第107話 ショッピング
香織との電話を終えた俺は、先ほどの香織とのやりとりを思い出していた。
数日会っていなかったためか、はたまた何かがあったのか。どちらにせよ香織のテンションはおかしかった。特に正妻がどうのいっていた時は、明らかに俺以外の人に言っていた気がする。
しかし、それ以上はわからないため、後で確認することにしよう。俺はホテルに戻ると、まず恵美さんの元へと向かう。今日は、お酒を飲んでないといいけど。
俺は恐る恐る恵美さんの部屋を訪ねた。
コンッコンッ
「どうぞー」
よかった。声を聞く限り大丈夫そうだ。俺は安心して部屋へと入る。
「失礼します。今帰りました」
「お疲れ様、晴翔くん。用事は済んだかな?」
「はい、ありがとうございました。それで、今後の予定なんですけど、どんな感じになってますか?」
「あーはいはい。じゃあちょっと打ち合わせをしちゃおうか」
そこから、俺は恵美さんに今後のスケジュールを確認した。俺の今後のスケジュールは俺の写真集の撮影で二日。バラエティ番組のロケが一件入っているらしい。
「結構、忙しいですね」
「いや、そうでもないよ。天気にも恵まれたし、撮影も順調にいけそうだよ」
「そうなんですね。ちなみにロケって何するんですか?」
「今回は食レポだよ。ドイツの美味しいお店を何軒か紹介するみたい。食レポは初めてだから、気負わずにやればいいからね」
「わかりました」
打ち合わせは思ったよりもあっさりと終了した。まぁ、仕事といっても日本にいた時と何も変わらない。頑張ろう。
ーーーーーーーーーー
その後、俺の初めての海外での仕事は、思っていたよりもスムーズに進んだ。
撮影に帯同していたスタッフの皆さんも、見知った人が多く、とてもやりやすかった。
あっという間に一週間が過ぎてしまった。撮影の合間には、観光地を巡ったり、エミーの日本語の勉強に付き合ったり、結構忙しかった。
今日が一応最終日になるので、香織達のお土産を買いに行くことにした。
しかし、どこに買いに行くべきか。俺が迷っていると、スマホに着信があった。
「もしもし?」
「もしもし、晴翔さんですか?」
電話の相手はエミーだ。何かあったのだろうか?
「どうしたの?」
「晴翔さん、今日が最後ですよね」
「そうだよ。よく知ってるね」
「えへへ、安藤さんに聞いたんです。それで、今日なんですけど、お時間ありますか?」
「ちょっとお土産を買いに行こうとしてたんだよね」
「だったらお手伝いしますよ!」
「本当に?」
「はい、任せてください!じゃあ、お迎えにいきますね」
「わかった、待ってるよ」
良かった。これならなんとかなりそうだな。俺は出かけるために支度をする。
すると、恵美さんがやってきた。
「晴翔くん、今日の夕方の便に乗るからそれまでに空港まで戻って来てね」
「わかりました。ちょっとエミーとお土産を買いに行ってきます」
「エミリーちゃんと一緒なのね。なら大丈夫そうね」
「はい、それじゃあ行ってきます」
俺はホテルを出ると、エミーが来るまで外で待つことにした。
待つこと10分。
「晴翔さん!」
小走りでやってきたエミーは、白のワンピースにカーディガンを羽織っている。さすがモデルさん。どんな服も着こなせるんだな。
コスプレのお嬢様も可愛かったが、今日の服装はよく似合ってる。可愛いな。
「えへへ、私、そんなに可愛いですか?」
「あれ、声に出てた?」
「はい。それで、私可愛いですか?」
「うん、可愛いよ。よく似合ってる」
「むふぅ、なんだか気恥ずかしいです」
頬を両手で挟んでくねくねしているエミー。こう見ていると、本当にただの同年代の女の子だな。
仕事の時はもっと大人びて見えたが、さすがプロだな。
「さて、どこ行けばいい?」
「お土産ですよね。だったらショッピングモールに行きましょう。あそこならなんでも揃いますから」
「そっか。なら案内してもらってもいい?」
「任せてください!」
エミーは、そういうと俺の腕にしがみつき、腕を組んだ。
「晴翔さん、行きましょう!」
張り切るエミーに連れられて俺達はショッピングモールに向かった。ショッピングモールかぁ。日本ではよく彼女達と行ったな。
なんだかデートみたいだな。
「みたいじゃないです」
「えっ?なに?」
「いいえ、なんでもないです!」
「そう?それにしても、日本語上手くなったね。スラスラ喋れてるね」
「はい、晴翔さんのおかげです!だいぶ喋れるようになりました。ありがとうございました」
俺がエミーに教えた時間なんて、トータルしてもほんの数時間だったのだが、凄い吸収力だな。
俺達は会話を楽しみながら、ショッピングモールに向かって歩き続けた。
ショッピングモールまでは結構な距離があり、50分ほど歩いただろうか。しかし、エミーとの会話に集中していたため、退屈はしなかった。
「晴翔さん、ここです。大きいでしょう?」
「た、たしかにでかいな。夕方までに買って帰れるかな?」
俺の目の前にある建物は、日本のショッピングモールとは比べ物にならないほど大きかった。
「どんなお土産を買いますか?」
「お菓子と何か置き物とか?」
「なるほど、任せてください!」
エミーは俺の希望を聞くと、迷わずにお店を回っていく。ここにはよく来るようで、お店の配置はよく知っているようだ。
俺は彼女達が好きそうな物を購入していく。俺は領収書を取っておかない人なので、その場でゴミ箱に捨てる。
するとエミーは驚いたように声をかける。
「領収書、捨てちゃうんですか?」
「えっ?そうだね、使わないし。どうかした?」
「あ、いえ、ドイツではプレゼントと一緒に領収書も渡すんですよ」
「えっ、マジで!?」
マジか。日本では値段がわからないように、値札とかレシートには注意するんだけど。
「ドイツでは、気に入らないプレゼントは払い戻しできるように領収書を渡すんです。いらない物を受け取っても嬉しくないですから」
「随分とハッキリしてるんだね」
「そうですね。あと、ドイツの女性には高価なプレゼントは厳禁です。そういう男性は嫌われます。お金で買われているような気がして嫌です」
「なんというか、国が違うとプレゼントも考えないとダメなんだな」
「そうですね。気をつけて下さいね」
まぁ、ドイツ人の女性にプレゼントを贈ることはないと思うが、一応覚えておこう。
その後も、お土産選びは順調に進み、なんとかお昼までに買い終わることができた。
「よかった。なんとか買えたな」
「よかったですね」
「そうだ、エミーにも何かプレゼントしたいんだけど、なにか欲しいものある?」
「えっ、良いんですか!?」
「もちろん」
「な、なんでもいいんですか?」
「うん、いいよ」
「でしたら」
エミーは恥ずかしそうにしながらも、俺の腕を引いて歩き出す。そして、あるお店の前で止まった。
「な、なぁエミー」
「はい」
「ここで間違いないのか?」
「そ、そうです。できたら、その、晴翔さんの、好みの物を教えて頂けると」
いやいやいや。
好みの物って言っても、ここ下着屋だよね??
「じゃ、じゃあ選んでくるので、色だけ教えて下さい」
「えっ、ちょっ」
俺の静止を待たずに、エミーは下着選びに行ってしまった。俺はランジェリーショップで気まずくなりながらもエミーを待つことにした。
すると、しばらくしてエミーが帰ってきた。
「こ、この中なら、何色がいいですか?」
持ってきたのは、オーソドックスな形の下着で色は3色。
白、黒、赤。
「本当に俺が選ぶの?」
「は、はい。恥ずかしいので、早めにお願いします」
これは下着じゃない。水着の時と同じだ。考え過ぎず、第一印象で選ぼう。
「えっと、じゃ、じゃあ黒、かな?」
「わ、わかりました。買ってきます」
エミーはタタタタッと小走りにレジへと向かった。
《彼氏さんですか?ラブラブですね》
《い、いえ、まだそんなんじゃ!》
《ふふふ、応援してます妖精姫。あの人、競争率高そうですから、ほら》
《ふぇ?》
エミーが振り返ると、店中の女性がチラチラと晴翔を見ていた。そのことに気づくと、エミーは早く戻りたくてたまらなくなった。
《お、お会計、お願いします!》
《はい、じゃあお預かりします。お待たせしました。頑張って下さい》
《あ、ありがとうございます!》
ペコペコと店員さんに頭を下げているエミー。一体何をしているのか。何度かペコペコすると、急いでこちらに戻ってくる。
「何かあったのか?」
「い、いえ、なんでもないです!」
「そ、そうか。じゃあ行こうか?」
「はい!」
エミーは嬉しそうに俺の腕にしがみつくと、再びショッピングモールを歩き始めた。エミーは紙袋から見える黒い布をチラチラと見ては、頬を赤くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます