第118話 正登の相談
「はぁ、やっと着替えられるよ」
俺は、家庭科室に入ると、さっさと着替えることにした。しかし、普段着ない制服に手間取っていると、背後に気配を感じる。
ん?誰かいる?
俺は念のため、確認することにした。家庭科室は教室の半分で調理場と裁縫場とに分けられている。
俺が今着替えようとしているのは、調理場の方だ。なんとなく気にかかるのは、裁縫場の方。ミシンなどが並ぶ棚の後ろ側。
「誰か居ますか?」
返事はない。仕方ない、自分で確かめることにしよう。俺は静かに近づいていく。そっと棚の後ろを覗くと、そこは人が1人通れるくらいの幅が設けられていた。
「マジか」
そして、そこには椅子を並べて寝ている女子生徒が居た。
香織より少し背が高いくらいかな。胸は控えめだけど、すらっとしていてかなりスタイルがいい。
髪はオレンジ色のショートボブで、かなり目立つ髪色。しかし、こんな子見たことないな。何年生だろう?
俺がじーっと眺めていると、寝ていた女子生徒の目がパチリと開く。
「・・・君、誰?」
「えっ、俺は」
「俺?」
『俺』と言った瞬間に、鋭い目つきに変わった。そういえば、今はまだ女装してたんだった。
「んんっ!私はハルです」
「・・・ハル?初めて見た。君、可愛いね」
なんだろう、すごくおっとりした子だな。目も半分しか開いてないし、個性的な子だ。
「・・・何年生?」
「2年です」
「・・・年下」
「あ、先輩なんですね。よろしくお願いします。あの、名前はなんて言うんですか?」
「・・・私?うーん、君可愛いから特別。
「わ、わかりました、姫流先輩」
「・・・うん。私もう少し寝る」
「あ、はい」
話が終わると、姫流先輩はまた寝てしまった。すごいな特技が早寝とかかな。
とりあえず、俺は見えないところへ移動して、着替えることにした。
ーーーーーーーーーー
ガラガラガラ
「ハルくん、おかえり」
「ただいま」
俺は香織に迎えられ、コスプレ担当のグループへと混ざる。
「ねぇ、私達のハルちゃんは?」
「ハルちゃんはどこ行ったの?」
「もう一回、ハルちゃん呼ばない?」
そんなに希望に満ち溢れた顔をされても困ります。ハルちゃんはもう帰りましたよ。
「ハルちゃんはもう帰ったみたいだよ」
香織、ありがとう。お前のせいで大変だったが、最後はやっぱり持つべきものは香織さんだね。
「それより、コスプレの方はどうしよっか?」
「うーん、出来れば本格的にやりたいよねぇ」
「わかるぅー」
「でも、予算が問題じゃない?」
「コスプレに予算回すと、料理がさー」
確かにそうだな。コスプレと料理を両立させるには、どちらかの予算を切り詰めないとダメだ。
そうなれば、必然的にコスプレの方を削るべきだろう。
みんながそれぞれ持ってるコスプレを持ち寄れれば問題ないんだけどなぁ。そんな上手いことはなかなか・・・あっ、そうだ!
「香織、エミーならもしかしたら力になってくれるかも」
「あ、そうか!コスプレと言ったらエミーちゃんだね!連絡取れる??」
俺はすぐにエミーに電話をかけることにした。
『あ、もしもし、エミー?』
『お久しぶりです、晴翔さん!どうされましたか??』
『ちょっと頼みたいことがあってさー』
俺がエミーにお願いしている間、香織が状況を説明してくれていた。
「ハルくんが、知り合いに衣装提供のお願いしてるからちょっと待っててね」
「ねぇ、西城さん、あれ誰に連絡してるの?」
「エミリーさんっていう、モデル兼コスプレイヤーの人なんだけど。あの人なら色々持ってるんじゃないかな?」
「齋藤くんって、人脈すごいね」
「そうだね、なんでハルくんの周りには女の子が集まってくるのか」
「仕方ないよ、イケメンの宿命でしょ」
「そうそう」
女子達がそんな話をしている頃、ちょうどこちらも電話が終わる。
「香織、なんとかなりそうだよ。サイズと数を教えてくれれば用意してくれるって」
「エミーちゃんて、本当にただのモデルなの?なんだか得体が知れないんだけど」
「んー、本人は至って普通の女の子なんだけどなぁ。そういえば、親のことは教えてくれないんだよなぁ」
今度、改めて聞いてみるか?
「まぁ、触らぬ神に祟りなし、だよ。多分聞かない方がいいやつだよ」
「そうか?じゃあやめておこう」
とりあえず、衣装の方はなんとか目処が立ちそうなので、一安心だ。その後、うちのクラスは誰がなんのコスプレをするか、料理は何が提供できるのか、話し合った。
ーーーーーーーーーー
学園祭の準備が進む中、俺はとある人物との約束の為、カフェで待ち合わせている。
普通はこういう待ち合わせは、女の子とするものだが、今日は残念ながら男子とである。
「おい、晴翔」
「あぁ、正登。久しぶり」
なんだか朝から機嫌が悪そうだ。
「なんでこんなオシャレなところで待ち合わせなんだよ?」
「いやいや、普通はこういうところでしょ。夏は暑いしね」
「ったく、とりあえず、話聞いてくれるか?」
正登はコーヒーを注文すると、俺の向かいの席に座る。
「それで、相談って何?」
「そ、その、晴翔は男子バスケ部については詳しいか?」
「男子バスケって、うちの?」
「そうだ」
うーん、対して詳しくはないんだよな。バスケのことなら俊介に聞くのが一番だが。
「俺はそんなには詳しくないよ。なんなら勅使河原呼ぶ?知り合いなんだろ?」
「そ、そうだな。それしかないか」
「ちょっと待ってて」
俺はスマホを取り出すと、俊介に連絡をとる。確か今日は部活の備品の買い出しに行くって言ってたけど、大丈夫かな。
連絡をしてみると、俊介はちょうど近くのスポーツショップにマネージャーと買い出し中のようだ。
マネージャーと買い出しか。なんだろう、俊介はいいって言ってたけど、なんか邪魔した気分だな。
「どうだった?」
「あぁ、今から来るってさ。なんでもマネージャーと買い出しに来てたみたいだ」
ガタンッと勢いよく立ち上がると正登。
「ど、どうした?」
「い、いや、なんでもねぇよ」
怪しい。もしかして、マネージャーか?
「おい、もしかして」
俺が問い詰めようとした時、タイミング悪く俊介がやってきた。もうちょっとだったのに。
「俊介ごめんな、忙しいのに」
「別に大丈夫だよ。2人とも同じクラスだし。月曜日に声かけるさ」
「えっ、マネージャーって同じクラスなのか?」
「あぁ、各学年に居るんだけど、2年は2人ともうちのクラスさ。南さんと鳥居さんだよ。知らなかった?」
マジか。元町田ガールズはバスケ部のマネージャーだったのか。そういえば、あの2人はイケメン観察出来ればいいって言ってたな。
「真面目にやってんのか、あいつら?」
「まぁ、ほぼ幽霊部員だけどな。たまに来るぐらいかな。だから試合の時も、ベンチじゃなくて客席に居るしな」
「なるほどな。で、呼び出したのはコイツの件なんだけどさ」
俺が、向かいの席に座る正登を指差すと、ここでやっと気づいたようだ。
「なんだ、用があるのは正登の方か。どうしたんだ?」
「い、いや、その、だな」
「なんだよ気持ち悪い。いつもみたいにハキハキ喋れよなぁ」
「ぐっ!」
気持ち悪いと言われたのがショックだったのか、正登は顔を歪める。そして、意を決したように口を開く。
「俊介、お前と同級生のマネージャーを紹介してくれないか!?」
「断る!!」
「はぁっ!?」
「ダメなもんはダメだ!」
なんだコイツら、変なことで言い争いになっている。これは止めた方がいいのか??
「お、おい、2人とも落ち着けよ。まずは正登の話を聞いてみよう。なっ?」
「まぁ、晴翔が言うなら。それで、どっちだよ?」
どっち?
あぁ、南さんと鳥居さんのどっちかってことか。あ、そういえば、俊介はよく南さんのことを見てたな。もしかしたら、正登に取られると思って反対してるのか?
「えっと、背の高い方?確か、鳥居さんっていうらしいんだが」
「なるほど、いいぞ」
「即答!?」
「まぁ、鳥居さんは今フリーだし、いいんじゃないか?別に紹介するくらい」
鳥居さんだと聞いた途端、態度が急に柔らかくなる俊介。わかりやすい。
「マジかよ!?助かるよ、ありがとう!」
「別にいいさ。それじゃ、早速行くか?多分まだ居るぞ」
善は急げとばかりに、話を進めていく俊介。しかし、言い出しっぺの正登は緊張のせいかガッチガチになっている。
こんな状態で合わせて大丈夫なんだろうか?一抹の不安を抱えながら、俺たちはスポーツショップに向かうことにした。
そして、スポーツショップで待っていたのは、マネージャーの2人だけではなかった。
「あれ、晴翔さんじゃないっすか!?」
六花に会うのは、遊園地に行ったのが最後。なんとなく、俺達の間には微妙な空気が流れていた。
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