第121話 コスプレ再び

「どういうことなんすか!?」


「えっと、あはは」


「なに笑ってるっすか!?僕の目の前で、堂々と、女と連絡先交換してんすか!?」


「いや、だってクラスメイトだし」


そう、クラスメイトと連絡先を交換するのは、おかしなことではない。


「あの男子達も、見てて可哀想になったっす!もう少しフォローしてあげるべきっす。いや、むしろ連絡先消しちゃいましょう」


「いやいや、流石に消せないでしょ。てか、消しても連絡来ちゃうし。それに、あの2人は自分でなんとかするよ。あとはデートに誘えばいいだけなんだから」


南さんが、別々に誘うようにって言ってたし、全く脈がない訳ではなさそうだ。あとは、自分達で頑張ってくれ。


「むきーっ!!今日は晴翔さんの奢りっすからね!?」


「はいはい、何食べたい?」


「いちごタルト」


「相変わらず好きなんだな、いちごタルト。飽きないのか?」


六花の好物はいちごタルト。なんでも小学校の時からずっと好きらしい。今度からお土産はいちごタルトにするか。


「近くに、いちごタルトが美味しくて有名なお店があるっす。そこに行くっす」


「はいよ。じゃあ案内よろしく」


六花は俺の腕にしがみつくと、そのまま腕を引っ張って、俺を案内する。


一方、残された4人はというと。


「みなみん、この後どうする?」


「んー、どうする?」


どうするか悩む女子に、男子達は慌てて話しかける。


「み、南さん、この後時間があるなら、ご飯でもどう?」


「んー、遠慮する」


「えっ!?」


速攻で玉砕する勅使河原と、それを見て話しかけられなくなった小林。


「また誘ってよ。今日はちょっと気分じゃなくなっちゃったー」


「うむ、帰ってイケメンの余韻に浸る」


それじゃ、と2人は満面の笑みを振りまいて、その場を後にした。残った2人は、呆然と後ろ姿を見守る。


「俺達も、帰るか」


「そうだな」


虚しくも、意見が一致した2人は、大人しく帰ることにした。しかし、帰ってから時間が経つにつれ、晴翔に言いたいことが出来た2人は、大量のメッセージを送りつけた。


ーーーーーーーーーー


プラネタリウムに行った翌日。


俺は、学園祭で欠かせないある物を相談しに、とあるスタジオに来ていた。


「晴翔さん!」


「やぁエミー、久しぶり」


「今日は衣装の相談でしたね。どんな感じがいいですか??」


そう言って、エミーに案内された部屋には、コスプレ衣装がこれでもかと並んでいた。


メイド服だけでも、何種類もあり、選ぶのが大変そうだ。


「これって、もしかして全部?」


「はい、私の私物です。ちゃんとサイズもありますからね」


「エミーって、モデルさんだよね?」


「はい、ただ日本でスタジオを何件か経営しています。それと、ここは私専用のスタジオなので晴翔さんならいつでも大歓迎です」


「なんか、凄いね」


「えへへ、趣味が高じて今では本業になりつつあります。ささ、選んじゃいましょう」


俺はエミーにおすすめを聞きながら、メイト服を選ぶ。そして、女子達に頼まれていた男子達のコスプレについてもエミーに相談した。


「ふぇ〜、これはまた王道ですね」


「まぁ、女子がメイド服だからな、結局男子は執事服になっちゃったんだよね」


「羨ましいです。うちの学校じゃこんな大規模な学園祭はしないですから」


「そうなんだ。エミーもうちの学園祭来る?」


「いいんですか!?」


俺の誘いに目をキラキラさせるエミー。うちの学校の学園祭は、この辺りの学校では一番規模が大きく、入るには招待券が必要になる。


招待券が手に入るのは学校の関係者と保護者のみで、外部の人は生徒から招待券をもらうしか方法がない。


「じゃあ今度持ってくるね」


「ありがとうございます!晴翔さんのコスプレは私が責任を持って選びますね!!」


「あはは、ありがとう」


思った以上にテンションの高いエミーに、俺の表情は若干引き攣った。


その後、クラスメイトのコスプレを選び終えると、エミーが俺の衣装を選び始めた。


しかし


「エ、エミーさん?それって本当に俺の衣装ですか??」


「もちろんです!香織さんから承ってます。まさか晴翔さんがこんなに女装が似合うとは知りませんでした!」


そう言って、エミーが見せてくれたのは、先日学校で女装した画像だった。あいつ、いつの間に撮ったんだ。


「あと、写真も頼まれているので、このまま撮影しちゃいましょう」


「えっ、写真?」


「はい、なんでも学園祭で使うらしいですよ?では、早速メイクしちゃいましょう。スタッフも呼んでありますからね」


俺は半ば強引に、化粧室に通されると、スタッフの人達にメイクを施させる。


「肌が綺麗」


「どんなケアしてるんですか?」


「本当に女の子みたい!」


何故か、スタッフの人達はみんな一応に目を輝かせながら、俺の化粧のノリを確認している。


「エミーさん、ウィッグはどうしますか?」


「そうですねぇ、やっぱり黒髪がいいですね。まずはツインテールで行きましょう!」


「「「はい!」」」


なんだろう。本人以外はやる気に満ち溢れている。エミーとスタッフさんの手腕により、晴翔は絶世の美少女に変身した。


プロがやっただけあって、学校でやった時よりも完成度は高く、知り合いが見ても男だとは思わないだろう。


「す、凄い」


「こんな美少女見たことないわ」


「で、でも!ちゃんとついてるのよね??」


ゴクリ、と誰かの喉が鳴る。みんなヒソヒソ話しながら、こちらをチラチラと見ている。何してるんだこの人たち。


「は、晴翔さん、いえハルちゃん!」


「は、はい!」


「ハァ、ハァ、早速撮影しちゃいましょう!!」


エミーのテンションがおかしい。頬をほんのり赤く染め、息があがっている。


スタジオの方へ移動すると、そこからひたすらポーズをとっては写真を撮る作業を繰り返した。


「ハァ、ハァ、ハルちゃん。もう少し、腕をギュッとして!胸を寄せる感じ!」


「こ、こう?」


「そう!!そのまま、動かないで!視線はこっちだよ!!」


俺の腕の間に、普段感じない感触がある。俺の胸元にはエミーが開発した、豊胸パッドが入っている。なんでも、揉み心地が本物そっくりなんだとか。そのおかげで、俺も見事なDカップになっている。


その後、ウィッグをポニーテールからショートボブに変更して撮影を再開。


「は、晴翔さん、ちょっと、ネコのポーズやってみて下さい!」


「ネコ?」


「そうです!手をにゃんにゃんって!」


「にゃん?」


俺は言われるがまま、ポーズを取る。


「ぐぅっ!すごくいいです!食べてもいいですか!?」


「エ、エミー!?」


まだ撮影中なのだが、エミーが乱入して来た。


「ハァ、ハァ、晴翔さん。すごく可愛いです」


「エミー?とりあえず、どいてくれないか!?」


エミーに、押し倒される形で倒れた俺。今エミーが俺の上に馬乗りになっている状態だ。


「あぁ、凄い完成度です!我ながら揉み心地もサイコーです!」


「た、頼むから、動かないでくれ!」


「えっ?なんで・・・ひゃあぁぁあ!?」


エミーは自分のお尻に当たる感触に気付いたのか、悲鳴をあげて固まった。


「は、晴翔しゃん!?これって!?」


「何も言わずにどいてくれないか」


「ひゃ、ひゃい!」


俺は深呼吸をして、なんとか気持ちをおさめていく。


「ハ、ハルちゃん」


「うん?」


俺から離れたところで、もじもじするエミー。心なしか、他のスタッフも息が荒い気がする。


「ハルちゃんも男の子だったんですよね。凄かったです」


「いや忘れないでよ!?てか、何もしてないよね!?」


もじもじしながら、両手でお尻を押さえるエミー。おい、紛らわしいことすんな。


そして、エミーはこちらをチラッと見ると、恥じらいながら声を発した。


「私、汚れされちゃいました。責任とって下さい」


「へっ?」

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