第31話 図書室にて

三者面談を無事に終え、もうすぐ夏休みがやってこようとしていた。しかし、夏休みに入るには、乗り越えなければいけない壁がある。


「はぁ、来週は期末テストかぁ」


「夏休み前にだりぃよな」


「まぁ、進学にも響いてくるから頑張ろうぜ」


そう、来週には期末テストがあるのだ。クラス内は期末テストと夏休みの話で持ちきりだった。


「ハルくん、図書室行こー」


「うん、行こうか」


俺達は、いつも通りテスト前の勉強会を行うために図書室に移動した。今回も、メンバーは同じで、俺、香織、綾乃で行う予定だ。


ガラガラガラッ


図書室に行くと、やはり人気がないのか、ほとんど生徒は居なかった。俺達は、窓際の特等席を確保して、綾乃の到着を待った。


「ちょっと、お花摘みに行ってくるね」


「うん、行ってらっしゃい」


香織が居なくなったため、一人で待つことにした。最近は、スパルタ稽古が続いていたため、少し寝不足になっていた。


「ふわぁぁぁ、あいつらが来るまで少し寝るか」


俺は少しの間、仮眠を取ることにした。


ーーーーーーーーーー


「おかしいなぁ、HARU様の気配がするんだけどなぁ」


私は未だにHARU様を見つけられずにいた。一体どこに居るんですか、HARU様。


もうすぐ夏休みに入ってしまうため、その前には見つけたいですね。そうしないと、また撮影で忙しくなってしまいます。


「ふむ、こうなったら、もっと別のところも探すべきですかね」


私は、今まで教室や食堂を中心にHARU様を探していましたが、どうやら限界のようなので、探す範囲を広げることにしましょう。


普段は絶対に行かない、家庭科室や化学室など隅々まで見てまわりました。しかし、やはり居ませんでした。


もう、今日は諦めて帰ろうとしたその時、私の視界にある人物が入り込みました。


「あれ?あの人は」


あの人はHARU様の彼女さんです。確か、西城香織さんでしたか。あの人が一人だなんて珍しいです。


出てきたのは図書室からですか。この学校の図書室は人気がないようで、生徒が寄り付かないことで有名です。


なので、特に調べていませんでしたが、一応入ってみましょうか?


ガラガラガラ


初めて入った図書室は、静寂に包まれており、人がいる気配を感じませんでした。


しかし、ある人物を見つけました。


「あの人、この間の」


先日、教室で見かけた男子生徒。長い髪で顔がよく見えなかったが、背格好はHARU様に似ている。


それに、いつもHARU様の彼女さんが付き纏っているのも怪しいです。


私は、そっと近づきました。


寝息を立てて寝ている彼からは、不思議と人を惹きつけるなにかを感じました。


私は寝ている彼の顔をよく見るために、前髪を持ち上げることにしました。


うぅぅぅ、なんだかすごく緊張しますね。男性に触れることすら滅多にないというのに。私はドキドキしながら彼に手を伸ばす。


「あっ」


さらりと髪を持ち上げると、そこには会いたくて仕方なかったHARU様がいました。


「〜〜〜〜〜〜〜!!!」


あまり人がいないことは知っていましたが、私は声に出さずに悶えていました。


なんですか、この神々しい生き物は!?ハァ、ハァ、やばいです。心臓がうるさくて仕方ありません。


HARU様をみていると、なんだかだんだんと愛らしくなってきました。私は自然とHARU様の頭に手を乗せると、一度撫でてみました。


ふわぁぁ、触り心地最高です!!


やばいです!病みつきです!!


私は、人目も憚らず撫で撫でする手が止まりませんでした。


しかし、そんなに幸せな時間は続きませんでした。


ガラガラガラッ


「あっ、田沢桃華!?」


「む、あなたは彼女さん」


せっかく、至福の時を過ごしていたのに、邪魔が入ったため、私は仕方なくHARU様の頭から手を離しました。


「なんで、ここにいるのよ!?」


「ここの生徒ですからね、居てもいいじゃないですか」


「じゃあなんで、ハルくんに触ってるのよ。もしかして、顔見たんじゃないでしょうね?」


「ふむ、やっぱりあなたの仕業でしたか」


HARU様ほどのイケメンが見つけられないなんてあり得ません。本当はこの学校じゃないのかと疑いましたが、まさか素顔を隠していたなんて。


そして、彼女さんだけならともかく、その後もう一人現れました。


「えっ、田沢さん?それに、香織も。何してんの??」


確かこの人は、大塚先輩でしたか。この人は見た目はあれだが、人畜無害な人だと思っていたのに。


体育祭のあの画像。あれがHARU様だとすれば、なんて大胆なことをする人なんでしょう!?


あ、あんな、みんなの前で、ほ、ほっぺにチューなんて!?


「大塚先輩には、関係ありません。私はHARU様の彼女さんと話してるんです」


そうです、私の敵はこと人です。大塚先輩は後回しです。そう思っていたのですが。


「いや、だったら私も必要じゃない?」


「な、なんでですか?」


「だって、私も晴翔の彼女だし」


「なんですとぉぉぉぉ!?」


私が探している間に彼女さんが増えていたなんて。一生の不覚です。やばいです。この学校は敵だらけですか!?


ここは、早いところHARU様との距離を近づけなくては!!



ーーーーーーーーーー


「ふぁぁぁぁ、よく寝たな」


あれ、そういえば誰も起こしてくれなかったのか?辺りを見渡すと、目の前に1人女子生徒が座っていた。


「あれ、不知火先輩?」


「ふふふ、やっと起きましたね。おはようございます、旦那様♡」


なんでここに先輩が?俺は香織達と勉強会をするために来ていたはずだが・・・。


机を見ると、香織と綾乃の荷物がある。2人がここに来たのは間違いないようだ。しかし、何がどうしたのか、俺は先輩と2人きり。


「あぁ、心配しなくても大丈夫ですよ?あの人達ならちょっと用事があるだけですから」


「はぁ、そうですか。それで、先輩はどうしてこんなところに?」


「旦那様に会いに来ただけですわ。そしたら邪魔が入りましたので、少し退場してもらっただけです。西城さんと大塚さんはとばっちりでしたが」


言っている意味はよくわからなかったが、先輩が用があることだけはわかった。


「あの、それで俺に何の用ですか?」


「はい、実はですね。以前許婚のお話をしましたよね?」


「あ、あぁ、しましたね」


やっぱりしなきゃよかったかなぁ。まずったな。


「実はですね、どうしてもお見合いを、とうるさい男性が居るのです」


はぁ、どうやら許婚が出来ても、そういう話はなくならないようだ。


「許婚がいると言ったのですが、皆さん私の男性嫌いを知っていますので!誰も信じてくれないのです」


「そうなんですね。それで、俺はどうすればいいんですか?」


本当は聞きたくないが、話が進まないので俺は渋々要件を聞くことにした。


「はい、そこで旦那様にお願いあります。私と一緒にその男性に会って頂きたいのです」


「えぇ!?俺も一緒にですか!?」


「そうです。きっと、仲睦まじい姿を見せれば、皆さん納得すると思うのです」


ま、まぁ、言わんとすることはなんとなくわかる。防波堤代わりを引き受けたのも俺自身だ。仕方ない、一回やればみんなわかるだろう。


「わかりました、引き受けます」


「やった♪・・・んんっ!失礼致しました。ありがとうございます、旦那様♡」


さて、話も終わりましたので私は失礼しますねと先輩は図書室から出て行ってしまった。


まるで嵐のような人だな。


それから少し経つと、香織と綾乃、それから桃華まで一緒に帰ってきた。


「ハルくん無事!?」


「晴翔、何もされてないか!?」


「なんなんです、あのおっかない人!?」


すごい勢いで帰ってきた3人に事情を聞いていると、どうやら先輩が来たときに揉めていた3人をスルーして、俺に話しかけようとしたが、その先輩に桃華が噛み付いたらしい。


そしたら、「図書室は、静かに使いましょうね」と言われたと思ったら、生徒会の人達に連れて行かれてこっぴどく怒られたらしい。


それから俺は、もう勉強会どころではないので、先輩からの頼まれごとについてみんなに話した。


「ハルくん、なんでそんなにお人好しなのさ」


「もう少し、はっきり言ってやった方がいいぞ!」


「そうです!あの人は危険ですよ!?」


それから、俺は3人から何故かお説教をされる羽目になった。はぁ、しばらく勉強会はおわずけかな?

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