第99話 準備

「晴翔くんは海外とか行ったことあるの?」


「そうですね、何度かありますよ。空手の大会とかで父と一緒に」


「あっ、そういえばそうだよね。やっぱりアジア?」


「んー、アジアが多いですかね。でも、ヨーロッパの方も結構ありますよ」


「そうなんだ。じゃあパスポート持ってる?」


「いや、もう期限切れてますね」


「そうか、じゃあ結局作らなきゃダメか。今日はこのまま家に送るから、ご家族に仕事のこと伝えてもらって、書類とかの準備お願いね」


「わかりました」


ーーーーーーーーーー


夕飯を食べ終わり、一息ついている時、俺は仕事で海外に行くことを両親に伝えた。


「仕事なら安藤さんもいるんでしょ?」


「うん、一緒に行ってもらう」


「だったら良いんじゃないかしら?」


「そうだな。ドイツは初めてじゃないし、1人じゃないならいいだろ」


「本当に?ありがとう」


両親に反対されず、とりあえず一安心だ。あとは学校に連絡して、彼女達にも伝えておかないと。


部屋に戻ると、さっそくスマホで連絡をとる。


晴翔:おーい、起きてる?


香織:なになに?


綾乃:起きてるよ


澪:今お布団です


桃華:私これからまだ仕事なので後で見ます!

   すみません(ノ_<)


晴翔:了解。今度仕事で海外に行ってくる。

   10日くらいの予定。


香織:えっ、10日も居ないの!?

   ハルくん成分が足りない。補充希望


綾乃:仕事じゃ仕方ない。けど私も希望


澪:どこに行かれるのですか?

  あ、ちなみに私も希望します♪


いつも言うハルくん成分とは一体?俺の身体には一体どんな効能があるというのか。


晴翔:場所はドイツだよ


香織:ドイツ!?本当に!?


綾乃:香織どうした?


香織:ううん、なんでもないよ。

   ハルくん、わかってるよね?


晴翔:はいはい、後でね

   とりあえずお土産買ってくるから


綾乃:わかった。我慢する


澪:お気をつけて行ってきて下さい


晴翔:ありがとう。また連絡するね


さて、とりあえず明日学校先生には伝えるとして、色々やらないといけないことがあるな。


俺はパスポートに必要な書類は両親に任せることにして、学校への連絡をすることにした。


ーーーーーーーーーー


翌日、朝のホームルームが終わると、田沢先生に休みのための申請書を提出する。


きっと、桃華から話は聞いているはずなので、すんなり通るだろう。


「田沢先生、これ申請書です。処理お願いします」


「はいはい。それにしても、本当に海外に行くの?桃華だってまだ海外での仕事はないのよ?」


「たまたまですよ。運が良かっただけです」


そう、たまたま仕事があったというだけで、桃華に比べれば、俺はまだまだだ。事務所の後輩として頑張らないとな。


「昨日は大変だったのよ?仕事から帰って来たと思ったら、私にも海外の仕事を探してなんて言い出して」


「すみません」


確かに、あのあと寝る間際に桃華から連絡があって、しばらく大変だった。


「まぁ、あの子のことは放っといてかまわないわ。それより、気をつけて行くのよ?晴翔はもう私の子同然なんだからね」


そう言って、俺のことを抱きしめて頭をよしよしする先生。


「ちょ、先生!?」


「お義母さんって呼んで良いのよ?」


いやいや、そういう問題じゃなくて!


俺は、慌ててあたりを見渡すと、白い目で見る香織と興味津々の眼差しを向けるクラスメイト達がいる。


「きゃー!!先生大胆!!」


「私もハグしたい!」


「先生、次わたし!」


何故か、先生の横には女子の列が並んでいる。いやいや、そういうやつじゃないからね。


「ちくしょう、田沢先生までぇ」


「この世は理不尽だ」


「呪ってやるぅ」


怖えよこいつら。昔の否定的な視線は少なくなったが、まだこの感じには慣れていない。


「田沢先生、先生が生徒にそんなことして良いんですか?問題になりますよ?」


クラスの視線が一斉にある人物に集まる。


まぁ、わかっていたけど、毎度お馴染みの町田だ。面倒くさい奴だが、今日に限っては礼を言おう。


早く俺を解放してくれ!!


町田はいま、このクラスの海老原さんと付き合っており、海老原さんも町田と一緒に先生を非難する。


「そうですよ、いい歳して生徒を誑かそうなんて恥ずかしくないんですか?」


まぁ、それは正論なのだが、この先生に常識が通じるとは思えなかった。


「んー、それもそうね。でも、晴翔はいいの。特別だから」


「なっ、そんな理屈が通る訳ないでしょ!?」


「そうですよ先生。校長が知ったら大変なんじゃないですか?」


校長か。まぁ、校長先生だったら問題ないだろうな。


「まぁ、言いたければ言っても構わないのよ?私はただ可愛い息子を心配してるだけなんだから」


「ちょ、先生、それはまだ」


まだ、桃華にも言ったてないのに。


先生はうちの母さんから、大体の話は聞いているようなので、俺が婚約指輪を渡そうとしていることを知っている。


別に隠すことではなかったので、ちょっと早かったが桃華の両親とは一度話をした。桃華のお父さんも、初めこそ驚いていたが、俺の仕事が順調なこともあり、割とすんなり頷いてくれた。


だから、あとは桃華だけだったのだが。ここで騒ぎになると桃華まで話が言ってしまうかもしれない。


「うちの子と結婚すればそうなるんだから、気にしなくていいのよ」


「はぁ、駄目だこの人」


俺はもう諦めて、成り行きを見守った。


幸いのことに、先生の子供が桃華であることは、公表していないので知る人は居ないが、確実にこの話は桃華のところまで伝わった。


ーーーーーーーーーー


はぁ、ハル先輩、海外に行くのかぁ。


私も一緒に行きたかったなー。10日間かぁ。あぁ考えただけで涙が出そう。


ううん、頑張るのよ桃華!

きっと、香織先輩達も同じ気持ちのはず。


私は何度もため息をついては、自分を鼓舞して立ち上がる。


憂鬱な朝のホームルームが始まる。私はこの担任の先生がどうも苦手だ。私のファンらしいが、あからさまに私を贔屓するから、周りからは不満の色が見える時がある。


ホームルームが終わり、しばらく担任の顔を見なくて済むと思うと、少し気持ちが楽になるが、またハル先輩のことを考えて気持ちが沈む。


そんな時、上の階がなんだか騒がしい。2年生のクラスがある方かな?


次第に、一年生のクラスまで伝染し、周囲は噂話で持ちきりだった。


「ねぇ、どうしたの?」


とりあえず気になったので、近くの友達に話しかけてみる。


「なんか、田沢先生が齋藤先輩に抱きついてよしよししてるんだって」


「はぁ!?」


何してんのよ、うちの母親は!?


学校ではお母さんと呼ばないように言われてるから、叫びたい気持ちをグッと抑える。


「そ、それで?なんでこんな騒ぎに?」


それだけにしては、騒ぎが大きい気がする。


「なんか、それを見てた生徒からなんか言われたみたいなんだけど、自分の子がもう結婚するから息子同然だって」


「なっ!?け、けけ、結婚!?私が!?」


「え、なんで桃華ちゃん?」


「あ、ううん、ごめん。ちょっと興奮しすぎちゃった。あははは」


あ、危ない。


てか、なんでそんな話に?私はハル先輩と付き合ってるだけで、結婚の話なんてまだ出てないのに。


そこまで考えると、ふと澪先輩と香織先輩の指輪が頭をよぎる。


もしかして、私の分もあるのかな?


考えすぎだとわかっていたが、私は都合のいい妄想を頭の中で考えていた。あぁ、本当にそうだったらいいのになぁ。


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