第113話 僕の気持ち

「晴翔さん、一緒に飲むっす」


「これ、どうやって飲むんだ」


「普通にそれぞれのストローから飲めばいいんすよ。簡単すね」


「マジか」


六花は席に着くと、飲む前にスマホを取り出した。何をするのかと思えば、買ってきたドリンクを撮りだした。


「これSNSに載せて大丈夫なヤツっすかね?」


「いや、俺はよく分からんが」


「一応コーラなんすけど」


「問題はそこじゃないだろ」


「ま、いっか!」


六花は、考えるのが面倒くさくなったのか、写真をSNSにあげた。


『コーラ、サイコーっす!』


とりあえず、取ってつけたような一言を乗せて、満足そうな顔をしている六花。


「さっ、晴翔さん飲みましょう!」


「えっ一緒に飲むの?」


「そういうやつっすからね。別々に飲んでたら、コレの意味ないっすよ」


「それもそうか」


まぁ、こういうのは試してみなくてはわからないからな。やるだけやってみるか。


俺はそっとストローを咥えると、六花も反対側のストローを咥える。


『ち、近い』


この距離で飲み物を飲むのも新鮮だが、やっぱり落ち着かない。俺は目を閉じて、ドリンクを飲み込んだ。


カシャッ


「うん、よく撮れたっす」


「何撮ったんだ?」


「えっ、いや、なんでもないっすよ?」


その後も、俺達はドリンクを飲んだが、タイミングを合わせて飲んだのは最初だけで、あとは自由に飲んだ。


たまたまタイミングがあった時もあったが、お互いに緊張してしまい、なんとなくぎこちなくなる。


そんなことを繰り返して、俺達はなんとかドリンクを飲み干した。


「これ、結構入ってたな」


「そうっすね。2人分とはいえ、どのくらいあったんすかね?」


「流石に、今絶叫系に乗ったら出るな」


「今日はもう絶叫系には乗らないっす。またガクブルになる自信があるっす」


「うん、やめておこう」


俺達は、安全を第一に乗り物を決めた。メリーゴーランドやコーヒーカップ、ゴーカートなど優しい乗り物を中心に回っていった。


「さて、次はどうするか?」


「そうっすねぇ、結構時間も遅くなってきたし、お土産でも見るっすか?」


「それもそうだな」


俺達が来たのは午後になってからだったので、気付けばもう夕方になっていた。


時間を忘れるほどに、六花との時間は本当に楽しく感じた。


「どうせなら、晴翔さんとお揃いのお土産が欲しいっすねー」


「まるでカップルみたいだな」


「・・・そっすよね」


なんだか一瞬、六花の表情が曇ったように感じたが、気のせいだったんだろうか。


「晴翔さん、これなんかどうっすか?」


「これは、キーチェーンか?」


「そうっす。これなら、そんなに目立たないしいいんじゃないないっすかね」


「それもそうだな」


俺は会計を済ませるため、レジに並ぶ。六花には外で待ってもらい、俺だけがレジに並んだ。


俺は、買い物を済ませると、外で待っていた六花と合流した。


「お待たせ」


「遅いっす」


「ごめんごめん、そろそろ帰るか?」


「いえ、最後にアレに乗ったら帰るっす」


そう言って、六花が指差すのは大観覧車だ。遊園地に来てすぐ乗りたいと言っていたことを思い出した。


タイミングが大事だと言っていたが、今がそうだということか。


「よし、じゃあ行くか」


「はいっす!」


ーーーーーーーーーー


遊園地の大観覧。


夕方から夜にかけて、人が集まってきており、長蛇の列をなしていた。これに並ぶのか。


チラッと六花を見ると、ワクワク半分、なにか決心したような覚悟半分と言った雰囲気である。


もしかして、高所もダメだったりするのか?


「六花は高い所とか大丈夫なのか?」


「えっ?あ、はい。高い所は大丈夫っす。観覧車はゆっくりですしね」


「そっか。なんだか、さっきから黙ってるから心配になったよ」


六花は基本的に無言が苦手で、自分からよく喋る方なのだ。それなのに、列に並んでからは随分と大人しくなっていた。


「あ、いえ、別に、ちょっと気持ちの整理をしていただけっす」


「そっか、ならいいけど」


列に並んで待つこと40分。やっと俺達の番になった。


俺達がなる頃には、すっかり日も暮れてあたりは綺麗にライトアップされていた。


ーーーーーーーーーー


ふぅ、ついにこの時が来たっす。


観覧車。それは、2人っきりで邪魔の入らない空間。そして、告白のチャンス。


晴翔さんが買い物から帰ってきたら、次はアレに行って、晴翔さんに・・・。


あぁぁぁぁぁ!!


考えただけで、口から心臓が飛び出しそうっすよぉぉぉぉ!!


なんで、こんなに緊張するんすか!?


空手の大会でも、こんなには緊張しないのに。


でも、少し考えたら理由がわかったっす。空手の試合では確かに緊張はするけど、勝てるとわかってるから、さほど気にはならなかった。


けど、告白に関しては、成功する光景が全く浮かばないっす。だから緊張する。世の中のカップル達はこんなのを経験して来たんすね。


なんだか、今周りでイチャイチャしているカップル達に尊敬の気持ちが湧き上がってくるっす。


「お待たせ」


「遅いっす」


もう、晴翔さんが遅いから、色々考えちゃったっす。主に失敗した時のことを。


でも、もう引き返せないっす。僕の気持ちを晴翔さんに知ってもらうんだ。


「いえ、最後にアレに乗ったら帰るっす」


僕達は、長蛇の列をなす大観覧の列に並んだ。待ち時間的には、40〜50分と思ったより長くない。この待ち時間の間に、なんで言うか考えておかないと。


でも、考えれば考えるほど、僕の頭の中はパニックになっていた。ダ、ダメだ、全然まとまらない。


しかし、時間は待ってはくれない。だんだんと列は進み、ついに僕達の番になってしまった。


観覧車に乗り込むと、あたりはすっかり暗くなり、遊園地や市街地のライトがとても綺麗だった。


「うわぁ、綺麗っす」


「そうだな」


やばいっす、雰囲気バッチリじゃないっす!?これは、行くしかないっす。


「は、晴翔さん」


「どうした?」


「あの、その、隣に座っても、いいっすか?」


「隣?別にいいよ」


晴翔さんは一緒、ポカンとしたがすぐに横にずれてくれた。


ふぅ、散々抱きついたりしてたのに、隣に座るのがこんなに恥ずかしいなんて思わなかったっす。


「大丈夫か?少し顔が赤いぞ?」


晴翔は僕の額に手を当てて熱がないか心配してくれている。


晴翔さんの手はひんやりと冷たくて、僕の顔が熱くなっていることがよくわかった。


「ふわぁ、ひんやり気持ちいい」


「やっぱり、少し熱いかな?」


「晴翔さん、これは大丈夫な熱なんで気にしないで下さいっす」


「そうか?」


「はいっす。それより、晴翔さんって、彼女何人居ましたっけ?」


これは大事な話っす。一体、僕は何番目の女になるのか。


「えっと、4人だけど」


「そ、そんなに居ましたっけ!?」


「幼馴染の香織に、同級生の綾乃、先輩で生徒会長の澪、同じ事務所で後輩の桃華の4人」


「な、なるほど」


お、思ってたより多かったっす。それに、最近は外国の女の子とも仲がいいって、マネージャーが言ってた気がするっす。


これは、もう行くしかないっす。


観覧車が天辺に着いたら告白するっす。晴翔さんに。


もう少し、もう少しっす。


僕達を乗せたこの籠は、ゆっくりとそして確実にのぼっていく。


「ふぅ、晴翔さん」


「どうした?」


「晴翔さんに、お話が、あるっす」


「うん?」


「ぼ、僕、その」


僕は言葉に詰まって、なかなか『好き』と言う言葉が口から出て来ない。


それでも、僕が話すのを黙って待ってくれている。それだけで嬉しかった。


そう思った瞬間、嘘みたいにすんなりと言葉が出てきた。


「好き」


うん、今なら言える。


「晴翔さん。僕、晴翔さんが好き」


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