第152話 バンド結成
「それじゃあメンバーを紹介する」
やる気があるのか無いのか、覇気のない声で集めたメンバーを紹介する楓。
「まず、楽器はギター、ベース、ドラム、キーボードを用意した」
そう言って、黒板に楽器とメンバーの名前を書いていく。
「まず、ギターは彩芽」
「はいはーい、よろしくねー」
「彩芽はギター出来るの?」
「うん、お父さんに教えてもらったんだー」
彩芽は、置いてあったギターを手に取ると、軽くギターをかき鳴らして見せた。
聞き馴染みのあるコード進行は、聞いていて心地よく、数フレーズだけだが上手いのがよくわかる。
「どう?凄いでしょ」
「凄いな、こんなに弾けるとは思わなかったよ」
「えへへ、イケメンに褒められたー」
相変わらず、イケメン大好きな彩芽は、褒められると本当に嬉しそうにしている。
「次、ベース。イケメン次席、俊介」
「あはは、よろしく」
「おぉ、俊介も誘われたんだな。よかったなイケメン」
実を言うと、俊介は誘われたいが一心で、楽器が弾けるアピールをめっちゃしてた。最初は相手にしてなかった楓だが、ベースが出来る生徒の中で、俊介が一番イケメンだったらしい。
「じゃあ、ちょっとだけ弾いてみるか」
俊介もベースを手に取ると、パパッと弾いてみせる。しかし、ギターと違いイマイチ上手さが分かりにくい。まぁ、彩芽が上手いって言ってるし、たぶん上手いのだろう。
「次、キーボード。私」
「楓はキーボードか、意外だな」
「楓はすっごく上手いよー。ピアノのコンクールにも出るくらいだから」
「えっ、マジで!?凄いじゃん!」
「は、晴翔、そんなに褒めても何も出ない。・・・ちゅーくらいならしてあげる」
楓が満更でもない表情で、両手を広げるがそれを遮ったのは俊介もだった。
「ちょ、ちょっと待った!とりあえず、紹介しちゃおうぜ、なっ!?」
すごく必死な態度が伝わったのか、楓はあからさまにガッカリしながらも、紹介を続ける。
「ハァ、仕方ない。晴翔、また後で。えっと、ドラム、
「はい!」
楓に名前を呼ばれて元気良く返事をする女の子。初めて聞く名前だけど、何処かで会ったことあるような。
「紅葉、自己紹介」
「はい、先輩!
「紅葉は、昔ピアノを一緒にやってた。ドラムも上手いから大丈夫。私が保証する」
「はい、先輩の頼みであれば、誠心誠意頑張ります!」
うーん、なんだろう。顔じゃなく、雰囲気というか、なんとなく誰かに似ているような気がする。
「なぁ、彩芽、小瀧さんってさ」
「あー、そうだね。紅葉は楓とそっくりかも」
「楓と?」
「うん、紅葉もさイケメン至上主義みたいな感じでさぁ」
それはお前もだろ、と思ったが俺は話の腰を折らずに大人しく聞くことにした。
「でも、紅葉は楓一筋だからね。楓にずっとついてきてるの。そういえば、紅葉が晴翔くんにも保健室で会ったって言ってたよ」
「保健室で?」
あっ、そうか。
二学期の初日に保健室に逃げ込んだときに、会ったあの子か。ちょうど先生が居なかったから何もしないで帰ってったんだよな。
「南さん、今日はどうするんだ?」
「むっ、楓先輩、この人なんすか?」
「ん?これは、勅使河原俊介。バスケ部のエースらしい。そして、私のことが好きらしい」
「えっ、いや、南さん!?」
「楓先輩を!?楓先輩、危険です!距離をとりましょう!!」
そう言って、楓を引っ張り俊介と距離をとる。
「お、俺は南さんに何もしないよ」
「どうだか。バスケ部みたいなチャラい奴は信じちゃ行けません。私の楓先輩の貞操が危ないです!」
「そんなことしねぇよ!!」
2人が言い争ってる間に、楓はこちらに逃げてきた。
「話が進まない。人選を間違えたかも」
「あはは、腕はいい人が集まったんだけどねー。でも、即席バンドなんてこんなもんでしょー」
「それもそっか。じゃあ、今日は解散」
「はーい」
「そうだな。2人はそっとしておこう」
未だにいがみ合っている2人はこちらの声が届いていないらしい。
「あ、そうだ」
楓は、徐に彩芽の肩を掴むと俺達の前に移動させる。
「晴翔、ちょっと」
「ん?なんだ?」
楓が小声で話す為、俺は少し屈んで耳を傾ける。
ちゅっ
「・・・へっ?」
俺の頬に柔らかい感触が伝わる。
「さっきのお礼。褒めてくれたから」
「そ、そうか・・・」
俺は状況がよく分からず、戸惑っていると楓は何か勘違いをしたらしい。
「あ、そっか、じゃあもう一回」
「いやいや、いいよ!」
「なんだ、口がよかったのかと思った」
「そういう問題じゃないから。ハァ、なんだか楓が心配になってきたよ」
「それは、私のセリフだよー」
一連の行動を見ていた彩芽が、不機嫌そうにこちらを見ている。
「人を壁に使ってイチャイチャしてー」
「そうか、これがイチャイチャ」
「いや、してねーよ」
「そうだ、この後暇ならカラオケ行かないー?」
「私はオッケー」
「俺もいいけど」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
彩芽は、俺と楓の手を取ると、颯爽と音楽準備室を後にする。
教室を出るとき、彩芽が一言「鍵お願いねー」と2人に言っていたが、全く聞こえていなかったようだ。いつまでやるんだか。
・
・
・
一時間後。
「あ、あれ!?楓先輩は!?」
「あれ、晴翔!?」
「「どこ行ったぁぁぁぁぁ!?」」
3人がカラオケを楽しんでいるころ、2人はやっと誰も居ないことに気がついた。
ーーーーーーーーーー
「それにしても、本当に良かったのか?」
「なにがー?」
「なにかあった?」
この2人は、全く覚えていないのだろうか。あの部屋に置いてきた2人を。
「いや、小瀧さん、楓を慕ってるみたいだし」
「いや、あれは慕ってるんじゃない。ただの変態」
「そ、そうだね。いつ捕まってもおかしくないかもー」
「そ、そんなにやばい奴なのか??」
見た感じは、黒髪ショートがよく似合う、普通の女の子なんだが。
「とりあえず、カラオケに着いたら教えてあげるよー」
「晴翔のファンだから、晴翔にはあんなことしないと思うけど」
「なんだか不安になってきたぞ」
俺達は、学校近くのカラオケ店に入ると、ドリンクバーで飲み物を調達し、部屋へと向かう。
「さて、じゃあ紅葉の奇行について教えてあげよー」
「ん、初めにおかしいと思ったのは、私のパンツがプールの度になくなったとき」
「いや、もう怖えよ」
もう既に、オチが見えたぞ。きっと、小瀧さんが集めてたんだろう。
「お、その顔はもうわかったかな?なんと、紅葉が履いてたんだよー」
「履いてたんかよ!?」
小瀧さんは、どうやらいつも下着を履かないらしく、たまたま風でスカートが捲れた時に楓のパンツが見えたらしい。
いやいやいや、ただの痴女かよ。
「結局パンツは帰ってこなかった。まぁ、いらないけど」
「でも、それだけで終わらないのが紅葉だよー?」
「まだあるのか?」
「まだまだある」
その後も、小瀧さんの奇行について散々聞かされたあと、俺達はカラオケを楽しんだ。
そういえば、楓は炭酸飲まないんだな。
俺と彩芽はコーラやサイダーなど何度も炭酸をおかわりしているが、楓は緑茶か烏龍茶のみ。
楓がお手洗いに行ってたとき、彩芽になんとなく聞いてみた。
「なぁ、楓って炭酸飲めないのか?」
「えっ、なんで!?」
なんか変なこと聞いたかな。なんか、すごく驚いてるけど。
「いや、さっきから炭酸飲んでないからさ」
「あ、あぁそう言うことかー。楓に炭酸はあげちゃダメだからねっ!これは晴翔くんのためでもあるの。わかった??」
「わ、わかったよ」
「私も一回飲ませちゃったことがあって、あの時は酷い目にあったよー」
「そ、そんなにか?」
ガチャ
「ただいま」
「あ、戻ってきた。じゃあ、私もお花摘みに行ってきまーす」
楓と入れ替わりで、彩芽も部屋をでる。とにかく、楓が炭酸を飲まないように気をつけないと。
しかし、俺が振り向いた時にはもう遅かった。
「あっ、楓、それ俺のコーラ!!」
俺はすぐに取り上げたが、少し減ってる気がする。これは、やっちまったか・・・?
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