第117話 変身

「ハルくん、はいこれ」


そう言って、手渡されたのはうちの高校の制服だった。


「なんで持ってんだよ」


「さっき先生が持ってきてくれたの。どこから持って来たのか知らないけどね」


俺は先生の方を見ると、先生は何も言わずにただニコッと笑っていた。


「齋藤くん、早く早く!」


「私、演劇部から色々借りて来るね!」


「あ、私も手伝うよ!」


一緒について来た女子達も、テンション高めで困ったものだ。はぁ、さっさと終わらせよう。


俺は、諦めて着替えることにした。


「とりあえず、出てってくれます?」


「えー、別にいいじゃん。ハルくんと私の仲じゃない」


「そうそう、お義母さんに隠し事はしちゃダメよ?」


「そういう問題じゃないから。ほら、みんなも出てって」


俺は香織達を部屋から追い出すと、一度大きくため息をつくと、仕方なく着替え始めた。


それにしても、女子はよくこんな格好で歩けるよなぁ。股がスースーする。


とりあえず着替え終わった俺は、香織だけ呼ぶことにした。スマホを取り出し、メッセージを送った。


『着替え終わったよ』


『今いくよー』


メッセージが表示されると同時に、扉があいた。


ガラガラガラ


「ハルくん、お待たせ!」


「別に待ってないわ。というか、なんだよその荷物」


部屋に入ってきた香織は、大きなダンボールを抱えていた。


「うわぁ、そのままでも似合うねぇ。やっぱりスタイルいいし、顔が良いからかな!?」


そう言いながらも、香織の手は止まらず、俺にウィッグを取り付け、化粧をし始めた。


「あのさ、化粧もすんの??」


「するする。じゃないと、ただ制服着たハルくんになっちゃうもん。目指すは、謎の美少女ハルちゃんだよ」


「別に目指したくないよ」


しかし、こうなった香織は誰の言うことも聞かないので、香織の気が済むまで俺はじっと待つことにした。


しばらくすると、満足したのかご満悦のご様子でみんなを呼びに行った。


「ほらほら、入って!」


そう言って、田沢先生とクラスメイト達が数人入って来た。


「え、本当に齋藤くん??」


「どう見ても美少女じゃん!?」


「やばい、これはこれでアリかも」


「今一瞬ドキッとしちゃったよ」


どうやら俺の女装はお気に召したようだ。であれば、さっさと終わりにしてくれないか?


そんな中、田沢先生が近づいて来る。


「やっぱり真奈にそっくりね。背を高くしたらそのまんまって感じ」


驚いている先生の後ろで、生徒達もざわつき始める。


「ねぇ、誰かに似てない?」


「うん、私も思った!」


「誰だっけ。こんな感じの美人な人が・・・

あっ、女優の真奈さんだよ!!」


彼女達も、やっとうちの母にたどり着いたようだ。そんなに似てるのかな?


「齋藤くん、親戚だったりするの!?」


「知り合いとか!?」


面倒くさいし、訂正しなくて良いか。


「うん、遠い親戚・・・かな?」


「やっぱり!?」


「凄い!」


大興奮の彼女達。一体いつになったら終わるんだ?


俺は香織の方を見るが、香織は俺に向かって首を横に振った。え、嘘だろ?


「ハルくん、少し散歩しない?」


「え、ここ学校だぞ」


こうして、俺はこの授業中の間だけ、女装しをて過ごすことになった。


ーーーーーーーーーー


「ハルちゃん、ダンボール持って」


「はいはい」


「うわぁ、ハルちゃん力持ちだねぇ」


「楽しんでるな、お前」


「ごめんごめん。とりあえず、誰が見てもハルくんとは思わないから大丈夫だよ。でも、声は少し変えた方がいいよ?」


ふぅ、確かに今の格好なら誰も俺とは思わないだろう。少しだけ声色を変えておくか。


「あー、あー、どう?こんな感じ?」


「うん、そんな感じ!流石ハルちゃん、声まで女の子だね」


そんなやりとりを見ていた女子達は驚きを隠せなかった。


「す、凄い」


「ここまで来ると、本当に男か怪しくなって来るね」


「ちゃんとついてるのかな?」


おいおい、ひどいこと言ってるな。俺は振り返ると、ダンボールを一度置き、腰に手を当てて彼女達に声をかける。


「これは俺達が持って行くから、先に教室戻ってていいよ」


俺は普通に言ったつもりなのだが、女子達の反応は思ったのと違かった。


「や、やばい、ドキドキが止まらない!」


「『俺』だって!あの声で言われると、格好良い女の子にしか見えない」


「私、ハルちゃんなら、いけるかも」


「いやいや、ハルちゃんも齋藤くんだからね」


その後、なんとか説得してクラスに帰ってもらったが、もはや疲れた。俺達はさっさと、演劇部の方へ向かう。


ガラガラガラ


「失礼します、使ってないものをお返しに来ました」


「ありがとう、って君だれ??」


「うわぁ、すっごい美人!?」


「スタイル良すぎじゃない!?身長何センチ!?」


演劇部の部室には、演劇を行う予定のクラスが来ており、数人の女子が集まっていた。早くここから離れないと。


「この子は田沢先生の知り合いの子で、ハルちゃん。今日は見学に来てて、田沢先生に頼まれてるの」


「そうなんだぁ。ハルちゃん可愛いね」


「モデルさんみたい」


「ははは、ありがとう」


俺は、軽くお礼を言うと、そそくさと演劇部の部室を後にした。


俺達は、このままクラスに向かうのも、ちょっとアレなので一度着替えることにした。


俺は、やっと着替えられると思い、ほっと胸を撫で下ろした。


しかし、上手くいかないのが世の常である。家庭科室に戻ろうとした俺達は、とある人物と遭遇した。


「あら、香織さん。奇遇ですね、こんなところで会うなんて。学園祭の準備ですか?」


「澪先輩、こんにちは。はい、学園祭の出し物の確認で。先輩は何してるんですか?」


「あぁ、私は見回りです。今日の午前中はどこのクラスも学園祭の準備で人が動きますので。生徒会は風紀委員の役割も担っているんです」


「そうだったんですね、大変ですね」


澪は香織と話しながらも、こちらをチラチラと見ている。


「あの、香織さん。こちらの方は?」


「あぁ、ハルちゃんです。田沢先生の知り合いの子です」


「田沢先生の知り合いの方でしたか。どうも、初めまして不知火澪と申します」


「は、初めまして、えーっと、ハ、ハルです」


「ふふ、声も可愛らしいですね。ふむ」


澪は顎に手を当てて、俺の顔をじーっと見る。もしかしてバレた?


「あの、私達どこかで会ったことありますか?なんとなく知っているような気がするのですが」


「流石ですね、澪先輩。ハルちゃん、頭ポンポンしてあげれば?」


「なんでだよ」


「面白そうだから。ねぇ、お願い。一回だけ」


「んー、わかったよ」


俺は澪に近き、念のため確認をとる。


「あの、頭触ってもいいですか?」


「えっ?いいですよ?」


流石に女子だと思っているからなのか、特に抵抗されることなく、俺の手は澪の頭の上にたどり着いた。


俺は、いつも通りにポンポンと頭を軽く叩き、澪の髪を1束すくう。本当に澪の髪はサラサラしてる。エミーとはまた違った質感で、どちらも素晴らしい。


俺は手にすくった、澪の髪にチュッとキスをして元に戻す。


「な、なな、なんでしょう、このドキドキは。晴翔様以外にこんなドキドキするなんて、それにこの方は女の子ですよ!?どうしたのでしょう、私??」


「ははは、大丈夫ですよ。この人はーーー」


香織がネタバラシをしようとしたが、俺達は忘れていた。澪は意外にもドジっ子だったということ。


「あわわわ、はうっ!?」


澪はテンパってバタバタした結果、足がもつれて倒れ込む。それも、俺を押し倒す形で。


「ご、ごめんなさい!わ、私押し倒すつもりはなくて、あの、あの!!」


「だ、大丈夫か、澪?」


「ふぇっ?」


テンパっている澪を安心させるため、半身を起こしている澪を抱き寄せ頭をポンポンする。


「も、もしかして、晴翔様ですか?」


「そうだよ?」


「ほ、本当に??」


「うん」


何度も確認する澪に、俺は何度も答え続けた。すると、やっと安心したのか、澪の身体から緊張の糸がほどけていく。


「よかったぁぁぁ。私女の子が好きになってしまったのかと思いました。良かったです。私はノーマルです。晴翔様一筋ですからね!?」


調子の戻った澪は、ビシッと立ち上がると、制服を正しいつもの澪に戻った。


「お見苦しいところをお見せしました。ところで、そのお姿は学園祭と関係が?」


澪の問いかけに、何と言おうか迷ったが、香織が澪の耳元で何かを囁いた。


「えっ、本当ですか!?じゃ、じゃあーーーーですか?」


「その予定です。先輩にも協力を仰ぎたく」


「な、なるほど。そのような崇高なお考えのためならば、生徒会長として後押ししましょう。そのかわり、私にも、お願いしますね」


「えぇ」


2人はガッチリ握手すると、澪は再び見回りに出かけた。色々あったが、やっと男に戻れそうだ。


俺は、急いで家庭科室に戻ると鍵を閉めて着替えを始めた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


あとがき


いつも読んでいただきありがとうございます。


しばらくは、学園祭に向けての下準備のため、主要人物以外にも色々なキャラクターの話が進む予定です。


ところで


コメントで、人物紹介をお願いされていたので、近々しようと思います。


いつも沢山のコメントありがとうございます。他にも何かあれば、随時コメントください。よろしくお願いします。

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