第148話 愛の力っす
ふぅ、落ち着くっす自分。
ただ連絡入れれば良いだけっす。
僕がスマホを手に取ってから、かれこれ1時間以上が経過していた。ただ、晴翔さんに連絡を入れれば良いだけなのに、すっごい緊張するっす。
晴翔さん仕事で忙しいだろうし、いきなり誘っても来れないかも。いやいや、晴翔さんなら来てくれるっす。僕は、意を決してスマホの送信ボタンを押した。
ドキドキしながら、待つこと数分。思ったよりも早くスマホが鳴る。僕は急いでスマホを手に取ると、メッセージを確認する。
『おう、どうした?』
ふわぁぁぁ、晴翔さんから返事きたぁ。
あっ早く返さないとっ!
『明日、時間あるっすか?』
『午後なら大丈夫だと思うけど』
午後かぁ。まぁ多分仕事っすよね。仕方ないっす。晴翔さんが見にくるまで負けなければ良いだけのことっす!
『午後ですか、わかりました。では準決勝以降は観にきてもらえそうっすね」
『わかった、午後は観に行くから、絶対負けるなよ?』
『了解っす!』
やったっ!
これは絶対に負けられないっす!
はぁ、それにしても、自分で『晴翔さん』に呼び方戻したのに、本人にはどうしても『師匠』って言ってしまうっす。やっぱり、付き合ってるわけでもないし、師匠の方がいいんすかね?
ーーーーーーーーーー
「六花ちゃん、応援してるからね!」
「頑張って!」
「皆さん、ありがとうございます。頑張ります!」
僕は、応援してくれる人たちに返事を返して、ウォーミングアップを始める。
今日は晴翔さんから、告白の返事をもらう日。絶対に負けられない。試合も恋もどっちも勝ち取ってみせる!
僕の最大の山場は、おそらく決勝戦になるだろう。私は今日のトーナメント表を確認する。
優勝候補の私と
根岸さんを相手に勝てる気がしない。もちろん負ける気はないが、勝つビジョンが見えない。
ダメだ。
とにかく身体を動かそう。
晴翔さん、早く来て。僕、もう1人じゃ辛いよ。
僕の願いが通じたのか、僕の背後から、今一番聴きたかった声が聴こえる。
「そんなに暴れてると体力持たないぞ?」
僕はゆっくり振り返ると、晴翔さんを視界にとらえる。
「師匠〜、遅いっすよぉ」
半泣きになりながら晴翔さん抱きついた。試合に勝ったらもう一度、晴翔さんに気持ちを伝えよう。
僕はもう、晴翔さんが居なくちゃダメになっちゃいました。
しばらく晴翔さんの胸を借りて、英気を養っていると、さすがに周りがざわつき始めた。そりゃ晴翔さんを独り占めにしてれば、こうなるだろう。しかし、これも晴翔さんをその気にさせるための布石!
「六花、そろそろ落ち着いたか?」
「・・・まだ足りないっすけど、まぁ仕方ないっすね」
まぁ、晴翔さんに迷惑かけるわけにもいかないし、今日はこの辺で勘弁してやるっす。
そうだ、試合前に晴翔さんに相手になってもらおう。
「師匠、少し組手お願いするっす」
「はいよ、じゃあ場所を移そう」
晴翔さんは、やっぱり優しいっす。僕が急に組手をお願いしたのに、晴翔さんはちゃんと準備してくれてたみたいっす。
どう見ても、構えがいつもと違い、足捌きからフェイント、癖まで完全に根岸さんそのものだった。
凄い、根岸さん本人と組手をしてるような感覚。これならいけるかも。僕の頭の中に初めて勝つためのビジョンが浮かんだ。
ーーーーーーーーーー
その後、僕は順調に勝ち進み、とうとう決勝戦にまで駒を進めた。
目標にしていた、世界選手権の切符はほぼ間違いなく手中におさめた。でも負ける気はない。何故なら、僕の大一番は決勝戦のあとだからっす!
「頑張れよ、六花」
うん、頑張るっす、晴翔さん。
なんか一瞬、晴翔さんの声が聞こえた気がしたっす。こんな騒がしい中で、晴翔さんの声がはっきり聴こえるなんて、そんな都合のいいことはないだろう。きっと空耳っすね。
試合はどんどん進んでいくが、お互い有効打を与えることはできず、延長戦に突入することになった。
ハァ、ハァ、ハァ
初めての延長戦っすね。流石に体力がやばいっす。もっと走り込んでおけばよかったっす。
「六花っ!」
僕が、弱気になると、また晴翔さんの声が聞こえた気がして、僕は声のした方へ視線わ向ける。
あっ、晴翔さん?
ん?なんか指差して・・・あっ、みんな。
晴翔さんの指差す方向には、私の大切な元同僚達がいた。来てくれたんだ。それだけで、僕は疲れなんか感じなくなる。
僕は延長戦を戦うため、中央へと移動する。その時だった。僕が今一番欲しい言葉が聞こえた気がした。
「頑張れ、六花・・・好きだよ」
ううん、聞き間違いじゃない。僕が晴翔さんの声を聞き間違える訳ない。
自然と笑みが溢れ、力が湧いてくる。全然負ける気がしないっす晴翔さん!
僕は、今まで苦戦してた根岸さんの蹴りにもしっかり対応し、なんとか勝つことが出来た。これも全部晴翔さんのおかげっすね。
勝った喜びもあったけど、何より晴翔さんの言葉が嬉しくて、僕は我慢できなくなった僕は、優勝者インタビューで晴翔さんに再度気持ちを伝えた。
「あ、愛の力ですか?」
「そうっす!師匠〜、僕も大好きっす!愛してるっすよ〜!!」
ーーーーーーーーーー
うん、今となっては反省しているっす。
僕のせいで、何故か僕の隣には晴翔さんが居る。僕があそこで叫んだせいで晴翔さんも呼ばれてしまったっす。ごめんなさいっす。
「おい、そんな顔するなよ。俺は笑顔の六花が好きだぞ?」
「は、はいっす。師匠、いや、晴翔さん。もう一回言ってくださいっす」
「何を?」
「・・・好きって」
「やだ」
「えぇぇぇぇ!?」
「調子乗んな。あそこで叫ばなくてもよかっただろ?一応、お前も芸能人なんだから、それくらい気を遣ってくれ」
「そ、そうっすよね。すみませんっす」
言い返す言葉がないっす。確かに、あの時は嬉しさの余りに調子に乗った気がするっす。
でもでも、嬉しかっただけなんす。わかって欲しいっす。
「おい、六花」
下を向いてトボトボと歩く、僕を呼ぶ声がする。僕は素直に顔を上げると、晴翔さんはクイッと僕の顎を持ち上げる。
「えっ?」
次の瞬間、僕の唇に柔らかい感触が伝わる。それに目の前にはドアップの晴翔さん。こ、これは、キ、キキ、キス!?
「は、晴翔さん?」
「ごめんな、意地悪すぎた」
ぽんぽんと僕の頭を撫でる手は、とても大きくて、温かくて、とても安心した。
「返事、遅くなっちゃったな」
「・・・」
「好きだよ、六花」
「ぐすっ、はいっす。僕も、大好きっす!」
僕は嬉しくて自然と笑顔になったけど、涙が止まらなかった。嬉しくて、勝手にあふれ出て止まらない。
「晴翔さん、僕の何処が好きなんすか?」
「後でな」
「えー、けちーっ!」
僕達は、なんとか取材を終えると、そのまま道場に向かって、祝賀会をした。
取材では、晴翔の道場の門下生だから応援に来てくれたと言うことにしておいた。しかし、遊園地での目撃情報もあり、以前から僕達の関係は怪しまれていたようで、誰も信じてなかった。
まぁ、そんなのどうでもいいっすけどね。これからは堂々と晴翔さんとイチャイチャ出来るっす。
あ、そうだ、皆さんに連絡入れておかないと。僕は、応援してくれてた親衛隊の皆さんに連絡を入れることにした。
ーーーーーーーーーー
「「六花ちゃん、優勝おめでとー!」」
「いやぁ、ありがとうっす」
六花はうちの両親に祝われて、照れくさそうに頭をぺこぺこしている。
「いやー、それにしても強くなったねぇ六花ちゃん。男性の方は、もちろん近藤さんが連覇してくれたけど、これでうちの道場が男女共に日本一だね」
父さんは本当に嬉しそうだ。お酒がどんどん進んでいく。旅行の時みたいに泥酔しないといいけど。
「それにしても、六花ちゃんも大胆ねぇ。インタビューで愛の告白なんてぇ」
「い、いや、ちょっと気持ちが大きくなってたというか」
「いいじゃない、別に。色々とおめでとう」
「ありがとうございます!」
この日は4人で夜まで楽しい時間を過ごすと、六花のマネージャーが迎えに来てくれた。
「は、初めましてっ!六花さんのマネージャーになりました、
相川さんは、最近入社した新人さんだが、以前にもマネージャーの経験があることから六花のマネージャーになったらしい。女性同士なら六花も安心だろう。
「晴翔です、よろしくお願いします。じゃあ、六花のことよろしくお願いしますね」
「は、はいっ、もちろんです!六花さん、行きましょう」
「はいっす。あ、そうだ晴翔さん」
六花は小走りで近づいてくると、俺の首に手を回して顔を引き寄せる。
チュッ
「えへへ、今日はありがとうございました。お礼のちゅーっす」
六花は、笑顔で自宅へと帰っていった。次に会うのは音楽番組のリハーサルの時だな。
俺は、リハーサルに向けて、音源を聴いて寝ることにした。生放送だから、失敗しないようにしないとな。
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