第101話 私の王子様

「晴翔くん、話がスムーズに進んでよかったね。やっぱり、現地に知り合いが居るのと居ないのとじゃ大違いだね」


「そうですね。まさかエミリーさんに会えるとは思いませんでした」


「そうだね。エミリーさんは日本でも人気が出てきてるけど、ドイツだと既に大人気らしいからね。仲良くした方がいいよ」


エミリーさんは、青色の瞳に透き通るように白い肌、そしてナチュラルな金髪がとてもよく似合う。


ドイツでは『妖精姫』なんて呼ばれたりしていて、とても人気があるらしい。


特に、本人の趣味でもあるコスプレはすごい力の入れているようで、アニメ関連のイベントには欠かせない人物らしい。


恵美さんと共にご飯でも食べに行こうと思っていたのだが、遠くから走ってくる人物がいた。


「すみません!」


俺達は、30代半ばくらいの女性に呼び止められる。


「HARUさんとマネージャーさんですよね!?」


「そうですが、あなたは?」


相手が日本語だったため、恵美さんが一歩前に出て答えてくれた。


「あ、すみません!私はエミリーのマネージャーを務めております、小泉佳奈こいずみ かなと申します」


「あっエミリーさんの。私は、HARUのマネージャーの安藤恵美です」


2人はお互いに名刺を交換して、挨拶を交わす。


エミリーさんって、日本の事務所に所属してるのか。てっきりこっちの事務所だと思ってた。


「エミリーは今年から、日本で活動をしたいとのことで、日本の事務所に移動したのですが、日本ではまだ知名度が低く、こちらの仕事がメインになっているんです」


「そうだったんですね。でも、エミリーさんはとても可愛らしいですから、日本でもすぐに人気になりますよ」


「そう言っていただけると嬉しいです。明日の仕事でご一緒させてもらうので、よろしくお願いします」


小泉マネージャーは、また小走りでエミリーさんの元へと向かった。


「それじゃ行こうか」


「はい」


俺達は、ちょっとした観光と食事を楽しみつつホテルへと戻った。



ーーーーーーーーーー


「じゃあ、晴翔くん夕飯の時にまた会いましょう。それまでは自由時間でいいからね。それじゃ」


俺達は別々の部屋に分かれると、それぞれ自由に過ごすことにした。


俺はとりあえずみんなに連絡入れるか。


いや、待てよ?


確か、日本とドイツの時差は7時間だったはずだ。ということは、今17時だから日本では真夜中か。


流石に迷惑だよな。明日にするか、もしくは寝る前にメッセージだけ入れて寝るか。


俺は、何をしようか迷っていたが、あることを思い出した。


小泉マネージャーに会った時、エミリーさんの連絡先をもらっていたのだ。とりあえず登録だけしておくか。


俺はスマホでエミリーさんの連絡先を登録する。


「とりあえず、一言だけ送っておくか」


『晴翔です。よろしく』


これでよし。


俺はスマホを取り出したついでにエミリーさんについて検索した。


すると、コスプレの写真がたくさん出てきた。


「これは、凄いな」


俺でも知っているアニメのキャラクターのコスプレがずらりと並んでいる。


それにしても、すごい完成度だな。これは確かに人気が出るのも頷ける。日本でもコスプレの写真集とか出せばいいのに。絶対売れる気がする。


ピロン


「あ、メッセージ返ってきた」


『晴翔さん、今お時間大丈夫ですか!?』


『まぁ、少しなら大丈夫だよ』


『じゃあ、地図送るので来て下さい!』


俺は恵美さんに連絡を入れて、エミリーさんと合流することにした。


ーーーーーーーーーー


《エミリー、さっきのがHARUさん!?》


《そうですよ。すごく格好良かったでしょ!?》


《うん、うん!なんでエミリーがあんな推してるのか、よくわかったわ!》


私はいま、晴翔さんをみんなに紹介してまわっているのです。晴翔さんは日本で留まるような人ではないのです!


もっとグローバルに活躍できる方なのです!


しかし、初めはなかなかこの普及活動も上手くいってなかったのです。確かに晴翔さんは格好いいですが、どうすればみんなに知ってもらえるか悩んでいました。


そんな時、なんとドイツでも有名な大企業の社長さんが晴翔さんを自身のSNSで紹介していたのです。


その社長さんは日本人のようで、晴翔さんとも面識があるようです。


私は、その人を見習って自分のSNSを使って晴翔さんのことを宣伝しまくりました。


一度火がつくと、もう手がつけられないほどに女性達の関心は晴翔さんに向き、写真集はドイツでもバカ売れでした。


《エミリーも隅に置けないわねぇ》


《何がですか?》


《日本に行ったと思ったら、あんなイケメン引っ掛けてくるなんて。大胆な子》


《ひ、引っ掛けてなんてないですよ!?たまたま晴翔さんと知り合っただけで、確かに晴翔さんは格好いいですし、またお会いしたかったですが、それだけです!》


私は心の中を見透かされているようで、落ち着かないため、早口で捲し立てました。


《それにしては、今回の仕事の相手にHARUさんを指名してたじゃない?》


《はうぅ、それは言わないで下さい〜》


自分でも、なんであんなに大胆な行動に出たのか分からなかったのです。


《HARUさんじゃなきゃ仕事しないわ!と言い出した時は、どうしようかと思ったけど、あんなイケメンなら問題なしね》


《うぅ、意地悪ぅ》


私はさっさと帰ろうと思い、マネージャーを呼ぶことにした。スマホを取り出すと、画面にはある人物からメッセージが。


あ、これ晴翔さんだ!!


私は嬉しくなって、その場でぴょんぴょん跳ねて喜びました。やった、やった!晴翔さんの連絡先だぁ!


嬉しくて私は周りが見えていなかったようです。


《お、おい、妖精姫が》


《俺らの妖精姫が女の顔に》


《どこのどいつだ!?》


《あぁ、私達の妖精姫がついに、あの人のお姫様になるのね!?》


《可愛いわぁ》


周りが大騒ぎをしていることに全く気づいていない私は、早速晴翔さんに連絡をしました。


もしお時間があるようならちょっとでも、会いたい!


お願いします、神様!


どうか、晴翔さんが暇でありますように!


『大丈夫ですよ』


やったぁー!!


そ、それじゃあ、近くのカフェにでも行って少し合流を。


私は急いで身支度を整えると、マネージャーに送ってもらうことにしました。


《すみません、私変じゃないですか!?》


「エ、エミリーさん、ドイツ語じゃ私わかんないです。せめて英語にして下さい」


「ご、ごめんなさい!私ちょっと浮かれすぎちゃって」


「いいんですよ。エミリーさんは今日も完璧です。綺麗ですよ、妖精姫。これなら晴翔さんもイチコロです!」


「あ、ありがとう」


私は待ち合わせのカフェで、晴翔さんを待つことにしました。


あぁ、早く来ないかなぁ。


《ねぇ、君エミリーちゃんだよね》


《は、はい、そうですけど》


せっかくいい気分だったのに、誰だかわからない人に話しかけられて、私のテンションは一段階下がりました。


《ちょっと俺達と遊ぼうよ》


《い、いえ、結構です。人を待ってるので》


《ちょっとだから大丈夫だよ、ほら!》


私の腕を強引に引っ張る男の人に恐怖を感じ、動けなくなってしまいました。


《だ、誰か・・・》


周りを見渡しても、誰も目を合わせてくれず、助けてくれそうな人は居ませんでした。


ですが、そんな時私の王子様が現れました。私の大好きなアニメに出てくる王子様にそっくりなあの人が。


《おい、その人は俺の連れなんだ。離してくれ》


《晴翔さん!》


私の心はもう晴翔さんでいっぱいでした。あなたが来ただけでこんなに安心するなんて。これはきっと運命なのでしょう。私の王子様。



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