第108話 帰国

「なぁ、エミー」


「なんですか、晴翔さん?」


俺達は買い物を終えると、手頃な食べ物はないか見て回っていた。


「何か食べたいものあるか?」


「んー、私はなんでも大丈夫ですよ。晴翔さんはどうですか?」


「そうだなぁ。今日夕方には帰るから、軽く済ませたいかな?」


「なるほどです!では、デザートとかでどうですか?美味しいお店知ってますよ?」


「おぉ、助かるよ。さすが地元民」


俺達は、エミーおすすめのジェラート屋さんに行くことにした。


ーーーーーーーーーー


「ここ?」


「そうです!」


俺達が来たのは、フローズンヨーグルトの出店だ。なんでも、ドイツではアイスが一般的ではないらしい。


フローズンヨーグルトであれば、少し歩けばどこにでもあるのだとか。


「美味しいですよ?」


「初めて食べるから緊張するよ」


俺達は、オーソドックスなものを注文し、近くの公園に移動した。


俺は意を決して、一口食べてみる。


「うん、美味しい」


「よかったぁ」


食感も面白いが、ヨーグルトがヘルシーでとても食べやすい。


「その味は私も大好きなんですよ。気に入って頂けたようでよかったです」


「そうなんだ。ありがとう」


「えへへ、いえ。今度来た時はそっちを頼むことにします!」


エミーはそんなにこれが好きなのか。俺はスプーンで少し掬うと、エミーに向けてスプーンを差し出した。


「エミー」


「はい、って、えっ!?な、なな、なんですかこれは!?」


「これ、好きなんだろ?一口あげるよ」


俺は、今一度エミリーに向かってスプーンを差し出した。しかし、エミーはあわあわ言いながらあたふたしている。


「え、えっと、こ、これはいわゆるところの、か、かか、間接キスというやつで!アニメとかでよくある、アレですよね!?」


「ど、どうした?」


なかなか食べてくれないエミーに、俺は少し心配になった。


俺はいったんスプーンを引っ込まようとするが、それを見てエミーは慌てたように口を開く。


「あ、待って!・・・ん、あーん」


「よかった。はい、あーん」


エミーの口は小さくて、綺麗に入るか心配になった。もう少し小さくすればよかったかな。


少しはみ出してしまったが、なんとかエミーの口に収まった。


「ん、んん、んー美味しい!」


エミーは右頬に右手を当てて美味しそうに味わっている。すごく幸せそうな表情である。


そんなエミーを見ていると、少し口からはみ出たヨーグルトが目についた。


エミーはまだ、余韻にしたっていて気づいて居ない。このままだと、服に垂れて汚れてしまう。俺はエミーの口元に手を伸ばし、ついたヨーグルトを拭う。


「ふえぇ!?な、ななな、なんですか!?」


「あ、ごめん垂れそうだったから」


俺は手で取ったヨーグルトをパクっと食べながら、謝った。


「きゅうぅぅぅぅ」


「エ、エミー!?」


急に後ろに倒れそうになるエミーを俺は咄嗟に支えた。間に合ってよかった。


エミーの顔を覗くが、これはダメそうだ。しばらく寝かせておくか。


俺は、自分の太腿の上にエミーの頭を乗せて、起きるのを待った。それにしても、見事な金髪だな。


俺は、そっと髪を手のひらで掬うように持ち上げると、サラサラっと流れるように落ちていく。シャンプーーのCMとかで見るレベルの綺麗さだな。


その後も、頭を撫でながらエミーが起きるのを待った。


ーーーーーーーーーー


俺達は今、タクシーに乗って空港へ向かっていた。


「うぅ、先程は失礼しましたぁ」


「別にいいよ、俺もごめんな」


あからさまに、しょんぼりしているエミー。先程、30分ほど経ったところでエミーは突然目を覚ましたのだが、起きてからずっとこの調子である。


「せっかくの晴翔さんとの時間がぁぁぁ。もう、なにやってるのよぉぉ」


「まぁ、また暇があったら遊びに行こうよ。もうそろそろ空港までに行かなきゃならないから」


荷物は恵美さんが手配してくれて、もう空港に持っていってくれているらしいので、俺はお土産だけ持って空港に向かっていた。


「ところで、なんでエミーまでついてくるんだ?」


「え、空港に向かうんですよね?」


「そうだけど」


「あれ?マネージャーさんに聞いてないですか?」


「いや?特に」


「ふーん、ま、いいか。ちょっと用があるので空港まで一緒に行きます」


「そうなんだ、じゃあもう少し一緒に居られるな」


「そ、そういうことをサラッと言わないでくださいよぉ」


エミーは手で顔をパタパタと仰ぎながら言う。向こう側を向いているため表情は見えないが、耳が少し赤くなっている。


しばらくすると、空港へ着くと入口には恵美さんが待っていた。


「あ、おーい晴翔くん!」


大きく手を振る恵美さんのもとへ俺達は向かう。


「お待たせしました」


「いいえ、それよりエミリーちゃん、晴翔くんについて来てくれてありがとう」


「いえ、楽しかったですから」


「それより、ちょっと会わない間に日本語上手くなったね」


「はい、これも全て晴翔さんのおかげです。あ、愛の力ですね」


チラッとエミーへ晴翔を見るが、晴翔はスマホを見ていて聞いていなかった。


「エミリーちゃん、頑張って」


「うぅ、はいぃ」


恵美さんはエミーの肩に手を乗せて、エミーを励ます。エミーは項垂れながらも、なんとか返事をした。


「さて、そろそろ乗るよ晴翔くん」


「はい。エミー、また日本に来るんだろ?」


「はい、すぐにでも行きます!」


「そっか。ならまた会えるね。それじゃ、またね」


「はい、また」


俺達は、別れを惜しむことなく、あっさりとその場を後にした。


飛行機に乗り込むと、俺はエコノミークラスの席に来ていた。帰りの席は2席シートの窓際だった。


来る時はど真ん中だったので、景色を楽しめなかったが、帰りは存分に楽しめそうだ。


《隣、失礼します》


《あ、はい、どうぞ》


突然のドイツ語に、俺も咄嗟にドイツ語で答える。しかし、聞き覚えのある声にチラッと顔を見る。


「また会いましたね、晴翔さん」


「え?エミー!?」


なんでエミーがここに??


「マネージャーさんに帰りの便を聞いといたんです。それで隣の席も取っておいてもらったんです」


「え、じゃあ、エミーも日本に?」


「はい!晴翔さんと一緒に日本に行きます!」


こうして、俺達は再び合流して一緒に日本を目指した。お互い疲れていたためか、飛行機の中では半分以上の時間を寝て過ごしたが、起きている時はとても楽しい時間を過ごした。


ーーーーーーーーーー


俺達が日本に着いたのは、翌日のお昼前だった。今日は土曜日なので、学校が休みのため香織達が来てくれることになっている。


「えーっと、どの辺だ?」


俺はキョロキョロとあたりを見渡すと、遠くの方でこちらに大きく手をする彼女達を発見する。


「あれが彼女さん達ですか?皆さん可愛いですね」


「自慢の彼女だよ。行こうか」


「・・・はい」


いつも笑顔のエミーだか、空港に着いてからは少し機嫌が悪そうだ。全然笑わなくなってしまった。


「晴翔くーん、おかえり!!」


「晴翔、おかえり」


「晴翔様おかえりなさい」


「ハル先輩!待ってましたよー!!」


あぁ、彼女達に会うと帰ってきたなと実感する。それだけ、彼女達が俺の日常になっていたのだろう。


「ただいま。お土産も買ってきたからね」


俺は香織達に話しかけるが、なんだか様子がおかしい。


「お土産」


「お土産か」


「そうですか」


「ハル先輩〜、また引っかけて来ましたね!?」


彼女達の視線の先には、俺の後ろからひょこっと顔を出すエミーがいた。なんとなく、不穏な空気を感じながらも、俺はエミーを紹介することにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る