第98話 俺の日常

夏休みが明けてから、俺の周りは何かと騒がしくなった。


まず、学校に着くと話したこともない生徒から挨拶をされるようになった。まぁ、挨拶くらいならまだ良い方。


下駄箱には、毎日のように手紙が入っているため下駄箱を開ける時は、ばら撒かないように慎重に開けるようになった。


バサバサバサッ!


「今日も凄いねぇ、ハルくん」


「晴翔、拾うの手伝うよ」


「あ、ありがとう、2人とも」


俺は2人に手伝ってもらいながら、落ちた手紙を拾う。ふぅ、今日も30枚くらいはあるだろうか?


面倒くさいが、俺はしっかりと中身を確認している。極めて低いが、俺に本当に用がある場合はその人は困ってしまう。


集めた手紙を小脇に挟みながらクラスへと向かうと、その際にも手紙が増えていく。


「お、おはようございます!」


「おはよう」


「こ、これ、読んで下さい!」


「あ、ありがとう」


こんなことが何度かありながら、俺は増えた手紙を持ってクラスへ向かった。


ガラガラガラ


「おっ、おはよう晴翔」


「おはよう、俊介」


俊介と挨拶を交わした時、正登が言っていたことを思い出した。


『勅使河原によろしく言っといてくれ』


すっかり忘れてたな。てか、俺も正登に連絡しないと。絶対に面倒な気がするが。


「俊介、この前小林正登と知り合ったんだけど、その時よろしく言っといてくれって言われてさ、2人って知り合いだったのか?」


「おぉ、あのテレビか!俺も見たぞ。やっぱり晴翔は何やっても様になるよな。ちなみに正登はインターハイで知り合ったんだ」


「なるほど、そういえばうちのバスケ部も強いんだったな」


「おいおい、忘れるなよ?」


「ごめんごめん」


俊介にはちゃんと伝えたし、あとは連絡をしてみるか。


俺は自分席に戻ると、すぐさま数人の女子がやってくる。


「ねぇねぇ、齋藤くん。なんで今まで髪伸ばしてたの??」


「え、いや、な、なんとなく?」


「へぇ、じゃあなんで髪切ったの?」


「な、なんとなく」


「そうなんだぁ。ねぇ今度遊びに行こうよー」


「そうそう、たまには行こうよー」


最近、こんな誘いが増えた。遊びに行くのは構わないが、香織達との時間が減るのはなんか嫌だな。


「ごめん、しばらく仕事が入っててさ。また、誘ってくれる?」


俺は申し訳なさそうに、目尻を下げ彼女達に視線を向ける。


「「「はぅ!?」」」


最近は、仕事で演技をすることも多くなり、表情を作ることにも慣れてきた。


「し、仕事じゃしょうがないよ!」


「そ、そうだよ、気にしないで!」


「また誘うねっ!」


彼女達は、胸に手を当てながら俺の席から離れていく。よし、とりあえず1人になれたな。


俺は手紙を机に乗せると、中身を確認していく。


内容は大きく分けて2つに分けられる。


一つはHARUを応援しているという内容。もう一つはお付き合いしたいという内容。校舎裏や体育館裏などに呼び出されるケースが多い。


とりあえず、その中でもしっかりとクラスと名前が書かれているものにはちゃんと対応している。


応援してくれている人には、声をかけてサインをしたり、写真を撮ったりしている。そのくらいはしてもいいと恵美さんも言っていたためだ。


ホームルームが始まるまで、まだ時間がある。何箇所か回ってくるか。


俺は一年生の教室へ向かう。


教室の前で話している子達に、呼び出してもらうことにした。


「ねぇ、君たち人を探してるんだけど」


「へっ!?さ、齋藤先輩!?」


「ちょっと待っててください!」


急いでクラスに行くと、俺が探していた人を連れてきてくれた。



「あわわわわ、本当に齋藤先輩だぁ!?」


「あ、突然ごめんね。手紙ありがとう。嬉しかったよ」


「い、いえ!滅相もありません!いつも応援してます!」


「ありがとう」


俺は頭をぽんっと撫でると、次のクラスへと向かう。


「きゅうぅぅぅぅ!」


「お、おい、誰か手を貸して。また1人倒れたわ」


「だ、大丈夫か?」


なんだか後ろが騒がしいが、時間もないのでどんどん行こう。


その後、何クラスか回った俺はホームルームに間に合うようにクラスに戻る。


「ハルくん、今日も絶好調だね」


「なんの話?」


「掲示板に今日の被害報告があがってたよ」


「被害報告?」


「そう、ハルくんに魔の手にかかった子の情報が載ってるの」


ほら、と見せてくれたスマホの画面には色々書かれていた。


『頭ぽんでイチコロ』


『笑顔を見ただけでやられた』


『転びそうになったところを助けたら気絶して保健室送りになった』


などなど


さっきあったことが、どんどん書き込まれていく。どうやら、どんなことがあったのか、周りの生徒達が報告しあっているらしい。


それにしても、被害報告とは失礼な。真摯に対応しているつもりなのだが。


「ハルくん、ほどほどにね。本当にみんな倒れちゃうから」


「わ、わかったよ」


「うん、うん。わかればよろしい」


ーーーーーーーーーー


「さ、齋藤先輩!わ、私と、付き合って下さい!!」


「ごめんね。気持ちには応えられない」


「そ、そうですか。すみません、急に呼び出して」


「ううん、ごめんね。気持ちは凄く嬉しかったよ。でも、俺は君と喋ったこともないから。まず友達から、でどうかな?」


「ぐすっ。はい、ありがとうございます。また、話しかけてもいいですか?」


「もちろんだよ。どんどん話しかけて」


「はい!」


彼女は涙を拭うと笑顔で走り去っていく。最近は、放課後に手紙の返事をしてから仕事に向かうことが多くなった。


告白する勇気は嫌と言うほど知っている。ならば、しっかりと対応しなくちゃ駄目だ。せめて、しっかり名前が書かれているラブレターくらいは対応しよう。


俺は、校門のところで待つ恵美さんに連れられ仕事に向かった。


「今日も疲れてるね晴翔くん」


「いえ、なんだか申し訳なくて」


「仕方ないんだよ、有名になればなるほど、こういうことは増えるよ。むしろ、晴翔くんはよくやってるよ」


「ありがとうございます」


「うんうん、今日はまたモデルの仕事が入ってるからよろしくね。あと、ブランド会社から契約の話もきてるから、その辺の話も一緒にしましょう」


「わかりました」


ーーーーーーーーーー


「晴翔くん、この仕事なんだけど、受けるかどうか迷ってるの。どうする?」


「どれですか?」


俺はミーティングルームで、恵美さんと今後の仕事について話していた。


「これ、有名ブランドの広告撮影なんだけど、撮影場所が海外なんだよね。これを受けると1週間は帰ってこれないんだけど」


「1週間ですか、長いですね。ちなみにどこの国ですか?」


「ドイツよ。なんでも、今ドイツで晴翔くんが人気なんですって。理由はよくわからないんだけど」


「ドイツで、オレがですか??」


なぜ、海外で俺が人気になっているのかさっぱりわからん。しかし、仕事としては、かなり良さそうだ。


「恵美さんはどう思いますか?」


「そうね。晴翔くんが問題なければ、受けるべきかな。契約条件も破格なの」


「やっぱりそうですよね。なら、迷う必要はないですね。受けましょう、これ」


「うん、わかった。それじゃあ、向こうで出来そうな仕事がいくつかあるから、それも入れておくね。期間は念のため10日くらいの予定で行きましょう。学校にも連絡入れておいてくれる?」


「わかりました」


「よし、じゃあさっそくパスポートを取りに行くわよ!」


こうして、海外での仕事に向け、色々と準備を進めることにした。


そして、ドイツに行った際に、仕事とは別にもう一つ気になることがあったため、恵美さんに1日だけスケジュールを開けてもらうことにした。


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