第109話 誤解


「えーっと、こちらはモデルのエミー。今回一緒に仕事をしてきて、たまたま帰りの便が一緒だったんだ」


「エミリーです。よろしくお願いします」


エミーは勢いよく頭を下げる。


その様子を見て、悪い子ではないと伝わったのか、少し雰囲気が和んだ。良かった。


「えっと、こっちは俺の彼女達で西城香織、大塚綾乃、不知火澪、それから知ってると思うけど田沢桃華だ」


「よろしくね、エミリーちゃん」


「よろしく、エミリー」


「よろしくお願いします」


「久しぶり、エミリーさん!日本語だいぶ上手になったね!」


それぞれ挨拶を済ませると、桃華はエミリーの日本語の上達に驚いたようだ。


それもそうだろう。俺が頑張って教えたからな。心苦しいが、俺の時と同じでご飯のおかずをかけた罰ゲーム付きで。


「はい、晴翔さんが教えてくれましたから。ちゃんと出来ないとお仕置きされちゃうので、頑張って覚えました!」


「お、お仕置き!?ハル先輩のお仕置きって!?」


「晴翔さんのお仕置きは、すごいんです。私あんなのは初めてでした」


「ハルくん、仕事しに行って、いったい何をしてたのかな??」


「晴翔、そこのところ詳しく聞こうか」


「そうですわね。それがよろしいかと」


「いやいやいや、ご飯のおかずを没収しただけだからね!?」


本当に?と言わんばかりの視線が痛い。


「本当ですよ。私、おかずを没収されたの初めてで、必死に頑張りました」


「そうだよな、エミーは頑張ったよな」


俺はエミーの頭をなでなでする。やっぱり、エミーの髪はサラサラだな。


「ふみゃぁぁぁぁ、晴翔さん、とろけちゃいますぅ」


「あぁ、ごめん」


「ハルくん、エミリーちゃんとはどういう関係で??」


俺は、ハッとして、エミーの頭から手を離したが、時すでに遅かった。


「い、いやぁ、これはつい癖で」


「そうやって、いつもたらし込んでくるんでしょ!?」


「晴翔、後でお話ししようか?」


「晴翔様、私も聞きたいですわ」


「私も私もー」


なんだか騒がしくなってきてしまったので、俺達はとりあえず空港から移動することにした。


ーーーーーーーーーー


美涼さんに連れられ向かった先は、今年オープンしたばかりのレジャー施設だった。


いつも、人で溢れかえっており、なかなか来ることが出来なかったのだが、今日はガラガラで誰も居なかった。


「ここって、今日は休みなの?」


「いえ、今日は貸し切ったのです。せっかく晴翔様が帰ってくるのですから、久しぶりにみんなで遊ぼうかと思いまして」


「えっ!?貸し切ったの!?」


澪の発言に驚いた俺だが、それは俺だけでなく、香織達も驚いているようだ。


そんな中、美涼さんが一歩前に出て教えてくれた。


「ここは、不知火グループが経営しておりますので、何も問題ありません」


「えっ、不知火グループってレジャー施設もやってるんですか?意外ですね」


確かに不知火グループがレジャー施設を経営するなんて思っても見なかった。香織が驚くのも無理はない。


「えっと、今は私が代理で責任者としているのですが、ゆくゆくは晴翔様にくださるそうですよ」


「え、俺!?」


「はい、これは晴翔様への婚約祝いだとか」


「そんな話聞いてないんですが」


「してませんでしたからね。まぁ、責任者と言っても、人を雇えばいいのですから問題ありません」


なんだか知らないところで、話が大きくなっている気がする。後でお爺さんに話を聞きに行かなくては。


「晴翔さん、あの人お金持ちですか?」


「そうだよ、エミー。不知火グループは日本では敵なしの大財閥だよ。世界的に見ても、すごいんだけどね」


「ほえー、凄いですね」


「さて、着きましたよお嬢様方」


美涼さんは、車を停めるとドアを開けてくれる。順番に車から降りていく。


「さ、晴翔くん手を」


「美涼さん、ありがとうございます」


俺は美涼さんの手を掴んで車から降りる。


「葛西、いよいよ私より晴翔様を優先し始めましたね」


「お嬢様がご婚約されましたので、お嬢様だけでなく、晴翔くんにもご奉仕しなくては。もちろんお嬢様も今まで通りご奉仕いたしますよ」


「はぁ、好きにしなさい。では、皆さん行きましょうか。まずはお昼ご飯にしましょう」


俺達は、初めて訪れるレジャー施設にテンションが上がっていた。


この施設では、フットサル場など屋外施設もあるが、主に屋内施設がメインである。一番人気は日本最大級の屋内プールである。


そして、ご飯もフードコートからバイキング、レストランなど様々な物がある。


「皆さん今日は全て不知火家が持ちますので、好きに食べて下さい」


「「「やったー!」」」


香織達は好きなもの注文しに行ってしまった。しかし、エミーは俺のそばから離れようとはしなかった。


「エミーは何食べる?」


「え、えっと、晴翔さんと同じがいいです」


「そう?じゃあ、ラーメンとか」


「ラーメン!いいですね!」


俺とエミーはラーメンを注文して戻る。席に戻ると、もう既にみんなが待っていた。


それから、ご飯を食べ終えた俺達は、ドイツでのお土産話で盛り上がった。


「へぇ、エミリーちゃんは妖精姫だったのかぁ」


「凄い、検索すると画像がいっぱい出てくる」


「凄いですね。私も一度でいいので、コスプレやってみたいですね」


「コスプレ面白そうですね」


みんながコスプレに興味を持ってくれたのが嬉しいのか、エミーの双葉がぴょこぴょこ動き出した。


エミーは瞳をキラキラと輝かせ、話したくてうずうずしているようだ。


「あっ!?」


そんな中、綾乃がとある画像を見つけた。それは俺が執事のコスプレをして、エミーと撮ったものだ。


流石にキスしたやつは乗せていないので大丈夫だろう。


「ハルくんの執事、いい」


「私もお姫様抱っこして欲しいなぁ」


「エミリーさんが羨ましいですね」


「エミリーちゃん、顔真っ赤だよ。やっぱりイケメン執事に抱っこされると恥ずかしかった?」


確かに、写真のエミーの顔は真っ赤だった。まぁ、この写真を撮り直す前に、事故でキスしちゃったからな。お互い変に意識してしまった。


「そ、それは、そうなんですけど・・・した後だったから」


「えっ、なに?」


「ごめん聞こえなかった」


「いやいやいや、なんでもないよ。なっ、エミー!?」


エミーは一瞬ポカンとしていたが、理解したようで、ブンブンと勢いよく頷いた。


「はい、なにもなかったです!」


エミーは力一杯否定するが、それが帰って怪しかったようだ。香織達の疑いの目は晴れなかった。


「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるよ」


俺は、お手洗いに行くため席を立つ。エミーが心なしか寂しそうにこちらを見ている。


「すぐ戻るよ」


俺は頭をぽんぽんと撫でる。少し安心したのか、エミーは笑顔で俺を見送った。


ーーーーーーーーーー


俺がトイレに行って、席を外している時、わずかな時間ではあったが、緊急女子会が開催された。


「エミリーちゃん、さっきなんて言ったの?」


「え、いえ、なんでもないですよ!」


エミリーは、必死に隠し通そうとする。そして、日本に来たことで油断していた。


《さすがに、彼女さん達にキスしちゃったなんて言えないしなぁ。悪いことしちゃったかな》


《キス?》


《えっ!?》


エミリーは、晴翔以外にもドイツ語が話せる人物が居るとは思っていなかった。


「詳しく聞こうかしら?」


「どうしたの香織?」


「どうかしましたか?」


「先輩?」


ドイツ語を理解出来ない3人は、この状況を理解していなかったが、エミリーと晴翔のことであるのは間違いないと思った。


「そ、その、晴翔さんと」


「ハルくんと?」


「そ、その」


みんなが見守る中、エミリーは必死に言葉を発した。


「その、晴翔さんとしちゃったんです!」


「「「「はぁっ!?」」」」


突然4人が大声を出したため、エミリーはパニックになっていた。そのため、自分から何を言っているかわかっていなかった。


「ひぃぃぃ、すみません!つい出来心で、あの、私初めてだったので、何が何だかわからぬうちに終わっちゃんたんですけど!」


「さ、最後まで!?」


全く噛み合わない話が、繰り広げられる中、俺は帰ってきてしまった。


「晴翔くん、言い訳せず謝るのが身のためです。一緒にお墓に入ってあげますから」


美涼さんが訳のわからないことを言っているが、この状況が良くないことは、俺にもすぐわかった。


「ど、どうした?」

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