第154話 配信とお風呂
「晴翔くんはさ、動画配信とか興味あるの?」
「そうですね。やってみたいとは思いましたけど、結構大変だって言うじゃないですか」
ただ楽しそうに動画を撮ってサイトにアップしているように思っていたが、聞くところによると、かなり大変なようだ。
毎日のように、ネタを探す日々。動画を撮ってからも、編集するのにかなり時間を費やすらしい。
「そうだねぇ、でも私の場合はスタッフも居るから、編集とかはお任せなんだよね。だから、私は結構楽しくやれてる感じだね」
「なるほど、1人でやるよりは良さそうですね」
「うん、でも雇うんだからちゃんと収益化出来ないと難しいね。まずは収益化しないと」
うーん、結構奥が深いなぁ。動画を配信すること自体はお金がかからないけど、お金を稼ぐには色々と条件をクリアしないといけないのか。
「私は温泉巡りがメインチャンネルなんだけど、今回のチャンネルは、ファンとの交流に使う予定なの」
「ちなみに、どんなことするんですか?」
「うーん、なんでもいいの。一緒に歌ったり、絵を描いたり、ゲームをしたり、ただ喋るだけでも。とにかく、みんなと繋がることが大切なの」
ちょっと話しただけだけど、珊瑚さんがファンを大事にしているのがよくわかる。
もし、俺がアカウントを作るなら、俺は何をしよう。
「よし、じゃあとりあえず、ライブ配信始めちゃおうか?」
「わ、わかりました。じゃあ、呼ばれたら入ればいいですね?」
俺は、カメラに映らないように少しよける。画面には、もう沢山のコメントが寄せられている。男性がメインだとばかり思っていたが、意外にも女性のファンも多いらしい。
ゲスト:まだかなー
ゲスト:新しいチャンネルも楽しみー
ゲスト:今日は初回からコラボらしいよ?
ゲスト:誰だろう??
開始前から、視聴待機の人が1000人を超えた。
「よし、晴翔くん、始まるよ」
俺がコクリと頷くと、珊瑚さんはニコッと微笑み配信を始めた。
「みんなおまたせー、珊瑚だよぉ」
珊瑚さんが、画面に向かって手を振って挨拶をすると、一気にコメントが寄せられる。
ゲスト:珊瑚さーん
ゲスト:今日も可愛いですねー
ゲスト:待ってましたぁ
「おぉ、今日もいっぱい来てくれてるねー。さっそくだけど、今日のパートナーを紹介していいかなぁ??」
ゲスト:待ってましたー!
ゲスト:ドキドキ
ゲスト:だれだれぇ?
「今日のパートナーはこの人です!」
珊瑚さんが、俺に向かって手をひらひらとさせる。俺は、若干の気恥ずかしさを覚えながら、ゆっくりと登場する。
「どうも、HARUです」
ゲスト:HARU様だぁ!!
ゲスト:温泉以来のコラボですね!!
ゲスト:2人の組み合わせ楽しみにしてました!
女性視聴者は、俺と珊瑚さんのコラボを純粋に喜んでいるようだが・・・。
ゲスト:また、お前かぁぁぁ!
ゲスト:俺達の珊瑚さんがぁ!
ゲスト:珊瑚さん、イケメンは気をつけなきゃダメだよ!?
どこに行っても、男性達からは受け入れられないな。それにしても、俺をなんだと思ってるんだ?別に珊瑚さんに何もしないよ。
「あはは、やっぱりHARUくんはモテモテだねー。お姉さん嫉妬しちゃう」
「揶揄わないでくださいよ」
「揶揄ったつもりはないんだけどなぁ。さて、みんな、今日はみんなと遊ぼうかと思ったんだけどね?なんか、HARUくんも動画配信したいみたいでさぁ。お手伝いしてあげたいんだけど、いいかな?」
ゲスト:HARU様もやるんですか!?
ゲスト:もちろんです!
ゲスト:上限まで投げていいですか!?
ゲスト:おいおい、ちょっとずつ楽しめよ!?
「ふむふむ、私も投げたいから、早くアカウント使っちゃおうか!」
「あ、でもパソコンが」
俺はパソコンを持って来ていなかったため、どうしよかと思ったが、珊瑚さんは俺の背後を指差す。
「HARUくんのマネージャーさんは優秀だねぇ。ノーパソ持って来てるみたいだよ?」
ノートパソコンを顔の高さまで持ち上げるとニコッと笑う恵美さん。さすが、仕事が出来ますね、恵美さん。
俺は恵美さんからノートパソコンを受け取ると、電源を入れる。
「よし、じゃあさっそくやっていこうか」
「お願いします」
そこから、動画サイトでアカウントを作った俺は、チャンネルを開設した。
「チャンネル名は『HARUの部屋』か。シンプルだけどわかりやすくていいね!」
「ありがとうございます」
その後、一緒に居るのに隣同士で生配信をすることになった。
「HARUくん、そこのボタン押してみて」
「ここですか?」
「そうそう」
俺は言われた通りにボタンを押すと、ライブ状態になった。
「さてさて、みんなHARUくんのチャンネルに行ってみようよ」
ゲスト:オッケー
ゲスト:すぐに登録します!
ゲスト:投げ銭したいので設定外してください
隣で珊瑚さんが呼びかけたためか、俺の視聴者が100人ほどになった。
「あ、皆さんこんにちは、HARUです。よろしくお願いします」
ゲスト:こちらこそ
ゲスト:よろしくお願いします!
珊瑚:お姉さんが、来ましたよー
ゲスト:珊瑚さん来てるし、本物??
「本物ですよー、可愛い弟のため、お姉さんが手取り足取り教えてあげます」
ゲスト:HARU様逃げてー!
ゲスト:HARUの方が危険だった(笑)
ゲスト:珊瑚さん、暴走しないでねー
それから、珊瑚さんの配信講座を聴きながら、一連の流れを覚えていった。
「さてさて、私はこれから温泉巡りに行かなくちゃあいけないのですよー、リスナー達」
ゲスト:もうそんな時間か
ゲスト:あっちのチャンネルに切り替えないと
ゲスト:男どもが、ざわつき始めたわ
ゲスト:変態ばっかり
「じゃあ、今度は温泉で会おうねー、バイバーイ」
珊瑚さんは、視聴者に別れを告げると配信を終了した。そして、隣でやっていた俺も配信を終了する。
「晴翔くん、お疲れ様。SNSでチャンネル開設の報告しておいて」
「はい、わかりました」
俺は、言われるがまま、SNSでチャンネル開設の報告をする。
「それじゃ、毎日とは言わないけど、たまに動画をアップしてもらってもいいかな?内容については、私に相談してくれればいいから」
「わかりました。事前に相談して、やるかどうか決めます。今日はもう仕事は終わりですか?」
「うん、それでよろしくね。あはは、終わりと言いたいところなんだけど・・・」
「どうしました?」
「晴翔くん、これから一緒にお仕事よ?」
「へっ?」
「ふふふ、安藤さん、晴翔くん借りていきますね?」
「はい、お手柔らかにお願いしますね」
「わかってますよ。動画取るだけですから。さ、行きましょう晴翔くん」
意気揚々と外に出た珊瑚さんだったが、急な夕立のため足止めを食らった。
「もう、予報ではずっと晴れだったのにぃ」
「仕方ないですよ、また今度にしましょう」
ぶすぅっと、不貞腐れている珊瑚さん。全く、仕方ないな。
「珊瑚さん、元気出して下さい」
「ぶー、温泉ー」
「珊瑚姉さん」
「にゃっ!?い、いまにゃんと!?」
恵美さんから聞いていたとおり、珊瑚さんはお姉さんと呼ばれるのが好きらしい。だが、ちょっと興奮気味で鼻息が荒くなっている。
「晴翔くん、もう一回言って!」
「あ、えっと、珊瑚、姉さん?」
「ん〜〜〜!!」
「ちょっ!?」
珊瑚さんは、俺の頭に手を回すと、勢いよく自分の胸に引き寄せる。
「ん〜、晴翔くん可愛いぃぃぃ!!」
「ん、んー!んー!」
く、苦しい!
息ができない!!
俺は必死に胸元から逃げ出そうとするが、全然離してもらえない。
「あ、ごめんね。すぐ離すよ」
「ぷはぁぁぁぁ!!」
俺は、天国のような、地獄な環境をどうにか抜け出した。や、やばい、本当に死ぬところだった。なんて、恐ろしい凶器なんだ。
「じゃ、行こうか」
「ど、どこに?」
「お姉さんの家に決まってるでしょ?」
「な、なんでですか?」
「温泉は諦めたけど、お風呂はどこにでもあるからね」
「お風呂?」
「ほら、行くよっ!」
俺は珊瑚さんに手を引かれ、珊瑚さんの家へと連れて行かれた。珊瑚さんの家は、お互いの事務所から近いところにあった。
「ここって珊瑚さんの家ですか!?」
「そうだよ?安い物件があったから、リフォームして住んでるの」
俺が案内されたのは、立派な一軒家だった。しかし、中に入ると珊瑚さんの家だと実感した。
2階建の一軒家なのだが・・・。
「下はキッチンとリビング、お風呂。生活空間は全部2階にあるの」
「あの、聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「お風呂、何個あるんですか??」
ざっと案内されただけでも、3つはあった。
「えっと、普通のお風呂に、大きめのお風呂でしょ?水風呂に、岩盤浴もあるよ。あ、あと2階に露天風呂もあるの!」
「こんな街中で露天風呂ですか!?覗かれますよ!?」
「あはは、その辺は大丈夫だよ。さっそくだけど、行ってみようか」
珊瑚さんに案内され、2階に向かうと奥の部屋へと入る。扉を開けると脱衣所があり、奥に露天風呂があった。
「こ、これなんですか??」
露天風呂を覗いてみると、一面を何かに覆われている。ガラスか?
「あぁ、これは鏡だよ。マジックミラーになってるの。外は見えるけど、外からは見えないようになってるの」
「マジックミラーですか、凄いですね」
俺は、本当に見えないのか興味津々で、ガラスをペタペタと触って確認する。実際に外から見ないとわからないな。
「あの、ちょっと外からーーー!?ちょ、何してんすか!?」
「え、なにって、動画撮るんだよ??」
振り返ると、既に一糸まとわぬ姿で、カメラをセットする珊瑚さん。温泉のときはタオルを巻いていたが、今は邪魔なものは何もなかった。
「ほらほら、晴翔くんも脱いで♪」
「ちょ、ちょちょ」
抵抗も虚しく、あっという間にひん剥かれた俺は、珊瑚さんからタオルを借りて、腰に巻いた。
「珊瑚さん、タオル巻いて下さい」
「え、なんで?自分の家だよ?それに、動画撮る時は裸って決めてるの。あ、もちろん、ちゃんと映らないように編集してるから大丈夫だよ?」
「そういう問題じゃなくてですね」
俺は、もどかしい感情を伝えられず、余計にモヤモヤした。仕方なく先にお湯に入らせてもらい、気持ちを落ち着かせることにした。
静まれ、静まれぇ。
最近、香織と一線を超えたせいか、息子の反応が良すぎる気がする。俺は、必死に感情を鎮める。
「なるほど、そういうことでしたか」
「さ、珊瑚さん・・・?」
ニタァッと不敵な笑みを浮かべた珊瑚さんは、湯船につけると、俺のすぐ横に座った。
「もう動画撮ってるから、気をつけてね?」
そう言って、俺の腕に自分の腕を絡めると、珊瑚さんは、いつも通り撮影を再開した。
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