第132話 綾乃の家③
「マジかぁ」
天気予報では、この時間はまだ大丈夫だったはずなのに。この土砂降りじゃ帰れないよなぁ。
俺は念のため、親に連絡を入れたが、反対されることはなかった。むしろ応援されたからタチが悪い。
迎えに来てくれればいいのに。
「晴翔、とりあえず夕飯にしよう?」
「あぁ、もうそんな時間になるのか」
「何が食べたい?」
「そうだなぁ、チャーハンかな。海に行った時に作ってくれただろう?すごく美味しかった」
「ふふふ、おっけー。じゃあリビングに行こ。私の部屋はまた後で」
俺達は、再びリビングに向かう。もちろん俺も手伝おうとしたが、座ってていいと言うので、ソファに座って本でも読んで待つことにした。
鞄から取り出したのは『ペルソナ』。まさか、桜小路さんが姫流先輩だったとは。よくこんな面白い作品を連発できるよなぁ。
どんな感じで夢見てるんだろう。すげー気になる。先輩の作品は、どれを読んでも本当に面白い。
俺はご飯ができるまで、集中して読むことにしたのだが、それはかなわなかった。
本に集中していても、鼻に漂ってくる美味しそうな香りに、現実に引き戻される。
チラッとキッチンを見ると、料理中の綾乃が視界に入る。
昼と同じで、髪は後ろに束ね、エプロンをつけている。なんというか、すごく似合うな。綾乃は家庭的で、料理や裁縫、掃除などは完璧。見た目とのギャップが凄い。
俺の視線に気付いたのか、綾乃はニコッと笑うと軽く手を振ってくれる。俺も、小さく手を振りかえした。
「晴翔、運ぶの手伝ってー」
「はいはーい」
今日買った、箸、コップなど一式をテーブルに並べる。
そして、料理も次々と運ばれてくる。いつの間に作ったのだろうか。
「はい、チャーハン!」
俺の目の前に置かれたチャーハンは、海に行った時に食べたものと全く同じ。
「あと、冷凍で悪いけど餃子と中華スープね」
目の前には、あっという間に夕飯が並べられていく。本当に手際がいいんだな。
「よし、じゃあ食べようか」
「「いただきまーす」」
俺は大好物のチャーハンから口に運ぶ。うんっ、この味。やっぱり、綾乃のチャーハンが一番美味い。
「すっげー美味いっ!」
「えへへ、よかったぁ」
綾乃は俺が食べたのを確認すると、安心したのか自分も食べ始める。
その後も、料理を堪能しながら、綾乃と色んな話をして盛り上がった。綾乃が一番食いついたのは、昼間見た俊介と楓についてだったが、俺も詳しく知らないので、後で聞いてみよう。
「ごちそうさま〜」
「ふふ、よく食べたね。美味しかった?」
「うん、綾乃のご飯が一番かも」
「そこまで言われると、照れるじゃんか。でも、悪い気もしない」
綾乃は照れくさそうにしながらも、片付けをする手は止まらず、テキパキと片付けていく。
「さて、お風呂の準備してくるから待ってて」
「えっ、あぁ、はい」
お風呂か。他人の家のお風呂にいい思い出がないんだよなぁ。
まぁ、でも汗かいてるからお風呂は入りたいな。綾乃に嫌われたくないし。
ガチャ
「お待たせー」
「俺はシャワーで大丈夫だよ?」
「もう入れ始めちゃったからいいよ。せっかくだから入りなよ」
「そう?じゃあ、そうするか」
俺達は食後にアイスを食べながら、ソファでまったりとしていた。
「今日はこの後どうする?」
「あっ、そうだ。お母さんが借りてきてくれたDVDあるけどみる?」
「おっ、いいね。ちなみにジャンルは?」
「ちょっと待ってねぇ。どれどれ」
綾乃は袋からDVDを取り出して、タイトルを確認する。
「ひぃっ!?」
「ど、どうした!?」
綾乃が落としたDVDを拾うと、そこには心霊の二文字が。あぁ、なるほど夏の定番だね。それに見たことないやつで、ちょっと興味はある。
しかし。
「綾乃はホラーはダメ?」
「だ、だだだめなわけないしっ!ちょっと、予想してなくてビックリしただけだしっ!?」
「じゃあ、お風呂まで見るか。これ見たことないシリーズなんだよね」
「え、見るの?別に今じゃなくていいんじゃない?明日の昼間とかさ?」
「えっ、こういうのは夜じゃない?」
「そ、そそ、そうよね。おっけー、じじじゃあ見ましょう?」
なんとなく強がっているのはわかる。こういう所は六花に似てるな。
流石に電気を消すと怒られそうなので、電気はつけたまま見ることにした。
どうやら廃墟に撮影に行った様子を流すみたいだな。よく、こんなところに行ったなぁ。
今映し出されている廃墟は、本当に出ると言われる有名な心霊スポットだ。実際に事件や事故も起きていて危ないらしい。
そういえば、さっき撮影年が書かれてたけど、これが撮影された年って事件があった年だ。これ、見て大丈夫なのかな?
俺は一抹の不安を抱えながらも、興味を引かれ見ることにした。
結果として、この映像ではそこまで怖がる所はなかった。でも、ゾワッとした瞬間は確かにあって、結構面白かった。
しかし、綾乃は全然楽しめなかったようで、今にも泣き出しそうな表情をしている。要所要所でしっかり反応する綾乃は、その度に俺にガッチリと抱きついていた。
怖がる綾乃には悪いが、俺は俺でそれどころではなかった。綾乃が抱きつく度に、柔らかい感触が腕に伝わって集中出来なかった。
「さて、そろそろお風呂入るか?」
「ちょ、もう少し待って。今、私動けない」
綾乃は完全に腰を抜かしていて、立ち上がらずにいた。
「じゃあちょっと休むか。何か飲む?持ってくるよ」
「じゃ、じゃあ冷蔵庫に麦茶あるから持ってきて。コップはさっきのやつ」
「はいよ」
俺は冷蔵庫から麦茶を持って来て、二人分をコップに注いだ。
「それにしても、結構面白かったな。お母さんはホラー好きなの?」
「お母さんはホラー大好きだよ。いつも、ステレオに繋いで、大音量でホラー映画とか見せられるから、マジ最悪」
「ははは、それは災難だね」
「もぅ、お母さんのせいで寝るのが怖いよぉ」
「見なきゃよかったな」
「でも、晴翔見たかったんでしょ?」
「うん、まあね」
「だったら、我慢する。でも、やっぱり怖かったぁ〜」
また半ベソになる綾乃。情緒不安定だな、こりゃ。それから、30分ほど休憩した後、俺達はお風呂に入ることにした。
ーーーーーーーーーー
「晴翔、一緒に入ろう?お願い、怖くて無理。頭洗ってる時とか、怖くて目閉じれないかも」
泣きそうになりながら、一緒に入ろうと懇願する綾乃。確かに、この状態だと一人で入れそうにないな。
「ねっ?いいでしょ??もう海に行った時、一緒に温泉入ってるんだから同じだよっ!」
「それもそう、なのか?」
「そうだよ、絶対そうっ!!」
結局、いつもの如く押し切られる形で一緒に入ることにした。しかし、温泉の時とは違い、距離を取ることが出来ないと言うことだ。
「じゃあ、先に入るからな?」
「う、うん。後から行く」
俺は先に浴室に入ると、とりあえずシャワーを浴びる。頭のてっぺんから足先までしっかり洗っていく。
自分の家のお風呂ではないからか、なんだか落ち着かない。
ガチャ
「晴翔、は、入るよ?」
「お、おう」
俺は出来るだけ視界に入れないように、目を閉じて頭を洗う。早く洗って湯船に浸かろう。そうしたら、あとは綾乃が身体を洗い終わるまで目をつぶってれば終わりだ。
「晴翔、背中洗ってあげる」
「えっ、いや、別に大丈夫だよ」
「ううん、私が洗いたいの。お願い、変なことしないから」
「・・・わかったよ」
綾乃は、ボディタオルにボディソープをつけると、しっかりと泡立たせて、俺の背中を洗ってくれた。
ドキドキすることは間違いないが、善意でやってくれている以上、俺も変なことは考えないようにした。
「はい、洗い終わったよ」
「あ、ありがとう」
俺はシャワーで泡を流すと、湯船に入る。今度は、綾乃が身体を洗い始める。綾乃が身体を洗っている間、俺は決して目を開けなかった。
そして、シャワーが止まると、湯船のお湯の量が増すのがわかる。どうやら、綾乃が湯船に入ったのだろう。
「晴翔、目開けて。入浴剤入れたから、見えないよ。安心して」
俺は、綾乃の言葉を信じて目を開けると、確かにお湯は白くなっており、お互いに肩から上しか目視することは出来なかった。
「ふぅ、ありがとう綾乃」
「ううん、私のわがままだからね。流石に怖くて入れないよ」
「ごめんな、昼間見ればよかったな」
俺は、本当に悪いことをしたと思い謝るが、綾乃はもじもじしながら口を開く。
「ううん、おかげで一緒にお風呂に入れてるから。むしろラッキー?」
「ははは、なんだよそれ」
「えへへ」
俺達は、お互いに笑い合い、なんとなく気まずい空気は薄れたように感じる。
そんな中、綾乃は覚悟を決めたように、俺に問いかけた。
「晴翔」
「ん?なに?」
「海でした『約束』覚えてる?」
「『約束』・・・」
もちろん覚えていた。だから、今日は日帰りで帰る予定だったんだから。
「今日は・・・だめ、かな?」
俺達の間にはしばしの静寂が訪れ、その間、雨音だけが響いでいた。
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