第129話 ヒロイン?
「澪先輩、いつもすみません」
「お世話になります」
私と綾乃ちゃんは、ハルくんが居ない日は、いつも澪先輩に側にいてもらっている。その代価として、放課後は生徒会の仕事を手伝っている。
今日も、登校途中で澪先輩と合流する。
「気にしないで下さい。私達の仲ではないですか。晴翔様にも頼まれてますから、お任せ下さい」
「お嬢様、では私はここで失礼します。お二方も、また下校時に会いましょう」
ペコリと頭を下げると、葛西さんはこの場を後にした。
「では、行きましょうか」
「「はい」」
私達は学校に向かって歩き出す。普段はハルくんが居るから、女子達の視線を独り占めにしているし、男子達からはよく睨まれていた。
しかし、ハルくんが居ない日は女子達からの視線はほとんど感じないが、男子達はここぞとばかりに私達に視線を向けていた。
自分で言うのもあれだけど、元々私達3人は男子達には人気があった。私達はそれぞれキャラが違い、ハルくんが居なければ関わることもなかっただろう。不思議な縁もあったものだ。
「それ、晴翔から貰ったやつだよね?」
登校中、なんだか隣から視線を感じると思ったが、綾乃ちゃんが指差すのは私と澪先輩の首からさがっているネックレスのようだ。
このネックレスには、婚約指輪が付いている。肌身離さず持ち歩きたいため、バレないようにしまっているのだ。
「そうだよ」
「そうです」
私達は、胸元から指輪を取り出す。
「いいなぁ、私も欲しいなぁ」
「心配しなくても大丈夫だよ」
「そうですよ。案外すぐ貰えるかも知れませんよ?」
「本当に?」
私と澪先輩は、ハルくんが学園祭前に渡したがっているのを知っているし、ハルくんが綾乃ちゃんと週末デートなのも知っている。
タイミング的には、今回が一番濃厚だ。知らないのは綾乃ちゃんだけ。でも、教えちゃうと感動が薄れる気がするから黙っておこう。
それに、来週は私の番。
来週は齋藤家と西城家で一泊二日の旅行に行く予定だ。私達だって、もう高校生なんだし、そろそろキスより先に進んだって、いいんじゃないかなぁ??
うぅ〜、今からドキドキしてやばいぃ。
「どうしたの香織?」
「顔が赤いですよ?保健室に行きますか?」
「い、いえ、大丈夫です!それより、早く行きましょう!」
私は二人の背中を押して、学校へ急いだ。せっかく、朝から良い気分だったのに、そんな私の気持ちを台無しにする輩が現れた。
「あら、誰かと思えば西城さんに大塚さんじゃない?」
出た、八乙女雪花。西園寺の彼女。ハルくんが居ない時は決まって現れる。
「おはようございます、八乙女先輩」
「別に挨拶しなくていいんじゃない、香織?」
「あら、貴女は挨拶も出来ないの?なんて野蛮なのかしら。そんな見た目で、はしたない」
どうやらお嬢様からすると、ギャルは受け付けないようだ。同じお嬢様でも、澪先輩とは全然違う。
「別に、私がギャルでも問題ないでしょ。先生だってなんも言わないし」
「そんな短いスカートで、恥ずかしくないの?貴女は日向さんには相応しくないわ」
「アイツが絡んでくるだけで、私はお断りよ。あんたの性格が悪いから、他の女に靡くんじゃないの?」
「ぐっ、言わせておけば!」
いつも、こんな感じでヒートアップする二人。そして、決まってこのタイミングで澪先輩が割って入る。
「はいはい、そこまでです。ホームルームに遅れますよ。遅刻は私が許しません。いいですね?」
「「はーい」」
「し、不知火澪っ、いつもいつも私の邪魔を」
「なんですか?文句があるなら、『不知火』がしっかりとお聞きますが??」
「っ!い、いえ、なんでもありませんわ。誤解しないでください、不知火に楯突く気はありませんわ。行きますわよ」
高飛車は取り巻きを引き連れて、クラスへと向かう。そんな背中に澪先輩は、ボソッと何かを言った。
「晴翔様に楯突いた時点で、不知火は貴方達を忘れませんよ」
「ん?何か言いまして?」
「いいえ、なんでもありません」
「そう?」
何もなかったように会話を終えた2人だが、澪先輩の表情はヤバかった。八乙女先輩を見る目は、人を見る目ではなかった。
先輩の目を見た瞬間、ゾワッと寒気がした。しかし、次に見た先輩はニコニコとした、いつもの優しい先輩だった。
「私達も行きましょうか?」
「そ、そうですね」
「い、行きましょう」
私達は思った。
『この人だけは、敵に回しちゃダメだ』と。
ーーーーーーーーー
私が教室に入ると、すぐに私に近づいてくる人影が2つ。
「西城さん、おはよー」
「おはよ」
「おはよう2人とも。あと、私のことは香織でいいからね?」
「うん、じゃあ私も彩芽でいいよー」
「楓」
「わかったよ。彩芽ちゃん、楓ちゃん」
この2人は、最近よく私達の輪の中に居る。もうすっかり常連さんだ。
「晴翔くんは仕事だっけ?」
「晴翔居ないと、目の保養が」
「あれ?2人とも、ハルくんのこと名前で呼んでたっけ?」
私がこの前話した時は、確か『齋藤くん』だったはず。いつの間に、名前呼びに。
「あぁ、晴翔くんとプラネタリウムでデートした時から呼ばしてもらってるよー」
「中々刺激的なプラネタリウムだった」
2人の頭の中では、あたふたとする六花が浮かんでいた。確かにあれは凄かった。六花ちゃんがあんなに大胆だったなんて。
「え、ハルくんとデートしたの!?」
「そうだよー(6人居たけど)」
「晴翔とイチャイチャ(六花が)」
「い、いつの間にそんな仲に!?」
ハルくんはすぐに可愛い子を引っ掛けてくるから、彼女になっても、婚約者になっても全く安心できない。
「あはは、大丈夫だよ香織。私達は晴翔くんと付き合う気はないからー」
「そうそう。趣味の延長?」
いや、私は知っている。以前、ちゃっかり愛人ポジションに収まろうとした人を。
あ、ちなみに葛西さんのことです。
まぁ、葛西さんは今でも十分愛人ポジションな気がするけど。とにかく、この2人もしっかり見張っておかないと。
ハルくん、今頃何してるかなぁ。
ーーーーーーーーーー
「さて、晴翔くんみんな揃ってるから、ミーティングルームに向かうよ」
「はい、恵美さん」
俺はミーティングルームに入ると、見慣れた背中があった。色と柄が違うが、あの猫パーカーは1人しか居ない。
ちなみに、あの猫さんパーカーは全部オーダーメイドらしい。そして、気分で着る猫を決めているらしい。
「姫流先輩?」
「・・・晴翔、やっと来た」
「どうしてここに?」
先輩はそれ以上何も答えず、ただニコッと微笑んだ。
「ほら、晴翔くんは座って。私から説明するわ。この人は、桜小路さんって言って、『青い鳥』の原作者です」
『青い鳥』の原作者??
・・・えっ?
「も、もしかして、先輩が桜小路さんなんですか!?」
「・・・そうだよ。全く、気付くの遅いよ」
「す、すみません」
まさか先輩が、あの桜小路さんだったとは。そうか、あのノートは小説の執筆で使ってるのか。
「それでね、晴翔くん。昨日話した、映画のキャスティングの話なんだけどね」
あれ?なんだか恵美さん、今日はやけにテンション高いな。少しニヤけてるし。
「・・・期待してるわ、ハルちゃん♪」
「えっ、ハルちゃん?」
「はい、これが台本なんだけど。ハルちゃんなら大丈夫よねっ!?」
目をキラキラさせて、台本を渡す恵美さん。俺は、台本を受け取ると、チラッと題名を見る。
あ、これ『ペルソナ』だ。まだ途中までしか読んでないけど、結構面白いんだよなぁ。特にヒロインが・・・あれ?
「あの〜、俺、主演って聞いてるんですけど」
「そうだよ、ハルちゃん」
「これ、主人公女の子ですよね?」
「そうだよ、ハルちゃん!」
「でも「大丈夫だよ、ハルちゃん!!」」
バンっと机を叩く恵美さんに圧倒され、俺は首を縦に振るしかなかった。
「・・・期待してる」
「は、はい」
こうして、俺の初主演映画のキャスティングが決まった。
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