第115話 嫌がらせ

さて、どうしたものか。


澪からの情報で、香織達に何があったのかは、なんとなく理解できた。しかし、香織達からは何も相談されていない。


もう少し待つべきだろうか。


まずは、とりあえず鳥居さん達から話を聞いて、対策を考えよう。俺は、いつ助けを求められてもいいようにすることにした。


「ハルくん。遅くなっちゃった、ごめんね」


ホームルームが始まる数分前。


やっと香織がクラスへ入ってきた。綾乃もクラスへ行っただろうか。


「お待たせ、ハルくん」


「おかえり、香織。遅かったね。何かあった?」


「ううん、大したことじゃないから。ホームルーム始まるから、またあとでね」


それじゃ、と自分の先に戻っていく香織。見た感じは普通に見えるが、あれは結構滅入ってるな。


香織は、困った時や嘘をつく時は、決まって目を逸らす。さっきも、目を逸られてしまった。


一体、何があったのだろうか?


俺は、気になりながらも午前中の授業に集中した。そして、その日のお昼休み。俺は、鳥居さん達と話すため、屋上前の踊り場まで来ていた。


「齋藤くん、わざわざごめんねー」


「ううん、大丈夫だよ。それで、香織と綾乃に何があったんだ?」


「うん、それがね。齋藤くんがドイツに行って、すぐのことなんだけどーーー」



ーーーーーーーーーーー


はぁ、月曜日はだるいなー。


今日から齋藤くんも居ないらしいしー。みなみんとイケメン観察でもするかなー。


「みなみん、おはよー」


「おは、あやちゃん」


気軽に挨拶するのは、私の唯一の親友、南楓みなみ かえで。ちなみに、私の名前は鳥居彩芽とりい あやめ


私達は、お互いを『みなみん』『あやちゃん』と呼んでいる。


私達の趣味はイケメンを追いかけることで、最近は齋藤くんをずっと観察してたんだけど、しばらく仕事で居ないみたいだから、代わりのイケメンを探さないとなー。


「今日はどうする?」


「んー、任せる」


「そうだなー。あれ?あれって、西園寺先輩じゃない??」


「む?本当だ。イケメン先輩だ。性格はともかく、顔と家柄は良し」


西園寺先輩は、町田くんと同じ匂いがするタイプのイケメン。あの2人は何かと齋藤くんに絡むことが多い。勝てるわけないのに。


西園寺先輩は、彼女が両手に収まらないんじゃないかという噂がある。


そんな人が、何しにこのクラスに?


「やぁ、西城さんはいるかい?」


「あ、はい!さ、西城さん、西園寺先輩が呼んでるよ!」


話かけられた女子生徒は、それだけで嬉しかったようで、すごいニコニコしている。


一方、西城さんは迷惑そうな表情をしている。まぁ、西城さんには齋藤くんがいるしね。絡まれていいことないしね。


「なんですか?」


「アイツの彼女はみんなつれないなぁ。俺の彼女達はみんな愛想がいいぞ?」


「私は、別に貴方に好かれたくないので。用がないなら戻りますよ?」


「あぁ、待て待て、さっきの大塚ってヤツもそうだけど、全く話聞かないな」


「・・・」


うわぁ、残念イケメンの本領発揮だなー。黙ってれば凄くいいのにー。


「単刀直入に言うぞ。齋藤じゃなくて、俺の彼女にならないか?」


「ならないです。それだけですか?さようなら」


「お、おい!」


西城さんはそれだけ言い残すと、教室から出て行った。大塚さんのところに行くのかな?


この時は、大して気に留めていなかったんだけど、次の日から西園寺先輩の代わりに、西園寺先輩の彼女達が来るようになった。


「貴女が、西城香織さん?」


「そうですけど?」


「ふふ、言うほど可愛くはないわね。日向さんも、これの何がいいのかしら?」


あの見るからに高飛車な人は西園寺先輩の彼女さん筆頭の八乙女雪花やおとめ せつか先輩。


八乙女グループのお嬢様。不知火や西園寺と並ぶと、比較相手にもならないが、それでもいいとこのお嬢様であるのは間違いない。いつも、2、3人のモブを引き連れている。


「もう戻っていいですか?」


「まだよ。貴女、日向さんの彼女になりたくないの?今なら末席に加えてあげるけれど?」


「いえ、結構です」


「!?あ、貴女ね!!」


なんだか険悪な雰囲気になってきたその時、救世主が現れた。


「こんなところでなにをしてらっしゃるのですか?」


「えっ!?あ、貴女は、不知火澪!」


「ん?私をご存知で?」


「し、失礼な人ね!同じクラスの八乙女雪花よ!」


「申し訳ありません。私は必要のないことは覚えないものでして。八乙女さんですね、覚えておきます」


「〜〜〜〜!!」


顔を真っ赤にした八乙女先輩は、ふん!と言ってこの場を後にした。


「すげー、不知火先輩」


「不知火先輩には勝てないよな」


「凄く綺麗ー」


やっぱり流石だわ、不知火先輩。この学校で一番影響力がある人。


「大丈夫でしたか、香織さん?」


「澪先輩、ありがとうございました。どうしてここに?」


「いえ、さっきの・・・八乙女さん?が先程は綾乃さんのところにも行っていたようで、綾乃さんから呼ばれたのです」


「そうだったんですか。わざわざすみません」


「いえ、いいんですよ。それより、これからしばらくは気をつけた方がいいと思います」


「なんでですか?」


「あの人達は、あまりいい噂を聞きません。きっと何かしてくると思います。十分気をつけて下さい」


「わかりました。ありがとうございます」


そこから、不知火先輩が言っていたように、小さい嫌がらせが続いた。上履きが無くなったり、靴に画鋲が入っていたりした。


西城さんも大塚さんも、表情には出さないけど、心配だな。


「みなみん、あのさー」


「わかってる。先に見つけたら、私達で処理しておこう」


「流石みなみん!齋藤くんに褒めて貰えるかもしれないしね!」


「ふむ、それはいい。凄くいい」


私達は、まず登校したら西城さんと大塚さんの下駄箱、机、ロッカーなどの確認が日課になった。


数日は私達が見つけて処理していたため、西城さん達に被害は出なかった。


そのためか、嫌がらせも直接的になってきた。足を引っ掛けたり、後ろから突き飛ばしたりと色々あったようだ。


しかし、なかなか目撃者がおらず、不知火先輩も手を焼いているようだった。



ーーーーーーーーーー


「まぁ、大体はこんな感じかな?」


「私達が知ってる限りではこんな感じ。多分、もっと色々あったと思うけど」


そんなことがあったなんて。許せないな。澪の家に頼ってばかりで申し訳ないけど、早めに解決するのが望ましいな。


「ありがとう2人とも。2人が居てくれてよかったよ」


「いえいえ、いいんですよー」


「褒美に頭を撫でてくれればそれでいい」


そんなことでいいのか?


香織達を守ってくれたし、そのくらいお安い御用だ。俺は、2人の頭を順番にポンポンする。


「本当にありがとう。それじゃ、そろそろ戻ろうか」


俺は先に教室に戻ることにした。


「みなみん」


「何も言うな」


晴翔が居なくなった後も、2人は自分の頭を両手で抑えて、余韻に浸っていた。


「幸せだねー」


「あぁ、イケメンサイコー」



ーーーーーーーーーー


「ハルくん、今日は綾乃ちゃんと出掛けてくるから、先に帰ってて」


「うん、わかったよ。気をつけてね」


俺は、香織を見送ると、澪と合流するために三年の教室に向かった。


俺が教室に向かうと、黒板の文字を消している澪を見つけた。どうやら日直のようだ。


「澪先輩」


「あっ、晴翔様」


タタタタ、と小走りで近づいてくる澪。チョークの粉が髪についてしまっている。


「髪が汚れてるよ?」


「あっ」


俺は髪についた粉を手で払った。これで良し。


「もう大丈夫だよ」


「ありがとうございます、晴翔様」


ぴとっと俺にくっつく澪。その光景を見て、皆驚愕の表情をしている。


「お、おお、おい!」


「これは夢なのか!?」


「付き合ってるのは聞いたけど、俺達の不知火さんが!!」


ショックで項垂れる男子と違い、女子はまた違う反応を見せていた。


「流石HARU様!不知火さんを虜にするなんて」


「不知火さん、幸せそう」


「羨ましいなぁ」


俺は周りが気になって仕方なかったが、澪はあまり気にしてないようだ。呼び方も、学校では『晴翔くん』にする約束だったのに。


「呼び方、いいのか?」


「もういいんですよ、正式に婚約したんですから。ちょっと待ってて下さいね、すぐに終わらせますので」


そう言って、澪は日直の仕事に戻った。


「不知火さん、ここはやっておくから、早く行きなよ。彼氏待ってるよ!」


「え、でも」


「いいのいいの。あとは私がやっておくから」


どうやら、もう1人の日直の女子が、残りをやってくれるようだ。ありがたい。


「で、では、ありがとうございます」


「行ってらっしゃい」


澪がこちらに来ると、俺に小声で耳打ちする。


「さっきの方は、晴翔様のファンなのです。なのでサービスしてあげて下さい」


「そうなんだ。サービスかぁ」


俺は、少し考えると、さっきの女子の方をみる。バッチリ視線が合うと、俺は彼女にパチっとウインクをした。


「〜〜〜!?」


バタンッ


余程嬉しかったのか、晴翔達が居なくなったあと、ウインクをされた生徒は刺激に耐えられず保健室に運ばれた。


その後、不知火澪に親切にすると、ご褒美が貰えると噂になり、澪に親切にする生徒が続出した。


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