第145話 学園祭の目玉

「はーい、注目っ!」


バンッと、勢いよく黒板を叩く田沢先生。


うちのクラスは、割と真面目な奴が多いのか、先生が話し始めると、会話をやめてしっかり傾聴している。


「ふむ、相変わらずうちのクラスは真面目な奴ばかりね。手がかからなくてつまらないわ」


「先生が言っちゃいけないやつです、それ」


みんなを代表して、俊介が代弁してくれた。しかし、先生はそんなのお構いなしに話を進める。


「はいはい、じゃあお知らせです。まず、今年の学園祭でもミスコンとミスターコンを開催します」


「よっしゃー!!」


「よしっ!やる気出てきたぞー!!」


男子達は突然やる気に満ち溢れる。そして、その様子を見て、女子達は嫌悪感をあらわにした。


「全く、これだから男子はさー」


「どうせ、女子の水着が見たいだけでしょ!」


「そうよ、この変態!」


そう、うちのミスコンは水着審査も含まれている。他にも、料理や一発芸など、色々な審査が含まれている。


ちなみに、ミスターコンにもさまざまなお題が出されるが、毎年くじ引きなので何が審査されるかはわからない。


「はいはい、落ち着いてー」


パンッパンッと2回手を叩くと、生徒達は少しずつ口を閉ざしていき、しばらくすると喋っているやつは居なくなった。


「はい、よく出来ました。ミスコンとミスターコンは自薦、他薦どちらでも構わないので、ふるって参加してね」


ミスコン、ミスターコンともに定員は10人となっている。人数が多い時は、投票で参加者を決める。


ミスコンはいつも定員割れしているが、ミスターコンは参加する生徒が多く、結構決めるまでが大変らしい。


「それと、今年は生徒会長からバンド演奏の許可が降りたわ。したがって、バンドをやりたい人達は、グループを作って申請してね」


「うそっ!?」


「やっていいんですか、バンド!?」


「モテモテになるチャンスかっ!?」


今年の学園祭は、出し物がありすぎて大変そうだな。そういえば、演劇の方も台本覚えないとな。


演劇のほうは、メンバーが再度集められ、新しい台本が配られた。


結構内容が変更になったのと、姫流先輩からの無茶振りが台本にはたくさん書かれていた。


姫流先輩は台本を配った時、みんなに一言念を押した。


『絶対に他人の台本を読まないこと』


『それぞれのお題を必ずクリアすること』


この2点は厳守らしい。ちなみに、お題はそれぞれの配役が、劇中で必ずやらなくてはいけないことが書かれている。


タイミングは本人次第、自分がいいと思ったところでアドリブをぶっこむことになる。


聞いた時には恐怖しかなかったが、意外とみんなは楽しそうだと乗り気だった。


ちなみに、俺のお題は当日まで教えてくれないらしい。それだけでも、嫌な予感がする。


俺は、考えただけでため息が出る。


「晴翔、大丈夫?」


どうやら俺が頭を抱えている間に、先生の話は終わっていたようだ。もう、先生は教室におらず、生徒達は学園祭のことで盛り上がっている。


「大丈夫だよ。ありがとう南さん」


「・・・」


南さんは、ジトッとした目で俺を見ている。相変わらず何考えてるかわからない人だな。


「南さん?」


「楓」


「えっ?」


「名前。楓って呼んでって言ったはず」


あぁ、そういうことか。確かにそんなこと言ってたし、俺も気をつけてたけど、すっかり忘れてた。


「ごめん、楓。これで大丈夫か?」


「うん、それでいい」


納得したのか、楓はわずかに口角が上がる。普段から、楓は表情がほとんど変わることがない。


そのため、少しでも表情が変わると、なんだか感慨深いものがある。


「それで、どうしたの?」


「晴翔、バンドを組もう」


「バンド?」


「そう。メンバーは私が集めるから、晴翔にも参加して欲しい。晴翔は声がいい。きっと歌が上手いはず」


歌か、そういえばそろそろ歌番組の出演が決まってたな。生放送だから、失敗出来ないな。


それにしても、いつ俺の正体を明かすのだろうか?蘇原さんは、ドラマが終わってからって言ってたけど、そのドラマも先日最終回を迎えた。


後で、恵美さんに確認してみるか。


「そうだね、せっかくだし参加しようかな」


「うん、一緒にやろう。じゃあまた連絡する」


そう言って、満足そうに楓は帰っていく。


「お、おい、晴翔」


「ん?どうした?」


「南さんと何話してたんだ?」


俺に話しかけてきたのは俊介だった。そういえば、こいつ楓のことが好きなんだよな。


「バンドやらないかって誘われたんだ」


「バンド?南さんって楽器できるのか?」


「さぁ?メンバーは自分で集めるって言ってたけど」


「そ、そうなんだ」


「それより、お前らどこまでいったんだ?」


俺がずっと気になってたこと。綾乃と雑貨屋に行った時に、2人を見かけたのが気になって仕方なかった。他人の恋バナほど面白いものはない。


「ど、どういう意味だ?」


「お前ら雑貨屋に居ただろ?デートじゃないのか?」


「えっ!?もしかして、お前居たのか!?」


「あぁ、買い物に行ったらたまたま見かけてさ。ずっと気になってたんだ」


俺は楽しい話が聞けると思ったが、俊介は大きなため息をついた。


「はあぁぁぁぁ。そうか、あの時居たのはお前だったのか」


「どうした?」


「いや、なんかイケメンが居るって言い出してさ。店内を隈なく探したと思ったら、その後も心ここに在らずって感じでさ。俺に興味ないのかなぁ?」


「そ、そうか」


なんだか悪いことしたな。でも、気が無ければデートもしないんじゃないか?


今度それとなく探りを入れてみるか。


「まぁ、頑張れよ。もっとデートして、仲を深めるしかないだろ」


「まぁ、そうだよな」


俊介は、とぼとぼと自分の席に戻る。頑張れよ、俊介。


放課後になると、俺は仕事の打ち合わせがあるため、俺は恵美さんに迎えに来てもらい。事務所へと向かった。


ーーーーーーーーーー


「さて、じゃあまずは今度ある音楽番組についてね。今回は二曲歌ってもらいます」


「二曲ですか?」


「そう。まずは主題歌、それから最後のシーンだけに、特別に用意した挿入歌があったでしょ?」


「あぁ、ありましたね。確か、蘇原さんが作曲して作詞は六花でしたよね」


何故か、今までの挿入歌を使わずに、ラストだけ新しく作ることになった。そして、この曲は六花とのデュオでアルバムにも収録されている。


「そう、それ。あの桃華ちゃんの熱烈な告白シーンからの、あの気持ちをこれでもかと詰め込んだ一曲。あれは、反響が凄かったわ」


「そんなに凄かったですか?」


「はぁ、これだから鈍感さんは。桃華ちゃんもそうだけど、六花ちゃんが書いた歌詞だって、明らかに貴方のことでしょ?」


「そうなんですか!?」


初めて聞いたが、世間の反応もどうやら同じようで、六花が誰かのことを思って書いたに違いないと話題になっていたらしい。


「まぁ、それはさておき、週末に生放送が入ってるから、遅刻しないでよ?一応、その日の午前中にリハーサルがあるから、その時に六花ちゃんとも合わせることになるわ」


「はい、わかりました」


「うん、よろしい。それから、新しく写真集を出したいんだけどぉ〜」


恵美さんにしては、珍しく随分下からお願いをされた。


「写真集ですか?別にいいですけど」


「本当!?やったぁぁぁ!!」


飛んで喜ぶ恵美さんを可愛いと思ったが、俺は写真集の内容を知って、後悔することになった。


「よかったぁ、これで上半期、下半期ともにうちの事務所が一番を掻っ攫うわよ!」


そう言って、恵美さんは企画書を置いてさっさと居なくなってしまった。


「忙しない人だなぁ」


俺は企画書を読み進めるが、次第にこめかみあたりがピクピクとし始めた。あぁ、軽はずみに返事なんてするんじゃなかった。


俺が企画書を読み終えるとほぼ同時にメッセージがスマホに送られてきた。


『ごめんね♪』


俺はバッとミーティングルームの外を確認すると、そこにはもう出来上がった写真集を持って、ペコペコ頭を下げる恵美さんがいた。


そう、写真を提供してのはエミーだ。それも、よりによって女装の写真集を作るなんて。


もう出来上がった物を見て、俺は諦めて帰ることにした。


「送ってくよ?」


「いえ、今日は歩いて帰りたい気分です」


「そう?あ、これお土産よっ!」


そう言って渡されたのは、俺の新しい写真集だった。どうやらいつも通り、彼女達の分らしいが、渡したくねぇ。


俺は頭を抱えながら帰宅したが、数日後に発売された写真集は、驚くほどにバカ売れした。


そして、この写真集には『波瑠はる』と書かれており、世間では波瑠ちゃん探しが始まった。

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