第120話 仕返し

「あぁぁぁぁぁ、やばいっすー」


僕はいま、誰もいないトイレで項垂れていた。やばいっす、晴翔さんが好きすぎる。


初めは全く気付いてなかったけど、寝てる僕の身体を勝手に触ってるし、変な言い訳するし。


なんすか、僕の体がいいって。


「そんなの理由にならないっすよ!?てか、触りたければいくらでも触らせてあげるっすよ〜!」


僕はいま、とても舞い上がっていた。


傍から見たら、僕達もカップルに見えるんすかね。一緒に、プラネタリウムを見に来て、隣に座る彼氏がちょっかいを出してくる。


うん、これはこれでアリかもしれないっす。


戻ったら、もう少し晴翔さんとの時間を楽しむっす。僕は急いで席に戻る。


しかし。


「は、晴翔さん?もしかして寝てるっすか?」


なんと、急いで戻って見ると、晴翔さんはもう寝ていたっす。きっと、眠気と戦ってたんだろうな。でも、だからって僕にちょっかいを出すのはいただけないっす。


僕は、お返しとばかりに、晴翔さんのお腹周りを突いてやった。でも、晴翔さんは全く反応しなかった。


「おかしいなぁ。いつもなら触られる前に起きるのに」


よっぽど疲れてたんすかね?でも、私にとってはチャンスっす。さっきのお返しと、私の溜まった鬱憤を発散するっす。


さわさわ


そ、それにしても、晴翔さんはいい身体してるっす。見た目とは裏腹に、この引き締まった身体最高っす。


ちょっとくらいなら堪能しても、いいっすかね?僕は、あたりをキョロキョロ見渡すと、ほとんどの人はウトウトしており、他の人は真剣にプラネタリウムを堪能している。


僕は、晴翔さんに近く。


「晴翔さん、大好きっす」


耳元で囁くと、頬に軽くキスをする。これで、大会も頑張れそうっす。晴翔さん、出来たら良い返事が聞けるように願ってるっす。


僕はスッキリして、席に戻ろうとしたんすけど、そこで視線に気付いてハッと顔を上げると、明らかにこちらを見ている二人組と目が合った。


も、もしかして、見られた?


いや、おそらく見られたっす。でも、この状況は聞かずにはいられないっす。


「あ、あの、もしかして・・・」


「あ、えと、見てない、よ?」


「見てない」


それだけ言うと、2人は再び身体を寝かせてプラネタリウムを見始めた。僕は、恥ずかしさで、どうにかなりそうっす。


僕は急いで席に着くと、何事もなかったようにプラネタリウムに集中・・・出来るわけないっす!!


もう〜、僕のばかばかぁ。僕は、全然プラネタリウムを見ることなく、初めてのプラネタリウムが終わった。



ーーーーーーーーーー


「ふわぁ、よく寝た。六花、プラネタリウムどうだった?」


俺は隣の席の六花に声をかけるが、返事が返って来ない。


「六花?」


よく見ると、俊介と正登はまだ寝たまま。そして、女子3人はチラチラとお互いの様子を確認している。なんだ、この状況は?


とりあえず、俺達は寝ている2人を起こして外に出ることにした。


それにしても、腹減ったな。


「なぁ、六花」


「ひゃいっ!?」


急に話しかけたからだろうか、六花は変な声を出して、ビクッと背筋を伸ばす。


「ど、どうした?」


「い、いえ、なんでもないっす!それより、どうしたっすか?」


「腹減らない?なんか食べて行かないか?」


「2人でっすか!?もちろん行くっす!」


目をキラキラさせて、喜ぶ六花。やっぱり、六花はこうじゃなきゃな。


「おーい、俺達ちょっと用があるから、この辺でお暇したいんだが」


「えぇ、齋藤くん帰っちゃうのー!?」


「イケメンが居なくなる」


「そっちにもイケメンが2人居るだろ?アイツらを頼むよ」


「確かにイケメンだけどー、齋藤くんと比べると今ひとつ」


「そうそう、私達は見た目至上主義」


「まあまあ、そう言わずに」


何度かお願いしたが、納得いかない様子。後ろで待機している2人が可哀想になって来たな。あの2人も、他の女子ならすぐに付き合えるだろうに。大変な子達を好きになったもんだ。


「じゃあ、ちょっとだけ六花ちゃん貸して」


「そしたら解放する」


「そんなことでいいのか?六花どう?」


「ぼ、僕は、特に用がないんだけど」


どうやら六花は断りたい様子。仕方ない、断ってやるか。


「六花ちゃん、素直に来た方が」


「身のため」


2人はチュっと口を尖らせて、六花に話しかけると、六花は顔を真っ赤にしながら、2人に頷いた。


「じゃあちょっと六花ちゃん借りるねー」


「あの2人によく言っといて。誘うなら別々しろって」


「あれ?気付いてたの?」


「うん、バレバレ」


「私達はイケメンならウェルカム」


それだけ言い残して、2人は六花を連れて少し離れたところで話し始めた。


「おい、2人とも。今日は解散した方がいいかもよ」


「な、なんでだよ!?」


「そうだぜ、まだお昼じゃねーかよ!」


んー、なんて言うべきか。濁して言っても伝わらなそうだしなぁ。ここは、ハッキリ言ってやるか。


「2人のためだからハッキリ言うけど」


「「お、おう」」


2人は少し身構えたが、聞く気はあるようだ。


「さっき、南さんが言ってたんだけど、デートのお誘いなら別々にしろって言ってたよ」


「南さんが!?」


「なんでバレてんだよ!?」


「バレバレだってさ。あの2人とは経験値が違うんだろ。とにかく、あの2人とそれぞれデートして、告白するしかないだろ」


「こ、こ、こ」


「こ、こく」


何をそんなに驚いてるんだ?付き合いたいなら告白するしかないだろ?


「まぁ、乗りかかった船だしな。相談くらいは乗るぞ。また連絡してくれ」


「やるしか、ないのか」


「お、俺はやるぞ」


「よし、頑張ってくれよ?ちゃんと連絡先交換して帰れよ?」


おそらく、今日最大のミッションになるだろう。頑張れよ、2人とも。



ーーーーーーーーーー


一方その頃。


2人に捕まった六花はというと。


「ねぇねぇ、六花ちゃん」


「齋藤くんとはどう言う関係?」


「か、関係って、別に、その、師匠と弟子?」


六花の発言に、事情を知らない2人は首を傾げた。


「えっと、つまり、どう言うこと?」


「えーっと、説明すると長いんだけど・・・」


六花は観念したのか、六花と晴翔のことを話し始めた。小学校の時に出会い、ずっと探していたこと。そして、今は晴翔からの返事待ちだと言うことを。


「きゃぁぁぁ!!」


「なんだ、その甘酸っぱい話」


「か、からかわないでよ。僕は本気なんだ。小学校の時から晴翔さん一筋なんだ」


「齋藤くんイケメンだもんね」


「六花は、見る目ある」


「否定しないけど、晴翔さんは見た目だけじゃないっす。中身も素敵な人なんだ」


六花の真剣な表情に、本当は揶揄いたかったが、必死に我慢した。しかし、六花だけでなく香織や綾乃、生徒会長など、美少女を虜にする晴翔のことをもっと知りたいと思うのは必然だった。


「じゃあ、僕は晴翔さんとお昼行くから、2人はあの2人と遊んで下さいっす」


それじゃと言い残すと、六花はその場を離れるが、2人もついて来た。


「なんすか?」


「ちょっとね」


「興味が湧いた」


六花は、なんのことを言ってるのかわからなかったが、とにかく晴翔の元へもどる。


すると、六花が話しかけるより早く、鳥居と南が晴翔に話しかけた。


「齋藤くん、いや晴翔くん」


「晴翔」


「ど、どうした?」


急に名前で呼び始めた2人に、動揺を隠せない晴翔。六花は嫌な予感がしていた。


2人はスマホを取り出すと、晴翔に突き出す。


「「連絡先教えて」」


「へっ?」


驚いたのは、俺だけじゃなく、六花達3人もポカンと口を開けて固まった。


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