第59話 2人っきり、ダメ絶対
今日は本当に暑い。俺は、ただ単に心配をしていただけなのだが、どうしてこうなったのか理解できない。
ことは澪が出てった後のこと。
「葛西さん、スーツ暑くないですか?」
「えっ、スーツですか?もちろん暑いですよ?でも、使用人ですからスーツは脱ぎません。私の作業服ですから」
「そうなんですね。でも、無理しないで下さいね。倒れても心配ですし、暑かったら脱いだ方がいいですよ?」
「晴翔様が、そこまで言うなら脱ぐことにしましょう。ちょっと、そっち向いててください」
俺は言われるがまま、後ろを向くことにした。しかし、上着を脱ぐだけなら別に後ろを向かなくてもいいのでは?
「晴翔様、もう大丈夫ですよ。あ、それと、決して私は痴女ではないと、先に言っておきます」
「はぁ、そうですか?」
俺は振り返ると、なんとなく葛西さんの方を見る。すると、ぱっと見おかしなところはなかった。
下はスーツのパンツで、上はワイシャツ。しかし、俺の目がある一点に釘付けになる。
「か、葛西さん」
「なんですか?」
「目のやり場に困るので、やっぱり上着を着ましょう」
葛西さんは、ワイシャツの下に下着しかつけていないようで、汗で濡れているせいか、肌にピッタリとくっつき、黒の下着が透けて見える。
「え、暑くてこんなになってる私に、また上着を着ろと言うんですか?晴翔様が脱ぐようにおっしゃったのに」
「ぐっ、そ、そうですね、暑いですもんね。だったら、もう少し離れてくれませんか?」
何故か知らないが、葛西さんは向かいの席で作業をしてきたのに、今はすぐ隣で作業をしている。
「気にしなくて大丈夫ですよ。お嬢様の為にも早く資料作りをやってしまいましょう。それとも、私からもご褒美が欲しいですか?」
「いえ、大丈夫です!さっさとやりましょう!」
「ちっ」
今なんか舌打ちが聞こえたような気がするが、俺は、無心になって作業に取りかかる。
しかし、集中しようとするたびに、隣が気になってしまう。絶対にわざとだろうと言いたくなるほど、アピールが酷い。
「あ、水が」
チラッと隣を見ると、溢れた水が胸元を濡らし、さらにピッタリとシャツが張り付いている。
これは罠だ。集中しろ、隣を見るな。
「濡れてしまいました。少し乾かしますか」
そう言って、今度はボタンを外し初めて、シャツを脱ぐと椅子の背もたれにかける。
いやいやいや、それはダメでしょ!?もう下着じゃないかそれ!!
「ふむ、そろそろですかね」
そう言って、葛西さんは徐にドアに近づくと、ガチャリとドアの鍵を閉める。
「えっ?」
俺は、葛西さんを見ないように、下を向いているため確認できないが、確かに鍵を閉めた音がした。
「いえ、そろそろお嬢様がお帰りになりますので、念のため」
と、その時
ガチャ、ガチャガチャ
『あれ、鍵が』
本当に帰ってきた。てか、なんで鍵閉めたの?
『葛西、なんで鍵閉めてるの?』
「お嬢様、ちょっと今着替え中なので少しお待ちください。そうですね30分ほど」
『き、着替え?それに30分もかからないでしょ?何してるの?』
それから、葛西さんは返事をすることなく、こちらに近づいてくる。
「晴翔様、ちょっとだけ失礼しますね」
そう言って、後ろから俺に抱きつく葛西さん。胸の感触が後頭部に伝わる。先生や澪の時とは違い、布の感触がない。あれ?なんで?
「今は振り向かないことを、おすすめします。知らなくていいこともありますよ?」
「あの、もしかしてですけど、下着・・・」
ふふふ、と後ろから不敵な笑いが聞こえると同時に、俺の膝の上に下着が落ちた。
「おわかりですか?なので、振り向かないで下さいね。あ、別に見たければ構いませんよ?」
「い、いえ、大丈夫です!!」
俺は、とにかく気にしないように深呼吸を繰り返す。
「晴翔様」
「な、なんです?」
「お手伝いしましょうか?」
「な、何をですか?」
お手伝い?資料作りを、と言うことなら是非やって欲しいが、今の状況でやられても困る。
「さっき先生やお嬢様に抱きつかれた時、随分ご立派さまでしたので、辛いのではと思いまして」
そ、そっちか!
「な、なんのことだかさっぱり。そんなことより、早くやりましょうよ」
「わかりました、ではさっそく」
そう言って、俺のズボンに手を伸ばす葛西さん。俺は間一髪で腕を掴む。
「やることが違いません!?」
「大丈夫ですよ、サクッといきましょう」
「そう言うことではなくですね」
「冗談です。では、私のことを
「え?」
「早く」
ま、まぁそんなことでやめてくれるなら。
「み、美涼さん」
「はい、晴翔くん。よくできました」
そう言って、やっと俺は解放された。本当にこの人と2人になるといいことがない。刺激が強すぎる。
美涼さんは、俺から離れるとシャツを着ようと、自分の椅子に向かう。
「んぎゃっ!」
その時、何に躓いたのか知らないが盛大に転んだ。そういえば、この人ドジっ子だったっけ。澪が紹介してくれた時のことを思い出した。
「大丈夫ですか?」
俺は葛西さんを起こすため、手を伸ばす。そして、手をつかまれた時、ふと思い出した。
あ、葛西さん何も着てなーーー
ガチャリ
「葛西、いい加減にしなさーーー」
最悪なタイミングで、澪が入ってきてしまって。どうやら職員室に合鍵を取りに行っていたらしい。
「晴翔様、この状況は」
この後、俺達は正座をして、しばらく澪に怒られたのだった。あ、もちろん、服は着替えたよ。
ーーーーーーーーーー
「なるほど、そういうことですか。まぁ、なんとなくわかってましたけど。葛西」
「なんでしょうか、お嬢様」
俺の容疑は晴れたため、澪の矛先は俺から美涼さんに向いた。
しかし、美涼さんは何食わぬ顔で、正座している。この人、反省してないな。
「あなたを1人にするのが、最近本当に心配になってきたわ。色仕掛けはやめなさい」
「田沢先生もお嬢様もやられていましたので、せっかくなら私もと」
「いや、そこは対抗するとこじゃないでしょ!?どうしてそんな考えに」
確かに、澪の方が正論だ。しかし、澪がやってたことも大概だが。
「しかし、お嬢様が思っている以上に、男性は大変なのですよ。先生とお嬢様のせいで、晴翔くんは辛そうでしたので、私がサクッと」
「やったの!?」
「未遂です」
「未遂でも、なんでもダメよ!?」
その後も、2人の言い合いは収まらず、俺は時間がないので先に失礼した。
その際も、険しい表情で怒る澪と、怒られながらもこちらに笑顔で手を振る美涼さん。
あの人、懲りないな。きっと、今日の説教は長くなるな。俺は、疲れた体に鞭を打って仕事に向かった。
しかし、このあと美涼さんが最後になんであんなに笑顔だったのか、理由が判明した。
ーーーーーーーーーー
はぁ、早く戻って資料を作らないと、今日中に終わらなくなるわ。
私は、気持ちを落ち着かせ、生徒会室へと戻ります。
しかし、なぜか鍵が閉まっていました。
「葛西、なんで鍵閉めてるの?」
『お嬢様、ちょっと今着替え中なので少しお待ちください。そうですね30分ほど』
私が声をかけると、すぐに返事が返ってきました。どうやらドアのすぐ前にいるようです。
「き、着替え?それに30分もかからないでしょ?何してるの?」
その後、返事が返ってくることはなかったのですが、着替えに30分?どう考えたもおかしい。それに中には晴翔様と葛西の2人っきり。
なんだか危ない気がします。私はそっと耳をドアに当てて様子を伺います。
『今は振り向かないことを、おすすめします。知らなくていいこともありますよ?』
『あの、もしかしてですけど、下着・・・』
ん!?下着!?
もしかして、下着姿なの!?
その後も、葛西が晴翔様を誘惑するような声が聞こえてきます。晴翔様は拒んでいますが、晴翔様だって男の子。誘惑に負けてしまうのでは?
それに、サクッとってなんですか!?何をする気ですか葛西は!?
私は、急いで職員室に戻ると、田沢先生から合鍵を借りて生徒会室へと戻ります。
「葛西、いい加減にしなさーーー」
生徒会室へと入ると、そこには上半身裸の女と、それを起こそうとする男性の構図。
「晴翔様、この状況は」
その後、2人を正座させ事情を伺いました。まぁ、晴翔様が悪くないことは知っています。でも、これは心の問題ですから仕方ありません。
晴翔様が帰った後も、葛西とは話し合いが続きました。
「葛西、反省してるの?」
「もちろんです。しかし、お嬢様ももう少し晴翔くんのことを考えてあげてください。あれでは生殺しでかわいそうです」
「うっ、それは申し訳ないと思ってるわ。でも私たちはまだ高校よ。そんなこと早すぎるわ」
「今どきの高校生は性に対して積極的ですから、むしろ皆さんやることやってますよ?」
「えっ、そうなの!?」
私は衝撃的な、事実を知ってしまいました。もしかすると、生徒会メンバーの彼女たちも、もう経験済み??
でも、恥ずかしくてそんなこと聞けないわ。それに、晴翔様にそんなこと。
「あれ、そういえば、なんで晴翔くんって呼んでるの?」
「あぁ、ちょっと親密になったんです、私達。ぽっ♡」
「ぽっ、て何よ!?詳しく教えなさい葛西!」
この日は結局、一日中使ってなんとか資料作りが終了した。せっかくの晴翔様との時間だったのに。
今度は絶対葛西は連れてこないわ。私はそう心に誓いました。
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