第134話 3人で外出

「さて、詳しく聞こうかしらね?」


「は、はい」


それから俺は、お母さんに昨日の経緯を話した。遊びに来たが、泊まる予定はなかったこと。不測の事態で泊まることになったが、決してやましいことはしていないと。


「まぁ、高校生だしね。エッチなことくらい構わないけど、避妊はしてよね」


「も、もちろんです」


なんというか、思っていたよりも寛容な人みたいで、少し意外だった。


「そういえば、ちゃんと話すのは三者面談以来かしら?」


「そうですね」


「晴翔くんは進路はどうなってるの?やっぱり、進学はしないで芸能活動に集中するの?」


「いえ、大学には進学する予定です。婚約者の家の会社を手伝わなくてはならないので。もちろん芸能活動も無理のない範囲でやっていくつもりです」


「えっ、晴翔くん、婚約者がいるの!?てか、今彼女何人いるの??」


「今、彼女が4人ですかね」


「今の高校生って進んでるのね」


はぁ、と大きめのため息を吐くお母さん。何か心配事があるのか、表情が暗い。


「綾ちゃんとは、本気なのよね?」


「はい、そのつもりです」


「そっか。少しだけ話をしましょうか」


それから、お母さんが話してくれたのは自分自身の経験談だった。


綾乃のお父さんを今まで見たことはなく、話もほとんど聞いたことがなかったが、どうやら別居中のようだ。


元々、この家に家族3人で住んでいたが、ある日突然決まった一夫多妻制の影響で、バラバラになったらしい。旦那さんは、新たに若い人と結婚したが、それからはこっちの家に帰ってこないとのこと。


「別に綾ちゃんが居れば、あんなクソ旦那どこに行ったって構わないんだけどね。一夫多妻の条件に離婚不可ってあるのよね」


「そ、そんな項目あるんですか?」


「よく見るとあるのよ。養ってくれてるからまだ、文句はないけどね。だから、綾ちゃんの旦那さんは、しっかり見極めたいのよ」


「な、なるほど?」


なんとなく、話は理解出来た。お母さんが、交際に厳しい理由も、綾乃を大事にしている理由も。


そういえば、とお母さんは何かを思い出したようで、口を開く。


「綾ちゃんの指に、大層な指輪があったけど。あれはただの指輪なの?」


「・・・いえ、あれは」


「あれは?」


本当は綾乃がいる場で言いたかったけど、仕方ない。俺は腹を括った。


「あれは、婚約指輪です。綾乃と将来見据えて、お付き合いしたいと思っています」


「ふーん」


それから、しばしの沈黙が訪れ、この空気をぶち壊したのは綾乃だった。


バタンッ!


「お母さん!!」


勢いよくリビングのドアを開けた綾乃は、どうやら起きてすぐ降りてきたようで、夜寝た時のままだった。


「あのね、彼氏と2人の時くらいいいけど、皆でいる時はしっかりしなさい。丸見えよ」


「あ、ごめん、ちょっとまってて!」


それから、ドタバタと二階に上がった綾乃はものの数秒で降りてきた。


「ハァ、ハァ、ごめんなさい」


「全く。綾ちゃんも座りなさい」


「うん」


綾乃は迷うことなく、俺の隣に座った。そして、綾乃の左手にはしっかりと指輪がはめられていた。


「お母さん、私、晴翔とずっと一緒に居たいの」


「俺からもお願いします」


俺達は、2人で頭を下げた。しばらく、頭を下げていた俺達に、お母さんは声をかける。


「はぁ、とりあえず頭を上げなさい。今のところはあなた達の意志を尊重してあげる。だけど、もし何かあったら、その時はわかってるわよね?」


「「はい」」


俺達の顔をしばらく見つめたお母さんは、ニコッと笑う。


「よし、じゃあ3人でお出かけしましょ!」


「えっ」


「お母さん!?今日仕事は!?」


「そんなの休めばいいのよっ!ほら準備して」


お母さんの突然の申し出により、俺達は3人で出かけることになった。今まで、彼女のお母さんと出かけたことなどなく、少し戸惑っていた。


ーーーーーーーーーー


「どこに行くんですか?」


「ちょっとそこまでよ」


ちょっとそこまでという割に、もう車で1時間以上走り続けている。そして、かなり山奥に来ている気がするが・・・。


「晴翔、大丈夫。多分いつものところだと思う」


「いつものところって?」


「お母さんの趣味は日帰り温泉なの。この辺で、お気に入りのところは一箇所だけだから間違いない」


「へぇ、日帰り温泉ね」


その後も、ひたすら走り続けること30分。目的の温泉にたどり着いた。


「よし、行くわよ」


俺達は、大人しくお母さんについていくことにした。どうやら、もう施設に連絡はしてあったようで、受付はすぐに終了した。


フロントで、個室の鍵をもらい。部屋へと向かう。


「さて、ここには家族風呂もあるからね。一緒に入っても良いんだけど、流石に晴翔くんが困るでしょうから、男女別れて入りましょ」


「わかりました」


「えっ、私は晴翔と」


「ほら、行くわよ綾ちゃん」


「晴翔ぉ〜」


お母さんに腕を引かれ、綾乃はドナドナされて行った。さて、それじゃあ俺もお風呂に向かうか。


「えっと、どこに行けば・・・」


俺は散々迷ったあと、大人しくお風呂の場所を聞くことにした。


誰に聞こうか。俺は話しかけやすそうな、2人組の女性に話しかける。


「あの、すみません」


「ん?ナンパなら、お断りーー!?」


「何かようです、か!?」


振り向いた2人は、俺を見るなり固まってしまった。突然話しかけたから、驚かせてしまったか?


「あ、あの、突然話しかけてしまってすみません」


「はっ!?い、いえ、大丈夫ですよ。ねっ、優海ゆみ!?」


「う、うん奏海かなみ


双子、かな?


2人は顔も雰囲気もそっくりだ。2人が入れ替わったら分からなくなりそうだ。


「そ、それで、どうしたんですか?」


「わ、私達に何かようですか?」


「あ、あぁ、すみません。お恥ずかしいんですが、道に迷ってしまって、温泉の場所を教えて貰いたいんですけど」


「あぁ、ここは初めてですか?結構大きいから迷うんですよね」


「案内しますよ。ちょっと待っててください」


どうやら無事に辿り着けそうでよかった。2人は少し離れたところで何か話しているが、どうかしたのだろうか?


「お待たせしました」


「こっちです」


俺は2人について行き、無事に辿り着くことができた。


「ここですよ」


「ありがとうございました。助かりました」


「いえいえ、またお会いしましょう」


「えっ、また?」


なんだか引っかかる言い方だったが、笑顔で手を振る2人に、俺はお辞儀をして脱衣所に向かう。


「私達も行こっ!」


「うんっ!」


どうやら2人も入るようだ。浴衣を着てたから、てっきりもう入った後だと思ったけど、勘違いだったようだ。


「へぇ、結構広いんだなぁ」


脱衣室は思ったよりこじんまりしていたが、中は結構広かった。しかし、露天風呂だけとは、少し寂しい感じがするな。


それに、利用する人が俺しか居ないとは。


俺はゆっくりと久しぶりの温泉を満喫することにした。やっぱり、お風呂はゆっくり入りたいからね。


ガラガラガラ


ん?


誰か来たかな?


「お隣いいですか?」


「失礼します」


「あ、はい、どうぞ?」


なんとなく聞き覚えのある声に、俺は誰だったか思い出そうと目を閉じて考えた。


「また、お会いしましたね」


「さっきぶりです」


思い出した。さっきの2人だ。そして、ここで違和感に気づく。


「えっ、なんで2人が!?」


「やだなぁ、ここは混浴ですよ?」


「そうそう、一緒にお風呂に入る場所ですから」


「いやいや、そういうことじゃなくて!」


「まあまあ、落ち着いてください。取って食べたりしませんから。私達、HARUさんの大ファンなんです!」


「そうですっ!だからもし困ったことがあったら、相談してください。力になりますので!」


どうやら2人は俺のファンらしいが、力になるとは?


「これ、連絡先です。濡れちゃうから後で見てください」


「絶対連絡して下さいね」


どうやら連絡先はタオルにくるんであるようで、これを渡すためだけに入って来たようだ。


だったら、さっき渡してくれればよかったのに。俺は、静かになった露天風呂で1人優雅にくつろいだ。


ーーーーーーーーーー


「もうっ、晴翔はどこ行ったのよ!?」


長風呂のお母さんを残して、せっかく早く出たのに。晴翔がどこにも居ない。まだ入ってるのかなぁ?


私は自販機でコーヒー牛乳を買って飲んでいると、ふと女性の声が耳に入った。


「HARUさん凄かったね」


「身体バッキバキ!」


えっ、HARU??


「あの、すみません。HARUさんにあったんですか?」


私は気づいたら2人組の女性に話しかけていた。


「えぇ、さっき混浴で」


「混浴!?」

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