第83話 パーティー

「ハルくーん」


「なに?」


「変じゃないかなぁ?」


「変じゃないよ。すごく似合ってる。」


「えへへ、ありがとう」


今、俺達は澪のパーティーに参加するべく、準備をしていた。俺はスーツで良いため、そこまで悩むこともないが、女性の場合は別だ。


何種類かのドレスを着ては、脱ぐ。それを繰り返すこと1時間。やっと決まったようだ。


香織が選んだのは、淡い水色のドレスだった。すごくよく似合っている。


「先に下に行ってるよ」


「うん、リビングで待ってて」


俺は先に着替えが終わったので、下で待つことにした。


そして、俺は鞄から指輪を取り出し、香織が降りてくるのを待った。今日、澪にも婚約指輪を渡すが、その前に香織に渡そうと思っていた。


「はぁ、緊張する」


ガチャ


「ハルくん、終わったよー」


「お、おう」


俺はぎこちなく返事をすると、意を決して香織の元へ向かう。


「か、香織」


「ん?どうしたの、ハルくん?」


「以前にも話したと思うけど、今日、澪と正式に婚約することになる」


「うん」


香織はこちらを真っ直ぐに見つめ、真剣に聞いてくれている。


「それで、先に香織に渡したいものがあるんだ。これを受け取って欲しい」


俺は香織に指輪を見せる。香織には以前にも指輪の話をしていたので、なんとなく予想はしていたようだが、実際に見て、驚きを隠せないようだ。


「う、嬉しい、ありがとう」


香織は、器用にも笑顔で涙を流している。それだけ、喜んでくれたということか。


俺は、香織の薬指に婚約指輪をはめる。


「香織、好きだ」


「うん、私も大好き!」


俺達は、お互いに求め合うようにキスをした。


ーーーーーーーーーー


「そ、そろそろ、葛西さん来るかな?」


「そ、そうだな」


先程まで、雰囲気に乗せられ、情熱的なキスをしていたが、徐々に頭が冴えてくると、無性に気恥ずかしくなってくる。


「ふふふ、綺麗」


香織は何度も指輪を確認しては、表情をゆるませている。喜んでくれてよかった。他の彼女達にも用意してあるが、彼女達にもおいおい、話をしていこう。


ピロン


『晴翔くん、着きましたよ』


『了解です』


「香織、美涼さんが来たみたいだよ」


香織に話しかけるが、まだ指輪を眺めてうっとりとしている。こりゃダメだな。


俺は耳元で声をかける。


「香織」


「ひゃぁぁぁぁ!?」


「香織、行こう」


「び、びび、びっくりしたよ!」


頬を膨らませ抗議する香織を俺は美涼さんの元へ連れて行った。


「美涼さん、お待たせしました」


「いえ、大丈夫ですよ。香織さんにはちゃんと渡せたみたいですね」


美涼さんは香織の手を見て、安心したようだ。なんだかんだ自分のことのように考えてくれる美涼さんには感謝している。


「美涼さん、ありがとうございます」


「気にしないで下さい。では、行きましょうか」


葛西さんの話によると、綾乃と桃華はもう先に着いているらしい。


俺達も急いで向かうことにした。


『ねぇ、葛西さん、なんか機嫌いいね』


車に乗ると、香織が小声で話しかけてくる。


『そうか?いつもと変わらないと思うけど』


『ううん、絶対になんかあったよ。いつもと全然違うもん』


女性にしかわからない何かがあるのだろうか。俺にはさっぱりわからなかった。


美涼さんの方をチラッと見ると、首元には先日あげたペンダントのチェーンが見えていた。


あ、つけてくれてるんだ。よかった。


『葛西さんがアクセサリーって珍しいね』


『そうなの?』


『そうだよ、今まで一度も見たことない。よっぽど気に入ってる物なのかな?』


言われてみれば、確かにアクセサリーをつけているところは見たことがないかもしれない。


そんなことを話していると、あっという間にパーティ会場に着いたようだ。


「お二人とも着きましたよ」


美涼さんが、俺側のドアを開けてくれる。


俺が、ドアから出ると美涼さんは小声で耳打ちする。


『しっかりエスコートしてあげて下さい』


俺は、その言葉通りに、車から降りる香織に手を差し伸べる。


「ありがとう」


「どういたしまして。行こうか」


俺達は、案内に従い会場へと向かう。こういうパーティは、慣れていないが、香織は周りの真似をするように、俺の腕に手を回し、優雅に歩いている。


ホールに入ると、俺達は壁際で少し休むことにした。


すると


「晴翔、香織遅かったね」


「ハル先輩、香織先輩、こんにちは」


綾乃と桃華も隅っこで、話していたようで、俺たちを見かけて、こっちに来てくれたようだ。


「お待たせ、2人ともよく似合ってるよ」


「あ、ありがと」


「えへへ、ありがとうございます!」


こうして、美女3人に囲まれていると周りからの視線が痛い。いい加減慣れないといけないな。


『おい、あいつ誰だよ』


『あんなに美女連れて、何しに来たんだ?』


はぁ、ため息が出るな。


「晴翔くん、ちょっといいですか?」


いつの間にか、美涼さんが近くまで来ていたようだ。全く気づかなかった。


「そろそろ、お嬢様のところに行って、例のものを渡してあげて下さい。今朝からずっとソワソワしているので。安心させてあげて下さい」


「わ、わかりました。3人とも、ちょっと澪のところに行ってくるから待っててくれ」


「私が見てますので、安心して行ってきてください」


「ありがとうございます」


俺は美涼さんに3人を任せて澪の元へ向かった。



ーーーーーーーーーー


ハルくんが澪先輩のところへ向かったため、こちらは女性だけになってしまった。しかし、葛西さんがいるお陰で、誰も近づいてくる人は居なかった。


流石に、不知火家の知り合いに、言い寄ってくる男性はいないようだ。


「それにしても、すごいですね。さすが不知火グループって感じです」


こういうパーティーに参加するのは3人とも初めてだが、それでもこの規模でやるのは、すごいことだとわかる。


「ありがとうございます。お嬢様は面倒くさくて、やりたがらないですけどね。いつも言い寄ってくる男性ばっかりでうんざりしてましたから」


「確かに、澪先輩は婚約者が居ませんでしたからね。みんな狙ってるんでしょうね」


私と葛西さんが話していると、なんだか視線を感じた。その視線の主は綾乃ちゃんと桃華ちゃんだった。


「どうしたの、2人とも?」


「香織、その指輪」


「そうですよ、どうしたんですか??」


どうやらずっとこの指輪が気になっていたようだ。私は、今更隠しても仕方ないので、正直に話した。


「これは、ハルくんから貰った婚約指輪なの」


・・・。


2人は何を言われたか、理解するまでに時間がかかったようで、しばし固まっていた。


「えっ、今婚約って」


「私にも聞こえました」


「そうだよ。私、ハルくんと婚約したの」


私は、指輪をもらった時のことを思い出して、自然と笑みが出ていた。


「えぇ!?なんで、なんで!?」


「どういうことですか!?」


私は、とりあえず経緯を説明した。今日、澪先輩と正式に婚約を発表することになっていること、ハルくんが私達のことを色々考えてくれていること。


流石に、みんなに婚約指輪を用意しているとは言わなかったが、私と同じように考えてくれていると伝えた。


「でもでも、いいなぁ、羨ましいぃ」


「ですです。私も欲しいぃ」


ふふふ、流石にこればっかりは譲れない。ハルくんの正妻は私なんだから。私は指輪をうっとりと眺めていた。


「むぅ、晴翔にはやっぱり既成事実くらいなくちゃダメか」


「私も頑張ります!」


それにしても、今日は葛西さんがすごく大人しい気がする。2人も同じことを思っているようで、綾乃ちゃんが声をかける。


「葛西さんは、なんとも思わないんですか?」


「そうですよ、いつもなら対抗してくるのに」


「私は大人ですからね。そんな子供のようなことは致しません」


そう言って、葛西さんは服の中にしまってあったペンダントを取り出した。


このペンダントは、中に写真が入れられるようになっていて、もちろん美涼も写真を入れていた。


「綺麗なペンダントですね」


「誰に貰ったんですか?」


「これですか?」


葛西さんは、勝ち誇ったようにパカッとペンダントの蓋をあける。


そこには、ハルくんに抱きつく葛西さんの写真が入っていた。


そう、ペンダントをプレゼントした時、美涼が半ば強引に撮ったのである。それを、大切にしまっていたようだ。


「晴翔くんからの贈り物です」


「葛西さんまでぇ」


「この人にまで、負けましたぁ」


2人は力無く項垂れている。それにしても、これのおかげで機嫌がよかったのね。ハルくんはわからないって言ってたけど、あの天然め!


このことがきっかけに、綾乃、桃華からのアプローチは徐々に激しさを増していくことになる。

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