第72話 海の家

「なぁ、香織」


「どうしたの、ハルくん?」


「さっきの2人にさ、バレてる気がするんだけど。気のせいかな?」


俺は気のせいであってほしいため、現実逃避していたが、そんなに世の中甘くなかった。


「いや、バレてるでしょ。私も悪かったけどね」


「どゆこと?」


「普段からずっと一緒にいるしさ。今だって、2人で居ればHARUがハルくんだって予想つくからね。それに、あの2人は何度か会ってるから薄々思ってたでしょ」


確かにそうだよな。香織がHARUの彼女なのはみんな知っているし、それなのに俺とずっと一緒に居れば、誰でもわかるか。


「ならもう少し離れて生活すればよかったな」


なんとなく思ったことをボソッと言ったが、香織にはバッチリ聞こえていたようだ。


「なんで、そんなこと言うの?バレたって、もう関係ないよ。ハルくんには私達が居るんだから。もう学校でスペースはないよ」


「まぁ、香織に綾乃、澪、桃華がいれば誰も入って来ないか。なんか、みんなに守ってもらってるみたいで申し訳ないな」


「気にしなくていいの。それくらいやんないと、まともに学校行かなくなっちゃうから」


「ははは、面目ない」


それから、俺達は目的のバーベキューセットやらキャンプグッズなど色々と見て回った。


夏休み中にどこかでバーベキューとかできればいいなぁ。今度皆んなに相談してみよう。


ーーーーーーーーー


さて、ついにこの日が来たか。


今日から3日間、叔父さんがやっている海の家のアルバイトに行くことになっている。


桃華は仕事がある為、途中で参加すると言っていたが、香織、綾乃、澪は最初から参加してくれるらしい。


いつもは俺だけで、たまに香織が来てくれていたが、これだけ美女が働いていれば、繁盛間違いなしだろう。


きっと、叔父さんも喜ぶだろうな。


「ハルくん、皆んな揃ったよー」


家の外から香織の声が聞こえる。どうやら3人とも揃ったようだ。


俺は急いで荷物を持って外に出てた。


「ごめん、お待たせ」


「ハルくん、おはよう」


「おはよう、晴翔」


「晴翔様、おはようございます」


「晴翔くん、おはようございます」


やっぱり、美涼さんもいるんですね。今日は車じゃなくて、電車で行くことにしたから、てっきりお留守番かと思ったけど。


「せっかく、電車にしたのに葛西がついてくるとうるさいんです」


「私は晴翔くんが・・・、いやお嬢様が居るところならどこでも行くのです」


「本音が出てるわよ、葛西」


こんなやりとりも、もうすっかりおなじみになってきたな。


「じゃあ、遅くなっちゃうし、そろそろ行こうか?」


「「「「はーい」」」」


俺達は、歩いて駅へと向かう。


『ねぇ、あの人達やばくない?』


『芸能人かな??』


『あっHARU様も居る!』


『香織さんも居るよ!』


なんだか、俺だけじゃなくて、最近は香織もすっかり有名人になっている。


俺のファンの間でも、香織は人気があり、だいぶ神格化されている。


「なんだか、晴翔だけじゃなくて、香織もやばいね」


「香織さんは可愛いもの。溶けてるときはなおさら」


「2人とも、変なこと言わないで下さいね」


皆んなといると本当に飽きないな。少し賑やかすぎるくらいだ。


それに、この人数で移動していると、かなり目立つため、静かに移動するのが難しい。今度からは美涼さんに送ってもらった方がいいかもな。


その後、俺達は電車に揺られること1時間。暑さに悶えながら、なんとか目的地へと到着した。


「やっとついたぁ」


「暑い」


「やっぱり、暑いですね」


「晴翔くん、日傘です」


「いや、それ澪のでしょ」


・・・。


「お嬢様、日傘です」


「葛西」


美涼さんのお約束が終わったところで、海の家に向かう。いつも通りならそろそろ叔父さんがいるはずだ。


「叔父さーん」


俺が声をかけると、しばらくして男性が1人出てきた。


「おぉ、晴翔!今年も来てくれたのか!」


「当たり前じゃん。俺、ここしかアルバイトしてないんだから」


「ははは、それもそうか。でも、最近はそこそこ稼いでるんだろ?結構色んなところでお前の広告とか見るぞ?」


「えっ?そうなの?」


「なんだよ、本人が全く気にしてないのかよ。銀行口座ちゃんと見てるか?」


「いや、見てない。帰ったら見てみるかな」


そういえば、一度も仕事の通帳を記帳していない気がする。今度やらないと。


「そういや、今年は香織ちゃんはいるのか?お前と香織ちゃんが居れば繁盛間違いない」


「あぁ、そうだった。香織以外にもいるから紹介するよ。今年手伝ってくれる不知火澪さん、大塚綾乃さん、葛西美涼さんだよ」


・・・


あれ?叔父さんが固まって反応がない。


「おーい」


あれ?


「おーい、叔父さん」


「はっ!?」


2度目の呼びかけに、やっと気づいたようだ。


「お前、またこんな別嬪さん達連れてきて、少し自重しないと、修羅場になるぞ?彼女だっていい顔しないだろ」


そう言って、叔父さんは香織のほうを見るが、香織は通常運転で特に気にした様子はない。


「あれ、いつもならお前に女が近づけば、鬼の形相なのにな」


「別に大丈夫だよ。美涼さん以外は皆んな彼女だし。香織とも仲がいいから」


「はぁ!?こんなに彼女いるのか!?」


叔父さんはかなり驚いているが、彼女達を待たしていることに気づいて、叔父さんは皆んなに挨拶する。


「今日は悪いな手伝ってもらって、俺は須永航平すなが こうへいだ。よろしくな」


「大塚綾乃です。晴翔の彼女です。よろしくお願いします」


「不知火澪です。晴翔様の婚約者です。よろしくお願いします」


「葛西美涼です。お嬢様の付き人兼晴翔くんの愛人です。以後お見知りおきを」


「な、なんというか、個性的なメンバーが揃ったな。なんか聞き捨てならないワードも出てきてたが、時間が惜しいから後にするか。とりあえず、準備からだな。晴翔、教えてやってくれ」


「はーい」


それから、俺は皆んなに開店前の準備を教えた。食器などの確認はもちろん、食材の確認、掃除道具の場所なども教えた。


調理に関しては、俺と香織は戦力外通告を受けているので、俺、香織、澪の3人は配膳と接客。料理が得意な綾乃、美涼さんは調理場のフォローをすることになった。


「これだけいるなら、他のバイトは要らなそうだな。あとで断っとくか」


「いつもの人達?」


「あぁ、近所の大学生だ。アイツら女の尻ばっかり追いかけてて使えねぇからな」


「ははは、確かに。香織にもちょっかい出してたしね」


「まぁ、アイツらもお前の彼女には手出さねぇさ。お前にボコボコにされてビビってたからな」


「香織に近づくから手加減間違えただけです。もう俺も師範代代理ですから。素人に手は出しませんよ」


「そうかそうか。まぁ、お前は優しい奴だからな、心配しちゃいねーさ。さて、そろそろ開けるから支度して来い」


「わかったよ。皆んな、着替えるから更衣室案内するよ」


俺は、海の家の裏にある更衣室に案内する。


「着替えはここね。こっちが男性で、こっちが女性ね。着替え中はしっかり鍵をかけることと、貴重品はロッカーに入れて鍵は無くさないようにね。手首に巻けるようになってるから」


一通り説明すると、俺達は着替えの為更衣室に入る。しかし、隣合わせのため声はしっかりと聞こえる。


『ねぇ、綾乃ちゃん、葛西さん。どうしたらそんなに大きくなるの?』


『いや、香織だって十分大きいだろ?』


『そうですよ、そのくらいが丁度良いですよ。それ以上大きくなると邪魔なだけです』


アイツらはなんの話をしてるんだ。ちゃんと注意しておかないと。ここは、俺と叔父さんしか基本使わないが、ちゃんと教えてあげよう。


よし、着替え終わったし先に外で待つか。


俺は外に出て彼女達を待つことにした。待つこと約10分。やっと彼女達が出てきた。


「うん、3人ともよく似合ってるね。あれ?美涼さんは?」


3人の水着は一緒に選びに行ったから、よくわかっている。シンプルなビキニだが、スタイルの良い彼女達にはよく似合っている。


「葛西さんは、その」


「あれだと晴翔の前には、ちょっと」


「今反省させてますので」


ん?何があったんだろうか。あっそうだ。


「仕事中は、これ着てもらってもいい?」


「あっ、いつものTシャツだ」


「あんまり、みんなをジロジロ見られるのも気分悪いから、これ着ててくれ」


Tシャツを着るのは強制ではないのだが、やっぱり他の男に見られるのはなんか嫌だった。


「ふふふ、ハルくん可愛い」


「晴翔、可愛いな」


「晴翔様、お可愛いです」


「と、とりあえず、よろしくね。それ着たら表に来て。これ美涼さんの分ね。それじゃ!」


俺はそれだけ言うと、そそくさとその場を後にした。


「あ、これ着てれば葛西さんも大丈夫なんじゃないですか?」


「そうか?下も結構際どかったぞ」


「調理場から出なければ大丈夫ですかね。葛西、これを着て大人しくしてるんですよ?」


「わかりました。残念ですが大人しくしてます。せっかく晴翔くんで遊ぼうと思ったのに」


「葛西、心の声が漏れてるわよ」


「では、そろそろ行きましょうか。戦場いくさばへ」


「「「はーい」」」


香織以外の3人はちょっとしたアルバイト程度のつもりでいたが、この後香織が戦場と表現したことを正しく認識することになる。


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