第67話 舞台挨拶

《もしもし、どうしたんですか?》


《急で申し訳ないんだけど、仕事が入ったの。今からスタジオ行ける?》


《仕事ですか!?やったー!すぐに行きます》


やった、急だったけど仕事が決まってよかったです。なんの仕事でしょうか?やっぱり、モデルの仕事でしょうか?


《今日は、バラエティ番組の収録なんだけど》


《えっ、バラエティですか!?》


すごい、すごい!


初めて、テレビの収録に参加します!


《でもね、今日は私がついて行けないから、マネージャーと仕事に向かって》


《えっ、そうなんですか?》


《うん、ごめんね。仕事が入っちゃってて。また後でかけ直すから。頑張ってね!》


《うん、わかった。バイバイ》


はわわわわわ、どうしましょう!?


マネージャーさんでもなんとかなるけど、日本語も英語も苦手です。大丈夫でしょうか?


私は、マネージャーと合流すると、スタジオに向かいました。そこで、いろんな人に挨拶をしました。


私のことを知っている人もいましたが、まだまだ知名度が低すぎますね。もっと、頑張らないと。


そして、最後に向かった楽屋は、同じモデルの仕事をされているHARUさんでした。HARUさんといえば、イケメンで有名で彼女さんもいっぱいいるそうです。


きっとらすごくチャラい人なんでしょう。そういう人は気をつけないといけません。


コンッ、コンッ


「しつれい、します」


「どうぞ」 


楽屋に入ると、そこには確かにイケメンがいました。


「エミリー、です、よろしく、です」


「HARUです、よろしくお願いします」


そう言って、笑顔で挨拶を返してくれます。すると、私は思わず思ったことが、口から漏れてしまいました。


《本当にイケメンだぁ》


《ははは、ありがとう。エミリーさんも、すごく可愛いですね》


えっ?


今、ドイツ語?


《ドイツ語、話せるんですか?》


《少しだけね》


《すごい!!》


そこから、しばらく他愛のない話をして盛り上がりました。ドイツ語で話せるなんて、通訳の人か、家族ぐらいのものだから、すごく楽しかった。


私はお礼に、先日発売した写真集を渡すことにしました。


あまりの嬉しさに、いつもならサインだけなんだけど、キ、キスマークまでサービスしてしまいました。


収録の不安なんてどこかにいってしまい、私はリラックスした状態で、楽屋に戻りました。


また、お話ししたいです。


ーーーーーーーーーー


「ハル先輩〜、私もかまってくださいよ〜」


「あぁ、ごめんね、桃華」


「なに盛り上がってるんですか?」


「エミリーさん、海外の仕事が結構入ってるらしくてさ、この仕事が終わると、また海外に行くんだって。すごいなぁと思ってさ」


「へぇ、そうなんですね」


まぁ、エミリーさんはドイツ人だし、日本よりも海外の方が仕事が多くなるのは当然なのかな?


「あ、そろそろ収録始まるね」


「そうみたいですね」


《そろそろ始まるよ。何かあったら声かけて》


《ありがとうございます》


その後、収録は問題なく進んでいき、番宣の時間となった。


「私はHARUさんの恋人役で出演させて頂いています。一羽の『青い鳥』をきっかけに、いろんな出会いがあり、成長していきます」


「これは、原作がかなり人気の小説なんですよね。コミカライズもされてますから、今回の映画化はかなり話題になっています。HARUさんはどうですか、出来栄えの方は」


「そうですね。原作も素晴らしかったですし、今回脚本家の方もすごい方ですから、期待していただいて大丈夫です。大崎監督も太鼓判を押されてましたから、楽しみにしてて下さい」


「おぉ、それは期待してしまいますね」


ここで、MCからの質問が、映画から少し外れた質問に変わる。


「ちなみに、あの大女優真奈さんが、HARUさんに期待していると噂がありましたが」


「あぁ、期待と言うよりも、初めてのドラマだったので、気を遣ってもらった感じですね。声をかけてもらって、緊張もほぐれました」


「そうなんですね。それと、皆さん気になっているところではありますが、桃華さんとの関係についても噂がありましたね」


「そうですね、桃華さんとは同じ事務所ですし、高校も同じですから、仲良くさせてもらってます」


「なるほど、なるほど。こんな2人が同じ学校に居るとは、恐ろしい学校ですね。生徒さんが羨ましい」


その後、いくつかの質問に答えると、無事番宣は終了した。それにしても、スタジオでの収録って、緊張するな。


「HARUさん、お疲れ様でした」


「やっぱり本物の方が格好いいね」


収録が終わり、楽屋に戻ろうとしていたところ、共演者の方に捕まってしまった。


「あはは、ありがとうございます。お二人も、テレビで見たよりも綺麗で驚きました」


「はぅ!あ、ありがとう」


「あ、握手してもいい?」


「はい、是非」


俺は、2人と握手をすると、やっと解放されて楽屋に戻ることが出来た。さっき、握手をした彼女達は、タレントさんのようだ。


あまりテレビは見ないが、名前と顔は俺でも知っているほど有名な方だった。


なんか、芸能人になったって感じがするな。


楽屋に戻って、帰り支度を始めると、楽屋の扉がノックされた。


コンッ、コンッ


「はーい、どうぞ」


「失礼、します」


そこには、エミリーさんの姿があった。どうしたのだろうか?


《どうしたの?》


《いえ、大したことじゃないんですけど、今日から海外生活が長くなるので、最後に挨拶をと思いまして》


《なるほど。モデルの仕事ですよね。いつか、一緒に仕事が出来るといいですね》


《はい!それまでお仕事頑張ります!》


それじゃ、と笑顔で楽屋を出て行ったエミリーさんを俺も笑顔で見送った。エミリーさんは可愛いし、スタイルもいいから、これからますます人気になるだろうな。


ーーーーーーーーーー


それから数日、番宣のためにいくつかの収録をこなした、俺と、桃華。そして、ほかのキャストさん達も、さまざまななメディアで番宣を行って来た。


そして今日、ドラマ『青い鳥』の試写会と舞台挨拶を迎えた。


「ハル先輩、いよいよですね」


「そうだね。なんだか緊張してきたよ」


「あはは、実は私もです。ドラマの収録とか、バラエティの収録なんかとは比べものにならないです。でも、やっとハル先輩との関係を公表出来ます」


そう、今日の試写会では、単なる舞台挨拶だけでなく、俺達の関係をここではっきりさせようと思っている。


以前、母さんが色々根まわししてくれた結果、週刊誌の発刊も先延ばしに出来たし、ドラマを今期にねじ込むこともできた。


そして、ドラマの宣伝のついでに、俺たちの関係を公表するつもりだ。


賛否両論あるかもしれないが、俺達のことはネットでは応援してくれている人達がかなり多い。勝算はあるはずだ。


「よし、じゃあ行こうか」


「はい、ハル先輩」


俺達が、舞台袖まで行くと他のキャストたちと合流する。


「あ、桃華さん、HARUさん。その」


なんだか気まずそうに話しかけてくるのは、週刊誌にリークした中川達だった。


事務所から、こっぴどく叱られた彼らは、今ではすんなり大人しくなっていた。


「週刊誌の件、本当にすみませんでした」


素直に謝られたことに、心底驚いた俺達は、すぐに言葉が出てこなかった。


「えっと、それだけだから、それじゃ」


「あ、あぁ」


「あれ、本当に中川さんですか?随分と大人しくなりましたね」


「びっくりしたな。まぁ、変わったのならいいことなんじゃないか?」


「そうですね。それよりも、ハル先輩。呼ばれてますから、舞台に上がりましょう!」


「そうだね。行こうか」


俺達は緊張の中、舞台挨拶に挑んだ。


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