第87話 オオカミさん

落ち着け、落ち着くんだ。

クールになれ、齋藤晴翔ぉ!!


俺は出来る。やれば出来る子なんだ。必ず、この超難問を解いてみせる!!


チラッと目を開けると、未だに『がおぉ』とやっている澪。


くっ!!


なんなんだこの状況はぁぁぁぁ!?


俺はいま、選択肢を迫られている。オオカミになるか、ならないか。


当然、選ぶなら後者だろう。婚約したばかりでいきなりというのも良くない。それに、さっきから脳裏には香織の顔がチラついてしまう。


女性と居るときに、他の女性のことを考えるなど、最低だ。しかし、これが答えだと思った。


俺はオオカミにならないと決めた。そして、澪に声をかけようとした瞬間、何か違和感に気がついた。


そういえば、美涼さんはどうした?時間的にもう戻ってきてもいいころだ。俺は、チラッと入口に視線を向ける。


ドアが少しだけ開いているのが見える。怪しい。さっきはドアはしっかり閉まっていたはずだ。


「澪、ちょっと待っててね」


「がおぁ?」


「ぐぅっ、も、もうそれやめようか」


「かしこまりました」


澪はすぐにいつも通りに戻ったが、何故だかすごく勿体ない気がした。後で、もう一回やってもらおうかな。


俺は、惜しみながらもその場から離れ、入口に向かう。


ガチャッ


俺は勢いよくドアを開けると、同じ姿勢でこちらの様子を窺う美涼さんとお爺さんがいた。


「何してるんですか?2人とも?」


「わ、儂はいま来たところじゃ。葛西が何やら覗いておったから、気になっただけじゃ」


「私は、お嬢様のオオカミを見ていただけです。本当は晴翔くんがなるかと思いましたが、想定外でした」


「はぁ、とりあえず、入ったらどうですか?」


俺は大きなため息をつくと、とりあえず部屋の中へと促す。


「儂は仕事があるから大丈夫じゃ」


それだけ言うと、お爺さんは居なくなってしまった。


美涼さんは、部屋に入るとベッドに腰掛ける。澪のすぐ隣である。


「お嬢様、オオカミよく出来てましたよ」


「本当?ならよかったわ。晴翔様が何もしてこないから、うまく出来なかったのかと思いました」


「いえ、あれはクリティカルヒットでしたよ。晴翔くんはお嬢様が可愛すぎて悶えていただけです。安心して下さい」


やはり、澪に指示を出したのは美涼さんだったか。あんな恐ろしいものを生み出すとは、世の中オオカミだらけになるところだったぞ。


「それにしても、あそこまでして耐えるとは、晴翔くんはすごいですね」


「やっぱり、晴翔様は誠実な方なのね」


「ヘタレ、とも言えますが」


「悪かったですね、ヘタレで」


その後、部屋でのんびりと過ごした俺達は、お爺さんに呼ばれ、お爺さんの部屋へと向かった。


そして、なぜか今日は泊まることになった。


ーーーーーーーーーー


時間は少し遡る。


これは美涼が、澪に性教育を施したときの話。


「いいですか、お嬢様。男の子はみなオオカミなのです。ケモノなのです。2人きりになったらお気をつけください」


「わかったわ。でも、晴翔様ならいいのでしょう?」


「そうですね。晴翔くんなら、むしろこちらから誘いましょう。お嬢様様が、『がおぉ』とやればイチコロですよ」


なるほど、私がオオカミになればいいのですね。そうすれば、晴翔様が来てくれるのですね。やるわね、葛西。


「葛西、やっぱり貴女も大人なのね。見直したわ」


「いえ、これくらいでよければいつでもお教えします」


こうして、葛西に夜の営みの方法を教わった私は、なんだかソワソワしてよく寝付けずにいました。


晴翔様に会えばわかるでしょうか?


翌日。


私は、待ちきれずに外で晴翔様をお迎えすることにしました。


「あっ、晴翔様。おはようございます」


「澪、おはよう」


晴翔様は、私が指輪をしていることが嬉しいようでした。私に「ありがとう」というと、頬にキスをしてくれました。


でも、なんでしょう。昨日から少し変です。いつもならこんなこと思わないのに、少し物足りなく感じます。


私は耐えられず、自分から晴翔様の口へキスをしました。


「うぅん、晴翔様とのキスは癖になりますね。変な気分になってしまいます。これも葛西のせいですね」


そう、これはきっと葛西のせいだわ。私の感情が不安定になっています。もっとイチャイチャしたくなってしまいます。


そうだ、晴翔様をお部屋へとご案内致しましょう。そこで、晴翔様と・・・。


私は、いつからこんなにはしたない女になったのでしょう。欲まみれで恥ずかしいですが、抑えられそうにありません。


「晴翔様、こちらにどうぞ」


ふふふ、驚いてますね。


「ここは、今日から晴翔様のお部屋ですよ」


「えっ、俺の部屋!?」


「そうですよ?せっかく婚約したのですし、これからはその、お、お泊まりとか、しても、いいんですよ?」


「い、いやいや!流石に悪いって!」


「で、でしたら、もう少し大きい部屋で、私と一緒に、ね、寝ます、か?」


な、なな、なにを言ってるのでしょう私は!?私は急に恥ずかしくなって、その場を後にしてしまいました。


ハァ、ハァ、ハァ


ダメです。なんでしょうこの感情は?なんだか、下腹部がむずむずします。それに、なんというか、ムラムラ?します。


私は周りに誰も居ないことを確認すると、むずむずするところを手で確認します。


「んっ、あぁ、んぅ」


な、なんでしょう、すごく、き、気持ちよく感じます。少し確認するだけのはずが、私の手は止まることはなく、しばらく下着の上から確認をしていました。


昨日葛西が言ってた一人でするっていうのはこれなのかしら?そ、そういえば、昨日葛西が言ってた気がするわ。2人だともっと気持ちいいって。


早く、戻らないと。


バタンッ!!


晴翔様のお部屋から、大きな音がすると、私はびっくりしてしまいました。しかし、そのおかげで少し冷静になれました。


わ、私は家の廊下で何をしていたんでしょう。早く戻らなくては。


私が部屋に戻ると、葛西が大量に買い込んでいたゴム?というものをめぐり口論になっています。


「だって、思春期の男の子ですし、避妊はして下さいね?」


「でも、こんなに要らないでしょ!?」


「安心してください。私も手伝いますよ?」


「いやいや、美涼さんはダメでしょ!?」


「ちぇっ」


な、なるほど、あれは、オオカミの時に使うやつだったんですね。


私が、声を出さずに様子を見守っていると、晴翔様が私に気付きました。


「あ、澪、おかえり」


「た、ただいまです。とりあえず、座りましょう」


「そうだね」


どうしましょう??


晴翔様を見たら、なんだかまた下腹部に違和感が。でも、今触ったら変な子だと思われちゃいます。だったら、晴翔様と・・・。


「晴翔様、あの」


「なに?」


「葛西から聞いたのですが、お、男の子は、その、彼女と2人になるとオオカミになると聞いたのですが」


ど、どど、どうしましょう!?


なんだか無性に恥ずかしくなり、晴翔様の顔が見れません。でも、いつかはやるんだから、頑張るのよ私!


「晴翔様も、オオカミに、なりますか?がおぉって」


私は、葛西の言った通りに両手を前に持ってきて、ガオーとやってみせました。


あ、あれ?


晴翔様が固まって動きません。先程からチラチラとこちらを見ては、ブンブンと頭を振っています。


なるほど、どうやら晴翔様は他の男とは違い誠実な方なのでしょう。私は大事にされているのですね。


この後、お爺さまと今後の事など色々話し合ったのですが、何故か今日晴翔様がお泊まりしていくことになりました。


葛西は驚いてませんでしたが、なにか知っているのでしょうか?


結局のところ、この日は晴翔様がオオカミになることはありませんでした。夜、部屋で一人になると安心したと同時に、少し寂しくも思いました。


そして、私は寂しさを忘れるため、産まれて初めて一人で最後までやってしまいました。一人オオカミさん、気持ちよかったです。


私は疲れたためか、この日ぐっすりと眠ることが出来ました。


・・・。


「お嬢様も大人になりましたね。よかった、よかった。これで少しは晴翔くんとも進展があるでしょう」


澪の成長を、最後までこっそり見守った美涼は満足そうに笑みを浮かべ、もう一人のオオカミさんを確認しに向かいました。


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