第69話 昔の写真
「料理教室かぁ、ちょっと興味あるよね」
「んー、俺はどっちでもいいかな。料理出来なくても困らないし」
「まぁ、それはそうだよねぇ。初回は無料みたいだし、何より近所だからね。ちょっと考えてみようかな?」
香織はどうやら、料理教室に興味があるようだ。俺達の腕前で、習ったところで上手くなる気がしないが、香織が行きたいなら、その時はついて行ってやるか。
「そういえば、伊織さんに頼まれたことがあったんだけど」
「えっ、なんかあったっけ?」
父さんが香織に頼むなんて、何かあったっけ。
「とりあえず、私の家に行こ」
「なんで?」
「伊織さんとの取引の結果、今日は私の家に泊まるんだよ、ハルくんは」
「はっ!?聞いてないんだけど!?」
「そりゃそうだよ、言ってないもん。言ったら断るでしょ?」
「そりゃ、そうだろ!?今日は俺達しか居ないんだぞ!?」
「そうだよ?でも、だからこそ近くにいて欲しいなぁ。何かあったら怖いな、わたし」
そう言って、目を潤ませてこちらを見る香織。いつもこの目にやられてきたが、やっぱり今回もやられそうだ。
まぁ、確かに女の子一人じゃ心配だよな。
あれ?そういえば、明日香さんが家を出る時に言っていたことを思い出す。
『晴翔くん、じゃあ香織をよろしくね』
『はい、わかりました』
『晴翔くんが居れば安心ね』
そんなやりとりがあった。もしかして、もう既に泊まることが決まっていたのでは?
「はぁ、分かったよ。とりあえず、香織の家に行くか」
「やった!」
俺達は、香織の家に着くと、すぐに香織の部屋へと向かった。
「飲み物持ってくるから、ちょっと待ってて」
「りょーかい」
それにしても、香織の部屋は変わらないなぁ。昔からシンプルな部屋で、ピンクとか女の子って感じの色は使われていない。
どちらかというと、俺の好みに近いかもしれないな。俺の部屋の色合いに似ているからか、すごく居心地がいい。
俺は、机の近くに置かれた座布団の上に座って待つことにした。
「ハルくん、お待たせ」
「お、早かったな」
飲み物を持ってきてくれた香織は、迷わずに俺の隣に座る。
「それで?俺が泊まることになった、父さんのお願いとは?」
「あぁ、なんかハルくんが昔の写真を見たがってるって聞いてさ。伊織さんが、まだ出せそうにないから、私が持ってたら見せてあげてくれって言われたの」
あぁ、そういえば父さんに頼んだんだった。なるほど、確かに香織なら例の写真も持っているかもしれない。
「でね、私も奥から出して来なくちゃいけないからさ、対価としてハルくんのお泊まりを請求したの」
「なるほど、そんな取引があったのね。全く、何考えてんだか、俺らの両親は」
考えただけでため息がでる。普通、年頃の男女を2人っきりにしないだろ。いくら彼氏、彼女とはいえ。
「でも、それだけハルくんが信用されてるってことだから。・・・でも、ハルくんなら、私はいつでも」
「信用されてるって言われてもなぁ。ん?なんか言ったか?」
「う、ううん!な、なんでもない。とりあえず、写真を見ちゃおうか」
「それもそうだな」
それから、俺達は昔の写真を見ながら、昔話に花を咲かせていた。
「こんなこともあったなぁ」
「懐かしいねぇ」
俺達は保育園の時から高校までずっと同じであり、なんとクラスもずっと一緒なのだ。なんとなく運命的ななにかを感じている。
「あ、見てみて。この子、覚えてる?」
「ん?どれどれ?」
俺がその写真を見ると、俺が探していた男の子が写っていた。
「あった、これだ!」
「えっ、探してたのってこれ?」
「そう、この前この写真を見る機会があって、ずっと気になってたんだ」
この写真は、空手の大会で優勝した時に撮った写真だ。確かりっくんは、この時大会には出てなかったんだよな。
なのに、わざわざ応援に来てくれて、嬉しかったなぁ。
この写真には、俺と手を繋ぐ香織と、俺の裾を摘んでいるりっくんの3人で写っている。
「ねぇ、この子って、ハルくんがりっくんで呼んでた子だよね?」
「そうそう、覚えてる?」
「もちろんだよ。同じ小学校だったもん。中学の頃には引っ越しちゃったみたいだけど」
「そうだったのか。小学校のときは、ほとんど空手に時間を使ってたから、あんまり同級生も覚えてないなぁ」
「それもそっか。でも、りっちゃんはずっとハルくんのこと見てたけどね」
「俺を?」
なんで、りっくんが俺のことを見てるんだ?
「うん、好きだったんじゃないかなぁ。陰からこっそり見てるりっちゃんは、本当に可愛かったもん」
「可愛いって言っても、男から好かれても困っちゃうよな」
俺は苦笑いをしながら、写真をみる。すると、香織はポカンと口を開けて固まっている。
「ど、どうした?」
「もしかして、りっちゃんのこと男だと思ってるの?」
「えっ、違うのか?」
「え、ハルくん、よく見てよこの写真」
俺は、香織が指差す写真を見る。その写真は、香織とりっくんが2人で写っている写真だ。
何もおかしなことはないように見えるが、一つ違和感があった。
「な、なぁ、これって」
そう、この写真のりっくんはスカートを履いているのだ。
「そうだよ、りっちゃんは女の子だよ」
「マジで!?」
俺が男の子だと思っていた空手少年は、実は空手少女だったのか?
俺は、驚きを隠せなかった。
「でも、この写真どこで見たの?」
「えっと、六花の家で」
「六花って、あのアイドルの?」
「そう。この前、うちの道場に入門したんだけど、昔も通ってたみたいでさ。あんなに強い女子なら覚えてそうなもんなんだけど、記憶になくてさ。やっと、理由がわかったよ」
そっか、りっくんが六花だったのか。もしかして、俺ずっと失礼なことをしていたんじゃ。
はぁ、後で謝らないとな。全然気づかなかった。門下生に気づかないなんて最悪だ。
「まぁ、ショートカットで、男の子みたいな喋り方だったからね。仕方ないんじゃない?後で謝ればちゃんとわかってくれるよ」
「そうかな?そうだといいけど」
俺は、知りたかったことがわかったが、更なる悩みが出来てしまったことに頭を抱えた。
ーーーーーーーーーー
「よし、じゃあお風呂に入ろうか、ハルくん」
「はっ?先に入っていいぞ?」
「ちぇっ、つまんないなぁ」
そう言って、香織は先にお風呂に入った。香織はお風呂が大好きで、一度入ると1時間は出てこない。
「ハルくん、ごめんね。お待たせ。着替えは伊織さんから預かってるから。そこの袋にまとまって入ってるってさ」
「あぁ、ありがとう」
父さんの準備の良さに計画性を感じる。全く、後で問い詰めてやる。
俺は、お風呂に入ると、色々考えたいことがあったからか、いつになく時間がかかってしまい、やはり1時間ほどはゆっくり入っていた。
それにしても、人の家のお風呂でゆっくり出来るのは香織の家だけだな。
澪の家では美涼さんが乱入してくるし、本当に困るよなぁ。
「香織、ごめん、遅くなった」
俺が香織の部屋に戻ると、香織は机に突っ伏して寝てしまっていた。
それにしても、その姿はダメだろ。
香織はいつも風呂上がりは薄着であることが多いのだが、今日は下着にTシャツを着ているだけ。
「刺激が強すぎるだろ」
俺は、寝ている香織の頬をつつく。んー、起きないな。ここで起こしてもよかったが、なんだか可哀想なので、ベッドまで運んであげることにした。
しかし、その前に。
俺はスマホを取り出すと、香織の寝顔を写真に収めた。うん、可愛いな。保存保存っと。
その後、俺はなるべく下着を見ないようにしながら、香織を抱きあげると、そのままベッドへと運んだ。
「おやすみ」
俺は、香織の額に唇を落とすと、座布団を枕にして床で寝ることにした。
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