第66話 番宣
これは、とある日の番組収録が終わった後のこと。出演者の皆さんに挨拶をして、次の仕事に向かいます。
でも、そんな私を邪魔する輩が、どの収録でもいるんです。相手がプロデューサーとかだと強く出れないし、本当に困っちゃいます。
「桃華ちゃん、お疲れ様。今日もよかったよ」
「ありがとうございます。今回のドラマは本当に良いので、ぜひ皆さんに見て頂きたいです!」
私が、今日このバラエティに出たのは『青い鳥』の番宣のためだ。私が一人で出る番組もあるが、基本的にはハル先輩と二人で出る事が多いから、すっごい嬉しい。
「今、色々と大変そうだし、俺でよかったら相談乗るよ?この後とかご飯でもどう?」
つい先日、私とハル先輩の熱愛報道が出されたのだ。うちの事務所的には、全く問題視していない。別に不倫や浮気をしているわけではないのだ。ただ、好きな人が出来たって話。
これが、恋愛禁止のアイドルとかだったら、批判殺到なのだろうが、今回に限っては私達を応援してくれる人の方が圧倒的に多かった。
「いいえ、やめておきます。また週刊誌にあることないこと書かれるのは侵害ですからね」
「それもそうだね。じゃあお疲れ様」
「お疲れ様でした!」
何が、『それもそうだね』よ。全く、下心見え見えよ。それに、これから大事な収録があるんだから、邪魔しないで頂きたい!
私は急いで、同スタジオの別の階へ向かいます。えっと、控室は・・・あった、こっちだ!
私は、大御所の演者さんから順番に挨拶をして行く。
よし、次が最後です。もちろん最後はハル先輩です。私は、ハル先輩の楽屋へと入ります。
コンッ、コンッ
「はーい、どうぞ」
「失礼します」
ガチャ
「ハル先輩!」
「おぉ、桃華か。お疲れ様」
こうして、楽屋に挨拶に行くと、初めてハル先輩の楽屋へお邪魔した時のことを思い出します。
「えへへ、ハル先輩、収録までここにいていいですか?」
「構わないよ」
「やった、お邪魔しまーす♪」
私は、意気揚々とハル先輩の元へと向かいます。すると、あるものを見つけました。
「ハル先輩、それどうしたんですか?」
「あぁ、これ?さっき、楽屋挨拶に来てくれた、子が置いて行ったんだよ。初めてもらったよこういうやつ」
そう言って、頬を掻きながら、苦笑いを浮かべるハル先輩。
ハル先輩の目の前に置かれているのは、今人気沸騰中のモデル、エミリーの写真集だ。
丁寧にサインされた写真集には、何かが書かれており、端っこにはキスマークまでついている。
「エミリーさんが、なんで楽屋挨拶に来るんですか?今日の収録に居ないですよね?」
「いや、さっきアイドルの子が収録に来れなくなったらしくってさ、代役にエミリーが来たみたいだよ」
「えっ、でも、楽屋は全部回ったんですけど」
「あぁ、彼女の楽屋は向こうの通路らしいよ」
なるほど、どうやら見落としていたのですね。流石に挨拶しない訳には行かないし、行ってみようかな。
「私、ちょっと挨拶してきますね」
「あ、だったら俺も行こうか?」
「えっ、なんでですか!?」
も、もしかして、ハル先輩、エミリーさんが気になってるとか??
確かに、彼女は可愛いし、日本人にはない雰囲気というか、魅力がある。それに、私と違って出るとこ出てるし。
私は、自分の胸を触って、ついついため息が出る。はぁ、豊胸しようかな。
「いや、彼女、ほとんど日本語喋れないんだよ。今日は突然の仕事で通訳が居ないらしいんだよ」
「あぁ、そうなんですね。でも、英語だったら私もそれなりに喋れますよ?」
自慢じゃないけど、私だってハル先輩と同じ進学校に通う女子高生なのだ。これでも、学年10位に入るんだから。えっへん!
「そっか、なら大丈夫かな?多分英語も話せるだろうし」
「ん?はい、行ってきます」
最後の英語も話せるってのが、ちょっと引っかかったけど、まぁ行けばわかるでしょ。
コンッ、コンッ
《ど、どうぞ》
あれ?これって何語?
とりあえず、私は英語で挨拶をする。
『お、お邪魔します』
そっと、扉を開くと、そこには色白で金髪がよく似合う小柄な女性がいた。一瞬、妖精がいるのかと思った。
『あ、えっと、私、英語少し喋れる』
そうか、エミリーさんはドイツ生まれだから
英語圏じゃないのか。それで、ハル先輩は心配してたのか。
『私は桃華。よろしくね』
『エミリー、です』
お互いになんだか気まずくなってしまい、私はハル先輩の楽屋に戻ることにした。
『じゃ、じゃあ、失礼します』
『あ、は、はい』
こんなことならハル先輩と来れば良かったな。ハル先輩はドイツ語も話せるのかな?やっぱり、学年主席は違うなぁ。
《HARUさんのところに遊びに行こうかな。いや、邪魔になるからやめとこ》
私が楽屋を出る時、何かをつぶやいたように聞こえたが、やはりドイツ語のようで、全く聞き取れなかった。
少し気になったが、私はハル先輩の楽屋へと向かった。
ガチャッ!!
「ハル先輩!!」
「うおっ!?」
「あ、すみません、つい興奮して」
「エミリーさん、どうだった?」
「いや、それが、少しは英語が喋れるようなんですけど、気まずかったので、早々に帰ってきました」
「まぁ、しょうがないよ。いつもは通訳がいるらしいから、大丈夫らしいけどね。今日の収録は大変そうだね」
そういえば、今日収録はどうするんでしょうか?まぁ、バラエティですし、最悪挨拶だけ出来れば御の字かな?
その後、収録までの間、ハル先輩と他愛のない話で時間を潰し、収録を迎えた。
ーーーーーーーーーー
収録が始まると、それぞれMCから紹介され、挨拶していく。
「今日は、ドラマ『青い鳥』のキャストから桃華さんとHARUさんです」
「桃華です、よろしくお願いします!」
「HARUです、よろしくお願いします」
私達は、冒頭なので軽い挨拶で済ませる。
「桃華さんは、ヒロイン役は初めてでしたね。どうですか、主演を演じた感想は?」
「そうですね。今までよりも、登場シーンが格段に多いですし、より演技力を求められる収録でしたね。学ぶことが多くて、役者人生で一番の出来かもしれません」
「なるほど、なるほど。演技力には定評のある桃華さんでも、大崎監督ではやはり苦労したんですね。大崎監督は、演技に関しては厳しい方で有名ですからね」
確かな、大崎監督はその辺に厳しい方だけど、今回苦労したのは、主演がハル先輩だからなんだけどね。
まぁ、それは見てからのお楽しみってことで。
「そして、そして、今回が俳優としてドラマ初出演、初主演のHARUさんです。それにしても、本当にイケメンですね?」
「ははは、ありがとうございます」
「初の撮影はどうでしたか?」
「そうですね。初めてのことで、緊張しっぱなしでしたね。桃華さんをはじめ、いろんな方に教えてもらいながら、なんとか乗り切りました」
「なるほど。そういえば、HARUさんには桃華さんや真奈さんとの噂など、聞きたいことがたくさんありますので、後ほど色々お聞きしたいと思いますので、よろしくお願いしますね」
「ほどほどにお願いしますね」
ハル先輩と真奈さんは、実の親子だけど、そのことは伏せられているから、あの2人の関係が気になる人は多いらしい。
そして、私達の関係についても、事務所は何も公表していない。私達の関係については、真奈さんの提案を採用したので、その時まで待つことにしている。
だから、今日話せることなんて、ほとんどないのよねぇ。
「さて、では最後になりますが、今人気沸騰中のモデル、エミリーさんです」
《エ、エミリーです、スタジオ収録は初めてで緊張しています。よろしくお願いします》
・・・。
「え、えっと、エミリーさんは、今日通訳が居ないため、ちょっとあれですかね」
やはりいきなりのドイツ語には、MCも困っているようだ。
どうするのかな?
「収録が初めてだから緊張していますって、言ってますよ」
!?
突然のことに、スタジオの視線は一斉にハル先輩に集中しました。
「もしかして、HARUさんはドイツ語が、喋れるんですか?」
「えぇ、日常会話程度ですが」
「それは凄いですね!では、今日はHARUさんに助けてもらう形で、進行させてもらいますね!」
MCの人は、息を吹き返し、張り切って番組を進めていく。それにしても、ハル先輩本当にすごい。さすが、私の彼氏♪
その後、冒頭の収録が終わると、エミリーさんの席は移動されており、ハル先輩の横になっていた。
ドイツ語がわからないから、なに喋ってるかわからないけど、なんだか楽しそうでモヤモヤする。
ハル先輩〜、私もかまってくださいよ〜。
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