第110話 ご褒美下さい


「ハルくん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど??」


俺がお手洗いから戻ると、何故か不穏な空気になっている。


「晴翔くん、言い訳せず謝るのが身のためです。一緒にお墓に入ってあげますから」


俺は彼女達を見渡すが、怯えるエミーと混乱中の4人といった状況。


「ど、どうした?」


「ハルくん、エミリーちゃんとはどこまでやったのかな?」


「晴翔、私ともまだなのに」


「晴翔様は小柄な女性がいいのですか?」


「ハル先輩が知らない間に大人になってましたぁ!」


「いやいや、なんの話してるの?」


俺はエミーの方を見ると、怯えながらも何があったか教えてくれた。


「す、すみません晴翔さん。晴翔さんとキスしちゃったの言っちゃったんです」


「あー、なるほど。そういうことか。あのー、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」


そこから1時間ほどかけて、事故だったことを説明した。なかなか信じてもらえなかったが、エミーの説得もあり、なんとか信じてもらえたようだ。


「よかったぁ。てっきり最後までやっちゃったのかと思ったよ」


「す、すみませんでした」


「エミリーちゃんが謝ることないよ。全面的にこの女たらしが悪いの」


「いえ、私があの時、変な欲を出さなければあんなことには」


すっかり双葉がしゅんと下がってしまったエミー。なんだか申し訳なくなってきた。


「ハルくん、ちょっと飲み物買ってきてよ」


「え、なんで?」


「今それを言える立場なのかしら、ハルくん?」


あ、この顔は怒ってらっしゃる。俺は素直に頷いて、みんなのジュースを買いに行くことにした。


ーーーーーーーーーー


「さて、ハルくんが居ないうちに、緊急女子会を開催します!」


「さすが親衛隊長!」


「ふむ、今日も元気だね桃華隊員」


この2人のノリは今に始まったことではないが、綾乃と澪は常に一歩引いて、会議に参加している。


「それで、今日はなんの会議なの?」


綾乃が香織に訊ねるが、この状況での話し合いは一つしかない。


「それはやっぱり、エミリーさんのことではないですか?ホットな話題ですし、見るからに好きですよね?」


「桃華もそう思います!」


当の本人そっちのけで会議は進行していくが、ここでやっと発言権がエミリーにやってくる。


「さて、エミリーちゃん」


「は、はい!」


「ハルくんのどこが好きなのかな?」


「えっ、べ、べべべ別に好きじゃないですよ!?」


「隠さなくていいよ、エミリー。晴翔を好きな者同士、見ればすぐにわかる」


「そうですわね。厄介な女を引っかけて来なくて良かったですね」


「本当ですよ!ハル先輩は手が早いです!」


最初こそ、誤魔化そうとしたエミリーだったが、もう歓迎ムードになっているため、隠す必要もないと判断した。


「そ、そうですね、晴翔さんは凄く、格好いいですから。別に、私がチョロいわけじゃないんですよ!?ただ、晴翔さんが格好良すぎるだけで、決して一目惚れなどではなくてですね」


「あ、その辺でいいよエミリーちゃん。なんとなくわかった気がするから」


「えっ、もういいんですか?」


聞かなくても、ぽろぽろ話し出すエミリーに、香織達4人は同じ判断をした。


『うん、こいつはチョロい』と


「せっかくだから、女子会の連絡グループへの参加を許そう、エミリーちゃん」


「こ、光栄です!隊長!」


「また増えたぞ」


「どこまで増えるんですかね」


「香織先輩は最近判断基準が緩くなりましたよね。どうにか10人以内には抑えて欲しいです」


「「本当に」」


こうして、エミリーがハルくん親衛隊に加わり、メンバーは5人となった。


「まぁ、大変なのはここからだから頑張ってね」


「そうだぞ、付き合うまでどれだけ頑張ったことか。自分を褒めてあげたい」


「そうですわね。とりあえず、守ったら負けだと思いますわ」


「そうです!ハル先輩は攻めてなんぼです!」


「わ、わかりました!頑張ります、先輩方」


その後、緊急女子会は無事に閉会し晴翔が戻る頃には、女子達は皆、エミリーのことをエミーと愛称で呼ぶようになっていた。


そして、晴翔の帰国を祝うため、その後は皆んなで遊び尽くした。今回の集まりは夕飯まで食べたところで、流石に疲れたのか、やっと解散となりそれぞれ美涼が送っていくこととなった。


ーーーーーーーーーー


コンッコンッ


「師匠ー」


コンッコンッ


「師匠ー?入るっすよー?」


ガチャ


「おはようっす、師匠ー!」


師匠が帰国したと聞いて、本当は空港に行きたかったっすけど、昨日は空手の大会があってどうしても行けなかったっす。無念。


それにしても、貴方の可愛い六花が来たというのに、まだ寝てるっす。


もう時刻は11時を回っている。いつもの晴翔なら起きててもいい時間なのだが、流石に疲れが溜まっているようだった。


「師匠、まだ寝てるっすか?」


師匠は寝てても殺気で起きれるらしいっすからね、ここは無心で近づくっすよ。


『あぁ、師匠の寝顔ヤバいっす!男とは思えぬ美しさ!我慢出来ないっす!』


僕は、そーっと手を伸ばして師匠の顔を触ろうとしたのに、気づいたら手首を掴まれてたっす。


「あ、師匠、おはよう、いでででで!」


「あ、ごめん六花か。おはよう」


「師匠、酷いっすよ〜。可愛い僕にこんな仕打ち。あんまりっす。謝罪を要求するっす!」


僕は、ここぞとばかりに師匠を攻め立てる。だって、勝てるのは寝起きの今だけだから。


「わ、悪かったよ。謝るから、ごめんな」


「全然足りないっす!誠意が伝わらないっす!あぁ、お腹が空いたっすねー。誰かご飯奢ってくれないっすかねー」


「わかったよ、ご飯食わしてやるから、許してくれよ」


「やったー!じゃあ早速行くっすよ!」


「え、疲れてるから家から出ないよ今日は」


「師匠、ご飯、奢ってくれるって、言ったっす、よー」


僕は今にも泣きそうになりながら、どうにか堪えて抗議した。すると、どうやら師匠がご飯を作ってくれるらしいっす。


「すぐに行くから、リビングで待ってて。てか、母さんは?」


「リビングで待ってるっす!あ、真奈さんならもう仕事に行ったっすよ?」


それじゃ、と言い残し部屋には晴翔のみが残された。僕は、師匠の手作りご飯を、まだかまだかと待ち続けた。


ーーーーーーーーーー


「ふわぁぁぁ、ところで、なんでうちに居るんだ?」


「ん、ふぃのう、からふぇの、ふぃあうぃ、だったんす!」


「わかんねーよ、飲み込んでから話せよ」


六花は、口に入っているご飯を一度飲み込んだ。


「すみません。師匠のご飯が美味しくてつい。えっと、昨日空手の試合だったんすよ!」


「あぁ、そういえばそうだったね。結果はどうだったの?」


俺の問いかけに、六花は満面の笑みを浮かべVサインを決める。


「もちろん優勝したっすよー!」


そう言って、メダルと賞状を見せてくれた。この大会は、国内では結構大きい大会で、ここで勝てれば次の舞台が見えて来る、大事な大会だ。


「さすがは我が門下生だ。このまま行けば、男女共に日本一が取れそうだな」


俺は嬉しくなって、つい頭を撫でてしまう。実は昨日、みんなからむやみやたらに頭を撫でるなと言われたばかりだった。


「はぁぁぁぁ、師匠〜、幸せっす〜。もっと」


俺が香織達からの忠告を思い出した頃にはもう遅く、やってしまったものはしょうがない。俺は、六花の頭をもう一度撫でてあげた。


「むふぅ、充電完了っす!これでしばらくは頑張れそうっす」


「そういえば、また大会あるのか」


「そうっすよ。次勝てば、いよいよ世界が見えてくるっす!僕頑張ります!」


「おう、頑張れ!」


「はいっす!それで、その、頑張るために、今回のご褒美を所望したいっす」


ふむ、今回は一人で道場にこもって頑張ってたからな、ちょっとばかりのご褒美はあげるか。


「何がいいんだ?」


「いいんすか!?」


パァっと笑顔で瞳を輝かせている六花。高い物じゃないだろうな?


「モノによる」


「で、出来たら、今日一日、僕に下さいっす!」


「えっ?」


予想外のご褒美に俺は面食らった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る