第91話 夏祭り
「うわぁ、凄いねぇ」
「そ、そうだな」
俺達は、恵美さんに神社の近くで下ろしてもらったのだが、凄い人混みで戦意を喪失していた。
「でも、宣伝のためには行かないとね」
「そうですね。
「貰っちゃったからには、頑張らないとですね、先輩!」
確かに、こんなに凄いもの、一体いくらするのかわからない。絶対に汚さずに帰りたいな。
俺達は、意を決して人混みの中を進んでいった。
「ハルくん、離れると危ないよ?」
「そうだぞ、晴翔」
そう言って、左手を香織が、右手を綾乃が手を繋いだ。
「あー!先輩達ずるいですよ!!」
「これは致し方ありませんね。腕は2本ですし」
出遅れた桃華と澪は残念そうに、後を続く。
「先輩方、途中で交代ですかね!」
「そうですね、ここは公平に行きましょう」
「わかりました。途中で交代しましょう」
「仕方ないな」
なんとか、話はまとまったようでよかった。
俺達が進んでいるのは道路のど真ん中だ。この区画はいま、車両通行止めになっているため、歩道だけでなく、車道まで歩くことができる。
「それにしても、なんだかおかしくないか?」
「そ、そうだね。なんでこんなに道が開けてるのかな?」
俺達は、人混みに向かって歩いていたはずだが、俺達が進んでいくと避けるように道が開いていく。
「なんか、凄い見られてる」
綾乃は視線が気になったようで、俺の腕にぎゅっと抱きつく。
確かに、凄い見られてる気がするが、特に男性達の視線が彼女たちに向いているようだ。
まぁ、今日は浴衣もメイクもプロによるもので、彼女達の魅力を最大限に引き出せているように思う。
普段見ない姿に、俺も緊張が凄い。チラッと見るが、なかなか凝視することが出来ない。
『凄い美人だな』
『モデルさんかな?』
「宣伝効果はちゃんとありそうだね」
「落ち着いたら、SNSに写真と一緒に呟いてくれって言ってたね」
「そうでしたね」
「じゃあ、階段登った先で写真撮りますか?」
「そうしようか」
俺達は、SNSに載せる用に写真を撮ることにした。しかし、どうやって写真を撮ろうか。
「とりあえず、まずは俺が撮るから4人並んで」
「「「「はーい」」」」
俺は、4人の写真を何枚か撮ると、載せる写真を皆んなで選んだ。
「ハルくん、ハルくん、次は一緒に撮ろうよ」
「うん、いいよ」
俺は携帯を綾乃に預けると、香織と2人で並び写真を撮ってもらう。
写真を撮り終わると、綾乃はこちらに歩いてきて香織に俺の携帯を渡す。
何の抵抗もなく携帯を受け取ると、今度は綾乃が俺の隣に並んだ。
「晴翔、私とも撮って」
「いいよ」
その後、澪、桃華と順番に写真を撮った。撮った写真はすぐに投稿した。すると、すぐに反応が見られて、『小湊椿』がトレンド入りした。
そして、浴衣を着た4人についても、SNSでは盛り上がった。
あれは一体誰なのか?モデルなのか?色々な憶測が飛び交った。
「SNS怖っ」
俺はあまりのスピードで拡散されていく光景に若干の恐怖を覚えた。
「ハル先輩、最後に皆んなで撮りませんか?」
「そうだな、それじゃあ誰かに頼むか」
俺はちょうど近くを通りかかった2人組の女性に話しかけた。
「すみません」
「はい・・・っえ!?」
「も、もしかしてHARU様ですか!?」
「はい、そうです」
「今日のHARU様は、なんというか、エロいですね!」
「やばいです、心臓が飛び出しそうです!」
どうやら俺に気づいたようで、テンションの上がる2人。
「今日はどうしたんですか??」
「ちょっと連れと一緒に写真を撮りたいので、カメラをお願いしたいんですけど」
「いいですよ!」
「ありがとうございます」
俺は2人を彼女達のところまで案内する。
「うわっ、凄い美人!?」
「あ、香織さんに桃華さんだ!」
桃華はテレビに出てるからすぐにわかるだろうが、最近は香織もだいぶ有名人になっている。一般人だが、俺の彼女として度々SNSに登場するため、俺のファンは皆んな香織を知っている。
「じゃあ撮りますね」
「なんだか、こっちがドキドキしてくるね」
2人はなんだか盛り上がっているが、早くシャッターをお願いしたい。
「オッケーです、確認してください」
俺は、彼女達から携帯を受け取ると、写真を確認する。うん、凄くよく撮れてる。
「ありがとうございます。よく撮れてます」
「えへへ、これでも写真には自信があるんです」
本当によく撮れている。携帯で撮ったとは思えない。それに、他の写真と比べても見栄えが全然違う。上手いもんだな。
俺が写真を見て、感心していると2人から声がかかる。
「あ、あの、HARU様、私達とも写真撮ってくれませんか!?」
「お願いします!」
凄い勢いで頭を下げる2人に、俺が困っていると、香織がすぐ後ろまで来ていた。
「撮ってあげれば?」
「そ、そうだな。断るのも悪いよな」
こんなに必死にお願いされると断りずらい。それに、彼女達のカバンには俺のファンクラブの会員証がついていた。
ファンクラブ会員証は、キーホルダーになっていて、裏面に会員番号が書かれているものだ。
「じゃあ、一枚だけ」
「「ありがとうございます!」」
俺は2人に挟まれる形で、写真を撮る。
「「ありがとうございました!」」
「いや、こっちこそ、助かりました」
2人は満足気に携帯を眺めながら歩いていった。
「さて、俺達も行こうか」
俺達は、適当に屋台を見て回った。焼きそば、たこ焼き、綿飴など定番の物を中心に食べて回った。
そして、7時ごろになると、花火が上がるので俺達は見晴らしのいい場所まで移動することにした。
「それにしても、凄いな」
「そうだね、びっくり」
「私も驚きました」
「先輩、意外です」
俺達が、驚いているのは綾乃についてだ。見た目がギャルっぽい割に、クールな印象の綾乃だったが、どうやら祭りみたいなイベントが大好きなようだ。
頭には、斜めにお面をつけて、右手には金魚を持ち、左手には水風船やスーパーボールなど色々景品を持っている。
「し、仕方ないだろ。私、お祭り、大好きなんだから」
恥ずかしそうに、口を尖らせ拗ねている綾乃。まぁ、はしゃいでいる綾乃はとても魅力的だった。クールな彼女もいいが、これくらい楽しそうにしていると、こちらも楽しくなるな。
「綾乃、こっちおいで」
「・・・うん」
てくてくとこちらに歩いてくる綾乃。
「はい、あーん」
俺はたこ焼きを口元に運ぶ。どうやら綾乃はたこ焼きが大好きらしい。凄く目を輝かせていた。
何の躊躇もなく、パクッと食いつく綾乃。なんだか餌付けしてるみたいだな。
「うまぁ♪」
どうやら機嫌は直ったようで、幸せそうな表情をしている。
「綾乃ちゃん可愛い」
「心なしか幼く見えますね」
「先輩がまるで後輩のような気分です。すごく可愛がりたい衝動が」
うん、みんなの気持ちはよくわかる。嬉しそうに食べている綾乃は、純粋に祭りを楽しんでいる子供のようだった。
そんな時、大きな音と共に夜空が綺麗に彩られた。
「あっ、花火だ!」
一番に声を上げたのは綾乃だった。
「きれい」
「家族意外と見るのは初めてです」
「私も家族意外は初めてです!」
花火大会ではないので20分くらいで終わってしまうのだが、この地域ではこの花火しかないので、皆んな毎年楽しみにしていた。
いつもは香織と2人で見に来ていたが、今年は5人となり、だいぶ賑やかになった。なんだか色々なことがあったな。
俺は、なんだか感慨深くなり、夜空を見ながら楽しそうにしている彼女達を見た。
「皆んな、大好きだよ」
花火の音で聴こえないだろうが、俺はボソッとつぶやいた。
しかし、ちょうど花火の音が小さい時だったようで、4人はしっかりと聞き取っていた。
突然の晴翔の呟きに、ドキッとさせられた4人は一斉に晴翔を見たが、晴翔は4人には聴こえてないと思っていたため、花火を堪能していた。
そんな晴翔に、4人は一斉に抱きついた。
「うおっ!?」
「ハルくん、大好き!」
「私だって、だ、大好きだぞ」
「私も、お慕いしております」
「愛してますハル先輩ー!」
俺は彼女達に、抱きつかれながら残りの花火を眺めた。あっという間に、花火は終わってしまったが、俺達はその後も夏祭りを堪能した。
そして、俺達の宣伝効果もあってか、小湊さんの浴衣は注文が殺到したんだとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます