第81話 移籍
「さて、今日がバイト最終日だ。みんなよろしくね」
「「「「「おー!」」」」」
俺達は、バイト最終日を迎え、束の間の自由時間を満喫していた。
「ハル先輩、これ美味しいですよ?」
「ありがとう」
「ハルくん、ハルくん、これも美味しいよ!」
「あ、ありがとう」
「晴翔様、お飲み物です」
「あ、あはは」
さっき朝ご飯を食べたにもかかわらず、俺達は店で買った焼きそばやイカ焼きなどを満喫していた。
まぁ、ほとんど俺が食べてるんだけど。
『おい、なんであんなに美女ばっか揃ってんだよ!?』
『イケメン、爆ぜろ』
『1人くらい恵んでくれ・・・』
さっきから、周りからの視線が痛い。みんなは気にしてないみたいだけど、俺はこういうの苦手なんだよなぁ。
出来ればあんまり注目を浴びたくない。しかし、彼女たちといると注目されるのも仕方ない。みんな可愛いからな。
「ハルくん?私、そんなに可愛い??」
「えっ?うん、香織は可愛いと思うよ?」
「えへへ、ありがとう〜」
なんだか知らないが、香織は満足したのか、俺への餌付けは終わり自分で食べ始めた。
「香織ばっかりずるい。晴翔、わ、私は?」
「もちろん綾乃も可愛いよ」
「やった!」
ここまでくると、俺はもう流れがわかっている。俺は振り返ると、目をキラキラさせている澪と桃華が待っていた。
「澪は美人だし、桃華も可愛いよ」
「えへへ、ハル先輩は口が上手いですね♡」
「晴翔様、褒め上手です」
まぁ、彼女たちを褒めずにいたら、いったい誰のことを褒めればいいのか。このビーチ内では、群を抜いて彼女たちが可愛い。これは、俺だけでなく、ここにいる人達全員が思っていることだろう。
「あの〜、晴翔くん私は?」
「あ、美涼さん。美涼さんは、なんというか、残念な美人さん?」
上手い言葉が見当たらず、思ったままを述べる。
「ざ、残念!?でも、美人だから許します♡」
「あはは、そうですか」
本当にこういうところが残念です、美涼さん。喋らなければ間違いなく美人なのに。
その後、俺達はバイトが始まるまで、今日はビニールシートの上でのんびりと過ごした。たまには、こんな穏やかな時間もありだろう。
そんなことを思っていたのだが、なんだか周りが騒がしい。
「どうしたんだろうな?」
「なんか、テレビ局が来てるみたいだよ?」
「そういえば、今日は朝テレが海で生放送するって、京子さんが言ってた気がします」
桃華が早川マネージャーから聞いた話では、浜辺でカップル達の取材をするとのこと。
そんなところに、桃華や俺が居たら絶対に来るんじゃないか?
俺と桃華はちょっと遠慮したかったが、彼女達はテレビと聞いて、少しワクワクしているようだ。
俺と桃華は、その様子を見て仕方ないかと思い、その場で大人しくしていることにした。
すると案の定、俺達に気づいたアナウンサーは、急いで指示を出してこちらに向かってくる。
「すみません、少しお話し聞いても良いですか?」
「いいですよ?」
「はい、ではこちらのお兄さん達にお話を聞きたいと思います。なんと、偶然ですが、今人気沸騰中のHARUさんと桃華さんです」
俺達はカメラを向けられたので、笑顔で手を振ることにした。
すると、予想以上に周りの反応が良かった。
「「「「きゃーーー!!」」」」
『HARU様格好良い!』
『笑顔が素敵!』
『私もあの中に混ざりたいなぁ』
『桃華ちゃん可愛いな』
『くそぉ、見せつけやがってぇ』
『イケメン許すまじ』
「すごい反応ですね。では早速ですが、お話聞いていきましょう。HARUさんと桃華さんは今日はデートですか?」
「今回は、ハル先輩のお手伝いで来てます。そこの海の家のお手伝いです」
「うちの叔父がやってるもんで、みんな手伝いに来てくれたんです」
「ほう、そうなんですね。ちなみに桃華さん以外の方達はHARUさんとどういった関係で?」
香織達に質問がいくと、代表して香織が答えた。
「私達はハルくんの彼女です」
「えっ、全員ですか??」
すると、みんなコク、コクと頷いている。いやいや、若干一名違う人がいるんですけど、それを言うのも面倒なので、今は放っておいた。
その後も、根掘り葉掘り聞かれたが、言える範囲で答えることにした。
「では、最後ですが、昨日からお二人が主演のドラマ『青い鳥』が放送開始になりましたね。高視聴率だったみたいですね」
そういえば、昨日から放送だったのか。民宿では誰もテレビを見なかったので気づかなかった。
そして、初回の視聴率は18%と今年のドラマとしては一番の好スタートを切ったらしい。
「物語もそうですが、今話題になっているのが主題歌なんですが。誰が歌っているかご存知ですか?」
本当は、歌手名は『ハル』でいく予定だったが、今回は『晴翔』でエンドロールにはのっていた。
直前になって、事務所から変更の連絡があり、理由までは聞いていなかった。そして、音楽番組で出演するまでは内緒になっている。
「いえ、ドラマのキャストにも伏せられているので、誰も知らないと思いますよ」
「そうなんですね。昨日の放送と同時になんと晴翔さんがCDアルバムの発売を発表したんですが、今予約殺到中だそうなんです」
そんなことになっているとは知らなかったな。俺が話題になっているとは聞くと、みんなは自分のことのように喜んでいる。
「さてさて、ではこの辺で失礼しましょうか。皆さんありがとうございましたー」
アナウンサーのお姉さんとカメラクルー達は聞きたいことが聞き終わると、颯爽と帰っていった。
その後、俺達はバイト三日目もなんとかやりきると、怒涛の三日間を乗り切った。
俺達は疲労からか、帰りの電車では一言も発することなく帰路に着いた。
そして、次の日。
俺は恵美さんに大事な話があるからと、事務所に呼ばれていた。
ーーーーーーーーーー
「さて、晴翔くん。今日は、いくつか報告があります」
そう前置きをする恵美さんは、なんだかとても嬉しそうだ。
「まず、写真集なんだけど、なんと80万部まで伸びました!」
パチパチパチと恵美さんは拍手をしながら、嬉しそうに報告をする。
「これはすごいことだよ!今度、今年のベストセラーの表彰で呼ばれることになったからよろしくね」
「ベストセラーですか?」
「そう、写真集の部門だけどね。それでも、うちの事務所としては、初めての表彰だから社長も含めて喜んでるわ」
そういえば、この事務所って桃華のために立ち上げたから、まだ俺と桃華しかいないんだよな。
「それと、ここからが大事な話なんだけど、うちの事務所に新しい子が入ります!」
「えっ?そうなんですか?急な話ですね」
「まぁね。ちょっと前から話しは来てたんだけど、前の事務所とちょっと揉めててね。やっと解決したから移籍してくることになったの」
ちょっと呼んでくるねとミーティングルームから出ていった恵美さん。
移籍してくるってことは、元々芸能人なのか。俺より先輩だな。ちゃんと挨拶しないと。
「じゃあ入って」
そう言って恵美さんが連れてきたのは、俺がよく知る人物だった。
「えっ、なんで?」
「今日からお世話になる北岡六花っす。よろしくお願いするっすよ、晴翔さん♪」
「六花ちゃんは、ちょっと前からうちの事務所に入りたいって言ってくれてたんだけど、前の事務所が手放したくなかったみたいで大変だったのよね」
まぁ、六花はあの事務所でも売れっ子で稼ぎ頭だったからな。脱退した今でも人気は衰え知らずだ。
「あれ?でも、うちはアイドル部門はないですよね?」
「大丈夫っすよ。僕は今度から歌手として活動するっすから。晴翔さんとユニットを結成するっす!」
「そうか、歌手として・・・は?俺とユニット!?」
「ごめんね、六花ちゃんがどうしてもあなたと音楽活動したいって言ってて。うちとしては人気者同士が仲良くするのは歓迎だから。ね?」
俺としては俳優やモデルだけで手一杯なのだが、どうしたものか。
「晴翔さん。僕とじゃ、嫌っすか?」
そう言って、涙目でこちらを眺める六花。そんな目で俺を見るなよ。
初めはやる気などこれっぽっちもなかったのだが、どうやら俺は、女の子の涙に弱いようだ。
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