第57話 生徒会のお手伝い

さて、この状況、どう乗り切るべきか。俺はスマホへと視線を落とす。


『ハルくん、明日暇?』


『晴翔、明日は何してる?』


『晴翔様、明日少しお会いできませんか?』


『ハル先輩、明日の予定は決まってますか?』


4人とも、個別にメッセージが届く。


明日は確か午後はレコーディングが入ってるんだよなぁ。会うとしても午前中だけか。


『明日は午後に仕事が入ってるんだが』


『えっ、じゃあ無理だぁ。私、午前は忙しいの。じゃあまた今度だね』


ふむ、これで残りは3人か。次に来たメッセージは綾乃か。


『明日は午後仕事が入ってるんだけど』


『そうなのか、じゃあまた今度にしようかな。一緒に行きたいところがあるから、今度一日頂戴』


『わかった』


よし、残るは2人。次のメッセージは、澪か。


『明日は午後仕事が入ってるんだけど』


『では、午前中に少し会えないでしょうか?手伝って頂きたいことがありまして』


午前中か。最近澪とは中々会えていないし、ちょうどいいかも知れない。


『わかったよ。じゃあ明日の午前中と言うことで』


『ありがとうございます。では学校の生徒会室で待っておりますので』


『生徒会室ですか?』


『はい、明日は私しか生徒会室にはいませんので、大丈夫ですよ』


『そ、そうですか、わかりました』


さて、じゃあ桃華にメッセージを返すか。


『明日は、午後仕事が入ってるよ』


『あ、そうなんですね。私も明日は撮影なんですよね。ハル先輩とは違うシーンなので、会えそうにないです』


あぁ、そういえば桃華は1人で撮るシーンが多いんだよな。大変そうだ。


『そうか、頑張れよ』


『はい、そのうち番宣で何個かテレビに出ると思いますから、何回か一緒になれると良いですね』


『そうだな。その時は任せたぞ、先輩』


『先輩に任せなさい!なんちって。じゃあ、また今度』


はぁ、これでなんとか全員返せたな。俺は、一安心すると、明日の準備をすることにした。


ーーーーーーーーーー


「ふぅ、なんだか制服で学校に行くのも抵抗感が出てきたな」


桃華と学校に来たときに、誰かに写真を撮られてたみたいだし、どこで誰が見てるかわからない。


俺は、寄り道せずに真っ直ぐ生徒会室へ向かう。


コンッ、コンッ


「失礼します」


「どうぞ」


生徒会室に入ると、机で黙々と仕事をする澪がいた。そして、横にはなぜか葛西さん。


「おはよう、澪。それと葛西さんも」


「おはようございます、晴翔様」


「おはようございます」


それにしても、葛西さんが学校にいると違和感があるな。


「葛西さんが学校にいるのって珍しいね」


「そうですね。他の生徒が居れば連れてこないのですが、今日は1人で寂しいですから」


「確かに1人は寂しいな」


「はい、ちゃんと学校にも許可を取っていますし、今回は本人がどうしてもついてくると聞かないので」


そう言って、澪は葛西さんをジトッと見る。そして、葛西さんの方は全く気にしていないようで、スンとしている。


「それで、今日は何を手伝えばいい?」


「あぁ、そうでしたね。今日は色々と力仕事が溜まって増して、男手が必要だったのです」


「そうなんだ。そういえば、生徒会の顧問て誰なの?」


「あぁ、田沢先生ですよ。今日は会議があるみたいでこちらには来られないですが」


いや、それはそれでありがたい。なんとなく、彼女の母親に会うのって気まずい。


「よしっ、じゃあ早速やろうか。何からやればいい?」


「では、まず体育館の方に行きましょう」


「了解」


俺たちは、体育館へと移動した。その道すがら、部活動に勤しむ生徒達を見かける。


「この暑いのに、みんな頑張ってるね」


「そうですね。当校の部活動は誰も全国レベルですので、練習自体もかなりレベルが高いようです」


「そういえば、うちの学校て県外の生徒多いもんね」


「はい、進学に強いだけでなく、プロ選手の排出も多いので、将来を見据えている生徒には人気があるんですよ。それに」


澪はこちらをチラッとみる。


「最近では、芸能関係にまで力を入れようとしているみたいですよ。桃華ちゃんと晴翔様の影響ですね」


「俺は、まだまだ駆け出しだから。ほとんどは桃華の力でしょ。桃華、頑張ってるからね」


俺は、なんとなく撮影の時の桃華を思い出していた。普段は少し抜けているように見える、おちゃらけたキャラだが、本番が始まればスイッチが入る。


本当に、良く頑張ってる。きっと、今日も撮影してるんだろうな。


「ふふふ、晴翔様はわかりやすいですね」


「えっ?」


「いえ、なんでもありません。・・・少し、妬いてしまいます」


「ん?なんか言った?」


「いえ、なんでも。それより、仕事を終わらせましょう」


最後の方が小さくて聞き取れなかった。俺は聞き返すが、はぐらかされてしまった。


「さて、何すればいい?」


「まず、椅子を並べますので手伝って下さい。葛西も手伝って」


「かしこまりました、お嬢様」


葛西さんは、ステージの方へ移動すると、その下に設置されている取手を掴む。


手前に引っ張ると、無数の椅子が姿を現した。いつ見てもすごいなこれは。小学校の頃、初めて見た時はテンション上がったなぁ。懐かしい。


「さて、明日ここでPTA総会が行われますので、かなりの数を用意しなくては行けません。頑張りましょう」


「「はい」」


その後、俺達は黙々と椅子を並べていった。その数はゆうに300を超えた。


「ふぅ、そろそろ大丈夫か?」


「そうですね。先日先生に確認した感じでは、この程度で大丈夫そうですね。皆さんご苦労様でした。一旦休憩にしましょう」


「では、お飲み物を用意しますね」


そう言って、葛西さんは体育館から出ていってしまった。


それにしても、暑い。今年の夏はヤバそうだ。


「晴翔様」


「ん?なに?」


澪に呼ばれ振り向くと、さっきまで一人分の距離があったのだが、今ではピッタリとくっついていた。


「晴翔様、ちょっとだけいいですか?」


ーーーーーーーーーー



今日は久しぶりにハル様と、2人っきりになるチャンス。


「会長、本当にいいんですか!?」


「残りの仕事はみんな力仕事ですよ??」


「大丈夫ですよ。ちゃんと考えてますから」


何度も手伝ってくれると言う彼女らを、私はその度にお断りした。


せっかく晴翔様と一緒に入れるのに、邪魔が入ってはゆっくりできません。


私は、心を鬼にして、彼女達の手伝いをお断りしました。なのに、何で葛西がついてきたのか。


「お嬢様ぁぁぁ!!」


「なんです?」


「お願いしますぅ、私も連れて行って下さいぃぃぃ!!」


何度も泣いて縋る彼女を見て、なんだか毒気が抜かれた気分です。私は渋々彼女を連れていくことにしました。


それにしても、晴翔様に出会ってから葛西がどんどんおかしな方向へ向かっている気がします。


大丈夫なんでしょうか?


私達は、晴翔様と合流すると、さっそく体育館へ向かいました。


晴翔様は、今日は顔を髪で隠しておりますが、それでも愛おしく思ってしまいます。本当に素敵です♪


途中で、桃華さんの話になった時は、少し胸に違和感を覚えましたが、これが嫉妬というやつなのでしょう。


まさか、私がこんな感情を抱くことになるとは。


私達は、黙々と椅子を並べていくと、区切りのいいところで休憩することにしました。


ここで、事前に葛西と打ち合わせをしていた私は、葛西に視線で合図を出す。


『ちょっと2人にして』


それを見て、葛西はそっと瞼を閉じる。


『承知しました』


「では、お飲み物を用意しますね」


『お嬢様、頑張って下さい!』


葛西は私に向かってウインクすると、その場を後にする。


さて、ここが正念場です。他の方達にはだいぶ溝を開けられてしまいましたからね。私もここらへんでアピールしなくては。


私が異性に対して、こんなに積極的になるなんて、少し恥ずかしい気がしてきました。


しかし、考えれば考えるほど、暑さのせいか思考が鈍っていくのを感じます。


そうです。これはきっと、夏の暑さのせいなのです!私は、こんなにはしたない女性ではありません。


ですが、今だけは暑さのせいで、少しだけ、ほんの少しだけ気が緩んでるだけです。


「晴翔様」


「ん?なに?」


晴翔様は、私の呼びかけにこちらを振り向きます。私は、距離を詰めて晴翔様にピッタリとくっつきます。


「晴翔様、ちょっとだけいいですか?」


私は、ちょっと肩にもたれ掛かろうとしました。


しかし


「あ、あれ?きゃっ!!」


私は、バランスを崩してしまい、晴翔様を押し倒してしまいました。


「え、あの、その」


な、なんでこうなってしまったのぉぉぉ!!


私は、自分でも感情をコントロールすることが出来ず、ただただ晴翔様の上であたふたするしかなかった。


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