったのだ。
「今年の学園祭では、例年通りのミスコンやミスターコンの開催だけでなく、バンド演奏や演劇など、今まで出来なかったイベントも開催する予定です。しかし、それも今回の学園祭次第では、来年からまた出来なくなることも十分にございます」
今年は例年に比べ、比較的規制が緩やかで、自由度の高い学園祭を開催できることになった。これも全て、澪が頑張ってくれたおかげだ。澪の最後の学園祭で問題が起きないように、陰ながら支えていこう。
「では、今年の学園祭を成功させられるように、皆さん頑張りましょう」
澪の話が終わると、体育館中に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。相変わらず澪の人気ぶりは半端ないな。
澪は最後まで凛とした表情のまま壇上を後にした。そこから、校長先生や生徒指導の先生から話があり、長い長い学校集会は終了した。
ーーーーーーーーーー
学校集会が終わった後、各クラスに戻り、最後の打ち合わせが行われていた。
「さて、俺達のクラスのコスプレ喫茶も、無事準備が終わった訳だけど、念の為最終確認をするよ」
俊介が司会を務め、明日に向けて最終確認を行う。
「まず、衣装の確認から。男子の衣装はどうなってる?」
俊介の問いに、男子の衣装を担当した女子達が答えた。
「はい、問題ありません。サイズ確認も終わってるし、人数分用意してあります」
「まぁ、誰が何を着るかは当日のお楽しみなので、楽しみにしてて下さい」
男子達は、約束通りに女子が選んだ衣装を着ることになっている。サイズ確認の時に、チラッと見えていた衣装の中には、アニメの衣装やタキシードなど、コスプレしやすい物から、チャイナドレスやナースなど、メンタルが必要なものもあった。
「お、おい、当日まで教えてくれないのかよ!?」
「俺は、普通なやつだよな?そうだよな!?」
「彼女と一緒に学園祭回るんだよ。頼むから、変なのはやめてくれぇ!!」
男子達は、明日の衣装のことで気が気でないようだ。
「ま、まぁ、晴翔みたいに化粧までさせられる訳じゃないんだから、俺たちはまだマシな方だろ?なっ?」
俊介も内心はバクバクのようだが、みんなを落ち着かせるために、俺を引き合いに出す。
「そ、そうだよな。齋藤はバッチリ女装させられるみたいだしな」
「それに比べれば、俺たちはまだいいのか」
「齋藤、頑張れよ」
男子達からは同情の眼差しが向けられる。
「男子達って本当に馬鹿だよねぇ」
「ほんとほんと」
「誰の心配してるんだか」
男子とは違い、女子達は全く心配する素振りは見えない。むしろ楽しみにしている女子が多いようだ。
「じゃあ、男子はいいとして。晴翔、女子のメイド服はどうだ?」
「あぁ、大丈夫。知り合いに用意してもらったから。一応、今日の放課後搬入するから、実際に着てみるのもアリかも」
今日は、エミーがメイド服を持って来てくれることになっている。
「本当に?」
「じゃあ、見ていこうかな?」
「私もー」
「よし、じゃあ女子の方もオッケーだな。あとはー」
そこから、提供する料理や値段、シフトの確認など細かいところまで確認をした。
そして、あっという間に放課後になっていた。
ーーーーーーーーーー
「晴翔さん、頼まれていたメイド服、持ってきましたよー」
「ありがとう、エミー。悪いな、忙しいのにわざわざ持ってきてもらっちゃって」
「良いんですよー。私は結構時間に融通ききますので」
エミーは、日本に戻ってきてから忙しくしているようで、衣装の件でお世話になって以来、顔を合わせていなかった。
エミーに用意してもらったメイド服を、うちのクラスの準備室として使う、家庭科室へと運び入れる。
「これだけの数があると、凄い光景だなぁ」
「そうですね、私もこんなに発注したのは久しぶりですね」
俺達が、衣装を運び終わり話をしていると、まだかまだかと廊下で待っていたクラスメイト達が入ってくる。
「齋藤くん、もう大丈夫?」
「着てみてもいい?」
「あ、みなさん、本日は衣装の発注ありがとうございましたー。晴翔さん価格でお安くご提供しておきますねー」
今回、エミーはお金はいらないと言われたが、流石にそれは悪いので、少しばかり払わせてもらうこととなった。
「エミーちゃん、お久しぶりー」
「あ、香織さん!お久しぶりです!」
エミーと香織は再会を喜び、抱き合うとエミーは香織の頬へ軽くキスをする。
「くすぐったいよ、エミーちゃん」
「ご、ごめんなさいです!ドイツでの癖が抜けなくって」
「まぁ、文化の違いだから仕方ないよねー。それよりも、もしかしてハルくんとも、いつもしてるのかなー??」
「い、いえ!晴翔さんとはしてないです!抱きつくまでにしてますっ!」
「そ、そう。まぁ、それくらいならいいけど」
エミーと話を終えた香織は、皆んなに混ざりメイド服の試着を始めた。
「さて、みんな着替えてるから俺は外で待ってるな」
「え、見て行かないんですか?」
「いや、着替え終わったら戻ってくるよ」
俺達の会話が聞こえていたのか、クラスメイトが何人か声をかけてきた。
「別に居てもいいよー?」
「うん、齋藤くんなら別に」
「むしろ、齋藤くんも着替える?」
「い、いや、俺は当日だけで結構です。と、とりあえず、着替え終わったら呼んでくれっ!」
俺は急いで出ようと入口に向かうが、俺が開ける前にドアが開いた。
ガラガラガラ
「ん?晴翔、何してる?」
「晴翔くん?どうしたのー?」
ドアを開けたのは、どうやら楓と彩芽だったようだ。
「あ、あぁ、みんな着替えるみたいだから外に出ようと思ってさ」
俺が理由を言うと、俺の背後に見える光景を、2人は俺越しにチラッと見る。
「ふむ、出る必要はない」
「そうそう、それにもう開けられると困っちゃうなー。外に男子が居るしー」
楓はガチャリとドアに鍵を閉める。
「ちょっ!俺も外で待ってるよ!」
「ダメ、もう開けられない」
「なんで!?」
「だって」
ん、と言って俺の後ろを指差す楓。俺はつられて背後を振り向くが、すぐに向き直る。
「な、なんでもう着替え始めてんの!?」
「晴翔、諦める」
「そうそう、ここで待っててー」
楓達は皆んなに混ざり着替えを始める。布の擦れる音が妙に耳に残る。
「エミー、居るか?」
「はい、お呼びですかー?」
「ちょっと、話をしよう。少しでも気を紛らわせたい」
「なるほど、わかりました。では、今度のイベントの話をしましょう!」
「イベント?コスプレか何か?」
《はいっ!コスプレもそうですが、ゲームやアニメ、漫画など総合エンターテイメントのイベントが日本で開催されるんですよ!》
凄い勢いで捲し立てるエミーは、気付けばドイツ語になっていた。
《おい、ドイツ語になってるぞ?》
《えっ、ほ、本当だ。失礼しました。でも、こっちの方が2人で話せて嬉しいです》
《そうか?》
《はい!それと、さっきのイベントなんですが、一緒に行きたいんですけど、考えておいてもらっていいですか?詳細は後で連絡しますので》
《わかったよ》
俺達の会話がひと段落する頃には、みんなの着替えも無事に終わったようだ。
これだけのメイドがいると、なんだか変な気分だな。
「これ生地が凄くいい!」
「こんなの借りちゃって良いのかな??」
「サイズもピッタリ!」
皆んな喜んでいる姿を見て、エミーはとても嬉しそうにしている。
そんなエミーの笑顔を見て、数人の女子があることに気づく。
「あ、あの、エミリーさんですよね?」
「え?はい、そうですけど」
「やっぱりっ!『フェアリープリンセス』のエミリーさんですよね!?」
フェアリープリンセス?妖精姫のことか?
「あはは、そうですけど、コスプレしてないのに良く分かりましたね」
「だって、こんなに可愛いんですもん。分かりますよ!私、よくお店行くんです!」
「そうでしたか、ありがとうございます。私の名前を出してくれれば、今度サービスしますよ」
「ありがとうございます!」
「やったー!」
エミーとの話を終えた彼女達は、嬉しそうに、みんなの輪の中に戻っていく。
「エミーは、何かお店を開いてるのか?」
「はい、コスプレ衣装のお店と、若者向けの衣類を扱っているお店の2店舗ですね。どうやら、うちの常連さんみたいてす」
「へぇ、凄いな。その年で店を出せるって」
「流石に、未成年ですから親の名前を借りてますし、親の支援がなければ軌道にも乗りませんでした。恵まれてただけです」
「そんなことないさ。エミーが頑張ったからだろ?それより、時間は大丈夫なのか?これからまた仕事だろ?」
「あ、そうでした!じゃあそろそろ行きますね。学園祭は私も行きますので、頑張って下さいね!また、連絡します」
「あぁ」
ドタバタと慌ただしく去って行ったエミー。そして、残された俺はクラスメイト達のメイド服への感想をしばらく求められることとなり、この日はドッと疲れが溜まった。
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あとがき
コロナでしばらくダウンしてましたー
更新が滞り申し訳ありませんm(_ _)m
まだ本調子ではないので、少しずつ書いていけたらと思ってます!
今後もよろしくお願いします
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