第62話 誤解


「は、晴翔さん、これ、なんすか?」


「あっ」


やばい、なんで俺の鞄に入ってんの!?


六花が手に持っているのは、午前中に嫌というほど意識させられた、美涼さんの下着。


そういえば、最後なぜか凄い笑顔で手振ってたなあの人。やられた。


「晴翔さん、巨乳が好きなんすか?」


「えっ、なんで?」


「だって、Fってヤバくないっすか!?僕、Bっすよ!?比べるのも烏滸がましいっす」


F、だと!?


確かに、後頭部に感じた重量感はかなりのものだったが、美涼さんがスーツを着てる時は、胸の存在感なんてほとんどないのに。どうなってんだあのスーツ。


それにしても、Bか。ふむ。


「なに見てんすか!?」


「あ、いや、すまん」


ついつい、視線が胸にいってしまった。


「と、とりあえず、それは鞄に戻そうか。話せばわかる。なっ?」


「・・・わかったっす」


そう言うと、渋々鞄に下着を戻す六花。よかった、聞き分けがよくてよかった。


「で、どういうわけなんすか?一応話だけは聞いてやるっすよ」


「えっと、それはだな」


俺は、話せる範囲で六花に話した。流石に、全て話せないので掻い摘んで話たが、上手く伝わるだろうか?


「なんすかその人。ただの痴女じゃないっすか!?てか、そんな人と2人っきりになっちゃダメっすよ!」


「ははは、気をつけるよ。本当に寿命が縮む」


どうにか伝わったようでよかった。六花は、話がわかる子でよかったよ。流石に門下生に疑われたままはちょっとね。


「じゃあ、その人とは本当に、なんでもないんすね?」


「あぁ、本当だ」


「よかったっす。もう、心配したっすよ。言ってくれれば・・・私のを、あげるっすよ?」


「いや、大丈夫だ。俺にそんな趣味はない」


これ以上、俺を困らせないでくれ。美涼さんに返すだけでも大変そうなのに。


「むぅぅぅ、もう知らないっす!つべこべ言わず、これも持ってげっす!!」


そう言って、外した下着を鞄に突っ込む六花。そして、そのまま帰ってしまった。


「お、おい、六花!」


言っちゃったよ。てか、道着のまま帰っちゃったよ。大丈夫か?


俺は服を着替えると、忘れ物の確認をして道場を出た。何もなければ、そのまま家に帰るところだが、あいつ私服そのまま置いていきやがった。


仕方なく、俺は六花の後を追うことにした。しかし、家がわからないな。あ、そうだ。


俺はスマホを取り出すと、蘇原さんに電話をかけた。


『もしもし、どしたの?』


『あ、蘇原さん、あの六花の家知ってますか』


『知ってるけど、なんで?』


『いえ、六花が服一式忘れてったので追いかけてるんですけど』


『どういう状況よ、それ』


とりあえず、経緯を説明して、どうにか住所を教えてもらえることになった。


『じゃありっちゃんをよろしくね』


『はい、わかりました』


よし、住所もわかったし、家に行ってみよう。どうやらここからそんなに遠くないようだ。


走れば追いつけるか?俺は急いで六花を探した。


ーーーーーーーーーー


「もう、晴翔さんなんて知らないっす」


なんすかFって!?バケモンじゃないっすか!?僕への当てつけっす!最低っす!


ぷん、ぷん!


うぅ、それにしても、勢いのまま出てきちゃったっすけど、どうしよう。


荷物も、服も全部置いてきちゃったっす。もう、僕のばかばかぁぁぁ!!


そ、それにしても、胸がすーすーするっす。それに道着が擦れて、ちょっと変な感じがするっす。


はぁ、早く家に帰って休もう。


「ただいまー」


「あら、早かったわね。って、なんでそのまま帰ってきたの?」


私を出迎えてくれたのはお母さんだった。晴翔さんのことは話してあるし、道場に行くことも伝えてあった。


しかし、道着で帰ってくるとは思っていなかったようだ。


「うぅ、それが」


僕は経緯をお母さんに説明する。


「ふふふ、なにやってんのよあんた」


すると、お母さんは腹を抱えて笑っている。


「もう、笑うな!」


「ごめんごめん、でもそれで対抗してブラ置いてきちゃったの?晴翔くん、きっと困ってるわよ?」


「うぅ、それは反省してるけどぉ。僕だって、もっと意識して欲しいんだ」


「そうねぇ、ならもっとストレートにいったほうがいいわよ。言葉に出したり、行動で示したり。ブラよりよっぽど、ふふふ」


「もう、笑わないで!」


「ごめんなさい、ふふふ」


「もう知らない!」


僕は、慌てて自室に入った。もう、お母さん笑いすぎだよ。まぁ、僕だって、おかしいと思うけど。


むぅぅぅ、ダメだ。少し寝よう。私は、ベッドにダイブするとそのまま、意識を手放した。


一方その頃、晴翔が六花の家に到着していた。


ーーーーーーーーーー


ピンポーン。


「はーい」


ガチャ


「はいはい、あら?もしかして晴翔くん?」


「はい、そうです。六花さんには、いつもお世話になってます」


「どうぞ、あがってください」


俺はお母さんに、促され家にあがった。通されたのはリビングだった。


お母さんが、部屋に呼びに行ってくれたが、一人で戻ってきた。


「ごめんなさいね、あの子寝ちゃったみたいで」


「あぁ、構いません。六花さんの荷物を返しにきただけなので」


俺はお母さんに、六花の荷物を手渡した。


「あら、あの子本当に全部置いてきたのね。それにブラもちゃんと入ってる」


ぶぅぅぅ、飲んでいたお茶をこぼすところだった。ごほっごほっ!!


「あら、ごめんなさい。あの子が置いてきたんだし、別にいいのよ?持って帰る?」


「いえ、大丈夫です!」


「ふふふ、可愛いわね。あの子、部屋で寝てるから起こしてあげて」


「いや、流石に寝てるなら俺は」


「なんなら、そのまま寝ちゃってもいいのよ?」


「勘弁してください」


「からかい過ぎたわね。とりあえず、起こしてあげて、気にしてたから」


「わかりました」


俺は、お母さんに部屋を教えてもらい、六花の部屋へと向かった。


念のためノックをしてみたが、返事はない。仕方ない、静かにドアを開けた。


すると、ベッドで大の字に寝ている六花を発見した。豪快に寝てるな。


俺はドアを閉めると、部屋へと入る。


「おい、六花」


俺は六花を起こそうとするが、ここで六花の姿をしっかりと確認した。


六花は帯びをとって寝ていたようで、道着がはだけてしまっている。


そのため、ギリギリ先端が見えていないが、六花の控えめな双丘がチラリと見えてしまっている。


自分の家だとしても、これはダメだろ。俺は、はだけた道着を直してやることにした。


俺が道着を掴んだその瞬間、気配を察知したように六花の目がパチリと開く。


あっ、これヤバくね。


俺がそう思った時には遅かった。六花は寝起きで、状況がよくわかっておらず、俺が脱がせているようにしか見えていなかった。


「ぎゃぁぁぁ!!」


そう叫びながら、鋭い拳が顔面めがけて飛んできた。


俺はギリギリでかわすが、その後も六花の猛攻は続く。これじゃ何のために直そうとしたかわからない。もう、俺からは完全に見えてしまっている。


「六花、落ち着け、見えてるぞ!」


「っ!?」


俺の言葉に、六花はハッとして自分の格好を見る。そして、すぐさま隠すようにしゃがみ込んだ。


「な、なな、なんで晴翔さんがいるっすか!?てか、さっき脱がそうとしてたっすよね!?」


「いやいやいや、してないから!!はだけてたから、直そうとしただけだよ!」


「うぅぅ、本当っすか?」


どうしたら信じてもらえるのだろうか?困っていると、ここで助け舟が出された。


「ふふふ、それは本当よ、六花」


「お母さん!」


「ずっと見てたし、私が部屋に呼びにきた時には、見えてたもの」


「じゃあその時直してよ!?」


「いやよ、面白そうだったし。まぁ、そういうわけだから、早く機嫌直してブラ貰いなさい」


「「!?」」


爆弾を落として、お母さんはリビングへ戻ってしまった。


「そ、その、ごめんなさいっす」


「いや、俺の方こそ紛らわしいことして悪かったよ」


・・・。


「と、とりあえず、着替えるか?荷物持ってきたぞ」


「そ、そうっすね。じゃあ着替えるっす」


「おう、じゃあ外で待ってるな」


俺はそう言って、部屋から出る。その時、壁に飾られていた写真がチラッと見えた。幼い頃の自分と誰かが写っている写真。


六花だろうか?一瞬でよくわからなかったが、なんだか見覚えのある写真だった。


部屋から出て数分。


「お待たせしましたっす。リビングに行くっす。多分お母さんが待ってるっす」


俺達はリビングに移動すると、本当にお母さんが待っていた。テーブルには、3人分の茶菓子が用意されていた。


その後、お母さんを交えて3人で色々な話をした。お母さんは何故か、俺について昔からよく知っているようだ。


隣で六花はそわそわしていたが、どうしたのだろうか?


俺が六花の心の内を知るのは、もう少し後のことになる。この日は、もう時間も遅かったためすぐに帰宅することにした。

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