第151話 僕からの恋文

初めてのステージを終えて、舞台袖に戻った俺は、無事に終えられたことに胸を撫で下ろした。


「皆さん、お疲れ様でした・・・って、どうしたんですか!?顔真っ赤ですよ!?」


ラズベリーの3人は全員息が上がり、顔も真っ赤になっていた。たぶん、初のステージで緊張していたのだろう。


俺は、初ステージでもメインのステージではなかったため、まだ気楽に出来たが彼女達にとっては今後に影響する大事なもののはず。


俺が心の中で、ラズベリーに対して拍手を送っていると、六花が徐に彼女達に近づくと、何かを喋っている。


「お疲れ様でした、皆さん。よく最後まで我慢したっすね」


「ですよねっ!?頑張りましたよね!?」


「ウインクで死ぬかと思いましたっ!!」


「自分で自分を褒めてあげたいですよ!」


彼女達は4人でガシッと抱き合って、なんだか感動のワンシーンを演じている。


俺は何をしているんだ?と不思議に思っていたが、どうやらそれは俺だけだったようだ。


周りに居たスタッフは、何度も頷き、「頑張ったね」と労いの言葉をかけていた。


そして、本来はすぐに次のステージのはずなのだが、予定外の休憩が入ることになった。


なんかあったのか?


ーーーーーーーーーー


ラズベリーのステージが終わった、客席では。


「え、えーっと、皆さんよく耐えましたね」


「無事にラズベリーwith HARUのステージが終了致しました。本来なら次のステージと行きたいところですが・・・」


MCの2人は客席と次のステージを見渡す。そして、お互いに向き合うと、コクリと頷きあう。


「予定にはございませんでしたが、一度休憩にしたいと思います。皆さんどうか深呼吸をして、息を整えて下さいね」


MCの意味不明なアドリブで、一度休憩に入ってが、客席からは「よくやった」と拍手が起こり、SNSでも感謝と労いの言葉が寄せられた。


「やばい、動悸が」


「 HARU様が、また出てきたら耐えられないかも」


「とにかく、今は落ち着きましょう!」


客席の女性達は、今にも飛び出しそうな心臓を、必死に鎮めようと頑張った。


ーーーーーーーーーー


一方、テレビの前のお茶の間では。


「あなた、私、今日が命日なのかしら」


「お父さん、私もダメかも・・・ぽっ」


「お、おい、大丈夫かっ!?」


ちょうど、ゴールデンプライム帯で放送されていたこの番組は、視聴率30%を超えて高視聴率を記録していたのが災いを呼び、突然女性だけが体調を崩すこととなった。


心配になった旦那さんや彼氏など、いろんなところからの救急要請に、一時日本中がパニックに陥った。


そして、相次ぐ救急要請に、テレビ局が対応することとなり速報が流れた。


『現在、番組をご覧の女性に、動悸、息切れなどの症状が多発しております』


『症状はすぐに改善されるようなので、様子を見て、救急の有無を判断して下さい』


しばらくの間、速報は繰り返し流されることとなり、次第に救急要請の件数も落ち着いていった。


「ほ、本当に大丈夫か?」


「もう大丈夫よ。大袈裟ね、 HARU様に失礼じゃない」


「そうだよ、お父さん。こんなのいつものことなんだから、驚きすぎ」


「そ、そうか?」


速報を見た人や、SNSで今回の事態を知った人達は、何事かと問題となった番組を見始めた。


晴翔と六花が登場する頃には、視聴率は50%を超えた。


ーーーーーーーーーー


「えー、では次のアーティストの登場です。歌って頂く前に少しお話を頂きたいと思います」


司会者に呼ばれ、俺と六花が登場すると割れんばかりの歓声と拍手で迎えられた。


「す、凄いな」


「そりゃそうっすよ。ネットニュース見てないんすか?」


「仕事中にスマホなんていじらないだろ」


「うわ、まじめー。まぁ、知らない方が良いっすよ。とにかく楽しみましょ」


俺と六花は司会者の隣にスタンバイする。


「では、『リット』のお二人です。今回披露して頂く楽曲は、 HARUさんが主演のドラマ『青い鳥』の主題歌とラストシーンで使われた挿入歌の二曲となります」


俺達が登場し、何を歌うか気になっている人達が多い中、ドラマの曲を歌ったのが俺達だと知って、会場はざわついた。


「嘘、 HARU様が歌ってたの!?」


「でも、さっきの声とまた違うような??」


「本当に HARU様だったの!?」


この曲は、特別丁寧に歌っており、声質も蘇原さんから細かく要望があり、俺だとは誰も思わなかったようだ。


それから、ドラマの紹介と楽曲についてのプチ情報が紹介された。


「この曲は、大人気作曲家の蘇原さんが作曲し、六花さんが歌詞を書かれたそうですね?」


「そうっす。蘇原さんから話をもらって、歌詞をあてさせてもらったっす」


「このシーンは桃華さんのアドリブのキスシーンがあったことでも有名ですが、この曲もまた一躍話題となりました。どんな想いで、作詞されたのでしょうか?」


「このシーンは告白のシーンすけど、告白するつもりなんてなかったけど、あふれる思いが止まらない、そんな気持ちを表現したっす」


ここで一度息をつくと、六花は続けて歌詞に込めた想いを語る。


「そして、僕の初恋で、小学校の頃から好きだったこの人に、届いて欲しいと願いを込めて書いた恋文でもあったっす」


チラッと俺の方を見る六花。一瞬目があったが、すぐに客席に視線向ける。


「皆さんも、『 好きな人』のことを考えて聞いてみて下さいっす。きっと、僕の想いが伝わると思うっす」


六花はそう言って締め括ると、俺達はステージへ向かった。


そして、一曲目の主題歌を歌い終わったところで、すでに泣き崩れる人が続出したが、二曲目が始まると、ざわついていた会場が鎮まり帰る。


皆、目を閉じて『 好きな人』=『 HARU』のことを考えて曲を聞いた。


終始、異様なまでの静けさに包まれていた会場だったが、曲が終わると盛大な拍手と歓声が飛び交った。


「六花ちゃん!感動したよぉ!!」


「想いが伝わってよかったねぇ!」


「くそ、不覚にも感動したぞ」


「認めたくないが、六花ちゃんおめでとう!」


称賛の声は、作詞を担当した六花に注がれた。どうやら六花が歌詞に込めた想いは、みんなにも伝わったようだ。


「晴翔さん」


「ん?」


鳴り止まない称賛の嵐の中、俺は六花に呼ばれ、六花へと向き直る。


「晴翔さん、僕の想いが伝わったっすか?」


「そうだな。こんなに想われてたなんて知らなかったよ」


「えへへ、大好きっすよ。晴翔さん」


ちゅっ


「おい、生放送だぞ?」


「ほっぺは、セーフっすよ」


まぁ、そんなわけもなく、後で恵美さんからこっぴどく叱られた。


しかし、会場自体は祝福ムードに包まれていたため、温かい目で見守られ俺達の初ステージは幕を閉じた。


ーーーーーーーーーー


「六花ちゃん、晴翔くんと結ばれて嬉しいのはわかるけど、少しは自重してね。あと、晴翔くんも止めなさい」


「「はい、すみません」」


事務所に戻った俺達は、恵美さんからお小言を頂いたあと、今後の話をした。


「晴翔くん、いや、波瑠ちゃんは引き続き映画の撮影があるからね」


「はぁ、まだ続くと思うとため息しか出ないな」


「なんで?いいじゃない、可愛いんだから」


「だって、みんな男だって気づいてないんですよ?」


「仕方ないわよね?男に見えないもの」


「見えないっすね」


はぁ、男としての尊厳は何処へ。


「まぁ、それはいいとしても、男子トイレに入ろうとすると止められるんですよ」


「あぁ、確かに(笑)」


「そりゃそうっすよね(笑)」


笑い事じゃないんだけどなぁ。


「じゃあお手洗いはどうしてるの?」


「なるべく楽屋を使ってます」


「「なるべく?」」


2人は声を揃えて首を傾げる。俺だって好きで入ってるんじゃないからな!


「み、みんなが、ーーー入れって、言うから」


「「??」」


「もぅ、女子トイレ使っていいって言うから!」


「まぁ、私も別に構わないわ」


「僕もっす」


「いやいや!そこは反対して下さいよっ!」


せめて2人には否定して欲しかった。じゃないと、俺の男としてのプライドがぁ。


「「だって女の子にしか見えないし」」


「もう、みんなそれしか言わないんだよ。もう諦めましたよ」


俺は、これからも楽屋のトイレを使うことを心に誓った。


「あ、それから六花ちゃんは、面白い仕事が入ってるわ」


「え、なんすか?」


「これなんだけどー」


2人はコソコソと、2人で企画書を確認している。六花は驚いた表情をするが、すぐに笑顔になる。あれは、なにか企んでるな?


その後、何度か六花を問いただしたが、なかなか口を割らず、結局聞き出すことは出来なかった。

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