第42話 サイン会
ふふふ、さてさて。
今日は晴翔くんの写真集の発売日。果たしてどれだけの売り上げになるか楽しみだわ。普通、無名のモデルの写真集なら数千部くらい売れて増刷されれば御の字だ。
だけど、ちょこっと載った雑誌ですら30万部の売り上げだったことを考えれば、それ以上の売り上げが期待できるはず。
私は、初日の集計結果が出るのを待った。はぁ、ドキドキする。早く結果出ないかしら。
「安藤さん!」
すごい勢いで、私のデスクにやってきたのは、広報の
「安藤さん、これ見て下さい!」
私は、須永さんから渡されたタブレットを確認する。
「これ、本当!?」
「本当です!これは凄い事になりましたよ!」
タブレットに表示されている、今日のオリコンによると、晴翔くんの写真集が堂々の一位を飾った。凄い凄い!
売り上げ部数は、なんと40万部!!
初日だけで40万部の売り上げとは、恐れ入った。これからまだまだ売れるはずだから、100万部も夢じゃないかもしれない!
私は興奮冷めやらぬうちに晴翔くんに連絡をする。
『晴翔くん、写真集オリコン1位おめでとう!』
『えっ、1位ですか?俺の写真集が?』
『そうだよ、しかも初日で40万部!凄いことだよ!』
『ありがとうございます。実感わかないですけど嬉しいです』
『ふふふ、それで明日なんだけどさ、更なる売り上げを目指してサイン会を開きたいんだけど時間空いてる?』
『明日なら大丈夫ですよ』
『ありがとう、じゃあ明日迎えに行くからよろしくね』
『わかりました。よろしくお願いします』
よし、明日の予定も決まったし、あとは宣伝とサイン会の告知をしないと。まずは、晴翔くんにSNSで告知してもらって、私はファンクラブの方にメールを一斉送信すれば準備完了。
私は、夢の100万部に向けて動き出した。
ーーーーーーーーーー
俺は、昨日恵美さんから連絡をもらい、自分の写真集の売り上げを知った。初めは夢でも見ているのかと思ったが、どうやら現実の話らしい。
急遽、サイン会を開催する事になったので、恵美さんに頼まれた通り、SNSで情報を公開した。
すると、すぐさま反応が見られた。
『えっ、明日サイン会するんですか!?』
『私は今日買いましたが、サイン会も行きます』
『生HARU様絶対に会いに行きますね』
とりあえずは良心的なコメントが多くて良かった。昔に比べて、俺もSNSをつかうようになり、エゴサーチなども覚えた。
しかし、もともと肝が大きくないので、頻繁にはやっていない。何かを宣伝した時のみ行なっている。
そろそろやめようと思ったその時、スマホにメッセージが届く。
『ハルくん、写真集一位おめでとう!』
『晴翔、おめでとう!』
『ハル先輩、おめでとうございます!』
『晴翔様、おめでとうございます』
みんなからのメッセージだった。どうやらランキングを見たらしく、ちょうど連絡をくれたようだ。
俺は、みんなに『ありがとう』と、返信をしてしばし余韻に浸っていた。
ーーーーーーーーーー
そして、サイン会当日。
「よし、晴翔くん準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
俺は恵美さんの車に乗り込むと、サイン会の会場へ向かうことにした。
やってきたのは、日本でも最大を誇る書店だった。話には聞いていたが、まさか、こんなに大きいとは。何平米あるんだ?
こんなところでサイン会ができるなんて、夢にも思わなかったな。
「じゃあ、準備しちゃいましょうか」
「わかりました」
俺達は一度控え室へ向かい、荷物などを置くとこの店のスタッフさんなどに挨拶へ向かった。皆さん良い人そうでよかった。
「あの、サイン頂いても良いですか?」
「あぁ、もちろん良いですよ」
「やった♪」
その後も、女性スタッフの皆さんからサインや写真をねだられて、俺はそれに快く応じた。
これもファンサービスの一環だ。過剰なものは断らなくてはならないが、俺はサインと写真は断らないようにしている。
「「「「ありがとうございました!」」」」
「いえ、では失礼しますね」
俺は恵美さんとサイン会の会場へ向かった。会場自体はすごくシンプルで俺好みだった。
俺の座る椅子と机があり、後ろにはHARU写真集発売記念サイン会と垂れ幕がある。
果たして、どれくらいの人が来てくれるだろうか。正直、心臓がバクバクで今にも飛び出しそうだったが、何も出来ないので、俺は時間になるまで控え室で大人しく待つことにした。
「晴翔くん、そろそろ行くわよ」
「はい」
俺が会場に向かうと、そこには長蛇の列が出来ていた。一体何人来ているんだ?
「ざっと見積もっても100人は超えてるわね」
「そんなにですか!?」
「驚くにはまだまだ早いわよ?今日は人数制限してないから、時間が許す限りやるわよ」
「マジですか」
俺は、覚悟を決めて会場へ向かった。
「きゃぁぁぁ、HARU様!」
「生で見るとさらにイケメン!」
「今、私と目があった!」
「違うわよ、私よ!」
俺の姿が見えると、会場はみんなの声に包まれていた。これじゃ何言ってるか、よく聞こえないな。
「みなさん、これよりサイン会を始めます!他のお客様の迷惑になりますのでお静かにお待ち下さい!」
スタッフの方が、マイクで呼びかけてくださり、先ほどよりは明らかに静かになった。
俺が席に着くと、サイン会が開始された。初めての長い長いサイン会が始まった。
ーーーーーーーーーー
「では、1人目の方からどうぞ」
スタッフの誘導で、1人ずつ写真集を持った人が俺の元へくる。さて、記念すべき1人目はどんな人だろうか。
「サインお願いします」
声を聞いた瞬間、もう誰なのかわかったが、一応確認する。
すらっとした長身で、サングラスをかけた女性が写真集を差し出した。
やっぱり、母さんだ。
「ありがとうございます。仕事はどうしたの?」
「今日はこれから現場に向かうわ。頑張るのよ?」
「そっか、頑張ってね。やれるだけやるよ」
最後に握手を交わして、母さんは颯爽と帰って行った。
その後も、続々と写真集にサインをして、握手をする。
たったそれだけのことだったが、もう手が痛くなってきた。握手するのがこんなに大変だったとは。
某アイドル達はこんなことをいつもしていたのか。今まで全く興味がなかったが、今ならどれだけ凄いことかわかる。
「ハルくん、サインお願いします!」
「もうサインしてありますよ、香織さん」
「えへへ、じゃあ『大好き』って書いて」
俺はサラサラっと書いて、香織に返す。ニコニコしながら手を振って、香織は帰って行った。
その後も、綾乃、澪、桃華、と続いたところを見ると、みんな一緒に来ていたようだ。
彼女達を見たら少し疲れが吹っ飛んだ気がする。よし、頑張るか!
その後も、黙々と握手とサインを繰り返して行った。
サイン会は休憩を挟みながら、結局夕方近くまで行っていた。延人数も1000人を超え、サイン会は大成功だった。
一通りサインし終わり、列に並ぶ人が居なくなったところでサイン会は終了となった。
会場の片付けが始まり、俺も控え室に帰ろうとした時、息を切らせてこちらに向かってくる女性がいた。
「あの!」
すぐ目の前まできたが、息が続かないのか、言葉が続かない様子。
俺は、息が整うまで彼女を待つことにした。
ふぅ、と大きく息を吐くと、こちらを悲しそうに見ている彼女。どうした?
「あの、もうサイン会終わっちゃいました?」
「あぁ、ちょうど今終わったところで」
「そんなぁぁぁぁ」
そう言って、床に座り込んでしまう。そんな彼女の手には俺の写真集があり、大事そうに抱え込んでいた。
「すみません、ペン貸してもらえますか?」
「あ、はい!」
俺はスタッフに、声をかけるとペンを貸してもらった。
「もしよかったらサインしますよ?」
「ぐすっ、うぅ、えっ、本当ですか!?」
先程と打って変わって、笑顔を見せる彼女。表情がコロコロ変わって可愛らしい子だな。
「お名前は?」
「あっ、じゃあ
「わ、わかりました」
俺は言われた通りにサインをして、六花さんに手渡した。
「うわぁ、ありがとうございます!やった、やった♪」
ぴょんぴょん飛び跳ねる彼女は、まるで小動物のようだった。
「あ、そうだ。もし良かったらコレ、どうぞ」
「えっ、でもそれHARU様のお茶ですよね!?」
「あぁ、これが最後の一本なんですよね。流石に飲みかけはアレですよね」
「いえ、頂きます!!」
凄い勢いだったので、俺はそのまま彼女にあげることにした。
「ありがとうございました!」
満面の笑みで帰っていく六花さん。喜んでくれたようでよかった。さて、帰るか。
俺は、家に帰ると、疲れのせいか倒れるようにして意識を手放した。
ーーーーーーーーーー
ふふふ、間に合って良かったぁ。
HARU様のサイン♪
『お仕事お疲れ様、明日も頑張ってね』
これを見るだけで、また明日も頑張れそうです。ありがとうございます、HARU様!
私は、サイン入り写真集と、もらったお茶を両手に写真をとってSNSにあげた。
『HARU様のサイン会に行きました』
『サイン会は終わってたけど、快くサインしてくれて感動しました!』
『私もファンは大切にしたいと、改めて思いました。ファンの皆さん握手会で会いましょうねー♪』
そう書いて、さらに撮ってもらったツーショット写真も一緒にあげた。
その日、サイン会と同じくらいにSNSは大変なことになっていた。
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