第122話 攻めすぎ注意
「責任取ってください」
「へっ?」
俺は一瞬何を言われたか、わからなかったが、すぐに理解した。
俺は徐に立ち上がると、エミーに近づいていく。そして、エミーの脳天に軽くチョップをお見舞いする。
「ていっ」
「きゃっ!?」
軽くやったため、そんなに痛くないだろう?と思ったが、エミーは半ベソで頭を押さえている。
「こら、悪ふざけが過ぎるぞ」
「ご、ごめんなさい」
しゅんとエミーのトレードマークの双葉が垂れ下がったのを見て、とりあえず反省したと判断した俺は、エミーの頭を撫でた。
「もっと自分を大切にしろよ?大方、桃華とかに何か吹き込まれたんだろ?」
「ふにゅう、反省してます」
「よしよし、エミーは可愛いんだから大丈夫。きっといい人が見つかるって」
そう諭すように話す俺に、エミーだけでなく、スタッフさん達まで一瞬固まった。
「えっ、は、晴翔さん?あ、あれ?私が好きなのはーーー」
「とりあえず、さっさと撮影しちゃおう?何に使うかは知らないけど、学園祭で使うんだろ?」
「は、はい、それはそうなんですけど」
「ん?どうした?」
「はぁ、いえ、なんでもないです。撮影再開しましょう」
若干テンションが下がったエミーだったが、撮影が再開されると、すぐに元に戻っていた。それは、周りのスタッフさん達も同じだった。
その後も、色々なポーズで写真を撮影し、データをUSBに入れてもらい、受け取った。
「晴翔さん、とりあえず着替えて来て下さい。メイク落としとか、お手伝いしますか?」
「いや、その辺は自分でできるよ」
俺は、撮影が終わると一人で更衣室に戻り着替えることにした。
一方その頃。
「エミリーさん、ドンマイです」
「あれは強敵ですよ。色んな意味で」
「あれは反則ですよね。イケメンで美少女ってめちゃくちゃですよ」
スタッフの皆は、エミリーの気持ちを知っていたため、慰めるとともに、晴翔の規格外さに驚嘆していた。
「はぁ、怒られちゃいました。ちょっと攻めすぎちゃいました」
「いや、攻める方向が違ったと思います」
「えっ?」
「エミリーさんは、普通に可愛いんですから」
「そうですよ、正攻法で行きましょうよ!」
「正攻法ですか??」
「「「そうです!」」」
彼女達は今後のプランを練り、まずは晴翔に女子として認識してもらうことから始めることにした。
晴翔が着替えを終わり、戻ってくる頃には、エミリーは平常心を取り戻していた。
「ごめん、遅くなった。それと、やっぱりメイク落としてくれないかな?よく落ちなくて」
「はい、大丈夫ですよ。それより、晴翔さん」
「ん?なに?」
「今日は、この後時間ありますか?」
「ちょっと待って、確認する」
俺はスマホを取り出すと、スケジュール表を確認する。仕事は明日以降に入っているし、今日は問題ないかな。
「うん、多分大丈夫だよ」
「本当ですか!?じゃあ私とデートして下さい!」
真剣な表情で、両手を胸の前でギュッと力強く握るエミー。
仕事中は大人びて見えるけど、こうしてみると年相応の女の子なんだよな。
それにしてもデートか。まぁ、男女がお出かけすればデートって言うらしいからな。付き合ってるとか関係ないらしいし。
「わかったよ。でも、学校に寄りたいんだけどいいかな?」
「晴翔さんの高校ですか!?ぜひ、行ってみたいです!!」
うちの高校は、学園祭までの準備期間中は休みの日も学校で作業をして構わないことになっている。
そのため、多くの生徒が学校で作業しているのだ。そのため、外部から人が入るには許可が取りにくい時期である。
「ちょっと確認するから待ってて」
「はい!」
学校のことは彼女に確認するに限る。俺は澪に電話することにした。
「あ、もしもし澪?」
『はい、晴翔様どうしました?』
「学校に寄りたいんだけど、エミーも一緒にいいかな?難しい?」
『うーん、エミーさんなら大丈夫だと思います。根回しはしておきますので、乗降口で警備員さんにお話し下さい。後、念のため田沢先生にも連絡を入れて置いて下さい』
「わかったよ、ありがとう。本当に澪が居てくれると助かるよ」
『いえ、旦那様のお役に立ててよかったです』
「少し気が早い気がするけど、澪が奥さんで幸せだよ。ありがとう」
『!?・・・ええええっと、あ、あああの、し仕事があるので!この辺で失礼致します!』
なんだろう、よっぽど忙しかったのかな?生徒会長だもんな。悪いことしちゃったな。
晴翔の心配を裏腹に、電話の後の澪はすごくご機嫌で、生徒会のメンバーは密かに晴翔へ感謝した。
俺は、田沢先生にも電話をかけると、しっかり許可をとりエミーと共に学校へ向かう。
「それじゃ、メイクを落としてもらってもいいかな?」
「はい?どうせなら、そのまま行きましょう!衣装もコスプレじゃなくて、ちゃんとしたやつをお貸ししますよ!?」
「・・・ははは」
この流れは、いつものやつか?いつものごとく、俺に断り切れるわけがなく、俺は腹を括った。
ーーーーーーーーーー
「もうすぐだからね」
「はい、楽しみです!」
俺達は、スタジオから学校まで40分程度の道のりを歩いて向かっていた。
「凄いです、晴翔さんを独り占めしていると、優越感がハンパないです」
「ん?なんか言った?」
「いえ、なんでもないです。今日も可愛いですよ、ハルちゃん!」
「あはは、ありがとう。はぁ」
エミーはいつも通り、俺の腕にしっかりと抱きついて隣を歩いている。周りから見れば女の子2人が歩いているようにしか見えないだろう。
「みてみて、あの2人!」
「凄い、あの人背高いね!?すらっとしてて凄い美人!!」
「私もお姉様とお近づきになりたいわぁ」
なんでこんなにウケてるのかわからんが、男だとバレないように気をつけないと。
俺は今、白のブラウスに、デニムのロングスカート、サンダル、麦わら帽子と清楚なお嬢様をイメージした装いになっている。
なんだろう。暑さとは別の意味で汗が止まらない。早く、学校で涼みたい。
俺達は学校に着くと、乗降口で警備員さんに話しかけて入らせてもらう。
「君達、通行許可は取ってるかい?」
「はい、生徒会長の不知火澪さんに頂いて居ます。こちらはエミリーさんです。許可証の名札を下さい」
「あ、生徒会長さんのお知り合いですね。お話は伺っております。それで、お連れ様はうちの生徒とのことでしたが・・・」
見覚えがない美人に警備員は戸惑っていると、晴翔は生徒手帳を見せた。
「はい、どうぞ」
「あ、齋藤晴翔さんですね。お通り下さい」
「ありがとうございます」
俺達は、すんなりと乗降口から学校へ入っていくが、ワンテンポ遅れて後方から警備員さんの驚く声が聞こえた。何をそんなに驚いてるんだ?
それから、俺達はまず自分のクラスに向かい写真のデータを香織に渡すことにした。
「ね、ねぇ、あの人誰!?」
「凄い美人、女優さんかな!?」
「誰かの保護者とか!?」
周りの視線が痛い。早く用事を済ませよう。
ガラガラガラ
俺は教室のドアをいつも通りに開くと、みんなが作業をしていた。しかし、突然開いたドアにみんなの視線がこちらに集まった。
「あ、香織」
「・・・も、もしかして、ハルちゃん?」
ここまでバッチリ化粧をすると、香織でも見間違えそうになるほどの出来のようだ。これならバレずに済みそうだな。
「何言ってんの?当たり前だろ?」
俺は口調はいつも通りだが、声だけ少し高めにしている。そのため、クールなお姉さんに周りからは見えているようだ。
「ほら、これ写真のデータ。エミーのところで撮って来た」
「あ、そっか、ありがとう!エミーちゃんもありがとうね!」
「いえいえ、どうも」
俺達は驚きのあまり、一言も発することのできないクラスメイトを他所に、今度は生徒会室を目指した。
ーーーーーーーーーー
晴翔達が立ち去ったクラスでは、お祭り騒ぎになっていた。
「ねぇねぇ、西城さん!!」
「あのお姉さん誰!?」
「俺に紹介してくれ!」
「何してる人なんだ!?」
質問攻めにあった香織は、まだ晴翔の正体を明かす訳にはいかないので、答えられることだけ答えることにした。
先日、女装に関わった人達には、口止めしてあるので大丈夫だろう。
「モデルとかやってるみたいだよ?ちなみに、私達と同い年」
「モデルさん!?やっぱり、綺麗だもんね!」
「あれで同い年!?うそ!?」
「すげー巨乳だったしな!?」
「凄くセクシーだった!」
男子達は胸にばかり目がいっていたようだが、確かにあの胸どうなってるんだろう?
凄い自然に揺れてたけど、まさか本当に胸が出た訳じゃあるまいし。これは、後で確かめる必要があるわね。
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