第41話 夏休み開始

「晴翔くん、さっきのところもう一回行こうか」


「はい」


〜〜〜♪


「はい、オッケー。だいぶ良くなってきてるよ。晴翔くんは上手いけどやっぱり素人さんだからね。テクニックではプロに勝てない部分は多い。けど、プロでも持ってないものを持ってる」


「プロでも持っていないもの?」


確かに俺は素人だ。歌がうまいと言っても、本当にそれまででしかない。でも、俺にプロに勝てる部分があるのならそれを生かすしかない。


「それはね、声だ。君の声は素晴らしい。聞くものを魅了する何かがある。だから、もっと気持ちを乗せて歌おう」


「気持ちを乗せて?」


「そう。この主題歌は『青い鳥』のために作られた楽曲。主人公がヒロインのことを思って葛藤し、成長していく姿、気持ちが込められている」


うん、何となく言いたいことがわかってきた。


「だから、この『歌』と『ドラマ』は切り離して考えてはダメだよ。この歌は、ドラマの一部だからね。もうわかるね」


「はい、大丈夫です」


「よし、じゃあもう一回だけ言ってみよう」


〜〜〜♪


「オッケー!!」


今度は一発オッケーをいただいた。自分でも気持ちが乗っているのが良くわかる。主人公の気持ちで歌うと歌詞の意味が少し変わってくる。きっと、聞いてる人もドラマを見た後に聞くと感情移入しやすいだろう。


「いいね、いいね。やっぱり君は最高だよ!今の段階ではこの辺が限界だろうけど、まだ放送までに時間があるから、もっといいものにしていこう」


「はい、お願いします!」


俺は、今できる限りのことを歌に乗せた。蘇原さんについて行けば、きっともっといいものになる。初めは、この人大丈夫か?と心配したが、今となっては信頼できる人だとわかる。


「あ、そうだ、安藤さん。ちょっと」


「何ですか?」


「このドラマって、秋〜冬あたりですよね?」


「そうですよ」


ふむふむ、と蘇原さんは考え込む。そして、カレンダーを見ながら何か計算しだした。


「安藤さん、そうしたらお願いがあるんですけど」


そう言って、蘇原さんは恵美さんに耳打ちする。


「はい、ふむふむ、えっ、大丈夫なんですか!?」


「うん、なんとかなると思います」


「でしたら是非お願いします!」


一体、何を話していたのだろうか?恵美さんは満面の笑みで片付けをしている。余程嬉しいことがあったんだろう。


「晴翔くん、帰るわよ!」


「はい、恵美さん」


こうして、恵美さんに自宅まで送ってもらったのだが、終始満面の笑顔の恵美さんは意気揚々と事務所へと帰っていった。


ーーーーーーーーーー


「今日のホームルームはこれで終わりよ。廊下の掲示板に、試験結果が張り出されているから、しっかり確認して帰るのよ?それじゃ、夏休みは事故や事件にあわないように気をつけてね」


「「「「「はーい」」」」」


ホームルームが終わり、それぞれ帰宅していく。明日から待ちに待った夏休みだ。2年生になると夏期講習などで忙しくなり、遊ぶことができない生徒も出てくるが、学校にいる時よりは自由な時間もある。


俺は、今年は仕事が結構入りそうだから、あんまり暇はないかもな。


「ハルくーん、試験結果見てきたよー」


「おぉ、ありがとう」


前回の中間テストの時は、町田や野次馬達によって面倒臭いことに巻き込まれたので、今回は香織に見てきてもらう事にした。


「結果は前回とそんなに変わらなかったよ。一位ハルくん、二位私、綾乃ちゃんが4位だった」


「そっか、香織は今回も頑張ったな」


そう言って、俺は香織の頭を撫でる。なんか、香織の頭は撫でやすいというか、撫でずにはいられないというか、不思議な感じ。


「ハルくんは撫でるのが好きだねぇ」


香織はニコニコしながら、ただただ俺に頭を撫でられていた。


「くそっ、イチャイチャしやがって」


「俺だって、夏休みで彼女作るんだ」


「陰キャがリア充ってなんだよ!」


相変わらずうるさいクラスメイトだが、町田が居ないだけ助かっている。町田と違い、直接絡んでくるやつはいない。まぁそれが普通なんだが。


「さて、俺達も帰ろうか?」


「そうだね。今日は澪先輩は生徒会だっけ?」


「ああ、桃華も仕事があって早退しているから、綾乃と合流すれば大丈夫だな」


俺達は、廊下に出て綾乃を待つ事にした。程なくして、隣のクラスも終わったようで、綾乃と合流した。


「お待たせ」


「私達も終わったばかりだよ」


合流したところで、俺達は久々に3人で出かける事にした。最近は時間があえば澪と桃華を入れた5人でいることが多かった。


いつもなら地元のショッピングモールに行くところなのだが、今日は少し遠出をする事になっている。どうしてもそこで買い物がしたいとの二人の希望により、決定した。


どうやら夏休み中に使うものらしい。一体何を買いに行くのだろうか?そういえば、夏休みといえば、いつものバイトが入る時期だ。仕事を確認しておかないと。


俺達は、電車とバスを利用し、2時間ほどかけて目的地へと向かった。そして、俺達は地元よりも数倍大きいショッピングモールに着いた。


これは、一日じゃ回りきれない大きさだ。今回は目的がはっきりしているのでよかった。迷子にならないように気をつけないとな。


俺は二人に手を差し出すが二人は案の定、手ではなく腕をとった。流石に両腕に抱きつかれると周りからの視線が痛い。二人とも可愛いから余計に目立つ。


「ところで、今日は何を買いに来たんだ?」


「そんなの決まってるでしょ?」


「水着だよ」


「えっ!?」


また水着!?


つい先日、澪の水着選びに付き合ったばかりで、また行くことになるとは思わなかった。


あのお店では、特に問題なかったけど、やはり男性客が少ないから気使うんだよなぁ。


「大丈夫だよ、彼氏なんだし」


「そうだよ、頑張れ彼氏」


「はぁ、まあ頑張るよ。それにしても、何でまた水着なんだ?」


「だって、どうせまたやるんでしょ?あのバイト。夏休みはいつもやってるし」


「あぁ、そうだな。仕事が入らなければ、やるつもりだよ」


「だよね、だから私達も手伝おうと思って」


「香織から話は聞いた。私も手伝う。海の家面白そうだし」


「そっか、助かるよ。叔父さんたちだけじゃ大変そうだからさ」


そう、うちの叔父さん夫婦が、毎年海の家をやっているのだ。初めは、頼まれて仕方なくやっていて、お客さんもあまりいなかった。


しかし、数年前から人気が出てきて、今では毎年大繁盛である。何故か女性客が多いのはよくわからないが、繁盛するのは良いことだ。


すると、香織は綾乃に耳打ちする。


「叔父さんのところの海の家はね、何年か前からイケメンがいるって噂になって、女性客が殺到したの」


「あぁ、なるほど晴翔効果だったわけか」


「そう、本人は気づいてないんだけどね。でも、今年はHARU様だと気づかれちゃうから、ちょっと見張りにね」


「なるほど、そうだったか。であれば、協力は惜しまない」


「うん、助かるよ。そうと決まれば、ハルくんを悩殺する水着を選ばないと」


「よし、やるか」


2人はなんだか、とてもやる気に満ち溢れている。そのまま、早く選んでくれると助かるな。


俺達は店に入ると、チラチラ女性客に見られるが何も言われることはなかった。大丈夫そうだな。


「ハルくん、着替えてくるから待ってて」


「行ってくる」


2人は何着か水着を持って、試着室に向かった。俺は、その近くで2人を待つことにした。


「あ、あの、HARU様ですよね?」


「え、えぇ、そうですが・・・」


最近、本当にいろんな人に話しかけられるようになった。


「あの、コレとコレだと、どっちが似合うと思いますか?」


2着の水着を交互に自分の身体に当てて、聞いてくる女性。


「そ、そうですね。どちらもお似合いですが、こちらの方が可愛らしくて似合うと思います」


これで大丈夫だろうか?


「本当ですか、ありがとうございます!」


ニコニコして、お会計に並ぶ女性。どうやら大丈夫なようだ。よかった。


すると、何人かの女性客が話しかけてくる。


「あの、私達も見てもらえますか?」


「な、何故俺に?」


「HARU様は人気モデルですし、着る物はお詳しいかと」


すると、他の女性もうん、うんと頷く。


まぁ、コレもファンサービスの一環だろうか。俺の感性でよければ答えることにしよう。


「わかりました。俺でよければ手伝いますよ」


「わぁ、ありがとうございます!」


こうして、俺は彼女たちの水着選びも手伝うことにした。


「ハルくん、終わったよーーって、どしたの?」


「晴翔、終わった、よ!?」


俺は、2人に事情を簡単に説明する。あと数人なので、2人には少しだけ待ってもらうことになった。


「デート中にすみませんでした」


「HARU様に選んでもらえれば間違いなしです」


「本当にありがとうございました!」


ふぅ、やっと終わった。このあと、俺は2人の水着選びを手伝って、お礼にデザートをご馳走になった。


ちなみに2人の水着は、澪の時と同じく、シンプルビキニだった。初めはすごいのを持ってきたが、流石にあれで人前に出て欲しくないので、却下した。


俺達は、その後ゲームセンター向かい、3人で色々ねゲームをやって回った。


そして、プリクラの機会が視界に入って、思い出したことがあった。


「あのさ、綾乃。そういえばあの時のプリクラってどうしたっけ?」


「あ、忘れてた。もう渡してもいいか、はい」


渡されたプリクラには、綾乃が落書きしたものが写っていた。その中には、ほっぺにキスをした写真も。


その写真には『大好き♡』と書かれていた。


「付き合う前だったから、恥ずかしくて。渡すの忘れてた、ごめん」


「いや、大丈夫だよ」


「うわぁ、ラブラブだねぇ2人とも。てか、これ綾乃ちゃんの待ち受けになってるやつじゃん」


「何で知ってるの!?」


凄い驚いたようで、綾乃はスマホを両手で胸元に抱え込んだ。


「いや、凄いニヤニヤしてたから、エッチなの見てるのかと思って覗いたら、それだったから」


「ん〜〜、覗くなよ!!」


「まぁ、いいじゃない。それよりさ、今度は3人で撮ろうよ!」


香織の提案により、3人で撮ることになった。そして、もちろん書き込みは2人にお願いした。今度は、忘れることなくプリクラを受け取って、俺達は帰ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る