第40話 テストの後で

初日色々あった勉強合宿だったが、その後は特に問題は起こらず、みんな真剣に勉強に取り組んだ。


みんな葛西さんを怒る澪が相当怖かったらしく、随分大人しかった。


そして、テストの方も無事最終日を迎えた。



「やったー、終わったー!」


「やっと解放されるぞー!」


クラスの連中は、テストが終わった瞬間にはもうお祭り騒ぎだった。まぁ、それもそのはず。テストが終わり、結果が張り出されれば、待ちに待った夏休みがやってくるからだ。


「ハルくんーどうたった?」


「俺はいつも通りかな、香織は?」


「私もバッチリだったよ!みっちり勉強したからね!」


確かに、今回はみんな頑張ってだからな。きっと良い結果が出ているはずだ。


「さて、今日は生徒会の仕事はないって、澪先輩言ってたよね?」


「そうだな。一緒に帰って荷物回収しないと」


「じゃあ、私綾乃ちゃんと桃華ちゃん拾って校門に向かうから、ハルくんは先輩お願いしていい?」


「わかった」


俺は、香織と別れると3年生のクラスがある階へ向かった。学年は下から順番に一年、二年、三年となっている。


3年生とはあまり面識がないため、知っている人は皆無だった。


そして、2年生でかつ陰キャの俺は、やはりどこにいっても注目の的だった。


「おい、アイツ何してんだ?」


「確か2年の奴だよな?」


「そうそう、意外とバスケ上手いんだぜ」


「あぁ、アイツか。確かに凄かったな」


どうやら、体育祭のバスケを見た人達からは、好印象のようだが、それでも奇異な視線が圧倒的に多かった。


まぁ、それもそうだろう。この階には、3年生以外が使用する教室は何もないのだから。


さっさと先輩を探して、校門へ向かおう。俺は先輩のクラスへと急いだ。


確か、3-Aだったはず。


よし、ここだ。俺は空いている扉からそっと中を確認する。すると、すぐに澪を見つけることができた。


澪は見た目はもちろんだが、佇まいやオーラが他とは全く違うため、どこにいてもすぐにわかる。アイドルなんかと、くらべても引けを取らないだろう。


俺は、すぐに声をかけようとしたが、何やら先輩の機嫌が悪そうだ。


「不知火さん、今日はこの後みんなで遊びに行くんだけど一緒にどう?」


どうやらテスト後の打ち上げがあるようで、みんなでどこかに行くらしい。爽やかイケメンが澪を誘っている。


あの爽やかイケメンは、この学校でも有名な西園寺日向さいおんじ ひなただ。町田なんかとはレベルの違うモテモテぶりで、彼女が何人いるのかさえわからない。


そして、澪と同じく財閥の御曹司でもある。不知火グループほどの規模ではないが、日本では5本の指に入るほどの名家である。


「西園寺さん。申し訳ありませんが、この後予定がありますので参加は出来ません」


「そうなのかい?ちなみにその予定はずらせないのかい?」


これは、どうにか澪を誘いたいのだろう。露骨に予定をずらせと言っているようだ。


「無理です」


澪の眉間に皺がよる。うわぁ、かなり怒ってるな。なんで皆んなあの顔を見て平気なんだ?


「そう言わずにさ、クラスとの交流も大切だよ?」


「はぁ、しつこいですね」


「えっ?」


「ハッキリ言わないとわからないほど、お花畑なんですね」


「な、にを言ってるのかな?」


「はぁ、だから、嫌だと言ってるんです。誰でも貴方に好意を持ってるわけではありません。不愉快です。しつこい男は嫌われますよ」


そこまで言うと、澪は険しい表情のまま、鞄を手に持ちこちらに向かってくる。


そして、途中で俺に気がついたようで、先程まで険しい表情だった澪は、満面の笑みを浮かべた。


「晴翔くん!」


そう言って、こちらに小走りに駆けてくる。その姿に、先ほどの西園寺先輩をはじめ、皆がポカンとしている。


「えっ?あれ、不知火さんだよね?」


「あれ?見間違い?すごい笑顔だよ??」


「確か男が大っ嫌いだから、話しかけられるだけでも嫌がるのに」


「自分から話しかけたぞ!?」


そんなに、澪が男と喋っているのは珍しい光景なのだろうか?俺にとって澪は、これが普通なのだが。


「澪先輩、皆んな先に校門に向かったので、迎えに来ました」


俺は先輩に事情を話す。すると、なにやらまた周囲がざわつく。


「おい、アイツ下の名前で呼んだぞ!?」


「流石に殺されるぞ!?」


「どんな関係なのかな!?」


「もしかして彼氏とか??」


男子と違い、女子はこういうネタが大好きらしく、一部で盛り上がっている。


「そうでしたか。では行きましょう、晴翔くん」


先輩は俺の隣に並び、そのまま校門へ向かった。周りからの視線が痛かったが、澪は気にしていないようなので、まあいいか。


それにしても、西園寺先輩がすごい睨んできてたのが気になるな。あとで何もなければいいのだが。


「あ、ハルくん、澪先輩!」


「晴翔、遅いよ」


「ハル先輩ー!」


校門が近づくと、3人が迎えてくれた。どうやら葛西さんも来ているようだ。


車の中から会釈をする葛西さん。俺も葛西に会釈をする。


「それでは行きましょうか」


俺達は、車に乗り込み澪の自宅へと向かった。



ーーーーーーーーーー


「さて、忘れ物はないか?」


「大丈夫だよ、ハルくん」


「私も大丈夫」


「大丈夫です!」


よし、皆んな一通り荷物をまとめられたようだ。今日はそれぞれ予定があるので、澪の家でくつろぐことなく、解散となった。


それぞれ歩いて帰れる距離ではあったが、葛西さんが送ってくださるとのことだったので、皆んなお世話になることにした。


俺達が車に向かっていると、澪のお爺さんの姿があった。


「どうしたのですか、お爺さま?」


「おぉ、澪、元気そうだな。友達とも仲良くやれているか?」


「えぇ、それは問題ありませんが」


「そうかそうか。ちょっと儂はこやつと話があるんでな。ちょっと借りるぞ」


「えっ、俺ですか?」


「お前以外誰が居るんじゃ。早よ来い、小僧。葛西、他の子は先に送ってやりなさい」


「かしこまりました」


葛西は、そういうと香織達3人を乗せて、出発した。俺はお爺さんの後を追い、家の中に戻った。澪がついてこようとしたが、お爺さんに却下された。


いつもなら、気にせずついてくるのだろうが、いつになく真剣な表情のだったため、諦めたようだ。


ーーーーーーーーーー


お爺さんとの話は、そこまで長くはかからず30分ほどで終わった。


「晴翔様、大丈夫ですか?お爺さまが何かしましたか?」


すごく心配そうにこちらをみる澪。実際、そんなに心配するようなことはなかった。


「澪、ありがとう。でも、特に何もなかったから」


「そうですか。わかりました。葛西、晴翔様を送って差し上げて」


「かしこまりました」


俺は、車に乗り込むと自宅へと送ってもらった。


しかし、予想外の出来事が起きる。この先の道路で交通事故があったようで、全然進まなくなってしまった。


「晴翔様、すみません。渋滞で時間がかかりそうです。ご予定は大丈夫ですか?」


うーん、時間は結構ギリギリだ。正直やばいかも。これからスタジオに行かないといけないのだが、間に合うか?


「すみません、葛西さん。このままスタジオに向かってもらえますか?」


「先日のスタジオでよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「かしこまりました。あそこであれば、渋滞も問題ないですね」


俺は、直接スタジオに向かうことを恵美さんに連絡を入れ、葛西さんに送ってもらった。


なんとか時間に間に合った俺は、急いでスタジオに入る。葛西さんも来たがったが、澪から連絡が入り、泣く泣く帰っていった。


「晴翔くん、なんか大変だったね」


「いえ、遅くなってすみません」


「大丈夫だよ、蘇原さんも待ってるから行こう」


レコーディングルームに入ると、蘇原が待っていた。


「やぁ、晴翔くん。待ってたよ」


「蘇原さん、遅くなってすみません」


「構わないよ。その分いい声聞かせてよね」


「蘇原さんは、いい歌が聴きたいってだけでこの仕事やってるから、細かいことは気にしない人なの。お金にも無頓着でね。困った人よ」


確かに変わった人であることは否めないが、それでも彼女の実績は確かだった。


スマホで調べただけでも、そうそうたるアーティストに楽曲を提供している。そして、そのどれもが大ヒット。本当にすごい人だ。


「さて、晴翔くん。まず、今回の楽曲提供にあたって、一つ提案があるんだけど」


「なんですか?」


「もう安藤さんには伝えてあるけど、今回アーティスト名は『HARU』じゃなく『ハルト』にしようと思う」


「俺は構わないですが、どうしてですか?」


「この前、ここで歌ってもらっただろう?声だけ聞いてたらHARUだとは誰も思わないほど綺麗な声だったんだ」


うんうん、と隣で恵美さんも頷く。


「そこで、あえて素性を伏せて、後でみんなをびっくりさせてやろうと思ったんだけど。どうかな?」


「いいと思いますが、なんでそんな面倒くさいことするんですか?」


俺がそういうと、蘇原さんと恵美さんは顔を見合わせ、こう言った。


「「だって、面白いじゃん!」」


ははは、この人達について行って大丈夫だろうか?俺は一抹の不安を覚えたが、腕は確かなので、お任せすることにした。

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