第80話 止まらない気持ち

やばい、結局ほとんど眠れなかった。


俺は寝て起きてを繰り返し、ついに朝日が出てきてしまった。やばいな、とりあえず顔でも洗って目を覚ますか。


俺は洗面所に向かう。


「あっ」


「晴翔、おはよう」


なんと、ばったり綾乃に遭遇してしまった。


「もう起きたの?」


「あぁ、ちょっと寝付けなくてさ。綾乃は?」


「私もそんな感じ。寝たいんだけど、眠れなくて」


お互いに昨日のことがあとを引いているのだろうか。みんなが疲労からぐっすり寝ている時に俺達は寝付けずにいた。


「ねぇ、ちょっとだけお話ししよ?」


「別にいいよ。外に行く?」


「ううん。みんな起こすと悪いから、晴翔の部屋でいいよ」


まぁどうせバイトまで起きているなら、誰かと話していた方が気が紛れるかもな。


「わかった、じゃあ先に行ってて、顔洗ってくるから」


「うん、待ってる」


俺は洗面所に向かい、何度か顔を洗う。少しだけ、頭がスッキリした気がする。俺は、ついでにお手洗いに寄ってから部屋へと戻った。


「綾乃、お待たせ」


「ううん大丈夫」


部屋といっても寝るだけなので、6畳間に布団が敷いてあるだけで、他には何も置いてなかった。なので、必然的に座る場所は、布団の上だった。


「それで、何か話したいことでもあったのか?」


「まぁ、その」


なんだか申し訳なさそうな表情で綾乃は続ける。


「昨日はごめんね。私ちょっと焦ってたみたいで、少し普通じゃなかったっていうか」


「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから」


俺は綾乃を安心させるため、目を真っ直ぐに見ながら話す。


「うん、ありがとう」


「どういたしまして」


その後、しばらく他愛のない話をしながら、時間を潰した。


「もう5時か。昨日の様子だと8時くらいまでは起きてこないだろうな」


「そうだね。みんな頑張ってたからね」


「そろそろ、部屋に戻るか?」


「・・・」


綾乃はじっとこっちを見つめながら、何か考えている。


「どうした?」


「あのさ、何もしないから、ここで少しだけ寝てもいい?」


思いがけない綾乃からのお願いに、俺は悩んだが、綾乃の表情を見ると断ることはできなかった。


今にも泣きそうで、どうにも放っておかなかった。


「いいよ、でもみんなが起きる前には戻るよ?」


「うん!」


俺は布団を正すが、ふと思った。あれ、もしかして一つの布団に寝るのか?俺は綾乃に確認しようと思ったが、もうすでに遅かった。


「お邪魔します」


布団に潜って、ひょこっと頭だけ出している綾乃。なんだこの小動物のような可愛さわ。


俺は、出てくれとは言えず、仕方なく一つの布団で寝ることにした。


「晴翔、もう少しそっちいっていい?」


「お、おう」


ごそごそと動き出し、綾乃が俺の横にピタッとくっついた。俺の腕を枕にし、俺の身体を抱き枕にすると、満足したのか満面の笑みで眠りにつく。


「ま、まじか。綾乃、綾乃?」


もう寝たのか?


チラッと横を見ると、浴衣が少しはだけ、胸がこぼれ落ちそうだった。俺はすぐに視線を逸らす。


やばい、ドキドキして眠れない。ちょっとだけ、離れるか。


俺はそっと動こうとするが、腕は抜けないし、抱きついた腕は中々離れなかった。俺は諦めて綾乃が、起きるのを待つことにした。


ーーーーーーーーーー


私はいま、晴翔の部屋にいた。朝ばったりと遭遇したのが功を奏した。


もし会えたらいいなぁと思ってお手洗いに行ったらいるんだもん。運命だと思った。


「お邪魔します」


私は、晴翔に追い出される前に布団の中へ潜り込んだ。もう出て行かないぞと言わんばかりに、顔だけ出してアピールした。


すると、晴翔は諦めたのか、布団の中に入ってきてくれた。でも、やっぱり少しだけ離れた位置に寝ている。


1人用の布団だから両端に寝たとしても、そんなに2人の間に距離はなかった。


「晴翔、もう少しそっちいっていい?」


「お、おう」


私は、晴翔との距離を詰める。すると晴翔の腕を見つけたので、頭の下に置き枕にすることにした。


晴翔はスタイルがいいけど、筋肉質だから枕にしてもちょうどいい弾力がある。


ふわぁぁ、幸せ。


私は調子に乗って晴翔身体に抱きついた。腕と脚でしっかりと抱きついたため、少しくらい晴翔が暴れても逃げられなかった。


あ、これならすぐに眠れそう。私は思ったよりも早く眠りについた。


そして、次に目を覚ました時には、時刻は7時すぎ、そろそろ出て行かないとみんなが起きてきちゃう。


私は名残り惜しくも、布団から出ようとしたが、出ることが出来なかった。


あ、あれ?な、なな、なんでこんなことに!?


私は確かに晴翔を抱きしめて寝たはずなのに、今は私の方が抱きしめられている。


ど、とうして!?


「は、晴翔?」


あれ、寝てる?晴朝眠れたみたいで少し安心した。自分ばっかり寝てたのでは申し訳なかった。


私はすやすやねる晴翔を見ながら、昨日のことを思い出していた。



『身体、洗ってあげる』


『あ、綾乃!?』


正直、私はなんでこんなに大胆なことをしているのか、わからなかった。でも、頭がぼーっとして何も考えられなかった。


『お願い、さっきの続き・・・』


私はなにも考えられず、ただ晴翔を求めてキスをした。こんなに情熱的なのは、香織が借してくれた漫画でしか見たことがない。


私、どうしたんだろう。


『晴翔ぉ…』


『あ、綾乃、ちょっと待った、ここじゃちょっと!』


『だめなの?』


『…今はごめん。気持ちには応えたいと思ってる。だけど、ここではダメだよ』


『むぅ・・・ヘタレ』


『ぐっ、すまん』


でも、これで良かったんだと思う。私はちょっと焦ってたのかな?でも、ここまで来て何も進展がないのは嫌。


『晴翔、今度私の家に来て』


『綾乃の家?別にいいよ』


『ありがとう、約束』


『わかった、約束』


『ふふ、その時は絶対逃さないから。覚悟してよね』


『えっ、ちょ』


私は返事を待たずにシャワーしたから出てしまった。もう、心臓がもちそうにかったから。



「はぁ、今考えるとただの痴女じゃない私」


私は反省しながらも、晴翔の方を見る。ふふ、寝顔も可愛いなぁ。


私はこっちを向いて寝ている晴翔にキスをする。


「んっ!?」


私は思わず声が出そうだったが、なんとか堪えた。キスする際に、晴翔に少し近いたら、何か私の下腹部に当たっている。


ドキドキしながらも、私はそれを触って確かめた。


「す、すごい。おっきい」


晴翔の方を見ると、ぐっすりと眠っている。す、少しぐらいなら、起きない、よね?


私はちょっとだけ晴翔を借りて、昂ぶった気持ちをなだめた。


ーーーーーーーーーー


「う〜〜ん。あれ、綾乃?」


「えっ!?あ、お、おはよう」


どうやらちょっと寝てしまったようだ。寝るつもりはなかったのだが、少し寝たら頭がスッキリした。


「は、晴翔、わ、私部屋戻るから」


「う、うん」


俺が起きた時、綾乃は既に布団から出ており、部屋から出て行くところだったようだ。


俺が話しかけると、そそくさと出て行ってしまった。


なんだか顔が赤かったような気がするが、風邪でも引いたのだろうか?


俺はみんなが起きてくる前に、もう一度顔を洗ってくることにした。しかし、俺はここである違和感に気づいた。


俺はバサッと布団を捲ると、布団は濡れていないものの、俺の下腹部はびっしょりだった。


「まさか漏らした!?」


慌てた俺は、漏らしたと勘違いして急いで証拠隠滅した。


「そ、そういえば、綾乃が変だったのって、俺が漏らしたのに気づいたのでは?」


俺は部屋でただただ頭を抱えて、どう言い訳をしようか悩んでいた。


その後、結局いい言い訳は思い浮かばず、仕方なくみんなが集まる部屋へと向かった。


「お、おはよう」


俺が部屋に入って挨拶をすると、そこにはもうみんな揃っていた。


「あ、ハルくんおはよう」


「晴翔様、おはようございます」


「晴翔くん、おはようございます。ささ、こちらにどうぞ」


「ハル先輩、おはようございます!」


それぞれ挨拶を返してくれるが、若干一名はこちらをチラチラ見ながら恥ずかしそうに挨拶をする。


「は、晴翔、おはよう・・・」


え、なんでそんなに照れてるの!?やっぱり、見られたんじゃ!?


俺は綾乃をちょっと呼び出すことにした。


「あ、綾乃、あのさ」


「な、なな、なに!?」


「いや、その、さっきのことは2人だけの秘密に」


「えっ、も、もも、もしかして、晴翔起きてたの!?」


ん?起きてた?なんのことだ?綾乃は、なにやらすごく慌てている。


「わ、わかった、私もその方が助かるし。ごめんね(濡らしちゃって)」


「いや、俺の方こそごめん(いい歳して)」


その後、俺達は互いに勘違いしながら、謝り続けた。







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