第88話 私の可愛いお嬢様

お嬢様と晴翔くんが婚約発表をしたパーティーの翌日のこと。


私は例の如く、晴翔くんを迎えに来ていました。


晴翔くんは歩いていくと言っていましたが、顕彰様の言いつけで、迎えに来ています。


「ふぅ、少し早く着きすぎましたかね」


時間には少し早かったため、しばらく家の周りをゆっくり回ることにしました。


すると、見覚えのある人物とすれ違いました。これは、顕彰様の思った通りか?


私は車を停め、顕彰様に連絡をいれる。


「顕彰様、やはり小蝿が少し飛んでいます」


「そうか、では気づかぬふりをしておくんじゃ。続くようなら対処する」


「かしこまりました」


顕彰様の指示通り、私は気づかぬふりをして晴翔くんを再度迎えに行きました。


あの人は確か、パーティーにも来ていましたね。どうせ、西園寺家と繋がっているのでしょう。懲りない人達ですね。


それから、しばらくすると晴翔くんがやってきました。


「美涼さん、いつもすみません」


「別にいいんですよ。私も好きでやってるんですから」


晴翔くんは、いつも礼儀正しいですね。こういうところはポイント高いです。


「流石に、一方的に良くしてもらうのは気が引けるので、何かお礼をしたいんですが」


お、お礼!?


いや、この前ペンダントを貰ったばかりですし、物を欲しがると女の株が下がるような気がしますね。だったら。


「別に構わないのですが。あっ、では今度私の買い物に付き合ってください」


「そんなことで良いんですか?」


「はい、お願いします」


「わかりました。買い物ですね。行く時は連絡してください」


やった!


すごく自然に約束をすることに成功しました。今日は良い日ですねぇ。


「そういえば、澪は昨日大丈夫でした?元気がなかったですけど」


「ぶふぉぉあ!?」


あ、危ない。前言撤回です。今日も厄日かもしれません。二日続けてとは。


「あ、危ないですよ!?」


「す、すみません。私としたことが、二日連続でこんな失態を。そ、それより、お嬢様は大丈夫ですので、昨日のことは忘れてください。お願いします。本当に」


「わ、わかりました」


お嬢様の醜態を晒すことがなく本当によかった。これも全て顕彰様のせいですね。もう少し、知識はちゃんと付けさせるべきです。


「あっ、晴翔様。おはようございます」


「澪、おはよう」


不知火家に着くと、もう既にお嬢様が出迎えていた。最近のお嬢様は、少しポンコツになってきている。


以前は、完璧なお嬢様で欠点などないと思っていましたが、人ってこんなに変わるものなんですね。今のお嬢様の方が素敵です。


しかし


相手はお嬢様の婚約者。わかってはいますが、目の前でイチャイチャされると、少しモヤっとしますね。


ーーーーーーーーーー


「晴翔様、こちらにどうぞ」


お嬢様は、嬉しそうに晴翔くんをお部屋に案内しています。晴翔くんは最初こそ驚いていましたが、馴染みやすいように、好みのもので揃えた甲斐があり、リラックスは出来ているようです。


しかし、ここでお嬢様が攻めに転じた結果、少し緊張が戻ったように感じます。お嬢様、出て行っちゃったし、どうしましょう?


晴翔くんは、クローゼットなどを開けて服などをチェックしています。


「マジか。服から下着まで全部揃ってる。しかもサイズピッタリ」


「その辺は抜かりありません。ちゃんと調べましたので」


「いつもどうやって調べてるんですか?」


「ひ・み・つ」


「どうせ母さんですよね」


「なんだ、わかってるじゃないですか」


そう、最近はよくお電話させてもらっている。最初は顕彰様のためでしたが、最近では真奈さんとお話しするのが楽しくなってきました。今では良いお友達です。


ガラ


バタンッ!!


あっ、開けましたね。


晴翔くんが驚いてこちらを振り返るので、私は親指を立ててウインクをしました。


「いやいや、なんでこんなにいっぱい入ってんの!?」


「だって、思春期の男の子ですし、避妊はして下さいね?」


「でも、こんなに要らないでしょ!?」


やはり、多かったですか。


買った時に、店員さんも若干引いてましたが、そういうことでしたか。高校生なら一回で一箱くらい使うのかと思っていました。


仕方ありません、買ったのは私ですからね、私が責任を取りましょう。


「安心してください。私も手伝いますよ?」


「いやいや、美涼さんはダメでしょ!?」


「ちぇっ」


わかっていましたが、少し残念です。私は経験がないので、興味があったんですが。


「あ、澪、おかえり」


「た、ただいまです。とりあえず、座りましょう」


お嬢様が戻って来ましたが・・・なんでしょう?このピンクな雰囲気は。


ほんのりと赤く染まった頬。息も少し荒い。


んー、仕方ありません。ちょっと確認に行きましょう。私は、飲み物を取りに行くと嘘をつき部屋を出ます。


私はこの屋敷の一番奥にある部屋に来ています。ここは許された使用人しか鍵を持っていない特別な部屋。


ガチャ


部屋に入ると、そこには大量のモニターが置かれている。そう、ここは監視カメラの映像を確認する場所。


流石に個人の部屋やトイレ、お風呂などにはついていませんが、そこ以外は網羅できるようになっている。


「えっーと、時間にして10分ほど前でしょうか?・・・はぁ!?」


お、お嬢様が、廊下でナニを!?


あぁ、お嬢様がこんな表情をする日が来るなんて。なんと可愛らしい。


おっと、それどころではありません。この映像を見た人は、どうやら居ないようですね。良かった、一安心です。


とりあえず、この映像は削除して、飲み物を取りに行きましょう。


そして、私が部屋に戻ると何やら面白いことになっていました。これは、完全にお嬢様のスイッチが入ってますね。


さっきのナニから、気分がおかしくなっているんでしょう。


よし、その調子です!お嬢様!!


「葛西から聞いたのですが、お、男の子は、その、彼女と2人になるとオオカミになると聞いたのですが」


あぁ、あんなに恥ずかしがって。お嬢様、可愛いです。そのまま行っちゃいましょう。オオカミですよ、お嬢様!!


「晴翔様も、オオカミに、なりますか?がおぉって」


うっ、や、やばい、鼻血が。


お嬢様、素晴らしいです。今回は残念でしたが、着ぐるみとか着てれば、きっと一発KOでしたよ。ナイスチャレンジでした。


「おい、葛西。そこで何してるんじゃ?」


「あ、顕彰様、晴翔くんとお嬢様がいい雰囲気で」


「なんじゃと!?」


ササッと、私の隣に来た顕彰様。しかし、すぐに晴翔くんに気づかれてしまい、顕彰も一緒に見つかってしまいました。


「何してるんですか?2人とも?」


「わ、儂はいま来たところじゃ。葛西が何やら覗いておったから、気になっただけじゃ」


「私は、お嬢様のオオカミを見ていただけです。本当は晴翔くんがなるかと思いましたが、想定外でした」


「はぁ、とりあえず、入ったらどうですか?」


「儂は仕事があるから大丈夫じゃ」


あれ、顕彰様がお嬢様に会っていかないなんて珍しい。私が顕彰様を見ていると、顕彰様と目が合いました。


なるほど、なんとなく言いたいことはわかりました。西園寺家の話ですね。


ここは、顕彰様にお任せしましょう。


ーーーーーーーーーー


澪が夕飯をご馳走してくれるというので、夕飯を食べている時、お爺さんから今後の話がでた。


「晴翔よ、パーティーではああ言ったが、別に会社のことは気にしなくても良い。晴翔にも今は仕事があるじゃろう?」


「まぁ、まだまだ駆け出しですので、そこまで仕事はありませんが」


俺が事実を述べるとみんな目を大きく見開き驚いでいる。


「おぬしは本気で言っておるのか?」


「晴翔様は、謙虚な方なのです」


「いえ、自覚がないだけなのでは??」


晴翔は今、モデルとして絶賛売り出しちゅうで、写真集はさらに売り上げを伸ばしている。そして、ドラマの方は現在2話が放送されているが視聴率も20%を大きく上回る。


さらには、主題歌も話題を呼び、動画サイトのMVの再生数、デジタルシングルダウンロード数、CDアルバム売り上げ枚数で一位を獲得している。


だが、本人はどれだけ売れているのか、興味が薄いようで、売れている自覚がない。


「はぁ、澪も大変な男に引っかかったものだ」


「どちらかと言えば、お嬢様が引っかけたんですが」


「葛西」


「・・・すみません」


少し話は脱線したが、俺としては色々お爺さんには世話になっているので、手伝えることは手伝いたい。


「大丈夫ですよ。できる範囲でお手伝いしたいと思っているので、ぜひ自分を使ってください」


「ふむ、そうか。ならば明日、改めて話をしよう。今日は念のためここに泊まっていくといい。葛西準備は頼んだぞ」


「お任せください」


こちらが反論する間も無く、お爺さんは出て行ってしまったため、今日は泊まっていくことになった。


その後、食事を終え、お風呂に入ると、結構いい時間になっていた。


そのため、澪は名残惜しそうだったが、それぞれの部屋に戻り就寝するとこになった。


そして、さっき気づいたんだ。俺の部屋の隣が澪の部屋だったということに。


以前来た時、澪の部屋は別の場所にあったはずだった。しかし、今日は『おやすみなさい』と言って、隣の部屋に入って行った。


俺はどうしても気になったので、美涼さんに確認すると『昨日、ここに移ったんですよ』と言っていた。


「はぁ、これじゃ寝たくても寝れないよ」


隣の部屋からは澪の声がうっすらと聞こえていた。


『晴翔様ぁ』


『も、もっと、がおぉって』


もっとがおぉってなに!?


結局、澪の声がしなくなるまで、俺は悶々と布団の中で丸くなっていた。


これじゃ寝れないって。俺は起きると、さっさと気分転換し、また布団へと戻る。


すると


コンッ、コンッ


「はい、どうぞ?」


「失礼します・・・。うん、こっちもオオカミさんですね。晴翔くんこれ置いておきますね」


それじゃ、とすぐに美涼さんは部屋から出て行った。美涼さんが置いて行ったのは、消臭スプレーだった。


とりあえず、俺は何も言わずに、窓を開け、スプレーを使うと、そそくさと布団に戻った。


うん、さっさと寝よう。


・・・。


はぁ、なんだか今日は寝れそうにない。

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