第90話 浴衣

「ねぇねぇ、なんで顔隠してるの?」


「そうだよー、イケメンなのにー」


「いや、別に理由はないんだけど・・・」


休み時間のたびに俺のところへやってくる鳥居さんと南さん。


この2人、本当に町田と別れたようで、町田は苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨みつけている。


はぁ、どうしてそんなに目の敵にされるのか、よくわからない。2人と別れたのは俺のせいではないだろうに。


それに、どうやらまた新しい彼女が出来たようで、あちらも休み時間のたびに町田に会いに来ている。


「2人とも、町田と別れたって本当なの?」


「本当だよー」


「うん、うん」


2人を見ているとそんなにショックは、なさそうだが。


「まぁ、私達はイケメンを拝むのが目的だったからね。別に町田くんが好きなわけじゃなかったからー」


「そうそう」


うわ、なんだか町田も可哀想に思えてきたな。


「まぁ、多少の性格の悪さは目を瞑ってたけど、近場にさらにイケメンがいるなら付き合ってる意味ないしねー」


「そ、そうなんだ」


「そうそう、齋藤くんとも付き合いたいとかじゃないから安心してー。西城さんとも話してあるしー」


いつの間に。


俺はチラッと香織を見ると、ニコッと笑っている。どうりで香織が何も言わないわけだ。


その後も、暇さえあれば2人は俺達のそばに来ていた。それ自体は別に構わないのだが、2人のことをよく知っている人は、2人が面食いだと知っているので、余計に俺への注目が増した。


放課後になる頃には、何人か話しかけてくる人も増えたが、香織と綾乃が立ちはだかり、事なきを得た。


「ハル先輩ー!」


「桃華か、どうした?」


「いやいや、仕事で遅れて来たら酷い目にあいましたよ。いきなり囲まれて、ハル先輩のこと聞かれて大変でした」


「それは、災難だったな。迷惑かけるな」


「いえいえ、先輩の彼女ですからね!これくらい問題ありませんよ!」


「助かるよ、ありがとな」


俺は桃華の頭を優しく撫でる。桃華の髪はサラサラで撫でているこっちも気持ちがいい。


「はわわわわ」


「は、晴翔、その辺にした方が良さそうだぞ?桃華が壊れる」


「えっ?」


綾乃に言われて手を止めると、もう既に桃華は「あわあわ」言って固まっていた。


「桃華?」


「と、突然のデレは、心臓に悪いです」


「ごめんごめん」


桃華と合流して、数分後。


さらに澪が合流して、いつものメンツが揃った。


「皆さん、すみません。遅くなってしまいました」


「いや、皆んな揃ったばかりだから大丈夫だよ」


俺達は、合流すると今日の予定について話すことになった。


「それにしても、もういいのですか?香織さん」


「予定ではもう少し先だったけど」


「そうですよ。学園祭あたりの予定でしたよね?」


なんだか俺の知らない話が、目の前で繰り広げられている。


「その予定だったけど、こんなに噂が広がってたらもう隠せないよ」


「それにしても、あの写真は誰が撮ったんだ?晴翔の家の前にたまたま居たってことはないだろうし」


「それに関しては、こちらで心当たりがありますので、お任せください」


澪の心当たりとは、おそらく西園寺だろうな。きっとクラスでも何かあったのだろう。


「わかりました。では、そちらはお任せします。じゃあハルくん、髪を切りに行こう」


香織がいつにも増してやる気満々だ。


「香織先輩。ハル先輩の髪切るんだったら、いい人を知ってますよ」


「いい人?」


「はい、うちの事務所に専属のヘアメイクアップアーティストが居ます。流石に、事務所に呼ぶことは出来ないですけど、その人のお店に行けば切ってもらえると思います」


「ちなみにその人って有名な人?」


「ちょー有名人です。おしゃれに興味がある女性なら誰でも知ってると思います。とりあえず、連絡入れてみるのでちょっと待ってて下さい」


桃華は事務所に連絡を入れる為、スマホを取り出すと。


「もしもし、京子さん?髪切りたいんだけど、予約とってもらえます?えっ、あぁ、私じゃなくてハル先輩です。日時はお任せするので、はい、お願いします。よし、これで大丈夫です。そのうち、ハル先輩に連絡が行くと思います」


「わかった、ありがとう」


桃華のお陰で予約は無事取れそうだし、今日はどうしようか?


「暇になっちゃったな」


「そうだ、今日は夏祭りが近くの神社であるんだけど、それにみんなで行く?」


そういえば、昔は香織とよく行ったっけな、夏祭り。香織は騒がしいのが結構好きだからな。


「俺はいいけど」


「私も」「構いませんよ」「オッケーです!」


皆んな賛成とのことなので、今日は予定を変更し夏祭りに行くことになった。


俺達は一旦家に帰ることになったのだが、帰る途中で恵美さんから電話がかかってきた。


『晴翔くん、ついに髪切るんだって!?』


「もう聞いたんですか?」


『もちろんだよ。君のマネージャーだからね。それよりも、一応予約は取れたんだけど、明後日のお昼でもいいかな?』


「はい、構いませんよ。学校が始まる前に切れるなら」


『オッケー、じゃあそれで伝えとくね。場所は桃華ちゃんと一緒に行ってもらえる?』


「わかりました。ありがとうございます」


『そうだ、晴翔くん今日予定は?』


「この後みんなで夏祭りに行くんですよ」


『えっ、本当!?じゃあお願いがあるんだけど!』


「お願い?」


ーーーーーーーーーー


俺達は今、事務所へと来ていた。


「ハルくん、これからどうするの?」


「ごめん、俺にもよくわからなくて。とりあえず皆んなで来てくれって言われたんだけど」


俺達は事務所で待つこと10分ほど。


「ごめんね、お待たせ」


息を切らせてやってきた恵美さん。


「いえ、大丈夫ですよ。それより、今日はどうしたんですか?彼女達まで集めて」


「ふふふ、それはねぇ。君たちに宣伝をお願いしたいんだよ!」


「「「「宣伝?」」」」


いったい、俺たちに何の宣伝を?


「今回、夏特集で浴衣の特集を組むんだけどね。今回、世界的に有名なデザイナーがデザインしてくれたのよ。だから、失敗出来ないの」


「は、はぁ」


恵美さんにしては、凄い圧だ。


「それでね。男性の浴衣は晴翔くんで問題ないし、女性のほうも、晴翔くん彼女達なら間違いないと思ったの。ちゃんと報酬も出すからお願い出来ないかな?浴衣もあげるから、ねっ?」


ここまでお願いされると、俺は仕事なので断れないが、みんなはどうしようか。


「私はいいよ、ハルくんと一緒なら」


「私もいいよ」


「構いませんよ」


「本当に!?ありがとう〜!!」


泣いて喜んだ恵美さんは、その後、メイクさんとスタイリストさんを呼んで、テキパキと進めていった。


「ふぅ、我ながらいい仕事をしたわね」


「皆んな、凄くきれいだね」


俺は心からそう思った。それぞれ、違う色の浴衣だが、それぞれに合った色合いで凄く綺麗だった。


「ハ、ハルくんも、なんだかセクシーだよ」


「う、うん、今日の晴翔はいつにも増して色っぽい」


「た、確かにそうですね」


「鼻血がでそうです、ハル先輩」


彼女達の反応を見るからに、俺の方も問題なさそうだな。


彼女達もこれだけ似合っていれば、いい宣伝になるだろう。恵美さんも満足そうだ。


「よし、それじゃあ祭りに行こうか」


俺達は、恵美さんに送ってもらって、夏祭りへと向かった。凄い人混みだったが、香織達美女4人のおかげで、スムーズに歩くことが出来た。


最初は見惚れている人が多かったが、そのうち彼女達が通るところは、勝手に人が避けてくれるようになった。


『凄い美女だな』


『神々しくて近づくことすらできない』


『見て見て、凄い綺麗な浴衣!?』


『皆んなすごく綺麗〜』


彼女達に見惚れていた女性達は、晴翔に気づくとさらに黄色い声をあげた。


『きゃあぁぁ、HARU様よ!』


『浴衣が凄いセクシー!』


『やばい、立ちくらみが』


後で知ったのだが、この日、例年通りの気温だったにも関わらず、貧血で倒れる人が続出し、ちょっとしたニュースになったらしい。


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