第70話 香織の起し方
「ん〜、ふわぁぁぁ」
あぁ、よく寝た。
珍しく早めに寝たおかげか、なんだか身体がスッキリしていた。いつもなら、このままランニングに出かけるのだが。
「なんで香織のやつここで寝てるんだよ」
昨夜は確かにベッドに寝かせたはずなのに、気づけば俺の隣で寝ている。しかも、腕を取られているので、起き上がることが出来ない。
「香織、朝だぞ?」
軽く揺すってみるが、中々起きる気配がない。そういえば、香織は寝起きが悪いんだよなぁ。
どうしたもんか。
「・・・ハルくん」
「おっ、起きたか?」
「むにゃむにゃ・・・肉まん」
俺がこんなに悩んでいるのに、コイツは。呑気に肉まん食ってんのか?
あっ、そうだ。香織の起こし方は、明日香さんに、一度聞いたことがあったな。
でも、こんなことで本当に起きるのだろうか?半信半疑のまま俺は明日香さんの言う通り香織を起こしてみる。
方法は至って簡単。香織の耳たぶをはむっと咥えるだけ。
「ひやぁぁぁぁぁ!?」
香織はガバッと起きたが、どうやらまだ寝ぼけているようだ。
「お母さん!これやめてって言って・・・」
「おはよう」
ここで、香織はやっと俺と一緒に寝ていることに気づいたようだ。顔を真っ赤にして、噛まれた耳たぶを抑える。
「な、なな、なんで、耳」
「あぁ、明日香さんがこれなら一発で起きるからって、前教えてくれたんだ」
「もう、お母さんも余計なことを」
いやいや、香織が起きないのが悪いんだけどね。それにしても、寝起きの彼女というのもいいもんだ。眼福、眼福。
「ハルくん、あんまり見ないでよ。えっち」
俺の視線に気付いたのか、香織はTシャツの裾をグッと伸ばす。いやいや、そこは見てませんて。
「とりあえず、起きようか。なんでここで寝てたのかは、ご飯を食べながら聞こうか」
俺達は、昨日ファミレスでテイクアウトしたご飯をテーブルに並べる。
朝から豪華だが、胃には重たそうだな。
「で、なんでベッドに寝ていた香織が、俺の横で寝ていたのかな?」
「え、いや、それはですねぇ」
なんだか歯切れが悪いな。そんなに言えないことだろうか?
「うぅ、じゃあ私の出す問題に答えられたら、教えてあげる!」
悩みに悩んだ結果、こちらに人差し指をビシッと向け、そう言い放つ。
別に、言いたくなければ言わなくてもいいんだが、面白そうなので乗っかることにした。
「OK、受けてたつ」
「ふふふ、これは超難問だよ、ハルくん。私のことをちゃんと理解していないと答えられないからね」
そう言って、一呼吸あける香織。
「では、私が今食べたいものは何!?」
うん、自信満々なところ悪いけど、これは簡単ですよ香織さん。
「肉まん」
「ふふふ、難しいでーーえっ!?なんで!?」
心底驚いているのがよくわかるが、この問題ならいくらでも誤魔化せただろうに。本当に嘘がつかないやつだな。
「なんで、なんで!?ハルくん、超能力!?」
すごく目をキラキラさせながらこっちを見る香織に若干の罪悪感をいだく。
「まぁ、香織は素直でわかりやすいから」
「それ、褒めてる?」
「もちろん。それで、教えてくれるのかな?」
「うぅ、わかったよ。確か昨日は」
ーーーーーーーーーー
「あーあ、やっぱりハルくん入ってこないなぁ。彼氏なんだし、一緒にお風呂くらいいいと思うんだけどなぁ」
私が、湯船に浸かること30分以上。待てど暮らせど待ち人は来ないため、私は諦めて出ることにした。
「うん、脱衣所にも来てない」
私の服はしっかり畳まれたまま。乱れた様子もない。脱いだ下着もそのまま。ハルくんは本当に男の子なんだろうか?
「いやいや、ハルくんは紳士なだけ」
そう、決して私に魅力がない訳では無いはずだ。うん、たぶん。
うぅぅぅ、こうなったら試してみるしかない!
私はバスタオルを巻いて状態で、ハルくんがいる私の部屋まで戻った。
部屋の前まで来て、なんだか恥ずかしくなってしまったが、いつかはこのタオルも無くなるんだから、頑張らないと!
「ハルくん、ごめんね。お待たせ。着替えは伊織さんから預かってるから。そこの袋にまとまって入ってるってさ」
私は、照れ隠しで口早に伝える。
「あぁ、ありがとう」
ハルくんは、こちらをチラッと見たが特段顔色を変えることはなく、そのままお風呂へ行ってしまった。
「えぇぇぇぇ」
せっかく、勇気を振り絞ったのに。ちぇっ。でも、まだまだこれからだよハルくん!
私は下着の上にTシャツを来て、ハルくんを待つことにした。やばい、すごくドキドキする。
てか、私、もしかして痴女とか思われないよね?大丈夫だよね??
なんだか、心配になってきたが、それよりも眠気が襲ってきていた。うぅ、ハルくんが出てくるまで少し仮眠しようかな?
私の記憶はそこで途絶えた。
「香織、ごめん、遅くなった」
ガチャっとドアが開く音で、少し意識が覚醒したが、眠気には勝てなかった。
「刺激が強すぎるだろ」
う、うっ、ハルくんが私をいじめるよー。
ハルくんが、なんでか知らないけど私の頬を突いてくる。まぁ、嫌じゃないけど。
しばらく、頬を弄ばれたけど、それもすぐに終わった。良かった。これでゆっくり寝れる。私はまた深い眠りにつこうとしたが、ハルくんがスマホで写真を取り出した。
『何してるの、ハルくん!?でも、写真見ながらニコニコしてるハルくんも好き♡』
私が、バレないようにハルくんを観察していると、ハルくんは私を抱きかかえ、ベッドへ運んでくれた。
『あぁ、なるべくこっちを見ないように頑張ってる。ハルくん可愛い』
私はそのままベッドを下ろされると、布団をかけられる。
『あぁ、私はきっとこのまま大人の階段を』
そう思っていたのだが、おでこにキスされただけで、ハルくんは床で眠ってしまった。
『えっ、なんで!?ハルくんの意気地なし!』
私はむくっと起きると、ぐっすり眠っているハルくんのもとへ向かう。
ハルくんは殺気がすれば起きられると前に言っていたので、私は何も考えず、無心でハルくんに近づいていく。
そんな時、ハルくんのスマホがなった。
『ひゃっ!?』
バッと口を抑え、ハルくんをみるが起きた気配はない。良かったぁ。
私はハルくんのスマホを覗き込むと、美涼って人からのメッセージだった。
『美涼って誰よ!?』
私が知る中で美涼なんて人は居なかった。最近ハルくんの行動範囲が広がったため、全然交友関係がわからない。
スマホの画面には、メッセージの最初の文章が少しだけ見えていた。
人のスマホを見るのは気が引ける。でも、気になる。
私は、葛藤しながらも待ち受けに出ている分だけ見ることにした。
『晴翔くん、先日見に行った指輪のーーー』
文字はそこまでしか見えなかった。
『えっ!?指輪!?』
いつの間にか、ハルくんが知らない女に指輪を!?いや、まだ買ったと決まった訳でわ。
うぅ、気になるぅぅ。
私は、一度スマホを掴んだが、すぐに机に置いた。流石にダメだよね。それに、ハルくんを信じてあげなくちゃ。
「大丈夫だよね、ハルくん?」
私は、ハルくんに抱きついてそのまま寝てしまった。そして、起きた時には耳たぶを齧られていた。
ーーーーーーーーーー
「なるほど、美涼さんのメッセージを見たのか」
「うん、ごめんなさい」
見るからに、しゅんと落ち込んでいる香織。全く、可愛いやつだな。俺は香織の頭を優しく撫でた。
「別にスマホくらい見てもいいんだぞ?」
「でも、やっぱり、ちょっと」
「俺の暗唱番号くらい知ってるだろう?」
「知ってる」
冗談で言ったんだけどな。本当に知ってるのか。
「そ、それで、美涼って誰?」
「美涼さんは葛西さんだよ。澪のとこの使用人さん」
「あぁ、あのハンカチの人。やっぱりハルくんに近づいて来たか」
「ハンカチの人?」
「ううん、なんでもない。それで、指輪ってなんのこと?」
香織は笑顔でこちらを見ているが、目が全く笑って居なかった。仕方ない、香織にだけ教えるか。俺は、内緒にしてもらう代わりに、香織にだけ教えてあげることにした。
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