第119話 プラネタリウム
「晴翔さん、ど、どうしたんすか?」
「え、いや、友達の用事でな」
「そ、そうっすか」
な、なんだろう、この微妙な雰囲気は。六花とはもっと気軽なやり取りが出来ていたが、どうしても意識してしまう。
「じゃ、じゃあ、僕はまだ買い物があるんで」
「あぁ、またな」
俺は、みんなの元へ合流すると、そこはそこでなんとも言えない空気になっていた。
「私は、鳥居彩芽だよー、よろしくね」
「南楓、よろしく」
「小林正登だ、です。よろしく」
なんでそんなにガチガチなんだ正登。いつも、オラオラ系の正登が、すっかり大人しくなってしまった。
「おい、俊介、これからどうするんだ?」
「そうだな、どっか遊びに行くか?」
このままだと、なにも進展しなそうだし、仕方ないか。人数的に俺は邪魔だし、どこかで適当に抜けるか。
「齋藤くんは、休みの日に見てもやっぱりイケメンだね。グッジョブ!」
「イケメン、正義」
「2人は相変わらずだね。この後用がなければ、みんなで遊ばない?交流を深めるためにも」
「いいよー」
「おけ」
よし、こっちは大丈夫そうだな。
「さて、どこに行くか・・・って、どうしたんだよ2人とも」
振り向くと、あからさまに機嫌の悪い2人が待っていた。
「晴翔は2人と仲いいよなぁ」
「お前、彼女居るんだろ?自重しろや」
「なんでそうなるんだよ。だったら自分達で誘ってこいよ。俺は帰るから」
「いやいやいや、もう少し居てくれよ!?」
「そうだぜ!彼女持ちのお前を頼りにしてんだ」
コイツら十分イケメンなんだけどな。なんでこんなに女子に慣れてないんだよ。まぁ、俺の場合は香織で耐性がついてる感はあるけど。
「ねぇねぇ、どこ行く?」
「そうだな、この辺だと何がある?」
「私、プラネタリウムがいい」
「プラネタリウム?」
この辺にそんなのあったんだな。
「どうする?」
「俺も行ってみたいな、プラネタリウム」
俊介はここぞとばかりに、南さんに乗っかったな。流石だ。
「私もいいよー」
「お、俺も」
「じゃあ行くか」
俺達が行き先を決めて、スポーツショップを出る時、再び六花と遭遇した。
「あ、六花ちゃんだ!本物も可愛い!」
「可愛いも正義」
どうやら2人はイケメンだけで無く、可愛い子も好きなようだ。
「晴翔さん、お話は聞いたっすよ。僕も連れて行くっす」
「いや、盗み聞きしただけだろ?」
「そ、それは、わかってても言わないのがお約束っす。それで、連れて行くんすか?行かないんすか?」
「わ、わかったよ。一緒に行くか?」
「はいっす!」
六花が合流したことで、人数的にはちょうどよくなった。ある意味助かったな。
俺達は、プラネタリウムを見るために施設へと向かった。こっちの方は、普段よく行くショッピングモールとは方向が逆で、なかなか来る機会がなかった。
「こんなところにあったんだな」
「俺も知らなかったよ」
「俺もだ」
男性陣は、全く知らなかったが、女子達はこういうものには詳しいようで、みんな知っていた。
「一回、来てみたかったんだよねー」
「私、星が好き」
「僕も気になってたっす」
さてと、さっさとチケットを買って入るか。こういう施設は涼しくて、夏は助かるな。
そして、いつものことだが、こういう施設にはカップル割が存在することが多い。もはやお約束だな。
「カップルで買った方が安くなりそうだな」
「「カップル!?」」
「いや、何をそんなに驚いてるんだよ。水族館とか遊園地でもよくあるだろ?」
「そ、そうだよな」
「ま、まぁ、そうだな」
全く、手がかかる奴らだな。このメンツだと、俺の相手はあいつしかいないな。
俺は六花の方を見ると、六花も気づいたようでこちらに来る。
「僕は晴翔さんと一緒っすね。早く行くっす」
「あぁ、先に行ってるな」
六花は俺の腕に抱きついたまま、チケット売り場へ向かう。
「齋藤くんは慣れてるねー」
「流石イケメン。中身までイケメン」
『おい、俺たちも行くぞ!』
『お、おう!』
「南さん、俺とでいいかな?」
「うん、いい」
「じゃあ、私達も行こうかー」
「そ、そうだな」
俊介はスムーズにペアになったが、正登は自分から行くことができなかった。鳥居さんが主導権を握る形で、進んでいく。
席はみんなで並べれば良かったけど、そう上手くはいかなかった。俺と六花が隣に座り、あとの4人は俺達の後ろの席に座った。
まぁ、あとはなんとかするだろ。
「六花」
「はいっす」
「調子はどうだ?大会勝てそうか?」
「そうっすね。調子はいいっす。だけど優勝は自信が無いっす」
六花にしては珍しく弱気だな。
「随分と弱気な発言だな。お前らしくもない」
「晴翔さんの所為っす」
「ん?なんだって?」
「なんでも無いっす。ほら、始まるっすよ」
俺達は、静まりかえった場内で流れるBGMと女性のアナウンスを聴きながら映し出された星々を眺めた。
こう真っ暗で、椅子が倒れると眠くなっちゃうな。俺は寝ないように気を張りながら、隣を見た。
「すー、すー、すー」
おい、まだ5分も経って無いんだぞ!?
自分で来たいって言ってたのに、寝ちゃうのかよ。全く、ちょっとお仕置きが必要だな。
俺はちょっかいを出して、六花を起こすことにした。
つん、つん
脇腹を何度か突いてみるが、反応はない。なんだ、つまらないな。しかし、女子にしては筋肉がしっかりついてるな。
うん、頑張ってる証拠だな。腹横筋、腹斜筋この辺の難しい筋肉もちゃんと仕上がってる。流石だな。
ふむ、足腰の方も中々。触ってみないと詳しくはわからないけど、パッと見ただけでもよく鍛えてるのがわかる。
「あ、あの、晴翔さん」
「あれ?起きてたのか?」
「もう、勘弁してくださいっす。色々耐えられそうにないっす」
六花は両手で顔を隠してしまった。それだと、プラネタリウムが見えないぞ?
「悪かったよ、ごめんな」
「本気で謝ってるっすか?」
「あぁ、六花がいい身体してるからつい」
「いい体!?」
「うん、すごく引き締まってて、武闘家としてって、どうしたんだ?聞いてるか?」
「は、晴翔さん、ちょっとお花摘みに行ってくるっす」
六花はそれだけ言い残すと、足早にその場を後にした。
それからしばらく六花は帰ってこなかった為、俺はそのまま寝てしまったようだ。気づいた時には、もうプラネタリウムは終わっていた。
そして、なんだろう。俺が寝てる間に何かあったのか、またしても変な空気になっていた。
ーーーーーーーーーー
晴翔と六花が一つ前の列に座った後のこと。残された4人はというと、席順は奥から小林、鳥居、南、勅使河原の順番になっていた。
「みなみん、六花ちゃん可愛いねー」
「うん、恋してるね」
「だよね、だよね!?」
「間違いない。罪な男だ」
女子達はプラネタリウムが始まるまで、前列2人の話で盛り上がっていた。
そして、両端に分断された2人は、お互いにメッセージでやりとりをしていた。
暗くなり、プラネタリウムが始まるが、両サイドの男子達は早々に寝てしまったようだ。
そんな中、彩芽は少し飽きてきてしまい、前列の様子を覗いてみる。
すると、六花にちょっかいを出す晴翔と、寝たフリをして悶えている六花を発見した。
「ねぇねぇ、あれ凄いよ」
「あの2人、付き合ってないの?」
「多分ないと思うんだけどねー」
「それにしても、齋藤くんも容赦がない。もしかして、本当に気付いてない?」
「多分気付いてないよあれ」
2人はその後も、彼らの様子を観察しては話のネタにしていた。そんな中、一度お手洗いに立った六花が戻って来た時には、晴翔も寝てしまっていた。
もう、見れないのかと思って、ガッカリしていた2人だが、戻ってきた六花は晴翔の様子を確認すると、そっと晴翔に近づいた。
「も、もしかして」
「い、いや、そんなはず」
まさかと思いながらも、ずっと見守っていると、六花が晴翔の頬に軽くキスをした。
「したよ、みなみん、しちゃったよ!」
「甘い、甘すぎる」
晴翔の寝顔を見て満足そうな六花は、ふと視線を上げると、後列の2人とバッチリ目が合ってしまった。
「あ、あの、もしかして・・・」
「あ、えと、見てない、よ?」
「見てない」
なんとなく、気まずくなった3人は大人しく、残りのプラネタリウムを見るフリをしながら、終わるのを待った。
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