第100話 ドイツへ
俺はドイツ行きを明日に控え、最後の準備に取り掛かっていた。
「パスポートは持ったし、着替えもよし、お金も大丈夫。まぁ、あとは向こうでなんとかなるだろ」
海外は初めてではないし、今回は恵美さんもいる。あとは、香織ん
俺は、一通り準備を終えると、香織のところへ向かう。
「ちょっと、隣に行ってくる」
「はいはーい、いってらっしゃい。ご飯出来るから、あんまり遅くならないでね」
「わかった」
もうすぐ夕飯の時間か。香織の家は夕飯の時間はいつも決まっており、今ならまだ大丈夫だろう。ささっと用事を済ませよう。
ピンポーン
『はーい、どなた?』
「晴翔です」
『あら晴翔くん、鍵開いてるからどうぞ』
「わかりました」
ガチャ
「お邪魔しまーす」
「ハルくん!」
玄関を開けると、香織が2階からものすごい速さで降りてくる。
「危ないぞ、香織」
「大丈夫だよ。それより、こっち来て」
俺は招かれるまま、リビングの方へ向かう。夕飯はまだとはいえ、流石にもう家族揃っていたようだ。
「あ、
「やあ、晴翔くん。いらっしゃい」
香織のお父さんの貴史さんだ。貴史さんと会うのは、先日香織との婚約の話で伺った時以来だ。なんだか少し気まずい。
「晴翔くん、明日から行くのよね?」
「はい、そうです」
「だったら、これ持ってってくれるかしら。中身はいつものだからよろしくね」
「わかりました。香織は何か持っていくか?」
「私はこれ」
香織から手渡されたのは、一通の手紙だ。
「手紙か。ドイツ語書けるようになったのか?」
「なんとかね。喋れるけど、書けないなんて恥ずかしいからね。頑張ったよ!」
「そうか、じゃあこれは預かるぞ」
「うん、よろしくね!」
俺は、香織と明日香さんから預かったものを持って、家へと戻った。
忘れないように、すぐにカバンにしまうと、夕飯が出来ているようなので、急いでリビングへと向かった。
ーーーーーーーーーー
そして、翌日。
俺はいま、空港に来ていた。別に一年以上会えないわけではないので、見送りはよかったのだが、みんな律儀に見送りに来てくれた。
「ハルくん、ちゃんと連絡頂戴ね」
「晴翔、気をつけてね」
「お仕事頑張って来てくださいね」
「ハル先輩、寂しくなったら電話していいですからね!」
「みんな、ありがとう。わざわざ来てくれるとは思わなかったよ」
去年までだったら、来てくれたのは香織だけだっただろう。俺の日常もだいぶ変わってきた実感がある。
「来るに決まってるでしょ」
香織がそう言うと、残りの3人もコクコクと頷く。
「それにしても、あの人は来なかったんですね?」
「誰だ?」
「六花ですよ。絶対来ると思ったのに」
「六花はいま、それどころじゃないしな。それに近々会うことになるから大丈夫だよ」
「ふーん?そうなんですか。密会ってやつですか?」
「あのね、六花は俺の友達なの。密会にならないから」
『そう思ってるのはハルくんだけよね』
『晴翔のこれを突破するのは大変だぞあの子』
『晴翔様は好意に鈍いですからね』
なんだか、じとっとした目で見られている。俺が何かしただろうか??
「まぁ、今はいいか。ハルくんいってらっしゃい!」
「「「いってらっしゃい」」」
「うん、ありがとう、みんな」
俺はみんなに見送られながら、飛行機へと乗り込んだ。飛行機はどうしても、離陸するまで緊張するなぁ。
俺は、ドキドキしながら離陸を待つ。
だんだんと、乗客が増えてくると機内はざわつき始める。
「あ、あの人、HARU様だよ!?」
「うそ、HARU様がエコノミーに!?」
今回、社長はビジネスクラスをと言ってくれたのだが、俺はまだまだ新人だしお断りしてエコノミーで行くことにした。
同じ飛行機で値段が違うと、少し気が引けてしまう。エコノミーでゆっくり向かうことにしよう。
俺は真ん中列の3席シートの真ん中の席だった。よりによって真ん中とは気まずいな。変な人が来ないといいけど。
「あ、私ここだ。隣失礼します」
「はい、どうぞ」
「ありがとうって、えっ!?HARU様ですか!?」
「は、はい」
座る直前で俺に気づいたようで、友達と盛り上がっている。
「やばいよ!私の隣HARU様だった!!」
「えっうそ!?変わって!」
「嫌よ!」
「けちー!」
なんだか揉めているようだが、話が着いたようで、さっきの女性が戻ってきた。
「すみません、騒がしくて」
「いえ、大丈夫ですよ」
「あぁ、HARU様優しい。格好いいし、声も素敵。やばい、私今日が命日かしら」
この後、反対側の人が来た時も同じことが起こり、とても賑やかな旅立ちとなった。
俺はとりあえず取り付けられているモニターで映画を見ながら時間を潰すことにした。
それにしても、何本見れば到着するのだろうか?
「HARU様、これ食べますか?」
「ありがとうございます」
隣の席の女性がお菓子をくれた。御礼にこちらもと思ったが、俺は食べ物などは持ってきていなかった。
「すみません、お礼をしたかったんですけど、お返しするものがなくて」
「あ、いえ、気にしないで下さい!」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
「あ、あの、HARU様。もし良かったらサインもらってもいいですか?」
「それくらいでしたらいいですよ」
「ありがとうございます!」
俺は差し出されたスマホの裏にサインをした。本当にスマホでよかったのだろうか?
まぁ、すごく喜んでいるからいいか。
ーーーーーーーーーー
「ふわぁ、長かったぁ」
俺は長旅で固まった身体を、背伸びをしてほぐす。
さて、恵美さんが先に来てるはずだから、合流しないと。どこだ?
俺は空港から出たところでキョロキョロとしていると恵美さんを発見した。
「おーい、晴翔くん」
「恵美さん」
よかった。無事に合流出来たぞ。
「ごめんね、遅くなっちゃった。さて、とりあえずホテルに荷物を置いたらスタジオに行こう」
「はい、わかりました」
俺達はタクシーに乗ってホテルへと向かう。
「晴翔くんはドイツ語大丈夫なのよね?」
「はい」
「お願い出来るかしら。私ドイツ語は全然ダメで」
「わかりました」
俺は、運転手さんに目的地を伝える。
《すみません、ここまでお願いします》
《はいよ、お客さんドイツ語うまいね》
《何度か来ていますし、知り合いが居まして》
《そうかい、じゃあ出発するよ》
「晴翔くん、すごいね。何言ってんのかさっぱりだったよ。独学?」
「いやいや、流石に無理ですよ。ドイツに知り合いが居るんですよ。話しているうちに喋れるようになって」
「そんな感じなの?やっぱり経験に勝るものはないのね」
「そうかもしれないですね」
空港から30分ほど走ると、目的地に到着した。チェックインすると、荷物を置いてスタジオへと向かう。
今日は撮影はないのだが、一応挨拶だけでもしたほうがいいとのことだった。
「さて、行こうか」
「はい」
俺達はスタジオに着くと、スタッフの皆さんに挨拶をして回った。俺がドイツ語が喋れることは知っていたようで、話はすんなり進んだ。
さらにしても、なんで知ってるんだ?
《HARUさん!》
「えっ?」
俺は呼ばれて咄嗟に振り返ると、そこにはエミリーさんがいた。
《お久しぶりです!》
《久しぶり、元気だった?》
《はい!HARUさんもお元気そうでよかったです。皆さんにはHARUさんのこと、事前にお話ししてありますので》
なるほど、それでこんなにスムーズに話が進んだのか。
《ありがとう、助かるよ。それから俺のことは晴翔でいいよ》
《わかりました、晴翔さん》
エミリーさんは、まだ仕事があるようなのでここで解散することにした。しかし、仕事場に知り合いが居て助かったなぁ。
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