第131話 綾乃の家②

「ごちそうさまでしたっ」


「はい、お粗末さまでした。じゃあ洗って来ちゃうね」


「あ、持って行くよ」


「ありがと」


食器を一度に持とうとする綾乃に、俺は自分の分は自分で運ぶことにした。


食器を持っていくと、綾乃はヘアゴムで髪を後ろに束ねる。普段見ない姿に、少しドキッとした。


食器を手際よく洗うと、先程買った弁当箱も洗っていた。


「うん、これでよし」


「綾乃、手際いいね」


「まぁ、普段1人だからね。お父さんもお母さんも仕事で忙しいし。私がやらないとね」


「そっか」


なんてことのないように言う綾乃だが、その背中はなんとなく寂しそうだった。


心配になった俺は、後ろから綾乃をギュッと抱きしめた。


「は、晴翔!?」


「少しだけ」


「・・・う、うん」


綾乃は、俺の手に自分の手を重ねる。綾乃がドキドキしているのが伝わってくる。俺の緊張も伝わっているだろうか?


しばらく綾乃を抱きしめた俺は、そっと頬にキスをして離れた。


綾乃は、くすぐったそうに微笑んだ後、こちらを振り向くと、じーっとこちらを見ている。


「んっ」


綾乃は、顎をくいっとあげると、自分の口を指差す。


「こっちにもして」


自分で言って照れているのか、ほんのり頬を染める綾乃。俺は、そっと綾乃の唇に自分の唇を重ねた。


「んっ、んん、っはあ」


「そんなに色っぽい声出すなよ」


「だ、だって」


普段からそうだが、綾乃は積極的な割に初心うぶなところがある。それがまた可愛い。今も、キスしただけで目をとろんとさせている。


「はるとぉ、もう一回」


そう言うと、今度は自分から唇を重ねる綾乃。さっきよりも濃厚で、より綾乃を感じる。


「んっ、おいしい」


「あ、綾乃、少し離れようか」


「なんで?やだ」


俺の静止を振り払い、ギュッと抱きつく綾乃。すると、ぴくっと綾乃が反応する。


「あ、その、ごめん?」


「いや、とりあえず離れよう、なっ?」


「う、うん、ちょっとお手洗い行ってくる。晴翔は座ってて」


「わかった」


リビングを出て行った綾乃を見送って、俺はソファに腰掛ける。そして、深呼吸をして気持ちを沈める。あんまり強い刺激は童貞には辛い。


しばらく一人でゆっくりしていると、徐々に昂っていた気持ちも落ち着いてきた。


「綾乃、遅いな」


トイレに行ってからしばらく経つが、綾乃が帰ってこない。何かあったんだろうか?


人の家なので、勝手に見て回るわけには行かないが、心配なので様子を見にいくことにした。


廊下に出ると、どことなく人の気配?息遣いを感じる。俺はトイレに向かって歩いて行く。


「・・・とぉ」


ん?何が聞こえる?


「はるとぉ、んっ、大っきい」


「綾乃?」


ガタンッ!!


「ひゃると!?」


「遅いから様子見に来たんだけど、大丈夫か?」


「だ、大丈夫!すぐに行くから、リビングで待ってて!!」


「そっか、じゃあ待ってるよ」


俺は、素直にリビングに戻ると、綾乃が戻ってくるのを待つことにした。


それから5分くらい経っただろうか、綾乃が帰って来た。


「ご、ごめんね、お待たせ。はぁ、はぁ」


「大丈夫か?」


どことなく、熱っぽい表情で、息も荒い。具合でも悪いのだろうか?


「大丈夫、最後まで・・・いや、なんでもない」


「最後まで?」


「晴翔は気にしなくていいの。それより、何しようか?私の部屋行く?」


「綾乃の部屋?いいの?」


「いいよ、彼氏なんだから遠慮しなさんな」


俺は、綾乃に案内されて、綾乃の部屋に向かう。


ガチャ


「はい、どうぞ」


「お邪魔します」


綾乃の部屋は、なんというか予想してたよりも、女の子の部屋だった。


壁には色んな飾りや写真が飾られている。そして、ベットには大量のぬいぐるみ達が所狭しと並んでいた。


そして、一番気になったのが、特大サイズのクマだ。俺よりデカいのでは??


「このクマすごいな」


「うん、私のお気に入り。よくこのクマの上で寝てる。ちなみに2mある」


「へぇ、確かに寝心地良さそうだ」


「飲み物持ってくるから待ってて。好きなところに座ってていいよ」


好きなところか、じゃあ遠慮なく。


俺はクマの足の間に挟まる形で座ると、クマのお腹に背中を預けてリラックスする。


「やべぇ、これは寝れるな」


俺は、仕事の疲れが溜まっていたのか、はたまたクマのせいなのか、一瞬にして夢の中にいた。


ガチャ


「晴翔おまたせ。あれ、寝てる?」


ーーーーーーーーーー


今日は晴翔がうちに遊びに来ている。男子を家に呼ぶなんて初めて。まして、親がいない時なんて。


私達は、ご飯を食べ終えてキッチンで洗い物をしていた。普段は、髪をくくることはしないんだけど、たまには違う姿を見せるのもいいって葛西さんが言ってたし、やってみよう。


うん、なんとなくだけど、晴翔が見てるのがわかる。少しは効果があったのかな?


「うん、これでよし」


「綾乃、手際いいね」


「まぁ、普段1人だからね。お父さんもお母さんも仕事で忙しいし。私がやらないとね」


「そっか」


あぁ、慣れたつもりだったけど、自分で言っててテンション下がったな。


そんな時、後ろから晴翔にギュッと抱きしめられた。突然のことで、心臓が飛び出るかと思った。


「は、晴翔!?」


「少しだけ」


「・・・う、うん」


耳元で囁かれる晴翔の声に、ドキドキが止まらない。あぁ、心臓が飛び出ちゃうよぉ。でも、晴翔の心臓もすごく早い。緊張してるのかな?


しばらく余韻に浸っていると、不意に頬にキスをされた。びっくりしたけど、なんだかくすぐったい。


私は最近なんだか変。一回キスしてから、ほっぺじゃ物足りたい。


「こっちにもして」


なんだろう、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。でも、やっぱりするならこっちがいい。


「んっ、んん、っはあ」


「そんなに色っぽい声出すなよ」


「だ、だって」


あぁ、やっぱり物足りたい。


「はるとぉ、もう一回」


「あ、綾乃、少し離れようか」


「なんで?やだ」


なんだか歯切れの悪い晴翔の手を振り払い私は、晴翔にギュッと抱きついた。その時、なんとなく、私の太ももに何かがあたる。


これは、なんとなく覚えのある硬さ。私は急に気まずくなり、少し距離をとった。


「あ、その、ごめん?」


「いや、とりあえず離れよう、なっ?」


「う、うん、ちょっとお手洗い行ってくる。晴翔は座ってて」


「わかった」


晴翔をリビングに残して、私はトイレに飛び込んだ。


決してやましい気持ちはなかったけど、海の日のことが脳裏に浮かんで離れなかった。


「んっ、少しなら大丈夫かな?」


私は、晴翔を待たせて、自分の火照った身体をいさめた。


どれくらい時間が経っただろうか、あともう少しで。と、その時。


「綾乃?」


ガタンッ!!


「ひゃると!?」


「遅いから様子見に来たんだけど、大丈夫か?」


「だ、大丈夫!すぐに行くから、リビングで待ってて!!」


「そっか、じゃあ待ってるよ」


足音が遠のいて行く。


・・・。


も、もう行ったかな?


私は申し訳なく思いながらも、もう少しだけ待ってもらうことにした。ごめんね、晴翔。


トイレを出た私は、リビングのドアの前まで行くと、一呼吸置いてドアを開けた。


「ご、ごめんね、お待たせ。はぁ、はぁ」


「大丈夫か?」


「大丈夫、最後まで・・・いや、なんでもない」


「最後まで?」


あ、危ない。余計なことを言うところだった。


「晴翔は気にしなくていいの。それより、何しようか?私の部屋行く?」


「綾乃の部屋?いいの?」


「いいよ、彼氏なんだから遠慮しなさんな」


とりあえず話題を逸らした私は、自分の部屋へと案内した。


あれ、下着出しっぱなしじゃないよね!?うん、しまったはず、大丈夫。変なものおいてないよね!?


階段を登る途中で色々考えたが、もうなるようにしかならないと、半ば諦めた。


実際、私の部屋には、晴翔に見せてまずいものはなかった。私は、晴翔を部屋に残して飲み物を取りに行った。


「晴翔おまたせ。あれ、寝てる?」


晴翔は、私のお気に入りのクマさんに寄りかかり、ぐっすり寝ていた。


「そっか、仕事で疲れてるんだよね?」


私は晴翔の頬を突いてみたり、頭を撫でたりと晴翔を堪能した。


晴翔は中々起きなくて、時間はあっという間に過ぎて行った。


晴翔が目を覚ます頃には、時刻へ5時半を回っていた。


「ん〜、よく寝たぁ」


「おはよう、晴翔」


私と目が合うと、晴翔は私の家に来ていたことを思い出したようだ。


「ご、ごめん、俺つい寝ちゃって!」


「ううん、大丈夫」


私は笑顔でそう返した。


私がご機嫌なのがよっぽど不思議だったのか、晴翔は困惑した表情をしている。


ちょっと、寝ちゃったくらい問題ない。だって。


「晴翔、今日はお泊まりかな?」


「えっ、なんで?」


私が窓を指差すと、晴翔は窓から外を覗き見る。なんと、外は嵐のように土砂降りだった。


「ニュースだと、今夜はずっとこんな感じみたいだよ?」


「マジで?」


「マジ、マジ。今日は私達だけだから、安心して泊まってって」


これで、晴翔ともっと一緒に居られるね。私は晴翔との時間を考えるだけで、笑顔が止まらなかった。


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