第111話 遊園地
「いや、今日は家から出ないって言ったよね?」
「はい、ちゃんと聞いてたっす!」
「じゃあ、なんで俺の手を引いて玄関に向かおうとする」
さっきまでリビングに居たのに、今は玄関のところまで引っ張られて来ていた。
「お願いします!師匠〜!」
今にも泣き出しそうな、そんな表情でこちらを見る六花。疲れてるから出たくはないんだが。
「師匠ー」
「はぁ、わかったよ。じゃあ準備して来るから待っててくれ」
「やった!いや、私も着替えて来るので、現地で集合するっす!」
それだけ言い残すと、勢いよく玄関の扉を開けて飛び出していった。
「相変わらず元気なやつだな」
俺は、仕方なく外出のため部屋着から着替えることにした。それにしても、もうお昼だってのに、どこに行くんだ?
ピロン
スマホを確認すると、メッセージは六花からのようだ。
『ここに集合っす!』というメッセージと共に、マップが貼り付けられていた。
「マジか、今から行くのか?」
俺はマップを確認し、一瞬間違いでは?と思ったが、とりあえず指定の場所まで向かうことにした。
ーーーーーーーーーー
ガヤガヤガヤ
お昼だってのに、この時間から来る人といるだな。自分達だけでないとわかり、少し安心した。
しかし、遊園地なんていつぶりだろうか?
集合場所に到着してから、しばらくすると見覚えのある人影が現れた。
「師匠ー!すみません、待ったっすか!?」
「い、いや、今来たところだけど・・・」
俺は一瞬誰かと思ったが、声を聞いて六花だと認識した。さっきまで、上下ジャージだったので、ギャップに驚いた。
今日の六花は、普段の男の子みたいな格好とは違い、大人な女性の装いだ。
白のブラウスにコーヒー色のハイウエストのロングスカート。スタイルのいい六花によく似合っていた。
「なんすか師匠〜、僕に見惚れちゃったんすか〜?」
ニヤニヤしながら言ってくる六花。まぁ、実際よく似合っているから本当に驚いた。
「ほら、これスリットになってるんすよ〜」
チラチラと生足を見せる六花。よく引き締まった脚が見える。
「そうだな。よく似合ってるよ、可愛い」
「ふぇ!?」
変な声を出したかと思えば、さっきまでヒラヒラめくっていたスカートをバサッと抑えて、恥ずかしそうにしている。
「ほ、本当に、可愛いっすか?」
「うん、可愛いよ。これからも、たまには可愛い六花を見たいな」
「師匠が言うなら、べ、別にいいっすけど?」
「じゃあ頼むわ。さて、そろそろ行くか?」
「はい!」
俺達は今日の遊園地へと向かった。
「大人2枚お願いします」
「大人2枚ですね。男女ペアですと、カップル割もございますよ?」
へぇ、どこにいってもあるんだな。以前、水族館に行った時もあったっけ。
「じゃあカップル割のほうで」
「かしこまりましたぁ。それではお楽しみください」
俺はチケットをもらうと、敷地内へと入った。
「さて、どこから回るか?」
俺は六花の方を振り返ると、もじもじしている六花が視界に入る。
「どうした?」
「い、いえ、カップルだったら、その、名前で呼んだ方がいいっすよね?」
「ん?どっちでも構わないけど?」
そもそも、六花が勝手に師匠とか呼び出しただけだしな。
「じゃあ、晴翔さんに戻すっす。なんとなく、機会を失ってたので、ちょうど良かったっす!」
そう言って、悩みが吹き飛んだのか、満面の笑みで俺の手を取った。
「今日はデートっすからね。ちゃんとエスコートして下さいっす、晴翔さん?」
「え、デートなの?」
ぷくぅっと頬を膨らませる六花。まるでフグだな。俺は、膨らんだ頬を両側から手で挟んで潰した。
「ほら、ふくれるなよ。可愛い顔が台無しだぞ?ほら、行くぞ」
「あっ」
俺は、六花の手を握ると、再び歩き出した。
「もう、ずるいっす、晴翔さん」
ーーーーーーーーーー
「本当に入るのか?」
「も、もも、もちろんっすよ!」
「いや、お前震えてるぞ?」
「問題ないっす!」
六花は震えながら、俺にガッチリ抱きついている。俺た達がいま並んでいるのは、お化け屋敷の列だ。
初っ端から、お化け屋敷じゃなくてもいいと思うんだが、まぁ六花が入りたいならいいんだけど。どう見ても怯えている。
「は、晴翔さん。抱きついてていいっすか?」
「構わないけど、歩きにくくないか?」
「晴翔さんはわかってないっすねぇ、そんなの関係ないんすよ。無事にゴールすることが大切っす」
「はいはい」
そんなやりとりを見ていて、周りの人達は微笑ましく俺達のことをみていた。
「ねぇ、あの子見て可愛い〜」
「あんなに彼氏にくっついちゃって、可愛い」
「でも、あの人どっかで見たこと・・・あっ、HARU様だ!」
「本当だ、羨ましい!私も抱きつきたい!」
なんだか騒がしくなって来たな。早く順番来ないだろうか?
10分ほど、周りからの視線に耐え抜くと、やっと順番が回ってくる。俺達はさっさとお化け屋敷に入る。
入ると、中は薄暗くて1mくらい先までしかはっきり見えない。そして、夏とは思えない涼しさが余計に恐怖を煽っている。
「は、晴翔さん、居ますよね!?」
「いるよ。ずっと抱きついてるだろ?」
「そ、そうでした」
そんなことを話していると、後ろから気配がした。チラッと見ると、お化けの格好をした男性の姿があった。
「へぇ、結構リアルだな」
「な、何がっすか?」
すると
「ぐおぉぉぉ」
後ろにいたお化けが、勢いよくこちらに向かってくる。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「ちょ、六花!」
六花は咄嗟に回し蹴りを顔面目掛けて放つ。俺は間一髪、六花の身体を引き寄せることに成功し、六花の蹴りはお化けの顔面すれすれを通過した。
すると、お化けはもうそれ以上近づいてくることはなかった。
「六花、あんなの当たったらヤバいぞ!?」
「すすす、すみません!!」
このまま六花をフリーにしておくと、大変なことになりそうだ。
さっきのお化けの人なんて、ブルブル震えて帰って行ったぞ。
仕方ない。
「六花、こっち来なさい」
「えっ?は、はいっす」
「よし」
俺は六花を目の前に立たせると、後ろからガバッと抱きついた。
「ひゃっ!?は、はは晴翔しゃん!?」
「お前をフリーにすると怖いからな、このまま行く」
「ふぇ!?ぼ、僕、ここ出る前に死んじゃいますよ!?」
「人間、こんなとじゃ死なん。大丈夫だ」
「もう、心臓がヤバいっす。幸せを感じながら、僕は旅立つんすね。幸せな人生だったっす」
馬鹿なこと言っている六花を放って、俺はどんどん進んでいくが、もう六花がお化けを見て怖がることはなかった。むしろ、ずっとにまにましていて、お化け屋敷のこと忘れてるんじゃないだろうか?
お化けの方も、さっきのお化けに聞いたのか、遠くで唸ることはあっても、決してこちらに近づいてくるお化けはいなかった。
そのため、俺達はスムーズにお化け屋敷を抜け出すことができ、最速記録を叩き出した。
「ふわぁぁぁ、幸せぇ」
「おい、もう終わったぞ?」
「えぇ、もうおしまいっすか?晴翔さん、もっとぎゅっとして」
なんか、こいつ壊れたか?こんなに甘えてくるやつじゃなかったんだが。
「それより、次はどうするんだ?」
「晴翔さんいじわるっす。僕、もう晴翔さんが居ないとダメっす。晴翔さんは、僕のYogiboっす」
「俺はクッションかよ」
「僕をダメにするクッション」
「こら」
「いてっ」
くだらないやり取りを終えると、六花は元に戻っていたので、再び遊園地を満喫することにした。
「晴翔さん!今度はあっちに行くっすよ!早く早く!」
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