第74話 晴翔の好物

「ハルく〜ん、疲れたぁ」


「おい、香織。今は抱きつくなよ」


香織はいま、水着にTシャツという刺激的な格好をしている。いつも抱きつかれている状況とは全く違う。


「そうだよ、晴翔を独り占めは許せない」


「私も頑張りましたから、晴翔様に癒してもらいたいです」


「同じく」


確かに、今日はみんなよく頑張ってくれたし、何かお礼はしたいと思っている。しかし、俺も疲れているわけで、あんまり刺激を与えないでくれ。


そんな時、片付けの終わった叔父さん達がやってきた。


「さて、それじゃあ、民宿に案内するぞ。もう動けるか?」


「みんなお疲れのところ悪いわね。そろそろ戻らないと、遅くなっちゃうし、明日の朝も早いからね」


「大丈夫だよ、叔父さん、叔母さん。みんな行こうか」


よかった。これで、この危機的状況から脱出できる。


「さて、とりあえず更衣室で着替えてからまた集合しよう」


「ちぇっ、つまんないの」


「まぁ、叔父さん達を困らせるわけにもいかない」


「そうですね」


「いきましょうか」


俺達は更衣室に入り、着替えを済ませる。本当はシャワーを浴びたいところだが、この更衣室にはないため民宿まで我慢することにした。


水着に着替える時もそうだったが、水着から私服に着替えるのも時間がかかるのが、女性というものだ。


それなので、俺は叔父さんと話しながら、しばらく待つことにした。


「それにしても、お前の彼女増えたな。葛西さん?は違うにいても、香織ちゃんに綾乃ちゃん、澪ちゃんだっけか」


「そうだね、実は後1人いるんだけどさ、明日には合流するってさ」


「まだ居んのかよ!?」


「まぁ、なんというか、いろんな出会いがあってさ」


「そうかそうか、みんな良い子だし安心して晴翔を任せられるな」


「そうだね、俺には勿体ない人ばっかりだよ」


これは紛れもない本心なのだが、叔父さんから微笑ましく見られていると、なんだかむず痒い。


そんな時、ちょうど更衣室から彼女達が出てきた。ナイスタイミングだ。


「ハルくん、お待たせ」


「いや大丈夫だよ。じゃあ行こうか」


俺達は、叔父さん達の後をついていき、民宿を目指す。民宿は、海から徒歩15分ほどの距離にあり、通うにはちょうどいい距離だ。


「コンビニと24時間やってるスーパーが徒歩圏内にあるからな。でも、あんまり遅い時間に行くと補導されるから気をつけろよ。何かあれば、隣の家にいるからすぐ呼べよ?」


「わかったよ、叔父さん」


俺達は、叔父さん達と別れると、叔父さん家の隣に併設せれている民宿の中に入る。民宿の中は、最低限の設備が置かれていた。間取りは和室3部屋とトイレ、お風呂、キッチンだ。


「わぁ、いい家だね」


「確かに、なんだか落ち着く」


「どうする?ご飯かお風呂か。どっちが先がいいかな?」


この究極の選択に対して、俺達は多数決で決めることにした。その結果、満場一致でお風呂が先となった。これなら、多数決とらなくてもよかったな。


しかし、お腹も空いているため、湯船にはつからずシャワーだけ済ますことにした。今回は流石に邪魔する時間もないため、すんなり全員入ることができた。


「よし、夕飯の買い出しに行くか」


俺達は、とりあえずスーパーに行くことにした。確か、徒歩圏内だと言っていたが、どこら辺だろうか。


そう思って、大通りに出てあたりを見渡すと、遠くの方にスーパーの看板が見える。どうやらあれのようだ。俺達はスーパーを目指して歩き始めた。


「ハルくん何食べたい?」


「んー、俺はなんでも大丈夫だよ。みんなが食べたいのでいいよ」


「晴翔は好き嫌いないのか?」


「そういえば、晴翔様のそういう話はあまり聞いたことありませんでしたね。今回のことを機に、色々と教えてください」


澪がそういうと、美涼さんはポケットからメモ帳を取り出した。


「それなら、私がお教えいたします、お嬢様。晴翔くんの大好物は鳥の唐揚げです。和食、中華は大体好みのようですね。嫌いなものは、梅干しと納豆です」


・・・。


「あの、晴翔様。当たってるんですか?」


「えーっと」


驚きを隠せず、たじろぐ俺の代わりに香織が答えてくれた。


「合ってますね」


「葛西さん、それどこ情報?」


「葛西いつの間に調べたのよ?」


「先日、晴翔くんのお母様とお話しした際に色々と情報を仕入れております」


さも当然のように言い放つ美涼さんに、俺も驚いて問いかける。


「えっ、いつの間に話したんですか?」


「先日、顕彰様に頼まれて晴翔くんのご自宅へ伺ったのですが、お母様しかいませんでしたので、少しお話をさせて頂きました」


「そ、そんなことが」


「晴翔のお母さんって、あの真奈さんでしょ?私は2人っきりになる勇気がない」


「私も緊張してしまうかもしれません」


まぁ、俺からみれば唯の母親だが、世間から見れば大女優の真奈なのか。なんだか、身近すぎて忘れてしまいそうになる。


「とにかく、みなさん」


美涼さんは、俺以外のメンツを集めてコソコソ話している。


「ここは、晴翔くんのおかずをそれぞれが作って、どれが一番美味しかったか決めてもらいましょう。もちろん晴翔くんには趣旨を伏せて行いましょう」


「意義なし」


「私も問題ありません」


「私は参加資格がないです。料理できないので」


「そこは、大丈夫です。私が見て差し上げます。何事も経験ですよ香織さん」


「わ、わかりました。頑張ります」


話がまとまったのか、彼女達と合流し再びスーパーを目指す。


スーパーに到着すると、なぜか俺以外のメンバーはそれぞれ買い物カゴを持って、いなくなってしまった。


「お、おい。どうなってんだ??」


ーーーーーーーーーー


「ここは、晴翔くんのおかずをそれぞれが作って、どれが一番美味しかったか決めてもらいましょう。もちろん晴翔くんには趣旨を伏せて行いましょう」


「意義なし」


「私も問題ありません」


「私は参加資格がないです。料理できないので」


「そこは、大丈夫です。私が見て差し上げます。何事も経験ですよ香織さん」


「わ、わかりました。頑張ります」


晴翔の知らぬ間に料理対決が開催された。


「葛西。それで、晴翔様の好物は唐揚げ以外は何があるの?」


「晴翔くんは揚げ物は大体好きなようです。ご飯ものだとチャーハンやカツ丼などを好んで食べていたとか」


「晴翔はやっぱり、和食か中華か」


「なるほど。それであれば、さほど難しくないですね」


「私はもうついていけません」


「香織さんは、一緒に鳥の唐揚げにしましょう。苦手な分、アドバンテージは必要でしょう」


料理ができる3人に比べて、香織が不利になるため、晴翔が一番好きな唐揚げを担当することになった。


「そのくらいのハンデは仕方ない」


「構いませんわ」


「それでは決まりですね」


スーパーに到着すると、彼女達はバラバラに行動し始めたため、晴翔は入口の近くにある休憩所で待機することになった。


「香織さん。調味料などは一通りありましたので、鶏肉とかの材料を持ってきてください。スマホで調べればわかりますので」


「わかりました」


その後、30分ほど経った頃。彼女達が戻って来た。


「結構かかったね」


ここのスーパーは、さほど大きくないため、ぐるっと回っても15分あれば十分足りそうな大きさである。流石に30分もかかるとは思っていなかった。


「ごめんね、ハルくん」


「晴翔ごめんね。無計画にバラバラに動いたから、結構被った食材があって」


「確認するだけで10分以上使ってしまいました。すみませんでした」


「晴翔くん、暑いのでこれでも食べながら帰りましょう」


皆んな悪かったと思っているのか、俺にそれぞれ謝ってくれた上に、アイスまで買って来てくれたようだ。


正直暑かったから嬉しい。俺は美涼さんから受け取ると、笑顔でお礼を言う。


「ありがとう、美涼さん。これ、俺の好きなアイスだ」


「ふふふ、いいんですよ。晴翔くんはこれが好きだと伺っておりましたので」


俺達は、アイスを食べながら民宿へと戻り、晩御飯を作ることになったのだが、なぜか俺だけ除け者にされ、キッチンに入ることが許されなかったので、少しの間散歩をすることにした。


「じゃあ、ちょっと行ってくるねー」


「ハルくん気をつけてねー。1時間はかからないから、早めに帰って来てね」


「はいよー」


俺は、毎年ここにくると、決まって一人でいく場所があるので、今日もある場所を目指して歩き始めた。


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